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人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること【トークセッションレポート】
人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること【トークセッションレポート】
特集
2024年12月17日
2024年12月17日

人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること【トークセッションレポート】

2024年11月17日(日)の日本在宅看護学会 第14回学術集会では、NsPaceの運営元である帝人株式会社が共催し、ランチョンセミナー「人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること」を実施しました。座長に山本 則子氏、演者(ファシリテーション)に長嶺 由衣子氏をお迎えし、「第2回 みんなの訪問看護アワード」の受賞者のお二人とともにトークセッションで盛り上がりました。当日の内容をダイジェストでお届けします。 座長:山本 則子氏 東京白十字病院、虎の門病院に勤務した後、東大大学院医学系研究科修士課程修了。米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)nurse practitioner programを修了。現在、東京大学大学院医学系研究科 教授。公益社団法人 日本看護協会 副会長。   演者:長嶺 由衣子氏沖縄県 粟国島で離島医療に取り組んだ後、東京や英国で地域医療、公衆衛生、社会疫学を学ぶ。東京科学大学(旧:東京医科歯科大学) 公衆衛生学 非常勤講師。厚生労働省 老健局老人保健課 課長補佐。訪問診療医。新田 光里氏第2回 みんなの訪問看護アワード 審査員特別賞受賞。@(あっと)訪問看護ステーション 訪問看護師。幼い頃体が弱かったことをきっかけに看護師を志す。救急救命士の資格を習得して病院の救急部門で働いた後、在宅看護の重要性を感じて訪問看護の道へ。日高 志州氏第2回 みんなの訪問看護アワード 入賞。ひだかK&F訪問看護ステーション 訪問看護師。病院の救命センターで働き、救急看護認定看護師資格取得。慢性疾患の急性増悪や終末期の患者さんを看護する中で在宅看護の重要性を感じ、訪問看護師へ。 ※プロフィール情報は、2024年11月時点。※本文中敬称略。 訪問看護の魅力・やりがいとは? 山本: 今回は、「人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること」をメインテーマに、訪問看護の現場で活躍されているお二人のお話を伺います。訪問看護は、利用者さんの生活や価値観に深く触れるケアが求められる分野です。具体的なエピソードも交えながら、その魅力や課題についてざっくばらんにお話ししていきたいと思います。では、長嶺先生お願いします。 長嶺: ありがとうございます。最初のテーマはこちらです。訪問看護師の新田さん、日高さんの考える訪問看護の魅力について教えてください。 新田: はい。訪問看護は毎日新しい経験の連続で飽きることがありませんし、多様な利用者さんと深く関わることができる点が魅力だと感じています。私は元々病院の救急部門で働いていたのですが、訪問看護は「利用者さんに関わりたい」と思ったら、どこまでも深く看護ができる仕事だと思っています。 日高: 私も以前は救急の仕事をしていたのですが、訪問看護は救急の経験を活かしやすい点も魅力だと思っています。ちょっとした変化を早期に察知し、医師に繋いで状態の悪化を防ぐことができると、やりがいを感じます。 また、多様な働き方ができる点も魅力です。副業や起業をしながら訪問看護をされている方もいますよね。 長嶺: ありがとうございます。 たまたまですが、救急経験のある人が集まりましたね。実は、私が沖縄で離島医療をしていた際、日高さんと一緒に働いていたことがあるんです!日高さんがフライトナースをされていて、ドクターヘリで飛んできてくださいました。まさか訪問看護師さんとしてお会いすると思いませんでしたね(笑)。 では、座長の山本先生も、訪問看護の魅力に関するお考えをお聞かせください。 山本: そうですね。審査員として「みんなの訪問看護アワード」のエピソードを読んでいても、改めて訪問看護には「究極の個別性」があると感じます。利用者さんがどんな生き方をしてきて、残された時間をどんな風に過ごしたいと思っているのか。ご本人が必ずしも意識していないようなところまで入り込み、希望される生き方や想いを実現するところまで入っていくのが訪問看護です。「訪問看護師はここまでできるのか」と驚くことがとても多く、そこが魅力だと思います。 長嶺: ありがとうございます。私が行っている訪問診療にも通じるものがありますね。 病院では「点」でしか患者さんと関われないように感じますが、訪問診療では地域の方々やご家族との関わりもあって「面」になり、だんだんと「立体」になっていくようなイメージを持っています。訪問看護・訪問診療ともに、そういった点は魅力ですよね。 エピソード1:「100年ぶりに入浴したU子さん」 長嶺: ここからは新田さん、日高さんが「第2回 みんなの訪問看護アワード」で受賞されたエピソードをもとに、お話を伺っていきたいと思います。まず、こちらが新田さんのエピソードです。事業所の所長さんの言葉をきっかけに心持ちの変化があったと思いますが、その点はいかがでしょうか。 「100年ぶりに入浴したU子さん」(投稿者:新田 光里) ・関連記事受賞作品漫画「100年ぶりに入浴したU子さん<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 新田: はい。