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[6]リソースリスクの想定とリスクへの対策・対応を考えてみよう

[6]リソースリスクの想定とリスクへの対策・対応を考えてみよう

この連載では「訪問看護BCP研究会」の発起人のお一人、日本赤十字看護大学の石田千絵先生に訪問看護事業所ならではのBCPについて解説していただきます。今回は、優先業務・重要業務の継続に必要なリソース(資源)に対する被災時のリスクを検討し、さらにリスクへの対策・対応を考えていきます。

【ここがポイント】
・優先業務・重要業務に必要なリソースごとにリソースリスクを想定します。
・リソースリスクへの対策・対応では、
 ①減らさない対応・対策(「防護」「備蓄・予備」)
 ②活用する対策・対応(「代替・節約」「業務トリアージ」)
 ③増やす対策・対応(「調達」「修理・回復」)
 を考えます。
・事業継続計画サマリを作成し、重要な情報を一覧で見えるようにします。


訪問看護事業所のリソースリスクの想定

この連載の第5回で抽出した「優先業務・重要業務に必要なリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)」(図1A)に対するリスク(以下、リソースリスクとします)を想定します。リソースリスクとは、被災時に損失や不足するリソースのことです。大震災や台風被害などを想定した時に、リソースにどのような損失や不足が生じる可能性があるのか、原因や状況を想像して、書き出してみましょう。

リソースのヒトとモノについて、引き続き訪問看護BCP研究会メンバーのケアプロ株式会社の例で見ていきましょう1)。ケアプロ株式会社では次のようにリソースリスクを想定しています。

【リソース:ヒト】
●公共交通機関を利用しているスタッフが出勤できない
●要配慮者(乳幼児、介護が必要な高齢者など)を持つスタッフが出勤できない
●スタッフの死亡や障害により出勤ができない
●専門的なスキルを持つスタッフが出勤できない など

【リソース:モノ】
●自転車や自動車の損失、代替移動手段が確保できない
●医療資器材の破損や汚染
●医療資器材の入手困難(需要過多、確保ルートの途絶)
●請求方法(ICT/記録用紙など)が確保できない
●労務関連の管理シートが確保できない など

みなさんも、このようなリスクを図1のBの部分にリソースごとに記していきます。

図1 優先業務・重要業務に必要なリソースを考えるワークシート

優先業務・重要業務に必要なリソースを考えるワークシート

ワークシートの記載例はこちら

ところで、みなさんの中には、優先業務・重要業務に必要なリソースは十分に抽出できなかったものの、「被災時を想定したとたんに、いろいろなリスクをたくさん挙げることができた」という人が意外といらっしゃるのではないでしょうか。その場合は、順番は逆になりますが、先にリスクをすべて書きだしてください。その後、リスクに関連するリソースを書き出すとよいです。そうすることで、より具体的なBCPの策定につながります。

利用者のリソースリスクの想定

リソースリスクを検討するタイミングで、利用者における被災時のリソースリスクも想定しておきましょう。なお、「リソース:ヒト」と利用者・家族の関係については、前回第5回で説明しましたので、そちらも参照してください。 

「訪問看護サービス(医療処置関連など)」の利用者には、生命の維持に関わる重大なリスクが想定されます。例えば、次のようなリスクです。
●電力などの停止で医療機器が使用できなくなる
●痰の吸引などで使用する衛生資材がなくなる など

それだけでなく、生活に関わる重要なリスクも考えられます。
●スタッフ不足で訪問介護サービスを受けられなくなる
●適切な形態の食事が不足し、飢餓状態になる など

これらのリスクはすべて、リソース(モノ、ヒト)が不足するリスクであると言い変えられます。

また、特定地域のハザード状況を確認したり、自宅の倒壊・半倒壊リスク、道路の寸断や高層マンションのエレベーターが止まることで陸の孤島のような状態になるリスクを想定したりと、利用者ごとに被災時の状況をイメージしておくとよいでしょう。そして、それぞれのリソースリスクへの対策・対応を検討します。

リソースリスクへの対策・対応の考え方

リソースリスクへの対策・対応には3つの考え方があります。それは、①減らさない対応・対策(「防護」「備蓄・予備」)、②活用する対策・対応(「代替・節約」「業務トリアージ」)、③増やす対策・対応(「調達」「修理・回復」)です(図2)。

