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非がん疾患の緩和ケアがよく分かる 予後予測・症状緩和・がんとの違い
非がん疾患の緩和ケアがよく分かる 予後予測・症状緩和・がんとの違い
特集
2026年2月17日
2026年2月17日

非がん疾患の緩和ケアがよく分かる 予後予測・症状緩和・がんとの違い

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センターの平原佐斗司先生に、非がん疾患における緩和ケアの現状、予後予測、苦痛に対する評価法やアプローチの特徴について分かりやすく解説いただきます。 非がん疾患における緩和ケアの現状 緩和ケアは、がんから非がん疾患を含むあらゆる疾患へ、小児から高齢者まで対象が広がっています。そして、緩和ケア病棟だけでなく、在宅・地域を中心として急性期病院や施設など、あらゆるセッティングで提供される、より基本的で包括的なケアへと広がりをみせています。 欧米では、1990年代に非がん疾患患者の終末期に緩和ケアの光が当たっていないことが明らかになり、今世紀に入ってからは非がん疾患の緩和ケアがそれぞれの国の方法で推進されてきました。一方、わが国においては、2010年頃からようやく注目されるようになり、最近になり各領域で非がん疾患の緩和ケアに関する実践・教育・研究で進展がみられるようになってきています。 わが国における緩和ケアの対象 わが国の在宅医療において非がん疾患の緩和ケアの対象として多い疾患は、主に後期高齢者にみられ、以下のとおりです。 臓器不全(非がん性呼吸器疾患〔NMRD〕、心不全、末期腎不全、肝不全) 認知症や脳卒中後遺症 パーキンソン病やパーキンソン関連疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病 頻度は少ないですが、以下のような対象もあります。 重症の医療的ケア児 トラジション(成人した障害児者) など また、世界に目を向けてみると、アフリカや開発途上国ではHIVや感染症なども緩和ケアの対象となっています。 わが国の非がん疾患の緩和ケアには、がんの緩和ケアとは異なるいくつかの特徴があります。 緩和ケアの対象となる非がん疾患患者の多くは後期高齢者であること 病の軌跡に影響する因子が多様で複雑であるため、がんに比べて予後の予測が困難であること 自律が損なわれたり、同意能力が疑われたりする高齢者や認知症の人が少なくないため、意思決定において困難を伴う場合が少なくないこと 「病の軌跡」とは Lynnらは終末期の疾患軌道を、「がん等のモデル」、「心肺疾患などの臓器不全モデル」、「認知症・老衰モデル」の3つに分類しました(図1)1)。 図1 疾患群別軌道モデル 文献1)より筆者訳 がんの軌道の最大の特徴は、最期の1、2ヵ月で急速に全般的機能が低下することです。臓器不全、特に心不全や非がん性呼吸器疾患などは急性増悪を繰り返し、最後の急性増悪で比較的急な経過で死亡に至ります。認知症・老衰群では、緩やかにスロープを降りるように機能が低下し、やがて死に至ります。高齢者では、この認知症・老衰群が半数近くを占めるといわれています。 このような病の軌跡の違いを反映して、ADL依存となるリスクは、がんで一般の人の約1.5倍、臓器不全群で約3倍、認知症・老衰群では8倍と報告されています。 さて、このような病の軌跡はあくまでも基本であって、疾患や年齢によって異なる特徴があります。例えば、高齢がん患者の場合は、約半数が数ヵ月前より徐々に機能が低下することが分かっています。また、臓器不全群でも透析しない選択(保存的腎臓療法:CKM)をした末期腎不全患者(ESKD)の病の軌跡は、末期がんと類似しており、最後の1、2ヵ月で急速に機能が低下することが明らかになりました。 がんと非がん疾患、予後予測における違い がんの予後予測が比較的可能な理由 病の軌跡の特性は、予後予測の困難さに影響しています。がんは、原発巣や癌種が違っても、症状や臨床経過において一定の共通性・法則性が認められます。そして、その共通性・法則性は、終末期になるほど顕在化するという特徴があります。 これは、がんの基本病態が「自律増殖」と「浸潤・転移」であることに起因します。進行したがんは侵害受容器や神経に浸潤するため、比較的早期から疼痛が出現し、疼痛は増強しながら長期に持続します。そして、原発巣や転移臓器でのがんの増殖により呼吸不全、麻痺、肝不全といった臓器の機能不全を引き起こします。最期には異常な内分泌・代謝状態(悪液質)を来たし、だるさや食思不振、痩せなど、すべてのがんに共通した全身症状が現れます。 このようながんの特性に着目すれば、ある程度の信頼性のある予後予測ツールの開発が可能となるのです。 非がん疾患における予後予測の難しさ 一方、非がん疾患にはもともとの疾患の軌道に共通性がなく、以下に示すように多種多様です。 脳卒中のように突然発症するもの 腎不全や肝不全のように潜在的に進行するもの 心疾患や呼吸器疾患のように急性増悪を繰り返すもの アルツハイマー型認知症のように緩やかに機能が低下するもの ALSのように比較的早く呼吸や嚥下機能が低下し、生命の危機が訪れるもの このように、非がん疾患では、疾患や個人によって機能が低下する部位や臓器、進行の仕方やスピードがさまざまであることに加え、標準治療の実施の有無や本人の治療選択など、病態以外の因子が病の軌跡に大きく影響します。その結果、非がん疾患では月単位、週単位の予後予測は困難で、信頼性の高い予後予測ツールは開発できていません。 また、緩和ケアの対象となる非がん疾患患者の多くは後期高齢者であり、ほとんどがmultimorbidity(多疾患併存状態)であるため、予後に関係する疾患が複数あり、経過の中で主病名が入れ替わることも珍しくはありません。multimorbidityの高齢者のエンドオブライフ(EOL)期では、疾患ごとの予後予測指標はあてにならないことが多いのです。 そのため近年では、正確な予後予測を求めるのではなく、緩和ケアが必要と考えられる対象者を疾患にかかわらず、適切なタイミングで同定することに主眼が置かれるようになってきました。この目的のために、「GSF-PIG」や「SPICT」のようなさまざまなツールが開発されています。 苦痛の客観的評価法の有用性 非がん疾患では、緩和すべき苦痛ががんとは異なる場合があります。がんでは疼痛が最大の課題であるのに対して、多くの非がん疾患では「呼吸困難」や「摂食・嚥下障害」が最大の課題と考えられています。 高齢で認知症を合併することが多い非がん疾患患者の苦痛の評価においては、がんで用いられる「NRS」(痛みのスケール)といった主観的評価法や、「IPOS」などの複雑な総合評価は、実用的ではないことが少なくありません。 認知症高齢者など、自ら苦痛をはっきり訴えられない非がん疾患患者に対しては、苦痛の客観的評価法が有用です。欧米ではこうした評価法が実際の臨床現場で広く用いられていますが、わが国においてはその普及は十分でありません。 痛みの客観的評価法 海外では、痛みの客観的評価法として30以上のスケールが開発されていますが、日常使いができる程度の項目数(数項目程度)であり、日本語版が開発されているものとなると、以下のものに絞られます。 日本語版PAINAD アビー痛みスケール日本語版 呼吸困難の客観的評価法 呼吸困難の客観的評価法は、痛みの客観的評価法ほど多くは開発されていません。その中でゴールドスタンダードとされるのは8項目からなる「RDOS」で、日本語版も開発されています。近年、RDOSよりも簡便な呼吸困難の客観的評価法としてmodRDOS-4が開発され、筆者がその日本語版である「日本語版modRDOS-4」を開発しています。 このような、客観的評価法を積極的に使用することで、高齢者や認知症の人の苦痛に早期に気付くことが可能となります。 症状緩和に対する薬剤的アプローチの特徴 症状緩和の考え方や方法については、がんと非がん疾患では共通点もありますが、異なる点も多くあります。 非がん疾患、とりわけ心不全などの臓器不全群では、症状緩和のためにも標準的な疾患の治療とケアを最期まで継続することが重要になります。 オピオイドの使用について 症状緩和のための薬剤的アプローチにおいても、がんと非がんにはさまざまな違いがあります。例えば疼痛に対するオピオイド使用量は、がんでは痛みに応じて上限なく増量していくわけですが、非がん疾患の投与量はモルヒネ換算で最大60mg、多くても90mgまでとします。また、がんの場合と異なり、ケミカルコーピング防止の観点から疼痛に対するレスキューの使用は推奨されません。 一方、非がん疾患の呼吸困難に対するオピオイドの使用は、基本的には疾患に対する治療を最大限行っても緩和されない場合に考慮され、多くはモルヒネ換算1日10mgまでの少量で呼吸困難緩和の効果が期待できます。 緩和ケアの対象となるESKDではモルヒネの投与は、透析をしていない場合はほぼ禁忌と考えられます。腎機能の影響が少ないオキシコドンや、影響がほとんどないブプレノルフィン、フェンタニルが選択されます。心不全に腎不全を合併した状態(心腎症候群)や、肝不全に腎不全を合併した状態(肝腎症候群)などでも同様に、基本的にモルヒネ以外の薬剤の選択が必要になります。 そのほかの薬剤的アプローチについて オピオイド以外の鎮痛薬では、腎不全や心不全ではNSAIDsは基本的に避けるべきで、アセトアミノフェンの使用が推奨されます。 末期がんでは終末期の食思不振やだるさに対してステロイドを使用する場合がありますが、心不全などの非がん疾患ではステロイドは水分貯留に働く可能性があるため、基本的には使用しません。 非がん疾患の緩和ケアの今後 非がん疾患の苦痛に対する薬剤的アプローチは、緩和ケアのごく一部です。非がん疾患の中でも心不全、NMRD、ESKDなどの臓器不全群では緩和のための薬剤選択は比較的重要です。しかし、認知症や神経難病などの緩和ケアにおいては、日々の看護やケア、リハビリテーションの質そのものが、そのまま緩和ケアの質につながると考えます。 非がん疾患の緩和ケアはこの数年、研究面では一定の進歩がありました。しかし、がんと比べて全体的に教育・実践のレベルや制度においてはまだまだ課題があるといえるでしょう。 これから始まるこのシリーズでは、主要な非がん疾患の緩和ケアについて学んでいければと思います。 本文で使用した略語一覧(本文登場順)NMRD:non-malignant respiratory disease(非がん性呼吸器疾患)ALS:amyotrophic lateral sclerosis(筋萎縮性側索硬化症)HIV:human immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウィルス)ADL:activities of daily living(日常生活動作)CKM:conservative kidney management(保存的腎臓療法)ESKD:end stage kidney disease(末期腎不全患者)EOL:end of life(エンドオブライフ)GSF-PIG:GSF-prognostic indicator guidanceSPICT:supportive and palliative care indicator toolNRS:numerical rating scale(数値的評価スケール)IPOS:integrated palliative care outcome scalePAINAD:pain assessment in advanced dementia scaleRDOS:respiratory distress observation scaleNSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs(非ステロイド性抗炎症薬) 執筆:平原 佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター 1987年に島根大学医学部卒。現在、東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長ならびに、同オレンジほっとクリニック 地域連携型認知症疾患医療センター長として在宅医療、認知症診療に従事。専門は、在宅医療、非がん疾患の緩和ケアで、研修・研究センターでは在宅医療専門医・指導医として、多くの在宅専門医の育成を行う。学会活動では、日本在宅医療連合学会 代表理事、日本認知症の人の緩和ケア学会 理事長、日本エンドオブライフケア学会 副理事長を務めている。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) Lynn J:Perspectives on care at the close of life. Serving patients who may die soon and their families.The role of hospice and other services.JAMA 2001;285(7):925-932.