それまでは「入浴・内服管理の依頼を達成しなければ」という問題解決思考で考えていたのですが、所長の言葉を機に、「ケアの達成度合いは一旦置いておこう」「まずはU子さんと信頼関係を築こう」と思ったんです。 そこからは、私が訪問看護師だと理解していただくために、仏壇の横に私の写真を飾る、なんてこともしました(笑)。 久しぶりに入浴され、「う~ん、気持ちいい!100年ぶり!」とおっしゃったU子さんの笑顔は、私にとって忘れられない瞬間です。 日高: このエピソード、とても感動しました。利用者さんの心を開くまでのプロセスが本当に丁寧で、新田さんの根気と工夫が伝わってきます。 長嶺: 日高さん、涙ぐんでいますもんね…!これは、医療従事者の成長過程の「あるある」ではないかと思います。医療者自身が「主語」になるのではなく、患者さん・利用者さん等の相手を主語にしたときに、「そうか、ご本人にとっては〇〇のほうがいいんだ」といった気付きがあると思うんです。 U子さんはすでにお亡くなりになっているそうですが、今回のテーマである「人が最期まで豊かに生きるために訪問看護で出来ること」という点については、いかがでしょうか。 新田: はい。実はU子さんはその後ずっとお風呂に入れたわけではなく、私が子どもの発熱で急遽担当が変わった日を境に、また入れなくなってしまい…。認知症の利用者さんをケアする難しさを感じました。 でも、訪問看護師が中心になって、状況にあわせてケアプランの変更を相談し、寝たきりになっても、歯がなくても最期まで好きな桃のゼリーを召し上がるなど、多職種で協力しながらケアを行いました。U子さんの「家で逝きたい」という願いを支えられたのではないかと思っています。 長嶺: ありがとうございます。 利用者さんと深く関われていると、自然と願いに沿ったケアができる、そんなお話を伺えたように思います。山本先生、いかがでしょうか。 山本: はい。エピソードについては、地道に関係性を築いていき、1年経ってからおもむろに発した一言がヒットしたという部分に「技」を感じましたし、とても感動しました。 また、担当が変わって入浴できなくなったとのことでしたが、これは認知症のある利用者さんだったから、ということだけが理由ではなく、おそらくU子さんがお風呂に入るにあたって新田さんが実践した上手なアプローチ方法、ノウハウがあったんだと思うんです。今後、そういったノウハウを言語化して共有できれば、担当が変わってもうまくいくかもしれません。 新田: ありがとうございます! エピソード2:「最期の友人」 長嶺:続いては、日高さんのエピソードです。この利用者さんは最終的に施設に入ることになったそうですが、当時の心境や経緯について教えてください。 「最期の友人」(投稿者:日高 志州) 日高: この利用者さんは、ご家族とは疎遠になっている一人暮らしの方でした。退院後もお酒を飲んだり、スナックに行ったり…という生活を続けていたのですが、次第に体が動かなくなり、楽しみが減っていってしまったんです。訪問看護やヘルパーの支援があっても、一人の時間をすべて埋めることはできず、ご本人が心細く感じるようになって、施設入所を選択されたという経緯です。私は、在宅看取りのみが最善の選択とは限らないと考えているので、この利用者さんにとって一番いい選択は何か、たくさん話し合って検討しました。 長嶺: ともすると、感情移入をして「在宅でずっと看たい」という気持ちになることもあると思いますが、「ご本人にとって何が一番いいのか」を最優先にして、ディスカッションしてこられたんだなということがよくわかりました。 利用者さんが笑顔で施設に行かれた描写が印象的でしたが、「最期までこの方が豊かに生きる」ということに対してのヒントを教えてください。 日高: この利用者さんは、深刻な場面もおちゃらけた様子で切り抜けるような性格の方で、真面目に問いかけても冗談で返されることが多かったんです。なので、こちらも冗談で応じながら親しくなり、徐々に価値観や想いを引き出せるよう努めました。深刻になりすぎず、「その方の世界」に寄り添うアプローチが、結果的によかったのではないかと感じています。 山本: この方は、ご家族とも疎遠ということなので、元々は「一人でよい」と考えていたのですよね。しかし、晩年に日高さんに対して「最期の友人」とおっしゃったことから、心のどこかで友人や仲間を求めていたのではないかと感じました。その想いを最期に実現させた日高さんの存在は非常に大きく、「最期まで豊かに生きる」ことを支えたことが感動的です。 長嶺: 本当ですね。私は医師なので「先生」と付けられると距離を感じることもありますが、看護師さんも一定の距離を取られがちなところを、「友人」と表現されたところはすごいと思います。 利用者さんやご家族の意思を尊重するために大切なこと 長嶺: ここからは、利用者さんやご家族の意思を尊重するために大切なことは何か?について、ディスカッションしたいと思います。新田さんいかがですか? 新田: 難しいテーマですが、「その方がどのように生きてこられたか」「どんな最期を迎えたいのか」を理解することを大切にしています。利用者さんがお話できる場合は極力丁寧に耳を傾け、生活歴やサマリーから背景を想像する…ということを訪問のたびに行っています。 日高: 私も同じです。時間が許すなら、できるだけ「どんな最期を迎えたいですか?」などと直球で質問することはせず、雑談から自然にご本人の価値観を引き出すよう心がけています。 長嶺: 確かに、直球で聞かれて明確な答えが返ってくることは少ないですよね。 私自身が当事者だったとしても、看取るご家族をはじめ「残される人たち」のことを考えると即答できませんし、一人では決められません。 山本: そうですね。多くの人はご自身の最期について明確な希望をもっていませんし、誰しも死ぬのは初めてなので、イメージもできません。だからこそ、看護師が選択肢を伝えることで、利用者さんのやりたいこと、できることが広がりますよね。例えば、「もうお風呂には入れない」「散歩ができない」と考えている方に、「できる」とお伝えできるケースもあります。