特集

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その2:管理者としてどう支援できるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第2回も前回に引き続き、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースのケースです。今回は管理者として何ができるかを考えます。

はじめに

前回は、終末期の利用者さんに過度な感情移入をしているように見える佐藤さんの状況について、A・B・C・Dさんはどう考えるか、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、「訪問看護管理者として何ができるか」をテーマに意見交換を進めます。

議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。

ケースと設問

CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき
 
スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか?
 
設問
あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。


管理者としてどのような支援ができるのか

講師
ここまでのみなさんの意見から、管理者としては佐藤さんに何かしらの働きかけが必要なのは間違いなさそうです。では、具体的に、どのように働きかけますか?

Aさん注2
難しいかもしれませんが、私はステーションのメンバー全員でこの件について話をして、佐藤さん担当の利用者のところに、ほかのスタッフでも訪問できるようにしたいと思います。

Bさん
私は、すぐに佐藤さんと話をする必要があるので、一対一の面談の時間を作ると思います。ほかのスタッフも含めてカンファレンスをできればよいですが、忙しいとなかなか集まりにくいので、現実的には一対一かなと。訪問看護師としての佐藤さんの成長を促すような支援ができればと考えます。

Cさん
私も、チームで話をするにしても、まず佐藤さんと話をしておくべきだと思います。Bさんが言われたように、管理者が支援をするなら早いほうがよいと思うので。

講師
一対一かチームか、人数の違いはありますが、佐藤さんと話す場を持つのは共通の意見ですね。その上で、できるだけ早いほうがよい、チームで対話するとしてもまずは一対一の面談からという考えも出ました。管理者として佐藤さんの異変に気がついたのであれば、すぐに行動に移すというのは自然な流れでしょう。

一対一の対話をどのように進めていくのか

講師
では、佐藤さんと一対一で対話をすることを考えてみましょう。その面談は、どのような目的で行いましょうか。

Aさん
この利用者のことを佐藤さんが背負い込みすぎないような支援が目的になります。そしてその後に、より良いケアができるようになるために成長支援もしていきたいです。

Bさん
事実確認もしたいです。制度外での訪問や、金銭授受といったことがもしあれば、そちらへの対処も検討しないといけませんから。佐藤さんやステーション全体の今後のことも考えて、この点も確認しておきたいです。

Cさん
佐藤さんの育成を主目的に面談をするのは私も賛成です。ルールからの逸脱についての確認も、佐藤さんの状況についてはほかのスタッフから聞いただけなので、事実はどうなのか、管理者として確認することが必要だと思います。ですが、「〇〇さんがこう言っていたよ」と佐藤さんに伝えることは、うまく言えませんが間違っている気がするので、避けたいです。どんな言いかたで伝えるのがいいのか……、悩みます。

「何を目的に面談をするか」の小括

みなさんの話しあいから、面談の目的が大きく二つ出てきました。
1.佐藤さんの、看護師としての成長をどうやって支援していくのか。
2.ルールからの逸脱の確認。もし逸脱があれば対応を検討することも含まれます。
これら二つの目的の背景には、管理者としてステーションをどのように運営していくべきなのかが根底にありますね。また、具体的に佐藤さんにどうやって伝えるのかの視点も登場しました。

そこで、次は「佐藤さんとの面談をどのように行うのか」を考えていきます。

第3回に続く

注1
ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。
ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。
ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学び、参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。

注2
発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。

執筆
鶴ケ谷理子
合同会社manabico代表

慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。
【合同会社manabico HP】https://manabico.com

記事編集:株式会社メディカ出版

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