エンバーミングとご家族のケア―最後の時間を穏やかに過ごすために
エンバーミングとご家族のケア―最後の時間を穏やかに過ごすために
コラム
2026年2月17日
2026年2月17日

エンバーミングとご家族のケア―最後の時間を穏やかに過ごすために

エンバーミングは、ご遺体の状態を保つための技術であると同時に、大切な人の死を受け止め、お別れの準備ができるよう時間と環境を整えるための支援でもあります。今回は、エンバーミングによる心理的な影響や、著者が代表取締役を務める株式会社ジーエスアイで取り組んでいる施術後のご家族との関わりについて教えていただきます。 はじめに ACP(アドバンス・ケア・プランニング)をはじめ、患者本人の医療行為に関する意思を尊重する取り組みが広がりつつあります。それと同時に、さまざまな民間団体が「終活」という枠組みの中で、亡くなる前にご家族の負担を軽減するための活動を積極的に展開しています。 「最後にどのように送られたいか」「どのように送りたいか」を本人とご家族、それぞれの希望を生前に共有し、準備しておくことで、いざという時に心の余裕が生まれ、その人らしい最後を迎えられるのだと思います。 アメリカから帰国後に、終末期医療や訪問医療に携わる医療従事者と、エンバーミングについて意見交換をしたことがあります。ご家族にとってエンバーミングは「安らかできれいな姿でお見送りができる」「葬儀の日程が先になった場合でも、保冷庫の中に預けたままではなく、そばにいてあげられる」といった点から、選択肢の1つになり得ると肯定的な意見があった一方で、次のような疑問も投げかけられました。 「その変わらない姿を見ることで、長く一緒に過ごすうちに、かえって死を受け入れられなくなるのではないでしょうか」 こうした疑問を受け、今回は「エンバーミング」と「死を受け入れること」について、現在もエンバーミングと並行して取り組んでいる「グリーフ(悲嘆)」の視点から考察していきたいと思います。 「きれいな姿」が死の受容を妨げる? また別の機会に、葬儀社の方々とエンバーミングについて意見交換をした際にも、似たような話がよく聞かれました。 例えば、 亡くなって体温が下がり、さらにドライアイスなどで冷やされた身体に触れることで、死の現実を実感できる。変化しなければお別れの決心がつきにくい 儀式が滞りなく進むことで、死を受け入れることができる。エンバーミングを行い、日程を延ばせば、お別れができなくなる といった内容が代表的なものでした。 依頼を断るケースもある 起業した20年ほど前、まだエンバーミングを知る人も少なかった頃、あるご遺族からエンバーミングのご相談がありました。その方がエンバーミングを希望する理由を含め、長時間お話をお聴きする中で、その言動から故人との間に極度の依存関係があり、精神的にも執着している可能性が高いと感じられました。 また、日本遺体衛生保全協会(IFSA)が定める自主基準(表1)のうち、海外搬送の場合を除き、死亡後50日を超えてのご遺体の保存処置を行わないというルールにも同意いただけませんでした。そのため、依頼を受けてしまうと大きな問題へと発展する恐れがあると判断し、やむなくお断りしたケースでした。 表1 IFSAの自主基準 1.本人またはご家族の署名による同意に基づいて行うこと2.IFSAに認定され、登録されている高度な技術能力を持った技術者によってのみ行われること3.処置に必要な血管の確保および体腔の防腐のために最小限の切開を行い、処置後に縫合・修復すること4.海外移送をする場合を除いて、死亡と判定された日から50日を超えて保全しない 日本遺体衛生保全協会:エンバーミングの法的解釈.https://www.embalming.jp/embalming/interpretation/(2025/8/26閲覧)より許諾を得て転載 しかし、これはあくまでも例外的なケースであり、基本的に私たちは、IFSAの自主基準に同意していただければ、処置依頼を受けるようにしています。 その上で強調しておきたいのは、「お別れができないから」という理由で葬儀や火葬を取りやめた事例は、これまで一度もないということです。私たちはご遺族が大切な方と最後のお別れをきちんとできるように、できる限りの支援をしています。 実際、アメリカにおいてもエンバーミングを説明する際には、故人の面影やその人らしい表情を取り戻すための大切なプロセスとして「Preparation(準備)」という言葉がよく使われます。エンバーミングは、お別れの時間を整えるための行為であり、私たちの姿勢もそこに重なります。 処置後も関わり「死を受け入れる」手助けに エンバーミングを行っても、ご遺体が安置される環境によっては、状態が変化することがあります。それは皮膚の乾燥です。心臓の停止により血流が止まり、体内の水分供給が断たれるため、時間とともに水分が蒸発し、特に外気に触れる部分や皮膚の薄い部分が乾燥しやすくなります。 このため、処置後も表皮の保湿を続けなければ、どうしても乾燥は進んでしまいます。ご安置が1週間を超える場合には、定期的にご自宅を訪問してお身体の状態を確認し、保湿や化粧直しなどを行います。お見送りやお別れの日まで、よりよい状態を保つために故人と関わり続ける必要があるのです。これを、当社は「様子見」と呼び、大切な取り組みとして位置づけています。 また、この機会を利用して「死を受け入れる」プロセスを進めるための働きかけも行っています。 エンバーミングの処置依頼を受ける時点では、さまざまな事情から葬儀の日程が決まっていないこともあります。そのような場合には、ご遺族が納得した上でお別れの場に臨めるように、様子見の際にお話を伺いながら、後悔の念や罪悪感を抱えていることがあれば、その解消に向けた支援ができるよう意識しています。もう少し理解していただきやすくするために、当社が実際に行っている支援の工夫をお伝えしましょう。 少しずつ変化をつける ご遺体の安置時には、安らかに眠っているかのように見えるよう、パジャマや浴衣をお着せします。納棺の日には、その人らしさを象徴するようなお見送りのための服装への着替えをご提案することもあります。納棺を通じて、旅立ちの準備が進んでいることを自覚できるように変化をつけ、徐々に死を受け入れる流れを作っています。 罪悪感や後悔の解消をサポート 闘病中は病気の治療が最優先となり、それ以外のことが後回しにされることがよくあります。「おしゃれがしたい」「きれいにメイクをしたい」「爪をかわいくしたい」といった願いも、「元気になったらね」と先送りされることが多く、結果的に叶わなかったということが少なくありません。亡くなった後に、「生前にもう少し好きにさせてあげればよかった」と後悔されるご遺族が少なくないのです。 多くの企業では、エンバーミングとお化粧をエンバーミングセンター内で完結させます。しかし、先述したように、当社ではご希望があればご自宅でメイクはもちろん、マニキュアを塗るなど、生前にできなかったことを最後に叶えて差し上げることもあります。 生前にご本人がしたいとお話しされていたことや、ご家族の希望を細かくお伺いし、元気だった頃のお写真を参考にしながら、できる限りそのお姿に近づけていきます。最後にご家族と一緒に仕上げていく時間を設けることで、最後の思い出作りができるよう工夫をしています。 「おかえり」と迎える時間の大切さ ご遺族は、表情が戻った故人を見て、「おかえりなさい」「お家に帰ってきたよ」と声をかけられます。故人が病院で亡くなり家に帰ってきた時には、「死体」になってしまったという感覚が拭えないのか、遠巻きに見ているご遺族も中にはいらっしゃるのですが、エンバーミング後は、その感覚はなくなるそうです。大切な人との思い出がよみがえり、周囲の人に「ぜひ顔を見ていって」「あの人に会っていって」と声をかけられる方が本当に多いです。 エンバーミングを施しただけでも、ご遺体の状態が安定し、ご遺族の不安は解消されることでしょう。それだけでなく、ご遺体の前で、ご遺族が感じていることを話す機会を作ることで、最後のお別れまでの時間が、ゆっくりと「大切な人の死」を受け入れる時間になっていくのだと思います。  執筆:橋爪 謙一郎株式会社ジーエスアイ 代表取締役一般社団法人グリーフサポート研究所 代表理事米国で葬祭科学とエンバーミング、グリーフサポートを学び、帰国後(有)ジーエスアイと(一社)研究所を設立。現在は東大大学院で脳科学的視点からグリーフの研究を行う。編集:株式会社照林社

【EB難病看護事例】「知られていない」がゆえに届かない看護 制度解釈の課題
【EB難病看護事例】「知られていない」がゆえに届かない看護 制度解釈の課題
特集
2026年2月10日
2026年2月10日