これも大切なことではないでしょうか。 また、洗髪や足浴等をする際、目線は必ずしも合っていなくても、体をタッチしていますよね。そんなときに、何気なく利用者さんから出る言葉が重要なような気がしているんです。それを聞き出すことができるのは、看護の強みだと思いますね。 長嶺: 確かに、具体的な提案を通じて意思決定を支えることは重要ですね。また、「触れ合いながら引き出す」アプローチは、なかなか医師には難しく、看護師さんならではのアプローチだと感じます。日高さん、いかがですか。 日高: はい。訪問回数が多い分、看護師は怒り、悲しみ、苦しみなどを打ち明けられることが多いと思いますし、山本先生がおっしゃるように、リラクゼーションやタッチングをしながらお話を聞くと、最初はとてもいらだっていた方の感情がスーッとおさまったり、急に昔の話をしてくださったりする経験をしたことがあります。これは本当に看護師だからこそだと思いますし、私もそういうケアを大切にしたいと思っています。 山本: そうですよね。 また、私は「尊厳を保つ」ことがとても大事だと思っており、看護だからこそできることがたくさんあると思っているんです。清潔を保つこと、症状をマネジメントすることは、ケアや医療として大事であると同時に「尊厳を守る」ことでもあるんです。 「尊厳を保てないぐらいだったら、私を生かしてくれるな」というような発言を利用者さんから聞くことがあるくらい、人の尊厳は大事だと言えますし、人生の最終段階で本当に自分でできることがなくなったり、症状が強くなったりしたときに、看護の強みが発揮されると思っています。私たちはそういった仕事ができることを誇りに思ってよいと思うんです。 長嶺: ありがとうございます。 本当に在宅医療の現場は自分が持っているものをすべて総動員しないといけない場ですし、皆さんもそこにやりがいや魅力を感じていると感じました。 さて、早いもので終わりが近づいてまいりました。皆さん、素敵なセッションをありがとうございました。 こういった学術集会では学術的な発表はもちろん大切ですが、全国から同じ現場を共有できる方々が集まる場なので、今回のように感情面を共有することも非常に大切だと感じました。訪問看護の魅力を伝えるためには、皆さんが「なぜ訪問看護をしているのか」、その根底にある想いや教育課程では教わらなかった人と関わる上での工夫を共有できる場も大切だと思います。最後に、皆さんのご感想もお聞かせください。 日高: 山本先生、長嶺先生とディスカッションさせていただける大変貴重な場でした。ありがとうございます。 全国で働く訪問看護師の皆さんは、それぞれ素敵なエピソードを持っていると思うので、ぜひ皆さんのエピソードも伺いたいと思いました。 新田: ありがとうございました。こういった学術集会の場に来ると、訪問看護業界を牽引する方々がビジョンを描き、課題解決のために動いてくださっていることを実感します。また、ディスカッションを通じて、改めて自分にできることを日々一生懸命実践していきたいと思いました。 山本: 私も、改めて訪問看護の持つ力の強さを感じました。訪問看護の魅力が、一般の方々も含めて多くの人に伝わればよいなと思います。 * * * 本ランチョンセミナーは、立ち見が出るほど盛況で、参加者の皆さまは熱心に耳を傾けていました。会場にお越しくださった方々、ありがとうございました。 受賞者の皆さまをご招待する「みんなの訪問看護アワード」の表彰式では、このように訪問看護の未来について意見交換するトークセッションや懇親会の場も提供しています。 皆さまのご応募をお待ちしております!>>みんなの訪問看護アワード特設ページはこちらみんなの訪問看護アワード2025 執筆・編集: NsPace編集部 ■「みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!(~2025/1/24)今回で3回目となるNsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」では、2025年1月24日(金)17:00まで「つたえたい訪問看護の話」を募集中です! 訪問看護にかかわる方であれば、誰もが共有したいエピソードがひとつはあると思います。皆さまのエピソードをお待ちしています!

看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】
看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】
特集 会員限定
2024年12月17日
2024年12月17日

看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】

2024年9月20日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、「看取りの作法2024 〜習得のための理論と実践〜」と題し、看取り支援に必要な基礎知識を教えていただきました。講師として登壇してくださったのは、家庭医療専門医で訪問診療専門クリニック院長の田中公孝先生です。 セミナーレポート後編では、前編に続いて看取りの対応にあたって知っておきたい理論と、実践に際して役立つ考え方をまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら看取りの作法2024 終末期・看取りの基礎知識【セミナーレポート 前編】 死前教育を実践する 死前教育(看取り直前の経過の説明)は、看護師のみなさんにもできるようになってほしい対応のひとつです。具体的には、看取りパンフレットを使いながら、死亡前の「1週間以内」「48時間以内」に現れやすい以下のような症状や体の状態を説明します。 