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【管理栄養士のアドバイスvol.6】便秘を予防する食事

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第6回は、便秘を改善したいときの食事の工夫を紹介します。

はじめに

高齢者は、日々の運動量の低下や、食事の変化による食物繊維摂取量の減少、また腸内環境の変化により便秘を引き起こしやすいといわれています。今回は、便秘を改善する食品をいくつかご紹介いたします。

腸を元気にしよう

腸内フローラ

私たちの腸の中には、たくさんの細菌が生息しています。その数は約1,000種類ともいわれています。顕微鏡で腸を覗いたときに、まさにお花畑のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。

この腸内フローラは、▷善玉菌 ▷悪玉菌 ▷日和見菌 ── の三種類に大きく分けられます。

健康な腸内では、体に良い働きをするビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が多いのですが、悪玉菌が優勢になると、悪玉菌が作り出す有害物質の影響により、便秘や下痢などお腹の不調を引き起こします。

日和見菌は、善玉菌と悪玉菌のうち、優勢な菌と同じ働きをします。すなわち、悪玉菌が優勢の環境下では、日和見菌が悪玉菌と同様の働きをし、さらに腸内環境が悪化してしまうのです。

さて、善玉菌の代表格であるビフィズス菌は、加齢変化とともに菌数が減少することがわかっています1)。高齢期に腸内環境が悪化しやすいのは、このような要因もあるといわれています。

プロバイオティクス

加齢により減ってしまう腸内の善玉菌を経口摂取することで、善玉菌の数自体を増やそう!

このプロバイオティクスの代表的なものは、乳酸菌やビフィズス菌です。なんと、これらの細菌は、消化酵素によって死んでしまうことがなく、生きたまま腸に到達し、腸管内で増殖が可能なのです。

プロバイオティクスは、「腸内フローラのバランスを改善することによって、宿主の健康に好影響を与える生きた微生物」2)と定義されています。

プレバイオティクス

善玉菌のエサとなる食品を摂取する事により、善玉菌を元気にして腸内環境を改善しよう!

プレバイオティクスの主な種類は、オリゴ糖や食物繊維などです。オリゴ糖にはビフィズス菌の増殖作用があり、食物繊維には腸内細菌の活性化作用があります。

プレバイオティクスは、「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」3)と定義されています。

シンバイオティクス

プロバイオティクスとプレバイオティクス。この二つを組み合わせることで、さらなる相乗効果を目指すものが、シンバイオティクスです。すなわち、「善玉菌を腸に届けて、さらに善玉菌を元気に育てよう」ということです。

簡単に応用できる料理例はこちらです。

シンバイオティクス     プロバイオティクス     プレバイオティクス 
バナナヨーグルトヨーグルト(ビフィズス菌)バナナ(オリゴ糖)
はちみつ(オリゴ糖)
タマネギのみそ汁味噌(乳酸菌)ワカメ(水溶性食物繊維)
タマネギ(水溶性食物繊維)
ネバネバ納豆納豆(納豆菌)オクラ(水溶性食物繊維)
メカブ(水溶性食物繊維)
野菜たっぷり豚キムチ炒めキムチ(乳酸菌)キャベツ(オリゴ糖)
シイタケ(水溶性食物繊維)

良い便をつくろう

腸が元気でも、便の原料が不足していると便秘になってしまいます。便は、水分が約70%です。残りは食べ物のカス、腸粘膜、腸内細菌の死骸によって構成されています。この食べ物のカスはすなわち、食物繊維です。食物繊維をしっかりととって、良い便をつくりましょう。

食物繊維は水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維の、ニ種類に大別されます。

水溶性食物繊維

水溶性食物繊維には、水分を保持してゲル状になり、便をやわらかくする働きがあります。

水溶性食物繊維を多く含む食べ物は、バナナなどの果物や、オクラやなめこ、山芋などのネバネバ食材、ワカメやメカブなどの海藻類です。

過剰に摂取すると、便がやわらかくなりすぎることや、下痢を引き起こすことがあります。サプリメントなどを使用する場合は、排便状況をみながら少しずつ量を増やしましょう。

不溶性食物繊維

一方で、不溶性食物繊維は、便の量を増やし、腸の蠕動運動を刺激して排便を促す働きがあります。

ゴボウやレンコンなど繊維が固い野菜や、キノコ類、黄粉や大豆などの豆類にも、不溶性食物繊維が多く含まれています。

不溶性食物繊維も、過剰に摂取すると便が固くなりすぎて、逆に便秘を引き起こすこともあります。サプリメントなどの使用は注意が必要です。

おわりに

高齢者には便秘の悩みはつきものですが、原因も体の状態にも個人差があるため、「これを食べたらみんな良くなる!」という万能食材はなかなかありません。だからこそ、ひとつずつ試してみて、変化を観察しながら気長に取り組んでいくことが重要です。

排便状態の変化に気づくためには、排便日記をつけてもらうこともよいですね。ぜひ、活用してみてください。

排便状態の把握に役立てられる「排便日誌」を【お役立ちツール】に掲載しておりますので日頃のケアにお役立てください。

第7回へ続く

執筆
稲山未来
Kery栄養パーク 代表
管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士
新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員

在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。

記事編集:株式会社メディカ出版

【引用・参考】
1)光岡知足.『腸内菌叢研究の歩み』腸内細菌学雑誌.25,2011,113-24.
2)Fuller,R.『Probiotics in man and animals』J.Appl.Bacteriol. 66(5),1989,365-78.
3)Gibson,GR.et al. 『Dietary modulation of the human colonic microbiota:introducing the concept of prebiotics』J.Nutr.125,1995,1401-12.
4)清水健太郎ほか.『プロバイオティクス・プロバイオティクス』日本静脈経腸栄養学会雑誌.31(3),2016,797-802.
5)福村智恵.『便秘と食習慣』厚生労働省e-ヘルスケアネット.
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html 
2022年4月15日閲覧

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