【EB難病看護事例】「知られていない」がゆえに届かない看護 制度解釈の課題

「指定難病のなかで訪問看護を必要とする疾患は?」と聞かれると、多くの人はパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経系難病を思い浮かべるかもしれません。一方で、希少難病を抱える方々も訪問看護を必要としており、病状によっては毎日の訪問看護が欠かせない場合もあります。それにもかかわらず、現在の制度ではこうしたニーズに十分応えられていないのが実情です。今回は、希少難病の1つである「表皮水疱症(epidermolysis bullosa:EB)」を例に、この課題について考えてみたいと思います。 表皮水疱症(EB)とは EBは遺伝性疾患であり、表皮と真皮を接続させるタンパク質の遺伝子に異常があります。そのため、皮膚そのものが非常に脆弱で、軽微な外力で全身の皮膚や口腔粘膜などに水疱やびらんが生涯にわたって生じます。特に足趾や手指など日常的に外力の加わる部位は、深い潰瘍を形成し、癒着することもあります。さらに、びらんした全身の皮膚からは常に血液や滲出液が漏れ出るため、慢性的な貧血や低栄養を伴うことに加えて、合併症による皮膚がんで生命を脅かされることも少なくありません1)。日本における患者数は、約500~1,000名と報告されていますが、難病法における医療費助成受給者証を取得されているのは約300名です2)。 EBの治療/対症療法について 筆者によるこれまでの研究では、EB専門医は非常に少なく、診断後の病状に応じたケアや合併症予防のための積極的な介入はあまり行われていません。主に皮膚ケアに必要となる「ガーゼや創傷被覆材などの処方」が中心となっていました。 現状、病状管理について相談しやすい医療環境とはいえず、家族は在宅生活のなかで日々絶え間なく生じる皮膚病状と対峙し、ケア方法を手探りで模索し続けています。ご存じのとおり、皮膚は身体最大の臓器であり、病状が全身に及ぶ場合、1日の多くの時間がケアに費やされます。皮膚ケアだけでなく、入浴や食事、病状を悪化させないための衣類や寝具の工夫、移動の介助など、EBケアは生活全般にわたるのです。これらの膨大なケアは、今もなお家族の孤軍奮闘によって支えられています。 事例:Kさん(高校生)の皮膚ケアの実際 では、EB患者さんの皮膚ケアとはいったいどのようなものなのでしょうか。高校生のKさんの事例をもとに実際を紹介します。Kさんは全身の皮膚や口腔粘膜などに病状があり、指趾の癒着もあるため、皮膚ケアのみならず日常生活すべてに支援が必要です。 現在、入浴を含めた全身の皮膚ケアは、週3回行われています。このケアには、Kさんの母親、祖父母のどちらか、さらに訪問看護師が参加し、計3人で実施しています。ケアには1日4時間以上かかりますが、訪問看護師が参加できるのは利用時間の1時間半のみです。 以下の語りは、皮膚ケアを担っておられるKさんの母親のものです。 「(訪問看護師が入る)1時間半の後ね、右足だけやりはって、包帯巻くとこまでいかないの。その1時間でやっとできるのが、血を抑えるのと薬塗んのんと水疱を潰すっていうところ、しかも右足だけ。右足と右手か。右半分を彼女たち(訪問看護師)に任して、左半分を私がして。おばあちゃんは(水疱の中の水を)抜いたりはできない。だからそれこそ、おばあちゃんが、なんか、よく見てるし、そのもう1人の人のこともよく知ってるから、そろそろテープ要るなとか、あと4枚ガーゼが足らんなとか分かるみたいで、うん、で、先々にやってくれてすごい助かるんやけど」2)。 皮膚ケアには多くの時間・人手が必要 皮膚ケアは、Kさんの身体の左右に分かれて、母親と訪問看護師によって同時進行で進められていきます。祖父母たちはケアの進行具合に応じて、テープをカットしたり、ガーゼを準備したりしています。 当然、病状は日々変化します。そのため、全身の皮膚病状に応じて軟膏やガーゼ、創傷被覆材の種類を変える必要があります。また、ガーゼや創傷被覆材は体の動きに追従するよう固定を工夫しなくてはなりません。出血や滲出液があるため、入浴日だけでなく、毎日ガーゼや創傷被覆材の交換が必要です。このように、Kさんの皮膚ケアには時間も人手も多くが求められます2)。 生命予後の改善と医療・福祉サービスの役割 これまで、病状が重いEB患者さんは、びらんした皮膚からの感染症や、皮膚がんの発症によって短命となるケースが多くみられました。そのため、EB患者さんを対象とした看護学研究は、まずは生命を維持し、在宅での生活が継続できるよう家族の存在を前提としたものでした3),4),5)。 しかし近年では、家族による献身的なケアに加えて、病状に応じたさまざまな創傷被覆材の使用や、合併症の早期治療が進められるようになり、生命予後の改善が図られるようになっています。その結果、重度でも成人期を迎えるEB患者さんが増えてきたのです。それは今後、EB患者さんが自立した生活を送るためには、これまで家族が担ってきた役割を、医療や福祉サービスなどが引き受ける必要があることを意味しています。 Kさんの皮膚ケアからも分かるように、EB患者さんの皮膚ケアには訪問看護師による専門的な支援が求められます。しかし、冒頭で述べたように、EB患者さんが訪問看護を毎日利用することは難しい状況にあります。 訪問看護制度における課題 ご存じのとおり、訪問看護を利用する場合、医療保険であれば週3日までです。しかし、以下の条件に該当する場合には、訪問看護の利用日数や回数が大幅に拡大されます6)。  「特掲診療科・別表第7 厚生労働大臣が定める者」(以下、別表第7) 「特掲診療科・別表第8 厚生労働大臣が定める者」(以下、別表第8) 「特別訪問看護指示書」が交付された場合 別表第7について 別表第7では、主に病名が指定されており、神経系難病が多く対象となっています。しかし、そのなかに希少難病であるEBは含まれていません。 別表第8について 別表第8では、医療的ケアが必要な状態にある者が指定されています。そのなかの1つに「真皮を超える褥瘡の状態にある者」があります。EB患者さんたちも病状によっては、全身のさまざまな部位に真皮を超える皮膚病状が存在しているため、この条件に該当するかと思われます。 しかし、「真皮を超える褥瘡の状態にある者」という表現には、いかようにも解釈が可能な曖昧さが含まれています。例えば、「EBの病状はそもそも褥瘡ではないため条件に該当しない」と判断される場合もあれば、「EBの病状も真皮を超えていれば褥瘡の状態と同一であるため該当する」とされる場合もあります。つまり、「真皮を超える褥瘡の状態にある者」という制度的な位置づけは、医療者の解釈によって判断が異なってしまうという現状があるのです。 特別訪問看護指示書について 特別訪問看護指示書は、一時的に病状が悪化した場合に主治医が交付する書類です。重度のEB患者さんの場合、常に真皮を超える皮膚病状が存在していることから、「一時的に」病状が悪化しているわけではないため、その目的から外れるのです2)。 希少難病の共通課題と支援体制 今回、お話しした状況はEB患者さんに限らず、他の希少難病を抱える患者さんたちにも当てはまる可能性が高いと考えられます。希少難病という特性上、患者数が少ないため、これらの問題をまとまった声として社会に伝えることができないかもしれません。今後、希少難病を抱える患者さんの生命やQOL(生活の質)、そして家族との生活が、安定的かつ持続的に維持できる体制の整備が喫緊に求められているのです。  本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:戸田 真里京都光華女子大学 看護福祉リハビリテーション学部看護学科在宅看護学、立命館大学生存学研究所 客員研究員日本難病看護学会認定・難病看護師として、病院や在宅支援機関、難病相談支援センターでの勤務を経て、現職。主な著書に『からだがやぶれるー希少難病 表皮水疱症』(生活書院、2024年刊)がある。編集:株式会社照林社 【引用文献】1) 山本明美他編:稀少難治性皮膚疾患に関する診療の手引き.稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班事務局,2011.2) 戸田真里:からだがやぶれる 希少難病 表皮水疱症.生活書院,東京,2024.3) 上嶋仁美:先天性表皮水疱症を有する児の看護.Neonatal Care 1997;10:224-229.4) 中村久美:表皮水疱症児の両親への日常生活指導と訪問看護との連携.日創傷オストミー失禁管理会誌 2014:18(4);354-357.5) 和田実里,中込さと子:栄養障害型表皮水疱症学童の発育過程と皮膚症状ならびに親によるケアに関する記述研究.日遺伝看会誌 2014;12(2):2-17.6) 厚生労働省:訪問看護(改定の方向性).令和5年11月6日.https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001164130.pdf2025/3/31閲覧

利用者の日常と希望を支える看護を~スタッフの働きやすさを追求~訪問看護ステーションちるな 石高さんにインタビュー
利用者の日常と希望を支える看護を~スタッフの働きやすさを追求~訪問看護ステーションちるな 石高さんにインタビュー
インタビュー
2026年2月10日
2026年2月10日

