インタビュー

もしもに対応できる!災害時個別支援計画

テンハート訪問看護ステーションでは、愛知医科大学の下園先生と共同で、利用者さんごとに個別で災害時個別支援計画を作成し、「もしも」に備えています。具体的な支援計画の作成方法と共同開発することになった経緯を伺いました。

「ぱっと見て、さっと動ける」がコンセプト


どのような経緯で、訪問看護ステーションと大学が共同で災害時個別支援計画を作ることになったのでしょうか?
佐渡本:
経緯としては、まず自分たちで一般的な訪問看護ステーションの災害対策マニュアルを作って、模擬訓練をやっていたんです。でも実際訓練をしてみると、利用者さんそれぞれの状況や環境がかなり異なっていて、制作したマニュアルが現実的ではないと気づきました。
現実的でないというのは?
佐渡本:
実際震災が起きたときに自分たちがどう動くかが見えない、概念的なマニュアルになっていたんです。
災害が起きた時に誰がどう動くか、何をするかが具体的に書いてあるマニュアルを作りたいと思いました。下園先生とは元々懇意にしていて、たまたまこの話をしたところ、興味を持っていただきました。
下園:
実は私の研究室の学生が、難病で在宅療養している方の災害対策に強い問題意識を持っていて、災害時個別支援計画の研究をしていたんですね。佐渡本さんと話した時に「実はこんなことを学生がやってて」と言ったら「うちもこんなことに困ってて」というお話があったので、そこでマッチしたのがきっかけです。
ー偶然にもお互いの課題が一致したんですね。
佐渡本:
この偶然をきっかけに、下園先生に災害対策マニュアルの作成に協力していただくことになりました。
災害時の動き方を全部網羅できるわけではないけれど、1つのツールとして災害時個別支援計画を作成してはどうかという話になったんです。
ー具体的にどのようなことが記載されているのでしょうか?
佐渡本:
災害が起きた際に利用者さんご自身が「ぱっと見て、さっと動ける」ために必要なことを書いています。訪問看護師や行政が動くことが難しい中でも、ご利用者さんが1人でも生き延びるためのものです。避難所に避難される方であれば避難所に行くまでの動き方、自宅避難の方であれば自宅で生活できる環境の整え方を記載しています。
下園:
個別支援計画を作成することはステーションにとってもメリットがあります。1つは、災害が起きてもやることが決まっているため焦らず対処できること、もう1つは責任の範囲が明確化されることです。
ー責任の範囲の意味を教えて下さい。
下園:
例えば、訪問看護に向かう道中に震災が起きたとします。災害時の行動を決めておかないと、「待っていたのに看護師さんが来なかった」ということになるリスクがあります。
ーリスク回避のためにはどうしたらよいでしょうか?
下園:
個別支援計画で、災害時に利用者さんは何ができるか、何をする予定かが決まっていれば、あらかじめ利用者さんやご家族に説明しておけます。災害が起きた際は「看護師は自分の身の安全確保を最優先し、訪問へは行きません。訪問が終わって帰る道中でも同様です」ということも事前に説明しておけば トラブルを未然に防ぐことができます。

被害の想定まで行うことで具体的な行動レベルに

ー実際の災害時個別支援計画を見せていただけますか?
佐渡本:
はい、改良を続けているので今は少し違うものになっていますが、こちらが2019年に学会で発表したときのものになります。
下園:
各項目について簡単に説明しますね。
「調整担当者」は利用者さんの全体状況を見通してマネジメントできる方、「家族状況」は実際に連絡がつき動けるご家族を明記します。
この2つの項目は、被災時に訪問看護ステーションが動けなかったとしても、自分自身で行動するのに必要な情報です。「想定被害」は、利用者さんの家の場所と想定震度から被害を想定したものです。
この被害の想定には、名古屋市が出している液状化危険度マップや津波到達時間想定マップを利用していますが、この作業がとても大変なのが今の課題です。
ー想定は、大変でも必要不可欠な要素なんですね。
下園:
きちんと想定ができていないと、どこに避難すべきか、何をすべきかを決めることができません。そのほか、裏にはかなり細かく具体的な行動を書けるようになっており、悩まず行動ができるように工夫しています。「想定被害」の記載があることが、私たちの災害時個別支援計画の大きな特徴だと思います。

合同会社Beplace代表 / テンハート訪問看護ステーション管理者 / 感染管理認定看護師・臨床検査技師
佐渡本琢也
臨床検査技師として勤務する中で、患者と接する仕事に魅力を感じ、看護師の道へ。病院では脳神経外科、消化器外科を経験し、感染管理認定看護師の資格を取得。母を癌でなくした経験から「在宅で看護師ができることが、まだあるのではないか」という思いを持ち、同僚からの誘いをきっかけに愛知県名古屋市にテンハート訪問看護ステーションを立ち上げた。

愛知医科大学 医学部衛生学講座 客員研究員
下園美保子
阪神淡路大震災、東日本大震災を経験。東日本大震災では保健師として岩手県山田町の災害救護班の一員として、各家の訪問や避難所運営の管理に従事。その後、学生に対する災害対策マニュアル作成、大学のBCP作成など、災害に関わるプロジェクトや研究にも携わる。

災害対応についてもっと知りたい方は、
こちらの特集記事をご覧ください。

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