【死亡1週間以内】 ・ADLが低下する(トイレに行けなくなる) ・水分摂取ができなくなる・発語が減少する・見た目が急激に弱ってくる・意識障害が起こる  【死亡前48時間以内】・血圧が低下する・一日中、反応が少なくなってくる・脈拍の緊張が弱くなり、確認が困難になる ・手足の末梢冷感・チアノーゼが認められる・死前喘鳴が出現する(ゼェゼェという痰が絡むような音が聞こえる)・身の置き所がない様子で、手足をバタバタさせる(「せん妄」状態に陥る) これらをご家族が前もって理解できていると、看取りのときがきても慌てにくくなります。 私の場合は基本的に週に1回往診するので、タイミングを見計らい、できれば土日に入る前に死亡前1週間以内にみられる変化についてご案内しています。また、「1週間以内に看取りになる可能性が高い」と判断したときは、併せて「もうそろそろ、葬儀業者を検討しておくことをおすすめします」とお伝えすることもあります。少し遠回しな表現ではありますが、これによりご家族は「死期が近づいていること」を感じ取り、看取りの準備をしたり、覚悟をしたり、気持ちの整理をするきっかけになることが多いと感じています。 >>関連記事看取りのパンフレットについては以下の記事をご参照ください看取りの作法 ~ 最期の1週間 グリーフケアを意識する 人は、死別をはじめ愛する人を失ったとき、大きな悲しみ(悲嘆=グリーフ)を感じます。その後、特別な精神状態の変化を経て、長い時間をかけて悲しみを乗り越えるのです。この悲嘆のプロセスを「グリーフワーク」、悲嘆をケアすることを「グリーフケア」といいます。 グリーフケアは、看取り支援の大切な最後のプロセス。看護師のみなさんにはその技術をきちんと身につけ、意識的に取り組んでいただきたいと考えています。訪問看護は病院とは違い、四十九日にお花を送る、弔問することもあるくらい利用者さんやご家族との距離が近い存在なので、死前・死後のグリーフケアをぜひ大切にしてください。具体的には、以下を実践してみましょう。 死前のグリーフケア 亡くなった後の世界を想像するよう働きかけることをはじめ、ご家族が心構えできるように促します。ご家族の中には相続に関する問題を抱えていたり、最期にしてあげたいことがあったりと、それぞれ異なる状況や想いを持っています。そのため、訪問を通してご家族に話し合いのきっかけを提供し、考える時間を設けることが重要です。また、死生観は、葬儀の参列や故人の顔を見届けるなどの経験を通じて深まるとされています。私たち専門職も多くの方のお看取りに関わる中で、こうした意識を持ち、死生観を養っていくことが求められます。 死後のグリーフケア 死後にご家族の悲嘆が長引かないよう、感情の整理や表出を促すことが大切です。葬儀や四十九日といった節目は、親族や近しい人々が集まるための協力を仰ぐ機会となり、「死に対する感情の表出」を支える場として役立っているといわれています。私たち医療職も、こうした感情表出を手助けできるよう、「がんばりましたね」と声をかけたり、エンゼルケアの場でお話しいただいたりすることで、悲しみを抱え込まずに表現してもらえるよう努めていきましょう。 なお、グリーフケアは医療・介護職の心のケアにもつながります。支援の内容を振り返りつつ、ご家族をフォローする中で「上手に支援ができた」「満足していただけた」と思えるケースを増やせるとよいと思います。 看取り支援の実践に役立つ考え方 最後に、実際に支援を行う際のポイントをご紹介します。 看取りの現場でつまずきがちなポイント 看取り支援でとくにつまずきがちなのが「初回訪問時の見立て」「ギアチェンジ(利用者さんの体調が急激に悪くなる)の見極め」「亡くなる直前の説明」です。一定の経験を積むまでは、これらのタイミングでは慣れたスタッフに伴走してもらうことをおすすめします。 ちなみに私は、急変に備えて在宅コンフォートセットを準備しています。みなさんには、麻薬やステロイド、抗不安薬の使い方など、一つひとつ経験を通じて覚えてもらえたらと思います。 カンファレンスでトラブルを防ぐ 事業所内でカンファレンスを行い、急変時の予測をしておくのもおすすめです。例えば「排泄介助の負担が増えて、訪問看護やヘルパーの介入頻度が増えそう」「急に看取りとなってご家族が慌てるのでは」といった具合ですね。現状をふまえて今やるべきこと、そして次に予測される展開を考えれば、焦りやトラブルを軽減できるはず。私の場合は、常に看取りまでの全体の流れを予測しています。丁寧に見通しを立てて準備をしておけば、時間外対応も減ってバタバタしにくくなります。 また多職種でデスカンファレンスを開催することも大切です。私はオンラインで行うことが多く、時間がない中でも実施しやすいのでおすすめです。クリニック側はどうみていたのか、医師がどう判断していたのかを知ると、今後に活かすことができます。 療養場所の変更を常に検討する 自宅で看取る方針を定めた後も、緩和ケア病棟への入院の可能性は常に意識すべきです。逐一ご家族に状況を確認し、介護力が不足している、症状コントロールが難しいなどと判断した場合は、入院の選択肢を提示できることも大切です。「在宅看取りがベスト」と決めつけるとご家族とのすれ違いを招きかねません。十人十色であることを念頭に置き、複数の関係者でディスカッションや振り返りをしながら検討してください。 * * * 看取りの支援では、医療技術だけでなく、コミュニケーションも重視されます。今日のセミナーを参考に、どういうコミュニケーションをとるのがよいか考え、明日から少しずつでも実践していただけたらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア ■「みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!(~2025/1/24)今回で3回目となるNsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」では、2025年1月24日(金)17:00まで「つたえたい訪問看護の話」を募集中です! 訪問看護にかかわる方であれば、誰もが共有したいエピソードがひとつはあると思います。皆さまのエピソードをお待ちしています!

