第4回 残業・休憩・休日編/[その3]知らぬ間に発生しているかも!? 注意したい、休日労働の割増賃金
休日には、「所定休日」と「法定休日」があることをご存知ですか? この違いは、休日労働の割増賃金にも関わりますので、正しく理解しておくことが必要です。ほかにも、休日を別の日に代える「振替休日」と「代休」にも違いがあります。管理者にとって必須の知識である「休日」の違いについて、今回は詳しく説明していきます。
私の事業所では、就業規則で週休2日制を採用しています。ある週の業務が忙しく、スタッフに2日ある休日のうち1日だけ、働いてもらいました。この場合、働いてもらった1日について、休日労働の割増賃金を支払わなければなりませんか? 法律では、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいとされているので、就業規則で法定休日を特定していないならば、休日労働の割増賃金を支払う必要はありません。 |
目次
休日にも「所定」と「法定」がある
休日には、「所定休日」と「法定休日」があります。
所定休日とは、労働契約上で付与されている休日のことです。質問のケースでは、就業規則で週休2日制を採用しているわけですから、「所定休日」は2日間ということになります。
対して、「法定休日」とは、労働基準法35条で定められた休日のことをいい、同条1項では、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいとされています。
昨今、週休2日制を採用する事業所も少なくありませんが、それは、労働基準法35条が求める最低基準(週休1日)よりも、多くの休日を事業所が自主的に与えているということになります。
このように「所定休日」と「法定休日」というのは別の概念です。そして、休日労働に対する割増賃金(35%増)を支払う必要があるのは「法定休日」です。要するに、「1週間に1日も休ませることなく働かせた場合は、その休日労働に対しては35%増で賃金を支払ってください」ということです。
法定休日を確保できていれば割増賃金は不要
質問のケースでは、就業規則で週休2日制を採用している事業所において、そのうち1日を働いてもらったということです。この点、法定休日は、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいわけですから、設例の場合では、法定休日は確保できていることになり、休日労働の割増賃金を支払う必要はないといえます。
私の事業所では、就業規則で1週間の始まりを月曜日と定めて、日曜日を休日にしています。ある週、容態が急変した利用者様に対応するため、急遽、スタッフに日曜日に出勤してもらいました。ただし、そのスタッフには、代わりに、次の週に1日追加で休日をとってもらっています。この場合、全体でみれば休日の日数は変わらないので、休日労働の割増賃金は不要ですよね? これは「休日の振替」ではなく、「代休」にあたります。その週に1日も休日を与えることができていない場合は、休日労働の割増賃金の支払いが必要です。 |
「休日の振替」と「代休」は意味が異なる
業務の都合などで、休日とされている日を事前に労働日に変更し、その代わりに、もともとは労働日とされていた別の日を休日にすることがあります。これを「休日の振替」といいます。ポイントは『事前に』という点です。
対して、質問のケースのように、急ぎの対応が必要なため、急遽、もともとは休日であった日に出勤してもらい、事後的に代わりとして、別の日に1日追加で休日をとってもらうということもあります。これを「代休」といいます。ポイントは『事後的に』という点です。
代休では法定休日を確保できないことも
休日の振替は、事前に休日を入れ替えているため、労働基準法35条1項が定める「毎週少くとも1回」の休日を結果として与えることができていることが多くあります。その場合、法律で定められた35%の休日労働割増賃金を支払う必要はありません。
対して、代休は、あくまで事後的な対応であるため、例えば質問のケースのように、休日と定めていた日曜日に急遽出勤すれば、その週だけを見ると月曜日から日曜日まで1日も休まずに勤務したことになります。よって、法定休日である日曜日の労働に対して、35%の休日労働割増賃金を支払わなければなりません。
「休日の振替」には正しい運用が必要
休日の振替と代休は、いずれも休日を別の日に代えるという点では共通していますが、休日の振替はそれを「事前」に行うのに対し、代休ではそれを「事後」に行うという点に違いがあります。そして、法定休日を確実に確保するという観点からは、「事前」の対応である休日の振替が適しているといえます。
前回の記事のとおり、休日労働にあたる場合は35%の割増賃金を上乗せして支払う必要がありますので、スタッフの勤怠管理を適切に行えていないと、気づかないうちに割増賃金の未払いといった法律違反につながるおそれがあります。事前にスタッフの労働状況を把握して休日の振替を正しく運用し、それと同時に日頃から無理のない人員配置を心がけましょう。
○ひとくちメモ○1週間の始まりは何曜日?
質問のケースでは、就業規則で1週間の始まりを月曜日と定めていました。では、そのような規定がない場合、1週間は何曜日から始まって、何曜日で終わるのでしょうか?
多くの人が、「月曜日から始まって、日曜日に終わるんでしょ?」と思うかもしれません。
しかし、実は行政解釈では、1週間の始まりは日曜日とされています(昭和63年1月1日基発第1号)
よって、質問のケースで、仮に就業規則に週の始まりを規定していなければ、急遽働いてもらった日曜日は1週間の始まりの日とされます。そのため、翌日からの月曜日〜土曜日のうちのどこかで1回休日を与えれば、「毎週少くとも1回」という法定休日は確保できていることになります。
就業規則に何も規定がなければ、この行政解釈が適用されますが、逆に言えば、週の始まりを何曜日にするかは、就業規則で自由に決めることができます。
「週の始まりは何曜日か?」という視点は、実務上は意外に重要です。ぜひ一度、就業規則の規定を確認してみてください。
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前田 哲兵
弁護士(前田・鵜之沢法律事務所)
●プロフィール
医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。
記事編集:株式会社照林社