図2 リソースリスクへの対策・対応の考え方

リソースリスクへの対策・対応の考え方

先ほどケアプロ株式会社が想定するリソースのモノのリスクとして挙げた「自転車や自動車の損失、代替移動手段が確保できない」に対しては、ケアプロ株式会社では災害直後に①減らさない対応・対策として「予備バッテリーの確保・使用」をとり、②活用する対策・対応として「他の自転車、車やバイク、徒歩などの代替」を挙げています。東日本大震災で、通常自動車で訪問業務をしていた事業所が、急いで自転車を購入した事例もありますが、これは③増やす対策・対応といえます。

リソースリスク×時間軸×対応

では、ここからリソースリスクへの対策・対応を具体的に検討していきます。ここでもワークシートを使って進めていきます(図3)。

まず、図1のBに集約したリソースリスクを、図3のAの部分に時系列ごとに振り分けながら転記してください。

図3 リソースリスクへの対策・対応のワークシート

リソースリスクへの対策・対応のワークシート

ワークシートの記載例はこちら

次に、リソースリスク×時系列ごとに、①減らさない対応・対策、②活用する対策・対応、③増やす対策・対応でどのような対策・対応が可能か検討し、図3のBの部分に具体策を記載します。

具体策を記載するとき、無理に空白を埋める必要はありませんが、1つ以上の対策を検討しておくとよいでしょう。

事業継続計画サマリの作成

図3の時間軸を横に書き換えたものが図4の事業継続計画サマリです。「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」でいうと「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」の「2.平常時の対応」と「3.緊急時(~復旧における事業継続にむけた対応)」の内容を見える化したものになります。

ここまで優先業務・重要業務を選定し、必要なリソースを想定し、リソースリスクとそれに対する対策・対応を検討してきました。それらをこの1つのサマリにまとめることができます。

BCPのひな形をもとに具体的に対策を検討したとしても、従来の災害対策マニュアルと同様、被災時に見直すことは難しいものです。この事業継続計画サマリを、BCPひな形の表紙においておくだけで、全体の対策・対応を把握できますし、管理者やスタッフが持ち歩くことで、どのような場所で被災しても、実際に役立てることができるようになります。ぜひ、事業継続計画サマリまで落とし込むようにしておきましょう。

図4 事業継続計画サマリ

事業継続計画サマリ

ワークシートの記載例はこちら

お疲れさまでした。リソースリスクへの対策・対応および平常時の対策をまとめることができれば、事業所内でのBCPについては、これでいったん作成終了となります。
見やすい形に整え全体を見直して、BCPサマリとして転記しておきましょう。BCPサマリにしておくことで、もしもの際には、活動の流れを一目で確認することができるので、実践に役立ちます。次回の第7回では、事業所のリソースで対応しきれない場合や地域医療を守る視点で多職種・多機関連携や地域との連携を考えていきます。「自然災害発生時における業務継続計画(BCP)-訪問看護ステーション向け-」でいうと、「Ⅱ 訪問看護ステーションの事業継続計画(BCP) 考え方と記載例」の「4.地域・他組織との連携」の内容にあたります。ぜひご覧ください。

執筆 石田 千絵
日本赤十字看護大学看護学部地域看護学 教授

●プロフィール
1989年聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒業後、聖路加国際病院他で勤務。1995年阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件を契機に、地域×災害に関わる教育や研究を始めた。災害の備えは「平時に自分らしく生き、かつ、社会的によい関係性を保つこと」がモットー。看護学博士。
 
「訪問看護BCP研究会」とは、2016年にケアプロ株式会社、日本赤十字看護大学、東京大学他の仲間による訪問看護×BCPに特化した研究会。毎月1~2回程度で研究や研修などを行っている。

▼訪問看護BCP研究会のホームページはこちら
 ※記録様式のダウンロードも可能です。
 
記事編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)金坂宇将・岡田理沙著.「都市型大規模ステーションにおけるリソース中心の作成手順に沿ったBCP-ケアプロ訪問看護ステーション東京-」,BCP研究会編著.『訪問看護事業所のBCP』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.66-81.

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