寒冷蕁麻疹(寒暖差アレルギー)とは?症状・原因・治療法・予防法を解説
寒冷蕁麻疹(寒暖差アレルギー)とは?症状・原因・治療法・予防法を解説
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2024年12月17日
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寒冷蕁麻疹(寒暖差アレルギー)とは?症状・原因・治療法・予防法を解説

寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)は、冷たい風や空気、冷水などの寒冷刺激によって皮膚に発赤やかゆみを伴う膨疹(ぼうしん)が生じる症状です。「寒暖差アレルギー」とも呼ばれ、冬場に多いイメージがありますが、季節を問わず冷えによって発症することがあります。 本記事では、寒冷蕁麻疹の症状や原因、治療法、日常生活でできる予防法について解説します。寒冷蕁麻疹を発見した際のアセスメントにお役立てください。 寒冷蕁麻疹とは 寒冷蕁麻疹は、皮膚に冷たい刺激が加わることで発症するアレルギー反応の一種です。通常の蕁麻疹と同様に、皮膚内の肥満細胞からヒスタミンが放出されることで、かゆみや炎症、膨疹が引き起こされます。膨疹とは一過性の真皮の浮腫で、皮膚の一部が突然、境界明瞭に赤く盛り上がった状態を指します。子どもから高齢者まで年齢を問わずに発症し、好発年齢はありません。 寒冷蕁麻疹の症状 寒冷蕁麻疹の主な症状は、冷たい刺激が加わった直後から数十分以内に皮膚に現れるかゆみや発赤です。数時間で自然に軽減することが多いものの、症状の現れるタイミングや強さには個人差があります。 寒冷蕁麻疹は、次の2つに分類されます。 局所性寒冷蕁麻疹 局所性寒冷蕁麻疹は、冷たいものが触れたところに円形や地図状の膨疹が現れ、通常はかゆみと発赤を伴います。ただし、かゆみがなく発赤が目立つものや、反対に発赤がなくかゆみだけが生じるもの、痛みを伴うものもあります。 全身性寒冷蕁麻疹 全身性寒冷蕁麻疹は、全身が冷えることで小豆大ほどの発赤とかゆみを伴う膨疹が腕や脚、背中、腹部、首まわりなどを中心に全身に現れます。 膨疹の外見は、運動や入浴後に発症するコリン性蕁麻疹と似ているため、見分けがつきにくい場合もあります。 寒冷蕁麻疹の原因 局所性寒冷蕁麻疹は、冷水や冷風などが触れた部位にのみ現れます。一方、全身性寒冷蕁麻疹は、エアコンの効いた部屋に入る、冷たい外気に触れる、運動後や入浴後に体が冷えるなど、全身の急激な冷えがきっかけで発症します。暖かい場所から寒い場所へ移動するような急な温度変化によって症状が現れることがよくあります。 どちらのタイプも、寒冷刺激を受けると皮膚の肥満細胞からヒスタミンが大量に放出され、それがかゆみや膨疹を引き起こす点に違いはありません。ヒスタミンの分泌メカニズムについては未だ解明されていませんが、アレルギー反応や免疫系の異常が関与していると考えられています。なお、全身性寒冷蕁麻疹の中には、遺伝的な要因によるものも報告されています。 寒冷蕁麻疹の予防策 寒冷蕁麻疹は、次のように予防しましょう。 温める 寒冷蕁麻疹は、温めることで症状が緩和される場合が多いため、冷やさない工夫が重要です。症状が出やすい部分は重ね着をして、暖かい部屋で全身を温めましょう。冷たい空気や風に長時間さらされないよう、外出時も防寒対策を徹底することが大切です。 掻きむしりによる悪化を防ぐ 強いかゆみを感じると掻きむしってしまいがちですが、それによって症状が広がったり、蕁麻疹が悪化したりするため注意が必要です。抗ヒスタミン作用のある市販の塗り薬や内服薬を利用することで症状が和らぐことがあります。また、潤いを保つために保湿剤を使用することで肌のバリア機能が高まり、蕁麻疹が出にくくなります。そのため、皮膚を日常的にケアすることも大切です。 ただし、かゆみが強く再発を繰り返す、症状がなかなか治まらない場合は、自己判断せず早めに皮膚科を受診しましょう。 冷えを避けるための日常の工夫 寒冷蕁麻疹を予防するためには、日常生活での冷え対策が重要です。寒暖差が原因となるため、気温の低い場所に行く際はしっかりと防寒対策を行いましょう。冬場だけでなく夏場も注意が必要です。たとえば、プールや入浴のあとにエアコンが効いた部屋に行くと、体が急激に冷えて寒冷蕁麻疹の原因となることがあります。 また、冷たい飲み物や食べ物は体を冷やすため、少量ずつ摂取し、体が冷えすぎないようにしましょう。足もとの冷えも寒冷蕁麻疹を悪化させる要因です。足もとが冷えやすい方は、厚手の靴下やスリッパなどを履きましょう。 寒冷蕁麻疹の治療法 寒冷蕁麻疹の治療では、原因となる寒冷刺激を避けることが基本です。症状が軽い場合でも、再発を防ぐために冷えを避けた生活を心がけることが重要です。症状が出た場合には、抗ヒスタミン薬を内服することで、かゆみや発赤を緩和できます。 皮膚科では、発症時の状況を詳しく問診し、必要に応じて寒冷負荷試験や血液検査を行い、寒冷蕁麻疹かどうかを診断します。また、息苦しさやむくみといった重篤な症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。 抗ヒスタミン薬を継続的に内服し、症状をコントロールする場合もあります。寒冷蕁麻疹は内科的な病気が関与していることもあるため、長期化する場合や改善が見られない場合には医師に相談し、適切な診断・治療を受けることが大切です。 * * * 寒冷蕁麻疹は、訪問看護の現場でも利用者さんが症状を訴えることがあるかもしれません。家庭環境や症状が現れたタイミングなどを聞き取りして、適切な対策方法を伝えましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:吉岡 容子医療法人容紘会 高梨医院 院長東京医科大学医学部医学科を卒業後、麻酔科学講座入局。麻酔科退局後、明治通りクリニック皮膚科・美容皮膚科勤務。院長を務め、平成24年より医療法人容紘会高梨医院皮膚科・ 美容皮膚科を開設。院長として勤務しています。

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2024年12月10日
2024年12月10日

看取りの作法2024 終末期・看取りの基礎知識【セミナーレポート 前編】