利用者の日常と希望を支える看護を~スタッフの働きやすさを追求~訪問看護ステーションちるな 石高さんにインタビュー

訪問看護ステーションちるなの管理者である石高様は、多忙な医療現場や、患者様の「家に帰りたい」という願いに触れるなかで、予防医療と看護師の働き方改革の必要性を痛感されたそうです。そんな石高様に、訪問看護ステーション設立のきっかけや思い、そして今後のビジョンについてうかがいました。 【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 自身のやりたい看護を追い求めて。訪問看護ステーション設立への道のり 私は2010年に看護師の免許を取得し、地元である北海道の急性期病院に勤めました。その後、救急医療を学ぶために上京し、大学病院の救命センターやICUで働き、経験を積みました。緩和ケアや退院支援を行う病棟に異動した際には、患者さんとの関わりを大切にした看護ができるようになりました。 しかし、ICUなどクリティカル領域へ再び異動することになり、自分のやりたい看護とのギャップに悩みを感じるようになりました。 そのなかで、新人看護師の離職の多さや、医療者と一般の人々との知識の格差といった看護業界の課題に気づき「なんとかできないか」と考えるようになりました。 ちょうどコロナ禍の時期でもあり、個人事業主としてSNSやYouTubeで看護業界の課題に関する情報発信を開始。 1年ほど活動を続けるなかで、訪問看護に出会いました。「入院や急変の前段階で関わり、適切なアセスメントを行うことで不必要な入院が減り、結果として患者さんも医療者も救われる社会を作れるのではないか?」という思いが芽生え、訪問看護事業を通して看護業界の課題解決ができるのではないかと思いました。 訪問看護の経験はなかったものの、北海道の知人のステーションで研修を受け、その後「訪問看護ステーションちるな」を設立しました。SNSでの発信を通じて、思いに共感してくれた看護師さんたちに声をかけ、初期メンバーとして集まってくれたんです。 「『看護師が働きやすい場所』を作ることを目指している」とお話しされる石高さん 働きがいを追求するために。評価制度や柔軟に働ける体制を整える 現在、ステーションは設立から4年目を迎え、おかげさまで経営も順調です。私が目指しているのは『看護師が働きやすい場所』を作ることなので、スタッフと対話を重ね、どんな環境なら安心して働けるかを一緒に考えながら制度を整えています。 今年度から、スタッフの声を取り入れた新しい評価制度を導入しました。『グッジョブカード』は利用者さんからの声やちるな文化に沿った行動をスタッフ同士で評価し合い、『グッドケア』は良いケアの事例を共有し、ポイント制で賞与に反映する仕組みです。日々の良い実践を可視化し、正しく評価されることでモチベーション向上につながっているとの声があがっています。 また、柔軟で公平な働き方も導入しており、小さなお子さんがいるスタッフには、月に8時間までの急な休みをカウントしない制度を設けています。また、独身のスタッフにはフレックス制度を導入し、お互いが助け合える仕組みを試行錯誤しています。オンコール対応のためのタクシー利用も認めており、スタッフが長く楽しく働いてくれるような環境を、少しずつ整えています。 訪問看護未経験も安心のサポート体制 在籍する看護師の多くは病院勤務の経験者であり、訪問看護は未経験というケースがほとんどです。急変を未然に防ぎ、異常の早期発見を行うためには病院での経験や知識が必要不可欠なため、訪問看護が未経験でも病院経験者を積極的に採用しています。朝のカンファレンスで全員が集まり、看護計画やケア内容を話し合う時間を設けています。日常の情報共有にはチャットツールを使い、困ったことがあればすぐに相談できる体制を整えているので「リモート同行」しているような感覚でサポートし合っています。オンコール対応に不安を感じているスタッフもいるので、私自身も連絡がつくようにしていますよ。 訪問看護では、病院とは異なり医師のカルテを見ることができないのが一般的ですが、弊社では、連携しているクリニックの医師のカルテや検査結果、指示書をリアルタイムに確認できる電子カルテシステムを導入しています。これにより、医療者間の連携がスムーズになり、質の高いアセスメントやケアが可能になり、業務効率化にも繋がっています。 教育面では、外部研修の費用は会社が負担。社内ではリーダー層や管理者層が勉強会や症例検討会を企画・実施し、その活動も評価制度に反映されています。リハビリスタッフからは、看護師向けにリハビリの知識や認知機能に合わせた脳トレを共有してもらっているんですよ。 「訪問看護ステーションちるな」のスタッフさん。とても明るい雰囲気です。 訪問看護で実現する“予防的ケア”と地域との連携 私にとって訪問看護の魅力は、「利用者さんに何かが起こる前に関われる」ことです。救急搬送される前に自宅での生活を支え、異常に気付き、適切なタイミングで介入することで、不必要な入院や急変を防ぐ。この視点は、救命のひとつだと考えています。 また、入院中の患者さんが「お家に帰りたい」という最大の希望を叶えるサポートができるのは、本当に素敵なことです。 今後は、医師やケアマネジャーとの連携を強化し、地域全体で在宅医療の理解を深めるため、定期的な勉強会を開催予定です。特に「この状態ではお家は無理」と判断されがちなケースでも、実は在宅で過ごせる利用者さんが多くいます。そうした誤解を解消し、より多くの方の「お家に帰りたい」という希望を叶えるとともに、急性期病院の負担軽減に繋がる活動をしていきたいと考えています。 訪問看護師の新しい働き方への挑戦 そして、株式会社chillnaとしての長期的なビジョンとしては、看護師の新しい働き方を作ることです。現場のみではなく、リモートワークと現場を組み合わせた「ハイブリッド型」の働き方を構築したいと考えています。たとえば、書類作成を含めた事務作業をリモートで行うことで、体力的に厳しい時期でも年収を落とさずに働き続けられるような環境を作りたいという思いがあります。これは5年から10年かけて取り組む長期的なプロジェクトですが、必ず実現したい夢です。 スタッフとともに挑戦したい。求職者へのメッセージ スタッフ採用にあたり、まずは私たちのミッションやビジョン、行動指針に共感してくれることを重視しています。現場では不要なルールは作らず、ある程度の自由を尊重したいと思っています。 当ステーションには、病院での働き方に疑問を感じながらも「もっと患者さんのために頑張りたい」と、熱意と向上心を持った素直な看護師が多いのが自慢です。とても風通しが良く、楽しい雰囲気の職場だと感じています。 私の目指す『看護師の働き方を変える』というビジョンや、病院で看てきた患者さんたちの『日常』を支える訪問看護の魅力に共感し「病院ではできなかったことを叶えたい」「一緒に未来を創っていきたい」と思ってくれる方がいれば、ぜひ私たちの仲間になってほしいです。私たちは、訪問看護未経験の方でも安心して働けるよう、教育やフォロー体制を整えています。皆さんと一緒に、この新しい挑戦ができることを楽しみにしています。 インタビュアーより 利用者様の生活を支えることはもちろん、看護師の働きやすさを追求し、さまざまな取り組みをされている石高様。スタッフ全体が利用者様への看護を熱心に考え、エネルギッシュな雰囲気が魅力的なステーション様です。訪問看護に興味のある方、看護師の新しい働き方に挑戦してみたい方は、ぜひお問い合わせください! 事業所概要 訪問看護ステーションちるな 住所:東京都台東区松が谷3-6-8 maison momo 2階  理念・文化:医療者を守り、医療が継続される社会の創造  運営方針:医療者の働き方改革を行い、医療者が笑顔でケアを提供できる環境を整えます。そして、利用者さんが安心して「生活の場」を選択できる世の中を目指します。 事業所紹介ページ: https://ns-pace-career.com/facilities/15599 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

【MS難病看護事例】看護ができることが見えにくい 孤立を防ぐかかわりと制度の狭間
【MS難病看護事例】看護ができることが見えにくい 孤立を防ぐかかわりと制度の狭間
特集
2026年2月3日
2026年2月3日

【MS難病看護事例】看護ができることが見えにくい 孤立を防ぐかかわりと制度の狭間

皆さんは「多発性硬化症」について、どのようなイメージをもっていますか?「何となく聞いたことはあるが、どのような病気なのかよく分からない」「ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病と同じような難病というイメージ」など、訪問看護師にたずねるとよくこのような答えが返ってきます。今回は多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)を取り上げ、対話を通じた支援により、制度の狭間に陥りやすい対象者が孤立しないようにかかわった事例を紹介します。 多発性硬化症(MS)とは はじめに、多発性硬化症について簡単に説明します。正式名は「multiple sclerosis」といい、その頭文字をとって「MS」と呼んでいます。 症状が多彩で再発・寛解を繰り返す MSは、自己免疫機序の関与によって、視神経・脳・脊髄の中枢神経系に慢性的な炎症を引き起こす神経難病です。視力障害・構音障害・運動障害・感覚障害・歩行障害など症状は多彩で、再発と寛解を繰り返すのが特徴。また、自己管理による再発の予防・制御が難しく、症状の不確かさが顕著なこともMSの特性です。 ライフイベントにも影響 特に20~40代に発症しやすいことから、就労、結婚、妊娠、出産、子育てなど、人生のライフイベントの時期と重なるケースも多く見られます。さらに、MSの症状は外観からは分かりにくく、周囲から理解されにくいことから、ライフイベントやQOL(quality of life:生活の質)に大きく影響を及ぼすことがあるのも大きな特徴の1つです。 治療の進歩により地域での療養が可能に 近年、MSの治療が急速に進歩していることから、それまで入院を余儀なくされていたMSの方も、外来で治療を受けながら、地域で在宅療養や社会生活を送れるようになってきました。退院後、症状が軽い方は外来通院のみとなるため、看護師と出会う機会はほぼなくなります。一方、症状や障害が重く、医療的ケアが必要な方は、訪問看護や訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)を利用している方もいらっしゃいます。 * * * 今回は、難病看護師でもある筆者が「お話をうかがう」ことを通してかかわらせていただいている事例を紹介します。なお、本事例については、本人の承諾のもと、一部加工して掲載しています。 事例紹介:A氏(40代、男性) Aさんは、高齢の両親と同居しています。以前は妻・子どもと暮らしていましたが、MS発症後に別居生活となりました。 20代後半のときに手足の感覚に違和感を覚え、急に階段が降りられなくなるなどの症状が出現。近医の整形外科を何度も受診し、MRI検査も行いましたが「原因が分からない」と言われ続けました。そんななか、たまたま脳に関する記事を読んで「もしかしたら」と思い、別の病院を紹介してほしいと依頼し、B病院の神経内科を受診しました。そこでも「今の段階ではよく分からない」と言われ、C大学病院の脳神経内科の紹介を受け、受診した結果、30代でMSの確定診断を受けました。 診断後、しばらくは内服治療を行っていましたが、点滴治療に変更となり、現在は4~6週間に1回通院しています。本人は、「薬が効いている実感がない」と話します。MSの身体障害度を示すEDSS*は7.5、右半身麻痺があり、排尿困難があります。終日電動車椅子を使用し、自力での移乗は不可という状況です。 *EDSS(expanded disability status scale:総合障害度スケール):MSの身体障害度を評価するスケール。障害度は0から10で、0.5ずつ20段階で評価、スコア0は神経機能正常、6以上になると歩行に杖や装具などの補助が必要と評価されます。 Aさんは、30代後半から徐々に症状が悪化し、通勤ができなくなりましたが、在宅ワークに切り替えて仕事は継続できています。歩行ができなくなったため、外出の機会は激減しました。生活や身体介護は、すべて両親が行っています。膀胱留置カテーテル交換のため、医療保険による訪問看護を月約1回の頻度で利用しています。 Aさんが語るさまざまな思い 初回の対話 初めての対話の際は、確定診断を受けたときの気持ちや家族への思いが語られました。「まさか自分がMSになるとは思わなかった。確定したのはいいんだけど、だからといって病気が治るわけでもないので、不安でしかなかった。この病気はとてもつらい病気なので」「こんな病気になってしまって、家族に申し訳ないという思いと、迷惑もかけたくないし、どんどん悪くなる自分の姿を子どもにも見せたくないって、そういう思いしかなかった。結局、この歳で高齢の両親に迷惑や負担をかけることになっちゃったんですけどね。でも、そうするしかないと思って自分で決めたので」 2回目の対話 2回目の対話では、仕事のことや今の「やり場がない」思いが語られました。「何よりも自分の体が動かないってことが一番ストレスなんでね。迷惑をかけて生きるっていうのが一番嫌なので。死ねるなら、ほんと死にたいなって思いもあるし。人間で生きていられること、自分で動けるってことが生きてるってことだと思うので。今はもう自分1人では何もできないし、どこにも行けないし、自分がやりたいって思ったことができないんで。正直、生きてるっていう意味では半分くらいじゃないかなって思う。なので、生きる権利を保障するためにも“安楽死”の制度があったらいいなと思う」「ちょうど社会的にも、こういう障害をもった人を雇いなさいっていうタイミングがあったじゃないですか。会社に義務も課せられて。それもうまく重なって、在宅ワークに移ることができたって感じだと思う。ただ怖いのは、人間、本音と建前があるじゃないですか。だから、鵜呑みにはせず、なるべく会社の役に立つようにと思って、最初は週1~2日くらい顔を出してたんですけど、途中から症状がどんどん悪くなってしまい、最近は会社に行くこともできなくなってしまった」 3回目の対話 訪問看護師のことや今後についての思いが語られました。「それでも、まだね、特に両親のおかげで一日一日過ごすことができている。正直言うと、ここまで自分の意思がしっかりしてると自分でも想像していなくて、20××年頃には、もう寝たきりになっているんじゃないかなって思ってたので。でも、将来への不安はずっとあるし消えることはない」「訪問看護師には話していない。というか、話せる雰囲気ではない。MSのこともよく知らない感じだし。毎回『体調はどうですか』って聞かれるけど、大丈夫なはずがない。自分の思うように体が動かないとか、それって自由がないってことだと思うんですよね。だから、時々言い方もきつくなったりして。申し訳ないなと思うんですけど」 寄り添い理解し最善をともに考える 私が行っている支援は、本人の気持ちに真摯に向き合い寄り添い、思いを受け止め、常に一緒に考える姿勢をもち続けることです。また、病状進行に伴う生活のしづらさ、本人の価値観や考え、希望を理解し、ともに「最善」を考えていくことです。 この方の場合、障害者総合支援法が活用できますが、利用への葛藤があり、導入に至っていません。むしろ、今一番望んでいることは「MSの症状とこの体で日常生活を送るための個別に応じた具体的指導や助言(食事・栄養面、入浴方法、睡眠、生活動作、随伴症状を和らげる工夫など日々の細々したこと)」「じっくりと話を聞いてくれる専門職」なのです。 MSは生涯にわたり付き合っていく疾患であり、病気の経過は一様ではありませんが、難病看護は決して特別なものではありません。しかし、このようなケースは支援の狭間に陥りやすくなるため孤立させないよう本人の憂慮する思いに対話を通して支援を行っています。 本事例を通して、MSの方の看護・支援について考えていただき、皆さんの今後の難病看護や訪問支援活動の一助となってもらえれば幸いです。   本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:牧 千亜紀東京医療保健大学立川看護学部 看護学科 地域・在宅看護学領域日本難病看護学会認定・難病看護師行政保健師として難病保健事業や支援活動を担当したことが契機となり、現在は「地域における難病支援」をテーマに調査研究活動を行う。編集:株式会社照林社

