特集

CASE2利用者からのハラスメントへの対応_その1:何を考える必要があるか

ケースメソッドで考える悩ましい管理者業務への処方箋

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第4回は、カスタマーハラスメントへの対応時にどんな検討が必要かを考えていきます。

はじめに

今回から3回にわたり、利用者からのハラスメントの事例をテーマに考えます。

みなさんのなかにも、ハラスメントへの対応に悩まれたり、苦い経験をしたりしている人が少なからずいると思います。また痛ましい事件のことを思い浮かべた人もいらっしゃるでしょう。そのことを思い出して、苦しくなったり、嫌な気持ちになったりするかもしれません。

しかし、今後そのようなカスタマーハラスメントの場面に遭遇したとき、管理者としてよりよいアクションをとれるように、学ぶことに価値があると考えています。みなさんも、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。

ケースと設問

CASE2 スタッフから、利用者によるハラスメントの相談を受けたとき
 
スタッフナース田中さんから「利用者Hさんの訪問を外してほしい」と相談を受けた。利用者Hさんには脳梗塞後麻痺と心不全があり、入浴介助を行なっていた。Hさんはニコニコと穏やかな性格だったが、介助時に「裸になって一緒に入ろう」などとセクハラ発言をされるのが不快という理由だった。
Hさんは一人暮らしで、以前利用していた訪問看護ステーションでも同様の言動がみられ、さらに、キーパーソンの娘が「厳格で真面目な父がそんなことをするはずがない」と主張し、その訪問看護ステーションでトラブルになっていた。そんな経緯での当ステーションへの依頼だったため、依頼を受けることにはスタッフナースたちから反対の声が大きかった。よく依頼をくれるケアマネジャーからの依頼で、しかも直近は当ステーションの売上が低迷しているために、依頼を受けることにしたのだ。
管理者としてどう対応したらよいだろうか?
 
設問
もしあなたがこの管理者であれば、Hさんのような利用者への対応はどのようにすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。


田中さんからの相談を受けたとき、配慮すべきことは何か

講師
今回は、ハラスメントの言動がある利用者のケースです。みなさんがこの管理者であれば、どのような対応をしていきますか?

Aさん注2
田中さんから「Hさんの訪問は外してほしい」と言われているので、田中さんの心理的なケアがいちばんに必要だと思います。そしてその後の対応策となると難しいですね。田中さん以外のスタッフに訪問に行ってもらっても、同じことが起こると予想されます。

Bさん
田中さんに「我慢してHさんに訪問してよ」と言ったら、それこそ管理者のパワハラです。Hさんには脳梗塞の既往歴があり、セクハラ発言は高次脳機能障害によるものかもしれません。主治医にも相談が必要です。

Cさん
主治医に相談もですけど、まずはHさんにセクハラ発言についての事実を確認します。そして、ケアマネや主治医らとHさんへのケアの方針を相談します。

Dさん
今までの発言にまだ出てきていませんが、娘さんとコンタクトをとる必要があります。あとはステーション内でHさんについての情報共有をするミーティングが必要だと思います。

「田中さんからの相談を受けたとき、配慮すべきことは何か」の小括

利用者によるハラスメントの相談を受けたケースを題材に、まず、管理者として何を考えなければならないかを話しあいました。

●田中さんへの心理的なケアがいちばんに必要。訪問に行くスタッフを替えるだけじゃダメ。
●既往歴を考えると、Hさんの言動に影響している可能性があるので、主治医に相談する。
●事実確認の上で、主治医だけではなくケアマネも含めて、今後のケア方針を相談する。
●キーパーソンとコンタクトをとる必要がある。
●ステーション内でミーティングし、情報共有する。

田中さんへのケアと、事実確認、そして問題解決に向けて多くの人たちと協力して事を進めていかなくてはならないことが見えてきました。

次回は、「問題の解決に向けて管理者としてどのような行動をすべきなのか」を考えていきます。

第5回に続く

注1
ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。
ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。
ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。参加者の発言が何よりも学びを豊かにする鍵となります。

注2
発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。

執筆
鶴ケ谷理子
合同会社manabico代表
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。
【合同会社manabico HP】https://manabico.com
 
記事編集:株式会社メディカ出版

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