2024年9月20日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「看取りの作法2024 〜習得のための理論と実践〜」。家庭医療専門医で訪問診療専門クリニック院長の田中公孝先生を講師にお迎えし、訪問看護師が看取り支援をより身近な業務として捉えられるように必要な基礎知識を教えていただきました。 セミナーレポート前編では、看取り支援にあたって知っておきたい理論や田中先生が現場で意識しているポイントなどをまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック 院長/日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医滋賀医科大学卒業。2017年から東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画し、2021年4月には訪問診療に特化した杉並PARK在宅クリニックを開業。すべての患者さんに「最期までその人らしく過ごせる在宅医療」を提供することを目指す。 「病の軌跡(がん、非がん)」を理解する 看取り支援に必要な知識としてまず挙げられるのが、病の軌跡。「がん」「非がん」の2パターンの軌跡を理解しておくと、看取りの流れをイメージしやすくなります。 がんの軌跡 がんの軌跡の特徴は、身体機能が非がん疾患と比べて長い期間保たれ、その後亡くなる直前に急速に悪化する点が挙げられます。機能が急速に低下する期間は、平均して約2ヵ月ともいわれており、若い方の場合は急激に悪化するため、この期間が短くなるケースにもしばしば遭遇します。一方、ご高齢の方では、がん細胞の進行も老いてゆっくりなのか、悪化のペースが緩やかになることもあります。 また、がんの悪液質を緩和するステロイド治療を行った場合、食欲が回復したり体を動かせたりするようになり、亡くなるまでの期間が1、2ヵ月ほど延びることもあります。しかし、原則として最期の2ヵ月間は急速に機能が低下し、排泄介助が必要になる、疼痛が悪化するなど問題に直面する機会が増えていきます。 非がん疾患の軌跡 非がん疾患の軌跡の特徴は、予後予測が難しい点が挙げられます。例えば心・肺疾患では、急性増悪を繰り返しながら徐々に機能低下が起こり、最後は比較的急な経過を辿るケースも見られます。一方、認知症・老衰の場合は、誤嚥性肺炎で一度口から食事がとれなくなっても、状態が安定して再び食事ができるようになる方もいます。そのため、ご家族には亡くなる可能性についてお伝えする一方で、機能が一時的に持ち直す可能性もあることを事前に説明しておくとよいでしょう。 「全人的苦痛(トータルペイン)」を活用する 全人的苦痛とは、利用者さんの苦痛を総合的に捉えるための概念のこと。「身体的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルペイン」「精神的苦痛」の4つに分類され、密接に影響し合っているという考え方です。例えば、がんの症状に伴う疼痛や息苦しさ、倦怠感などの身体的苦痛がある場合も、精神的、社会的、スピリチュアルな要因を含めたすべての側面を考慮する必要があります。適切なケアを提供する上で役に立つ考え方なので、ぜひ活用してください。 >>関連記事全人的苦痛(トータルペイン)の詳しい解説については以下をご参照ください。トータルペインでとらえる 終末期の現場で医師が考えていること 看取り支援の現場で私が意識しているポイントもお伝えします。 がんの症状 「肺がんは呼吸器に症状が現れる」「膵臓がんは強い痛みを伴う」など、一口にがんといっても種類によって症状は異なります。そのため、がんの種類や治療経過(手術歴、放射線治療や化学療法の有無や程度)を必ず確認します。みなさんも、各がんの特徴やおもな症状は押さえておきましょう。 多職種連携 終末期には訪問看護、訪問薬局、ケアマネジャーなどさまざまな職種の方々と方針を共有し、一丸となってご家族をサポートします。このとき、連携先はできるだけ看取りの経験があるところを選んでいます。 在宅看取りが可能か 在宅での看取りでは、家族の介護力や覚悟が問われます。早い段階での要介護認定を受けることをはじめ、各種制度を最大限活用できるよう環境を整えることも必要です。これらの条件を総合的に考慮し、「在宅で看取りきれるか」を常に考えています。 なお、緩和ケア病棟へのエントリーは、基本的にすべてのケースで行います。レスパイト入院をはじめ、在宅看取りを希望していても状況に応じて利用を検討する可能性があるためです。 利用者さんとご家族の認識に向き合う 告知の判断 私は、認知機能に問題がある利用者さんを除いて、基本的に告知はすべきだと考えています。とくにご本人が自身の体調の異変を感じているにも関わらず、ご家族から「落ち込むから伝えないでほしい」と要望がある場合は、本当に告知なしでよいかを丁寧に確認します。ちなみに、ご本人が違和感を覚えているのに告知しなかったケースは私の在宅医療のキャリアではほとんどなく、告知がよい結果に結びついたケースは多いです。ご家族に踏み込んだ話をするには医療者としての覚悟や経験が求められますが、利用者さんやご家族にとっての最善を考えて行動してください。 なお、告知と「予後を伝えること」は別の話です。ご家族には予後について必ず説明しますが、利用者さんにはご本人から強い要望がない限り伝えておらず、伝えなくてもうまくいくケースが多いです。 家族の受容段階の確認 ご家族の認識にアプローチするには、「キューブラー・ロス-死の受容5段階モデル」に基づいて考えるのがおすすめです。 もうこれ以上治すための手段がなく、緩和ケアに意識を切り替えていく、もしくは余命が幾許もないという受容の段階に進んでもらうために、私は早い時期にがんの特徴と看取りまでの経過をお伝えします。亡くなるまであと1ヵ月ほどの段階で「病の軌跡」について話し、「看取りのパンフレット」もお渡しして、「看取りの1週間前になったらこういう説明をさせてもらいます」と概要を伝えるんです。そうすればご家族も、「もうすぐそのときがくるんだな」と心構えできますから。 >>関連記事看取りのパンフレットについては以下をご参照ください。看取りの作法 ~ 最期の1週間キューブラー・ロス-死の受容5段階モデルの詳しい解説については以下をご参照ください。患者・家族の認識とグリーフケア 次回は、看取りのパンフレットを使用した死前教育やご家族へのグリーフケア、看取り支援の実践に役立つ考え方について説明します。>>後編はこちら「看取りの作法2024 グリーフケアと支援の実践【セミナーレポート 後編】」 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア ■「みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!(~2025/1/24)今回で3回目となるNsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」では、2025年1月24日(金)17:00まで「つたえたい訪問看護の話」を募集中です! 訪問看護にかかわる方であれば、誰もが共有したいエピソードがひとつはあると思います。皆さまのエピソードをお待ちしています!