患者視点で取り組む腹膜透析患者の生活支援とセルフケア指導の実際
患者視点で取り組む腹膜透析患者の生活支援とセルフケア指導の実際
特集
2026年2月3日
2026年2月3日

患者視点で取り組む腹膜透析患者の生活支援とセルフケア指導の実際

高齢化の進行とともに、在宅医療の重要性が増すなかで、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)は、患者さんの生活の質(QOL)を維持しながら続けられる腎代替療法として改めて注目されています。しかし、安定した治療には、本人やご家族の理解、セルフケア能力に加え、医療者による継続的な支援が不可欠です。本稿では、PD療法を受ける患者さんの生活支援とセルフケア指導について、訪問看護師と基幹病院の連携を軸に、当事者の視点を重視した支援のあり方を考察します。 腹膜透析(PD)患者の生活管理における支援 PD患者の生活管理は、「医療」と「日常生活」が密接に結びついている点に特徴があります。透析液の交換や出口部の管理、手技の清潔保持など、日常的に行う行為が直接的に治療の質にかかわります。 ここで重要なのは、患者さんの日常生活を理解した上での指導と支援です。たとえば、視力や手指の巧緻性に問題を抱える患者さんには、PDを行う部屋の明るさや手指の清潔保持の工夫が必要です。また、家庭内の空間や生活動線を観察し、最適な透析スペースの確保や感染リスクの軽減策を提案することも訪問看護師に求められる、かつ訪問看護師にしかできない役割です。 さらに、高齢PD患者さんでは、生活全体の「フレイル予防」や「転倒予防」も重要です。適度な運動の指導や食事内容のチェック、服薬状況の確認など、PD療法の枠を超えた包括的な生活支援が、生活の安定化、ひいてはPD治療の安定化につながります。訪問看護師がこれらのニーズに気づき、地域の医療資源や介護サービスとの連携を調整することが、患者さんの生活を守る要となります。 セルフケア指導と家族教育の工夫 PDのセルフケアには一定の技術と衛生管理が必要ですが、それ以上に大切なのは、患者さんとご家族がその意味を理解し、必要性に納得して実践できることです。手技の必要性を十分理解できていないと、技術的には可能でも、その段階をスキップし、治療に問題を起こし合併症につながる、といったことにもなりかねません。 基幹病院では、導入時の入院中に十分な教育が行われますが、退院後の継続的なフォローやフィードバックも同様に重要です。ここで訪問看護師が果たす役割は大きく、以下のような支援が効果的と考えます。 ●視覚的・体感的な指導文字や口頭で伝わりにくい部分は、実際の動作を一緒に行いながら確認し、分かりやすく指導します。使用する物品の配置や動線もともに確認することで、生活に即した工夫ができます。 ●「できること」に着目する支援できないことばかりに目を向けるのではなく、できることを評価し、徐々に自己管理の幅を広げていきます。こうしたかかわりが、患者さんの自信とモチベーションの維持につながります。 ●家族との対話を重視家族が過剰な負担感を持たずに関われるよう、役割分担や休息の確保を意識した支援を行います。特に高齢の配偶者が介護を担うケースでは、無理のない協力体制を築くことが継続の鍵となります。これは、患者さんの生活に身近な訪問看護師の「現場の眼」があってこそ実現する支援の一つです。 * * * PDを継続するなかで、不安や疑問が生じることは避けられません。そうしたときに「すぐ相談できる人がいる」という安心感が、患者さんやご家族のセルフケア力を下支えします。訪問看護師はその 「つなぎ役」として、基幹病院との情報共有や、タイムリーな報告・相談を担うことが求められます。そして、この支援体制の確立と維持は、PD療法の継続において不可欠です。 このような連携をより円滑に行うための手段として、近年では、医療情報をリアルタイムに共有できる情報通信技術(ICT)を活用したアプリケーションの導入が進んでいます。画像や動画を用いた情報のやり取りや、双方向性のコミュニケーションによって、基幹病院との効率的な連携が可能となっています。 基幹病院との連携で支える「生活に根差したPD」 PD療法は、「治療」ではありますが、「暮らしのなかで営まれる医療」であるともいえます。そのため、患者さんの生活に密着した視点と、医学的・専門的な視点とのバランスが求められます。 基幹病院は治療の安全性や技術的指導において中心的役割を担い、訪問看護師は先述したとおり、「その人らしい生活」を維持するための「現場の眼」として、PD治療において不可欠の存在です。 例えば出口部の感染が疑われた際には、単に処置を行うだけでなく、生活習慣や清潔行動の背景を踏まえた改善策を患者さんに提案しましょう。また、基幹病院には、感染の事実を報告するだけでなく、必要に応じて情報を共有し合うなど、双方向の支援体制を築いていくことが理想です。 この点については、ICTツールを活用することで、訪問看護の内容を写真つきで共有したり、病院からの指示をリアルタイムで確認できたりする体制が整いつつあります。病院-訪問看護-患者・家族が一体となってPD治療を支えられるようになってきたといえるでしょう。 おわりに 腹膜透析は、患者さん自身がご家族や訪問看護師、基幹病院の協力のもと、なるべく透析前に近い生活を取り戻すための治療であり、「在宅医療の未来」を象徴するものともいえます。患者さんの視点に立ち、セルフケアと生活支援の両輪で支えることが、PD療法の安定継続と患者さんの満足度につながります。 訪問看護師の温かいまなざしと専門性、そして基幹病院との協働が、「腎代替療法の一治療形態」としてではなく「暮らしを支える生活の一部としての腹膜透析」を実現する鍵となるでしょう。   執筆:上村 太朗松山赤十字病院 腎臓内科 部長2001年 愛媛大学医学部卒業関西圏の市中基幹病院で研修2005年 松山赤十字病院入職2016年 松山赤十字病院腎臓内科部長前任部長・原田篤実より受け継いだラストマンシップを診療の軸に、地域と連携し、すべての腎臓病患者さんが困らない医療を心がけています。編集:株式会社照林社

寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~
寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~
インタビュー
2026年1月27日
2026年1月27日

寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チーム~

2025年10月、河口湖を舞台に医療的ケア児と家族のための「第6回 キラキラこどもキャンプ 湖と富士山を見たい! 2025 in河口湖」が開催されました。医療的ケアを必要とする子どもたちとご家族にとって、旅行は大きなハードルであると同時に、かけがえのない体験でもあります。その一歩をどう支え、どのように連携を整えてきたのか、キャンプの企画・運営に携わる木戸さんにお話をうかがいました。 >>前編はこちら医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプ再開に込めた想い~ 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと 管理者・代表取締役訪問看護師として25年以上の経験を持ち、在宅療養を支える実践を続けている。「ナイトナース」制度を導入し、24時間対応体制の課題に対する新しい働き方を訪問看護業界に提案。看護師の負担軽減と利用者満足度の両立に取り組む。「第3回 みんなの訪問看護アワード」大賞受賞。(エピソード漫画化記事:「お母さん〜看護の襷をつなぐということ〜」) 垣間見えたこどもたちの成長と頼もしさ ―キャンプ内で心に残ったご家族の言葉やエピソードはありますか? 例えば、保護者の方々からは以下のような声をいただいています。 「自分たちが旅行を計画するとなると、部屋のお湯や電子レンジの有無など、細かな確認が必要で本当に大変です。今回はそういった確認が不要で、安心して参加できました」   「娘と一緒にキャンプに行くのがずっと夢でした。普段は旅行に連れていく余裕もなくて…。でも今回は移動中も医療者の方が見てくださって、本当に助かりました」「久しぶりにキャンプが開催されると知って、思い切って申し込みました。シングルなので、一人で子どもたちを旅行に連れていくことが難しい状況があります。キャンプでは子どもたち同士が自然と仲良くなっていました」 自然と打ち解け、あっという間にできた「仲間の輪」。笑顔あふれるキャンプの様子 普段の訪問では、ごきょうだいの揺れ動く気持ちや我慢はどうしても見えにくいものですが、このキャンプはごきょうだいのケアも大切にしたいという思いで運営しています。 あるご家庭からは、どうしても医療的ケアが必要な子に注目が集まり、ほかのごきょうだいが自然と我慢を重ねる場面が多いというお話を伺っていました。そこで、キャンプ中はごきょうだいたちにも小さな役割をたくさんお願いすることにしたんです。バスタオルを配ったり、歯ブラシを届けたり。任せた仕事をどれも丁寧にこなしてくれて、来年に向けての意気込みを語ってくれた子もいました。自己肯定感の向上につながる経験のひとつになったのではないかと思います。 24時間体制での連携 ―キャンプ地でのサポート体制はどのように組んでいたのでしょうか。 キャンプ地で24時間医療的ケアを支えるためには、当日だけでなく、丁寧な準備が欠かせません。キャンプの前日と前週水曜日に往診を行い、参加するすべてのご家庭を医師と看護師が事前に回り、カルテを作成してアレルギーや体調について把握していました。また、事前に必要な情報を共有し、看護師・医師が即時に対応できるよう、さまざまなケースのシミュレーションも重ねていました。 キャンプ当日は、医療従事者20名ほどが参加。夜間は看護師が必要に応じて各部屋を訪問する体制を取り、「一家族一ナース」には至らないものの、必要なタイミングで寄り添う形を重視しました。食事や移動時のトイレ対応、医療的ケアなど、担える部分は積極的に引き受け、ご家族が休息できる時間を確保することを心がけました。 ―想定外の事態などはありましたか。 キャンプ当日にインフルエンザが発生しました。感染症に罹患した場合のこともシミュレーションして臨んでいたので、初動対応は比較的スムーズに進めることができたと感じています。発熱が確認された時点で、運営・看護師・医師がすぐに協議し、感染拡大防止を最優先に対応しました。医師は点滴や検査キット、緊急薬剤を含む医療機材を持参しており、その備えが現場で生きました。 しかし、準備していた抗ウイルス薬が結果的に不足してしまった点が想定外でした。そのため、夜間対応が可能な薬局を手分けして探し、当日中に必要な量の薬剤を調達する対応が発生したんです。最終的には、運営・医療スタッフ・ご家族それぞれの協力によって、影響を最小限に抑えることができたと受け止めていますが、プログラムは変更せざるを得ませんでした。 過去にも、海で鼻血がでてしまったり、夜に興奮しすぎて発熱したり、急な体調変化や疲れによる不調など、想定外の出来事は少なくありません。どれほど準備を重ねても、現場では「想定外」が起こりえます。「次はもっとこうしよう」という振り返りの積み重ねが、より安全で安心できる場づくりにつながるのだと考えています。 参加した医療職の動機と気づき ―今回は、他の事業所の医療職の皆さんも数多く参加されたそうですね。 はい。医療的ケア児の生活により近い形で関わりたい、家族看護の視点を深めたい、自分たちの地域でもキャンプを実現してみたい…。そんな前向きな思いで来てくれていました。若いスタッフから経験豊富なメンバーまで、立場はさまざまでも共通していたのは「現場の外で子どもたちを見る機会がほしい」という願いでした。中には、キャンプの運営方法や広報の工夫、場所選びのポイントなど、すぐに持ち帰って応用したいという情熱を持った方もいました。 実際に参加した医療職からは、「キャンプは非日常の場だけれど、ごきょうだいの関係やご家族の過ごし方を見て、むしろ『日常そのもの』を感じさせていただいた」「訪問看護をしていて利用者さんのことや生活について分かっているつもりでしたが、実際には知らないことも多かったと気づきました」といった声をいただきました。こちらとしても、その場の状況を瞬時に読み取り、柔軟に動いてくださり、本当に心強い存在でした。 医療スタッフとボランティアが一体となって支えたキャンプ どの事業所も当然ながらスタッフ全員がキャンプに参加できるわけではありませんし、スタッフの人数に合わせて受け入れられるご家庭の数も調整が必要になります。それでも、今回他事業所の方々を含めて協力していただいて、「小規模だから無理」ではなく「やると決めて仲間を集めれば実現できる」ということを改めて強く感じました。大事なのは規模ではなく、情熱と連携。この2つがあれば、どの地域でも形になるはずです。 スタッフ・支援者・寄附の力 ―協賛・協力をしてくださった方も多かったと聞いています。 はい。このキャンプは、これまで「地域みんなで育てていく」という思いで続けてきました。私たちの活動は個人ではなく、地域の医師をはじめとした協力やつながりが土台になっています。今回も、日頃から関わってくださっている方々が自然と力を貸してくださり、その温かさに何度も救われました。 クラウドファンディングでは、直接お会いしたことがない方々も理念に共感して寄付してくださいました。その一つひとつの思いに触れ、「世の中にはこんなにも優しさが残っている」と胸が熱くなると同時に、託された責任や期待の大きさも実感しました。 立ち上げの思いに共感した仲間たちが、構成づくりから担ってくれた特設サイト「第6回キッズキャンプ in 河口湖―小児疾患の子どもたちの勇気を膨らます会―」HPより 久しぶりの開催だったこともあり、「待っていたよ」という声をたくさんいただきました。朝早くから駆けつけてくれた方、差し入れで場を盛り上げてくれた方、「本当は企画段階から関わりたかった」と言いながら当日に参加してくれた方……。その気持ちの一つひとつが励みになりましたし、私ひとりの力では絶対に形にできませんでした。 寄付をしてくださった人のなかには、「うちの子も医療的ケア児です。今回は参加しませんが活動を応援したい。来年は参加します」というメッセージもありました。小児科の先生から、支援金とともに「小児科医はいくらいてもいいよね。来年は行くよ」と連絡をいただいたりもしました。 こうした声に触れるたびに思うのは、「このキャンプは、もう私たちの会社だけの取り組みではない」ということです。関わる人が時間も体力も心も注いでくれる。医療的ケアが必要な子どもたちとその家族が「自分たちは支えられている」「未来がある」と感じられる場所であり続けたいし、そのための努力をもっと積み重ねていかなければいけないと感じています。声を上げれば、誰かが応えてくれる。応えた力が、また次の誰かを動かす。この循環を、未来へもっと広げていきたいですね。 未来への展望・これからの活動 ―今後の展望についてお聞かせください。 子どもキャンプは、これからも続けていくつもりです。そのためには募金活動を継続することに加え、いずれはNPO化など、持続可能な体制づくりも必要かもしれません。活動としての「器」を整える段階に入りつつあると感じています。 地域や法人の枠を越えて協力し、より多くのお子さんが参加できる形をつくることが理想です。車の台数やルート調整など運営上の課題もありますが、それも皆でつくり上げるキャンプの醍醐味だと思っています。 また、現地に来られない子どもたちにも、今回のお出かけの楽しさや心に残る風景を映像で届けたら素敵ですね。医療的ケアが必要な子どもが多く通う放課後デイサービスに共有するのもいいと思っています。そんなふうに「体験を分かち合う」ことで、どの子も少しずつキャンプに参加している気持ちになれるのではないかと思っています。 富士山を背に記念撮影 ―最後に訪問看護師の皆さんへメッセージをお願いします。 訪問看護師の皆さんは、日々やることを整理し、チームで助け合いながら、看護に取り組まれていると思います。しかし、看護の本質はそれだけに収まらないと感じています。看護は本来「気づいて、想像して、つくっていく」もの。 少し視野を広げて、どこに本当のニーズがあるのか目を向けてみると、まだ埋まっていない穴がたくさんあることに気づきます。特に医療的ケア児やそのご家族は、日々たくさんの「我慢」が積み重なっているので、ちょっとした声かけや小さな配慮によって救われることがあります。大きなことじゃなくていいんです。そっと差しのべたひと手間。その温かい「気配り」こそ、看護の本質だと思うんです。技術だけでは届かない部分が、確かにそこにあります。 そのためには、何より自分自身が元気でいてください。心身が健康であれば、「ここでこんな関わりをしたら、きっと心が和らぐだろうな」と自然に想像できるようになります。それが、私から訪問看護師の皆さんへ送るエールです。 取材・編集:NsPace編集部執筆:小松原 菜々

“すぐに動く”を支えるしくみ――待たせないケアと、信頼でつながるチームの力~訪問看護ステーションれんげの花 野老さん・富田さんにインタビュー~
“すぐに動く”を支えるしくみ――待たせないケアと、信頼でつながるチームの力~訪問看護ステーションれんげの花 野老さん・富田さんにインタビュー~
インタビュー
2026年1月27日
2026年1月27日

“すぐに動く”を支えるしくみ――待たせないケアと、信頼でつながるチームの力~訪問看護ステーションれんげの花 野老さん・富田さんにインタビュー~

「すぐに動ける」訪問看護――それは決して一人の行動力だけで成り立つものではありません。 今回お話を伺ったのは、「訪問看護ステーション れんげの花」で日々利用者さんに寄り添う野老さんと、ケアマネジャーとして現場を支える富田さん。職種の垣根を越えて支え合う関係性や、日々のちょっとした声かけの積み重ねが、利用者さんの“いま”を守る力になっているといいます。チームの温かな信頼の中で育まれる、「待たせないケア」の真髄とは――その現場をのぞいてみました。 【※本記事はNsPace Career が事業所向けに提供している「特集記事掲載サービス」によるものです。取材・撮影・編集はNsPace Careerが担当しました。】 「待たせないケア」は、チームでつくる 「基本的に、“何とかする”って思ってます」 インタビューの冒頭、野老さんはそう静かに話してくださいました。訪問看護の現場において、“待たせない”ということは、時に大きな意味を持ちます。急な症状の悪化、ご家族の不安、予期せぬ環境の変化――どれも、「すぐに誰かが動く」ことで救われる瞬間があるからです。 「訪問看護は定期的な訪問がベースですが、“今、ちょっとおかしいかも”って連絡が入ったら、まずは“今から行きます”って動ける体制をとってます」 それを支えているのは、野老さん個人の意志だけではありません。管理者という立場にありながら、日々の訪問を自ら担い、チーム全体の動きを把握しているからこそ、瞬時の判断ができる。そして何より、「それを分かって動いてくれる仲間」がいるからこそ可能なのだといいます。 また、こうした体制を維持するために、日頃からスタッフ間での情報共有やケース検討の場も大切にしているとのこと。日常のちょっとした会話の中にも、「あの方、最近どうですか?」といった気づきや声かけが行き交う現場だそうです。 「何かあったときに動けるのは、日頃の関係性があるから。信頼できる人が周りにいると、自分も安心して判断できますし、相談もしやすいんです」 笑顔でスタッフと話し合うケアマネージャー富田さん。併設している居宅介護支援事業所で一緒に働いている。 気軽に相談できる距離の近さ 野老さんは、訪問看護歴10年であり、たくさんの経験や知識を今まで得てきています。そんな野老さんだからこそ、自分で訪問看護を運営する難しさや喜びを実感しています。 「前の訪問看護ステーションを退職して、少し休もうかなと思っていたんです。でも、家族や知人に“訪問看護、立ち上げてみたら?”と背中を押されて。書類や準備など開設の時は大変でしたが、ステキな仲間とのご縁もあって。楽しく続けてこられました」 自身もプレーヤーとして日々、利用者さんの訪問看護を提供する毎日。忙しさの中で、改めて多職種での連携の良さを感じたと話します。 「今まで、ケアマネージャーさんがそばにいる訪問看護ステーションで働いてきたのですが、最初、れんげの花を立ち上げたときは、居宅介護支援事業所を併設していなくて。その時に“いかにケアマネージャーがいたことがありがたかったか”と痛感したんです。富田さんが来てくれて本当によかった!」 改めて、多職種との距離が近いことで気軽に相談し合える良さを感じたと話す、野老さん。その姿に富田さんも笑顔ではにかんでいました。 背景にあるのは、人と人との信頼関係 チームワークの良さ、少数気鋭だからこそ、日々の人間関係が丁寧に築かれていることが伝わってきます。 「私は、“困ったときの富田さん”って勝手に呼んでるんですけど。本当に、何かあるとすぐに相談できる存在なんです」 野老さんがそう語ると、富田さんもまた、「私は“野老さんが行ってくれるなら安心”って思ってますよ」と笑顔で応じました。 職種が違っても、同じ目的で動ける関係性。それは一朝一夕で築けるものではなく、日々の小さな積み重ねによるものだといいます。 こうした連携のしやすさは、単なる業務効率では語れない「人と人の信頼」によって支えられています。 働く人が支えあえる現場づくり 「相談しやすさって、本当に大事なんですよね」 これは富田さんの言葉です。長年ケアマネとして働いてきた中で、職種間の“壁”を感じる場面もあったといいます。 「昔は、“ここからは医療だから看護師さんに”“これは介護の仕事”って線を引く風潮もありました。でも今は、“とにかく目の前の方のために”という軸で動いてくれる人がいると、本当に働きやすくて」 一方の野老さんも、「スタッフにも同じように、“声をかけやすい”って思ってもらいたい」と日頃から意識しているそうです。 「私は管理者ではありますけど、偉そうにしたいわけじゃなくて。“この人に相談しても大丈夫”って思ってもらえるように、毎日の声かけや雑談も大事にしてます」 さらに、業務以外の会話やちょっとした雑談が、チーム全体の関係性を柔らかくしているのだそうです。例えば朝の申し送りのときや訪問から戻ったタイミングで交わす、「今日はどうだった?」「ちょっと大変だったね」などの何気ない会話。その積み重ねが、「困ったときに助け合える」空気を育んでいるのです。 野老さんは、今後地域での活動にも目を向けています。 「精神疾患を抱える人が過ごせる居場所づくりにもチャレンジしていきたいです。今は、保険外の自費訪問看護のサービスも力を入れていて。受診同行や、日中にご家族がお仕事で見守りの支援とか、傾聴相談とか!地域で待っている人にいち早くケアをお届けしたい気持ちは持ちながら、広い視点で活動していきたいです」 スタッフを信頼し、のびのびと支え合いながら育っていくことができる、訪問看護ステーション れんげの花。 まさに、れんげの花の花言葉「あなたがいれば、私の苦痛は和らぐ」のように優しいあたたかな場所です。 てきぱきと業務をこなし、頼れる存在の野老さん。 インタビュアーより “すぐに動ける訪問看護”を実現するには、ただの行動力だけでは成り立ちません。そこには「信頼して任せられる関係性」「相談できる職場の安心感」「柔軟に判断する視点」といった、数えきれないほどの“人の力”が積み重なっています。 今回のインタビューを通して、「人に寄り添うケア」は、「人に支えられながら働ける職場」から生まれるのだと深く感じました。 “何とかする”という想いを、チームみんなで実現できる場所。そんな現場で働く喜びを、少しでも感じていただけたら嬉しいです。 事業所紹介 訪問看護ステーション れんげの花 住所:〒264-0032 千葉県千葉市若葉区みつわ台4-16-2斎木事務所1階102号 訪問エリア:千葉市若葉区、稲毛区、中央区、美浜区、花見川区 スタッフ:20~50代と幅広い。男性看護師も大歓迎。 特徴:タブレット貸与、ユニフォームや靴は会社にて補助している。シフト制、直行直帰も可能。保険外の自費訪問看護のサービスも提供している。 事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14664 この記事を読んで「訪問看護、自分にもできるかも」と感じた方へ 「もっと患者さんと関わりたい」「自分らしい看護を実現したい」そう感じている看護師の方は少なくありません。 NsPace Careerナビでは、訪問看護の現場で働く看護師のリアルな声を多数掲載しています。 精神科訪問看護で活躍する看護師の声 未経験から訪問看護を始めた体験談 育児と両立しながら働く現場の実例 各ステーションの教育体制・チーム文化 さらに、キャリアの悩みやモチベーション維持のコツなど看護師として働くうえで役立つ記事も充実。 「自分に合う訪問看護の職場って、どんなところだろう?」そのヒントが、きっと見つかります。 ▶ 他の訪問看護師インタビューを読むhttps://ns-pace-career.com/media/ 記事提供:NsPace Careerナビ編集部

