【管理栄養士のアドバイスvol.8】塩分制限が必要な方への食事
この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第8回は、心疾患や高血圧など、塩分制限が必要な人への食事の工夫を紹介します。
はじめに
日本人の死亡原因1)は、1位の悪性新生物(がん)に続き、2位は心疾患です。
心疾患のなかでも特に、虚血性心疾患が約4割と多くを占めています。虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化により心筋血流の減少や途絶を生じる疾患であり、基礎疾患や生活習慣の影響を受けることがわかっています。日本循環器学会「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」2)には危険因子として以下の内容が記載されています。
虚血性心疾患に関連する危険因子
(虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版))
・加齢 ・虚血性心疾患の家族歴 ・喫煙習慣 ・脂質異常症 ・高血圧 ・肥満 ・糖尿病あるいは境界型 ・メタボリックシンドローム ・慢性腎臓病 ・精神的・肉体的ストレス |
これらをみると、虚血性心疾患の予防には、栄養バランス良く健康的な食生活が重要であることがわかります。
今回はこのなかでも高血圧に注目して、予防のために必要な簡単減塩ポイントをお伝えします。
塩分はどのくらい控えればよい?
「高血圧治療ガイドライン2019」3)によると、高血圧患者における減塩目標は6g/日未満としています。
一方で、「高齢者高血圧予防診療ガイドライン2017」4)では、
「味覚の低下がある高齢者の食事の味つけが減塩により極端に変化すると、食事摂取量の低下から低栄養をきたすことがあるため、全身状態の管理に留意が必要。
6g/日未満を目標とするが、味覚や摂取量、栄養状態などを個別に判断し、過度の減塩にならないよう個別に減塩の指導をする。」
と記載されています。すなわち、高齢者においても減塩は行うべきだが、減塩により食事摂取量が低下しないように、全身的な観察が大事ということです。
簡単食生活チェック
まずは、塩分摂取量が多くなりがちな食生活をしていないか、国立循環病研究センターの「かるしおチェック」5)で簡単に確認してみましょう。
□ みそ汁やスープを1日2回は飲む。または、ごはんにみそ汁は欠かせない。 □ ちくわやかまぼこなどの練り製品、ハム、ウインナーなどの加工品が好き。 □ ごはんの友(梅干しや佃煮、つけものなど)が好きで、常備している。 □ 外食することが多い。または、外食が好き。 □ ごはんよりおかずのほうが、食べる量が多い。 □ 市販のおそうざいやインスタント食品を、よく利用する。 □ うどん、そば、ラーメンなどめん類のスープは半分以上は飲む。 □ すしやどんぶりものが大好き。 □ 魚の干物や、明太子などの塩蔵品、よく利用する。 □ おせんべいやスナック菓子をよく食べる。 |
一つでもチェックが付いたら、塩分のとりすぎにつながる食習慣があるということです。日常的に塩分摂取量が過剰であるという可能性がありますので、どんな食事を召し上がっているのか確認して、必要であれば減塩についてのアドバイスを行いましょう。
減塩の簡単ポイント
高血圧や心疾患予防のために減塩をしなくちゃ!と意気込んで塩分を控えるあまり、食事が味気なくなってしまうことがあります。いくら健康のためといっても、おいしくない料理を毎日食べることは苦痛ですし、それによって減塩対応を諦めてしまうこともあります。
無理なく毎日続けられるように、おいしく減塩するコツを覚えておきましょう。
①酸味を利用しよう
お酢やかんきつ類などの酸味を活用すると、味にメリハリがつきます。
②香辛料や香味野菜を使おう
スパイスやハーブ、またニンニクやシソなど香味野菜を使うと、塩分控えめでも味にアクセントがつき、香りによって食欲増進効果も期待できます!
③汁物はだしを利かせて具材をたっぷりに
だしの旨味で減塩効果、また具だくさんにすると相対的に汁の量が少なくなるので、おいしく減塩できます。
④献立にはメリハリを
すべての料理を薄味にすると、物足りなくて毎日続きません。どれか一品はしっかりと味つけをすることで、食事の満足感が上がります。
⑤漬物や練り物を避ける
漬物や練り物などの加工食品は食塩を多く含んでいるので、注意しましょう。
⑥減塩調味料を使用
減塩醤油や、減塩みそを使うと、手間をかけず、簡単に減塩をすることができます。
⑦食べるものの表面に味をつけよう
食べるときに舌に当たる部分に塩味がついていると、おいしさを感じます。下味は控えめにして、食材の表面に味をつけるようにしましょう。
⑧汁物の汁は残そう
特に麺類の汁は塩分が多く含まれていますので、なるべく汁は残すようにしましょう。
高齢者の減塩は要注意!
前述したように、高齢者における減塩対応は、食欲や食事摂取量を観察しながら進めることが大切です。
減塩にしたことでおいしさを感じずに食事量が激減して、低栄養につながることがありますし、一見して塩分過剰に見える食事でも、摂取できている総量が少ないために実際の摂取量は適正量である場合もあります。
また、長年の食習慣はなかなか変えることが難しいので、改善に苦慮する場合は訪問管理栄養士に介入を依頼することも、対策の一つとしてぜひ覚えておいてください。
当記事に掲載している「おいしく続ける減塩のコツ」について記載した資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。
ー第9回へ続く
執筆 稲山未来 Kery栄養パーク 代表 管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士 新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員 在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。 記事編集:株式会社メディカ出版 |
【引用・参考】
1)厚生労働省.『令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況』2021.
2)日本循環器学会ほか.『虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)』
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2012_shimamoto_h.pdf 2022/05/09閲覧
3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.『高血圧治療ガイドライン2019』2019,282p.
4)日本老年医学会.『高齢者高血圧予防診療ガイドライン2017』2017,63p.
5)国立循環病研究センター.『減塩食について』
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/low-salt/
2022/05/09閲覧