「脳血管障害(脳卒中)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「脳血管障害(脳卒中)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年12月10日
2024年12月10日

「脳血管障害(脳卒中)」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は脳血管障害(脳卒中)について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 脳血管障害の基礎知識 脳血管障害とは脳血管の異常により発生する疾患で、脳卒中とも呼ばれています。頭痛、麻痺、感覚障害、構音障害の急速な発現は脳血管障害を疑う症状です。リスクファクターには高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動、脳血管障害の既往があります。脳血管障害には脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血が含まれ、頻度は脳梗塞が最多で約70%、続いて脳内出血が約20%、くも膜下出血が約5%です1)。 脳血管障害の種類 脳梗塞 脳梗塞は発症の原因によって3つのタイプに分けられます(図1)。 アテローム血栓性脳梗塞主幹脳動脈のアテローム硬化が原因で起こります。動脈硬化による狭窄が徐々に進行し血栓によって閉塞するか、不安定プラークが破裂して形成された血栓が塞栓子となり遠位部の動脈が閉塞する(artery to artery embolism)ことにより発症します。急速に発症し、階段状に進行することが多いです。 心原性脳塞栓症心臓内にできた血栓が脳動脈に塞栓症を起こします。原因の中で最も多いのが心房細動で、ほかに人工弁、左心房/心耳の血栓、最近発症の心筋梗塞、拡張型心筋症、感染性心内膜炎も原因となります。日中活動時の突然発症が多く、高度の意識障害や失語を伴う確率が高く予後が不良です。 ラクナ梗塞脳穿通枝動脈が脂肪硝子変性、血管壊死により閉塞して起こります。一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)の既往を認めることがあります(memo参照)。夜間の睡眠中や起床時に発症することが多いです。穿通枝領域の径15mm以下の小さな梗塞が深部白質、基底核、視床、内包後脚に好発し、以下の症状を引き起こします。 純粋運動性片麻痺:最も多い症状で、顔面を含む不全片麻痺純粋感覚性発作:片側の顔面と上下肢を含む半身のしびれ運動失調不全片麻痺:軽度の構音障害、眼振、一側へのよろめき構音障害-手不器用症候群:構音障害、嚥下障害、一側の手の巧緻運動障害 図1 脳梗塞の種類   memo 一過性脳虚血発作(TIA)とは24時間(多くは1時間)以内に消失する一過性の局所神経症候を起こします。微小塞栓と血流不全による脳の虚血が原因です。典型的な症状は片側性麻痺や構音障害で、一過性黒内障(片方の視力が一時的に低下する症状)が起こることもあります。症状発現後48時間以内に脳梗塞を発症するリスクが高いため、速やかに評価を行う必要があります。 脳梗塞発症リスクを予測するツールとして「ABCD2スコア」が広く用いられています。 【ABCD2スコア】 A Age(年齢) ≧60歳 1点 B Blood pressure(⾎圧) 収縮期140mmHg 以上 and/or 拡張期90mmHg 以上 1点 C Clinical feature(臨床像) ⽚⿇痺 2点 ⿇痺のない⾔語障害 1点 D Duration of symptoms(持続時間) 10〜59 分 1点 ≧60 分 2点 D Diabetes(糖尿病) あり 1点   最高得点 7点 ● 5項目で7点満点● TIA 発症後2日以内の脳梗塞発症率は0~3点で1.0%、4~5点で4.1%、6~7点で8.1%● 3点以上は入院治療が望ましい(Johnston SC,Rothwell PM,Nguyen-Huynh MN,et al:Validation and refinement of scores to predict very early stroke risk after transient ischaemic attack.Lancet 2007;369(9558):283-92. をもとに作成)脳梗塞を起こしていないか確認するため、できるだけMRI検査を行います。原因検査のため、血液検査(CBC(complete blood count:末梢血液検査)、生化学、血液凝固、BNP(brain natriuretic peptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)、頸動脈エコー、心電図、心エコーを行います。 脳内出血 原因は高血圧によって微小動脈瘤ができ、破裂出血するためと考えられています。その他、動静脈奇形、血管炎、脳腫瘤や老人に起こるアミロイド血管症なども原因です。被殻や視床、脳幹、小脳、皮質下に出血を起こします。 くも膜下出血 動脈瘤の破裂または動静脈奇形、外傷、動脈解離により起こります。ひどい頭痛と意識障害、片麻痺、めまい、嘔吐の症状を認めます。最も多い原因は嚢状動脈瘤破裂です。 なお、脳内出血とくも膜下出血の違いを図2に示します。 図2 脳内出血とくも膜下出血 診断 意識レベルとバイタルサインの確認が必要です。脳血管障害では意識低下や血圧上昇を認めることが多くあり、家族や目撃者の証言から、いつまで元気だったかを確認するとよいでしょう。次に、診察で神経学的に異常な部位を確認することで、症状から虚血を生じさせている責任血管が推察できます(表1)。 