医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプの意義~
医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプの意義~
インタビュー
2026年1月20日
2026年1月20日

医療的ケア児と家族へ届ける自然体験~こどもキャンプの意義~

外出や旅行に大きなハードルを抱える医療的ケア児と家族に、自然の中での体験を届けたい――。訪問看護師の木戸 恵子さんは、そんな思いから「こどもキャンプ」の企画・運営をしています。コロナ禍で約5年休止していましたが、2025年10月に待望の「第6回 キラキラこどもキャンプ 湖と富士山を見たい! 2025 in河口湖」が開催されました。今回は、木戸さんの本キャンプに込めた想いや運営の裏側を伺います。 木戸 恵子(きど けいこ)さん株式会社ウッディ 訪問看護ステーションはーと 管理者・代表取締役訪問看護師として25年以上の経験を持ち、在宅療養を支える実践を続けている。「ナイトナース」制度を導入し、24時間対応体制の課題に対する新しい働き方を訪問看護業界に提案。看護師の負担軽減と利用者満足度の両立に取り組む。「第3回 みんなの訪問看護アワード」大賞受賞。(エピソード漫画化記事:「お母さん〜看護の襷をつなぐということ〜」) キャンプの再開に向けた想い ―このキャンプは、そもそもどんなきっかけから始まったのでしょうか。 はい。重い病気や障害のあるお子さんのご家庭ほど、どうしても日常がケア中心になり、ごきょうだいが寂しい思いをする場面も出てきてしまいます。家族全員で思い出をつくる機会は限られ、運動会や旅行など、一般的には「当たり前」の体験が叶わないご家庭も多い現実があるのです。 この活動を始めたのは2015年ですが、その原点には、致死性骨異形成症という難病を抱えた「しゅうくん」(当時12歳)の存在がありました。 「しゅうくんの物語」より抜粋。物語全文はリンク先よりご覧ください。 自宅で過ごす時間が長く、公園にすら行ったことがなかった彼に、妹さんが「海みたいよね!」と言ったとき、嬉しそうな表情で頷いていました。その様子を見て、ご家族で行ける海でのキャンプを提案したんです。 これまでに6回キャンプを開催してきたなかで、かけがえのないご家族の思い出づくりの意義を、スタッフ一同強く実感しています。 ―コロナ禍で5年自粛されたようですが、再開に込めた思いについてもお聞かせください。 利用者さん家族から「今年はキャンプありますか?」という問い合わせを毎年いただき、「今年も自粛です」と伝えるのはとても胸が痛みました。また、キャンプを実施する際はスタッフの負担が大きく、体力も時間もエネルギーも必要ですが、それでもスタッフから「今年はやらないんですか?」と声をかけられることが何度もあって。「キャンプを大切に思ってくれているんだ」と胸が熱くなりました。 だからこそ、今回念願の再開を迎えられたことは、大きな希望となりました。再開初年度となる今回は、8家族が参加してくださいました。 キラキラこどもキャンプ2025 協力者募集用のチラシ 思いの根っこはずっと同じで、「子どもたちに自然の中でのびのびと過ごしてほしい」ということ。屋内ではなく外で、風や光や空気を感じながら、五感をいっぱい使ってほしい。そして楽しい思い出をたくさんつくってほしい。それが私たちの願いでした。 実際、キャンプでは毎回、子どもたちの素直な力に驚かされます。初めて出会った子同士でも、いつの間にか打ち解けて一緒に遊び始める。大人が構える前に、子どもたちが「もう仲間だよ」と言わんばかりに自然に輪を広げていく。その姿こそ、このキャンプが持つ魅力のひとつでもあります。 下見で見えた大切な条件と医療者の視点 ―今回の開催地はどのように検討されたのでしょうか? もともとこのキャンプは、夏休みのイベントとして開催していたのですが、昨今の猛暑は本当に厳しいですよね。子どもたちやスタッフの体力的負担も大きく、開催時期は秋にしました。その前提で改めて「どんな場所なら子どもたちが安心して、安全に楽しめるか」を考え、今回は「自然の中で富士山を見よう」「キラキラ光る湖を眺めよう」というテーマで河口湖に行くことにしました。 海・遊園地・山・川などさまざまな方向性を検討し、「沖縄に行けないか?」とも考えましたが、公共交通機関の利用は負担が大きい。また、果物狩りなども素敵だと思いましたが、安定しない土の地面の移動は、バギーを使うお子さんたちにとってハードルが高いんです。さまざまなシーンを想定しながら、最終的に今回のコースがベストだと判断しました。 ―開催場所を決めたあとも、多くの準備が必要だったと思います。重点的にチェックされた部分を教えてください。 どのキャンプでも、開催地の下見には複数回足を運んできました。今回は過去に利用したことのあるコテージだった分、3回の訪問で必要な確認をすべて済ませることができました。 第6回 キラキラこどもキャンプ開催地のコテージとそこから見える景色 下見で大事なのはまず「安全に過ごせるか」という視点です。緊急時の医療体制、宿泊するコテージや出入り口のバリアフリー、設備、停電時の自家発電など、確認しなければいけないポイントは多岐にわたります。感染対策においても、「動線が混雑しないか」「隔離スペースを確保できるか」など、一つひとつ丁寧にチェックしました。 木の温もりがそっと寄り添う、穏やかな雰囲気のコテージ内 また、参加してくださったご家族が「ここなら安心して思い出をつくれる」と心から思えることも大切です。医療的ケア児のキャンプは、一般に想像されるアウトドア体験とは状況が異なり、プライバシーの確保や他の宿泊客と互いに気持ちよく過ごせる環境も重要ですし、ゆっくり身体を休める場所がないと、発熱したり体調を崩したりと、翌日に影響が出てしまうこともあります。 すべての条件を満たす場所を探すことは簡単ではなく、ガイドブックだけでは見えてこない部分が多いので、現地で直接打ち合わせをし、確認する作業が欠かせないと実感しています。 キャンプ当日の移動 ―移動時にはリフト付きの福祉バスを利用されたそうですね。 はい。新幹線や飛行機など一般の交通機関では、どうしても周囲に気を遣いますし、時間の遅れが大きなトラブルにつながることもあります。 リフト付きの貸切バスなら、私たち看護師が車内で医療的ケアを行えるので、その間にご家族も少し肩の力を抜けます。みんなが同じ車内にいることで自然と一体感も生まれ、とても良い選択だったと感じています。 看護師側は吸引やしゃっくりへの対応など、慌ただしい場面もありましたが、途中から運転手さんもお子さんの様子を見て声をかけてくださるなど、とても協力的でした。温かいガイドさんと運転手さんに恵まれたことも、今回の旅を支える大きな力になりました。 ―皆さんで移動する際の工夫や大切にされた点を教えてください。 移動時間そのものが、医療的ケアを含めた大切な「ケアの場」になるため、事前にしっかりスケジュールを組んで臨みました。特に休憩の取り方には気を配りました。サービスエリア等でのトイレの個数、どのお子さんがトイレに行く必要があるか、オムツ交換のスペースが不足した場合どう動くかなど、事前に休憩場所の確認をした上で臨んでいます。 ただの移動で終わらないよう、行き帰りの道中にもお猿さんの観劇や眺望が素敵な大石公園へのお出かけ、車内での映画鑑賞など、楽しめるプログラムを組み込むような工夫もしています。 なお、車で別ルートから来られた方は遊覧船にも乗ったそうです。バギーのまま乗船できるのはいいですよね。貴重な体験になると思います。そうした選択肢の広がりもまた、この旅の魅力のひとつです。 ワクワクがぎゅっと詰まった旅のしおり。移動中にも小さな冒険が散りばめられていました。 ―移動時の下見も入念にされているのですね。 はい。ただ、公共トイレはどうしても混雑があり、予測どおりにいかない場面はあります。また、トイレに行けば水分補給も必要です。バス走行中の経管投与は難しいため、一度停車してもらう必要があります。こうした時間の積み重ねや高速道路の渋滞も重なって、進行は想定より少しゆっくりとしたものになりました。 次のキャンプに向けては休憩時間を少し長めに取ることも検討していますが、今度はごきょうだいが暇を持て余してしまいますよね。休憩中のちょっとした遊びも用意するなど、時間の過ごし方を工夫したいと思います。 * * * 次回は、医療的ケア児とご家族が一歩を踏み出すためにどのように支え、チームとしてどのように連携を整えてきたのか。そして今回のキャンプから見えた子どもたちの成長や、医療連携の課題と可能性について、引き続き木戸さんに伺います。 >>後編はこちら寄り添うケアが旅を可能にする~医療的ケア児のキャンプを支える在宅医療チームの実践~ 取材・編集:NsPace編集部執筆:小松原 菜々

【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで
【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで
特集
2026年1月20日
2026年1月20日

【SCD難病看護事例】難病だけではない 介護職との連携、別疾患発症から看取りまで

今回は、脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)を患い、侵襲的人工呼吸器を装着している療養者と、介護を担う高齢家族および介護職員へのアプローチを紹介します。介護職員による医療的ケアに伴う課題の解決や、別の疾患を発症したことで療養生活に生じた変化にどのように対応したかに焦点を当て、行政を含む多面的な連携の実践例をお伝えします。 脊髄小脳変性症(SCD)とは SCDは、主に小脳の神経細胞が変性して現れる症状を中心とした神経変性疾患の総称です。「歩行時にふらつく」「呂律が回らない」「不規則に手が震える」などの症状が出現し、進行していきます。また、SCDは孤発性(非遺伝性)と遺伝性の2つに大きく分けられ、孤発性は全体の約7割で、残り3割が遺伝性です。 事例紹介:Aさん(70代、女性) Aさんは、SCDと診断されてから7年後に気管切開を行い、侵襲的人工呼吸器を導入しました。現在は70代の夫と2人暮らしをしています。別居の長男、長女がいますが、それぞれ仕事の都合や遠方に住んでいるため、介護の協力は得られません。主介護者は夫です。夫は、高血圧や尿管結石といった持病を抱えています。定期的に外来通院をしていますが、病状の悪化により、入院治療を受けた既往もあります。 Aさんは医療保険を利用し、以下のサービスを受けています。訪問看護:週2回訪問リハビリテーション(以下、リハビリ):週1回訪問診療:3週に1回訪問入浴:週1回訪問介護:日中毎日、夜間週3回 在宅難病療養者への支援体制 在宅難病療養者のAさんが住み慣れた地域で自分らしく生活できるよう、各分野の専門職だけでなく、行政や地域を含めたチームが一丸となって支援を行っています。 Aさんと夫(介護者)の思いを尊重し、介護負担の軽減を図りながら、Aさんが安心・安全かつ快適に過ごせるよう、社会資源を活用することが大切です。具体的には、さまざまな訪問系サービス事業所の介入や在宅難病患者一時入院事業によるレスパイトケア入院の利用などがあります。 長期療養による課題と現状 しかしながら、長期にわたる療養や病状の進行、併発する(併存)疾患、新たな疾患の罹患などにより、医療処置が必要となる場面も増えていきます。夫はいつまで続くのか先の見えない、24時間絶え間なく続く介護に対し、精神的にも肉体的にも疲弊してしまうこともあり、夫自身の健康管理もままならず、十分な介護負担の軽減が実現できない現状もありました。 本事例で取り上げる2つのアプローチ 今回は、侵襲的人工呼吸器を装着するSCD療養者のAさんに対して、以下の2つのアプローチを行いました。 ●介護職員による医療的ケアの支援医療的ケアを他者に委ねたいというAさんと家族の思いを尊重し、行政をはじめとした関係機関の介入も含め、介護職員による支援体制を整備しました。 ●別疾患に罹患し、診断を受けてから看取りに至るまでの支援予期せぬ別疾患の発症が療養生活に大きな影響を与えました。これまで穏やかだった日々が、突然目まぐるしい日々へと変化したのです。この突然の変化に対応するため、Aさん、夫、サービス事業所のスタッフに対する支援を行いました。 介護職員による医療的ケアの実施と体制整備 喀痰吸引や胃瘻からの栄養剤注入は研修を受けた介護職員が行っていました*。しかし、その他の医療的ケア(例えば、気管切開部や胃瘻部の処置など)はAさんの夫や訪問看護師が行っていたため、大幅な負担の軽減には至らず、介護職員からも「自分たちが行えるケアについて知りたい」との意見がありました。 *喀痰吸引および経管栄養は研修を修了し、認定証の交付を受け、登録事業者として登録済みの施設で勤務していることを要件に実施可能 県庁や市役所への確認と対応 そこで、県庁の担当者に以下の2点を確認しました。  医療的ケアに該当する業務の再確認 特例として介護職員が医療的ケアを行うことの可否 担当者からは「特例はない」との回答があり、加えて「関係職種の業務内容を整理し確認してみてはどうか」と助言されました。その後、関係各所とカンファレンスを行うなかで、夫から「胃瘻からの内服薬の注入(内服注入)を介護職員にお願いしたい」という意向が示されました。この要望を受け、Aさんが居住する市役所の担当者に「介護職員が胃瘻からの内服注入を行えるか」と確認したところ、以下の条件を満たす場合に認められるとの回答を得ました。  主治医の許可があること 内服薬は分かりやすく一包化され、簡単な手技で注入できること 本人または家族の同意があること これらの条件をふまえ、訪問看護スタッフでカンファレンスを行い、訪問看護師の役割を整理していきました。 手順書作成と介護職員への指導・緊急時対応の整備 主治医に介護職員による内服注入の承諾を得た後、訪問看護師は、実際にAさんに行っている胃瘻からの内服注入の手技を確認しました。そして、写真や注意点を盛り込んだ手順書を作成し、それをもとにチェックリスト(図1)も作成しました。 訪問看護師が介護職員とともに手順書を確認しながら、内服注入の指導を行いました。そして、指導看護師(介護職員等たん吸引等実施研修会に係る指導者講習会を修了した看護師)がチェックリストに沿って介護職員の手技を確認・評価します。さらに、1ヵ月ごとに手技の確認を行い、緊急時に介護職員が対応できるよう、緊急時フローシートの作成も進めていきました。 図1 内服注入のチェックリスト 別の疾患に罹患。診断から看取りまでの支援 侵襲的人工呼吸器の導入から6年後の3月下旬に、Aさんにビリルビン尿、皮膚黄染が出現しました。採血した結果、肝胆道系酵素の値が上昇しており、明らかな異常値を示したため、入院精査をすすめられました。しかし、夫はAさんの身体に負担のかからない、在宅でできる治療を希望されたため、外来でCT検査を実施しました。その結果、黄疸の原因は腫瘍である可能性が高いことが示唆され、主治医から「黄疸の進行が速いと、予後は月単位以下の可能性がある」と説明されました。 訪問看護の回数を増やして対応 夫からは「どのくらいの期間で黄疸が進んでいくのか」「どのようなことに気を付けて過ごせばよいのか」という質問がありました。また、介護職員からは「夫が眠れていない、食欲がない」などの情報提供があり、夫だけでなく、介護職員自身も不安を感じているようでした。 これを受けて、訪問看護スタッフ間でカンファレンスを行い、情報を共有するとともに、訪問看護の回数を増やすことにしました。夫の同意を得た上で、以下のように訪問回数を変更しました。  4月初旬:週2回から週3回に変更 4月中旬:週3回から週5回に変更 図2 Aさんの経過 家族支援への取り組み 訪問看護を増やすことで、別の疾患に罹患したことによる病状変化への対応や、日々変化する病状についての説明、不安の軽減など、家族支援に努めました。具体的には、発熱、下血、尿量減少といった病状変化への対応や病状の経過、今後起こり得る変化について説明し、家族の不安を受け止め、寄り添いながら支援しました。 終末期に関する介護職員への教育 また、終末期についての知識が不足している介護職員に対しては、終末期にたどる経過や症状について説明を行い、症状出現時の対処方法を指導しました。その際に、「些細なことでも気になることがあれば訪問看護師に報告すること」「常時対応できる体制を整えているので、いつでも連絡できること(24時間緊急時対応)」を繰り返し伝えていきました。 緊急時対応と家族への説明 別の疾患に罹患してから看取りまでの1ヵ月間で、症状の出現や状態報告に関する緊急連絡は9回、病状変化や医療機器のトラブルに関する緊急訪問は3回ありました。看取りの3日前には、現状を家族に説明し、症状の変化以外にも不安なことや心配なことがあった場合には直ちに訪問看護師に連絡するよう伝えました。また、再度自宅での看取りの意思を確認し、エンゼルケアの内容について説明を行いました。その後、Aさんは家族に看取られ、穏やかな最期を迎えられました。 難病看護における支援のポイント 「住み慣れた自分の家で自分らしく過ごしたい」「本人の思いを尊重し、本人らしく過ごしてほしい」という、療養者本人とその家族の思いを尊重し、安心・安楽に過ごせるよう支援していくことが大切です。そのために以下の取り組みが必要でしょう。  療養者の変化に迅速に対応し、そのつど適切なケアを提供する 介護者の思いの本質を明らかにし、柔軟に療養支援体制の変更を考慮する 在宅ケアチームが一丸となり、支援する   本事例は、本人の承諾を得た上で掲載しています。個人が特定されないよう、必要な情報を匿名化し、適切に調整を行っています。本内容は教育・研究を目的としており、特定の診療や治療を推奨するものではありません。   執筆:片桐 恵社会医療法人若竹会 ゆうあい訪問看護ステーション日本難病看護学会認定・難病看護師大学病院など病院勤務を経て2007年より現職。3学会合同呼吸療法認定士、在宅褥瘡予防・管理師。編集:株式会社照林社 【参考文献】○王麗華,木内妙子,小林亜由美,他:在宅看護現場において求められる訪問看護師の能力.群馬パース大紀 2008;6:91-99.○阿部まゆみ:神経難病の緩和医療とホスピス.医療2005;59(7):364-369.

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