表1 責任血管と症状 責任⾎管(脳の領域)症状眼動脈⼀過性黒内障前脈絡叢動脈(内包後脚、外側膝状体、⼤脳脚、視床)対側の⽚⿇痺+感覚障害+同名半盲(右側または左側半分が⾒えなくなる)前⼤脳動脈・ 下肢の運動障害・ 刺激に対する反応低下・ 尿/便失禁中⼤脳動脈・ 顔⾯と上肢>下肢の運動/感覚障害・ 優位半球の前頭葉または側頭葉→失語・ 劣位半球の頭頂葉→失⾏/半側空間無視・ 同名半盲※優位半球と劣位半球で症状が異なることに注意する※右利きの⼈のほとんどと左利きの⼈の2/3は優位半球が左である後⼤脳動脈・ 同名半盲/変形視       ・ 反対側の感覚障害を伴う視床症候群:          反対側の⿇痺、耐え難い痛み、不随意運動椎⾻動脈・ ワレンベルグ症候群:同側の顔⾯と対側の上下肢の感覚障害、複視、構⾳障害、嚥下障害⼩脳動脈・ めまい・ ⼩脳失調脳底動脈・ 瞳孔異常(散瞳または著しい縮瞳)・ 四肢⿇痺・ 知覚障害・ ⾼度な意識障害・ ⼩脳失調 ⾎液検査(⾎糖、Na、K、Cl、Cr、CBC、凝固、⼼筋マーカー)、⼼電図、頭部CT(またはMRI)検査を⾏います。既往歴(脳梗塞、てんかん)と内服薬(抗凝固薬、抗⾎⼩板薬、抗精神病薬)の確認が重要です。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 意識レベルとバイタルサインを確認し、血圧が高ければ脳卒中の可能性が高くなります。脳卒中の症状(構音障害や麻痺など)がいつから始まったのかを明らかにします。発症4.5時間以内ならば、血栓溶解療法(t-PA療法)が適応されます。 意識障害や急性に発症した脳卒中を疑う症状があれば、救急車で病院に搬送します。 治療 疾患ごとに解説します。 脳梗塞 脳梗塞の発症後4.5時間以内でt-PA製剤(アルテプラーゼ)の適応があれば、静脈内投与を行うことで血栓を溶解させ、脳血流の再開が可能です。3時間以内に投与した場合、3ヵ月後の障害の発症率を大幅に軽減させることが分かっています。ただし、合併症として頭蓋内出血を起こすこともあります。大血管の閉塞では脳卒中発症後8時間以内に脳血管内治療が行われます。 血栓溶解療法や脳血管内治療が適応とならない急性期虚血性脳血管障害患者にはアスピリンが投与されます。症状発現後24時間以内に開始し21日間継続する抗血小板薬2剤併用療法(アスピリンとクロピドグレル)は脳梗塞の再発抑制効果があります。 心房細動があれば、ヘパリンまたは抗凝固薬(直接作用型経口抗凝固薬:DOAC、ワルファリン)を投与します。 脳内出血 入院し呼吸管理と血圧コントロール(収縮期血圧140mmHg以下)を行います。血腫除去の外科的治療が選択されることがあります。 くも膜下出血 脳動脈瘤の根もとに専用のクリップをかける動脈瘤頸部クリッピング術が行われます。 最新トピックス●脳卒中でSpO2が93%以上の患者には、予後が悪化するため酸素療法を開始しないことがすすめられています。酸素療法を受けている患者ではSpO2を96%未満にします2)。●脳卒中専門病棟への入院は、多職種からなるケアチームが早期から尿路感染予防のための留置カテーテルの除去、嚥下障害への対処、誤嚥性肺炎の予防、口腔衛生を行うためとても有効です。 二次予防(脳卒中の再発予防) 生活習慣の改善(ダイエット、運動)、リスクファクターへの治療(高血圧、脂質異常症、糖尿病、禁煙)、血圧コントロール<130/80mmHg、LDL<70mg/dL、抗血小板薬または抗凝固薬の内服が重要です。 ●脳血管障害(脳卒中)には脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血があります。頻度は脳梗塞が70%、脳出血が20%、くも膜下出血が10%です。●意識障害や急性に発症した脳血管障害を疑う症状があれば、救急車で病院に搬送します。●家族や目撃者の証言から、いつまで元気だったかを確認します。 執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問 1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)脳卒中データバンク運営委員会:「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握」(日本脳卒中データバンク)報告書 2023年.https://strokedatabank.ncvc.go.jp/category/achievement/report/2024/11/15閲覧2)Chu DK,Kim LH,Young PJ,et al:Mortality and morbidity in acutely ill adults treated with liberal versus conservative oxygen therapy (IOTA): a systematic review and meta-analysis.Lancet 2018;391(10131). 【参考文献】○Chick D,et al:Stroke.MKSAP19 Neurology,American College of Physicians,2021:26-39.○Douglas V,Aminoff MJ:Nervous system disorders.Current Medical Diagnosis & Treatment 2024, 63rd ed.McGraw Hill,New York,2024;992-1003.○Hupperts LA:Neurologic emergencies. Huppert’s Notes,McGraw Hill,New York,2021:380-381.○Sabatine MS,et al:Stroke.Pocket Medicine,8th ed.Philadelphia,2022. ○井口正寛,石山貴章編:脳梗塞.Hospitalist 2022:10(2);207-306. ■「みんなの訪問看護アワード」エピソード募集中!(~2025/1/24)今回で3回目となるNsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」では、2025年1月24日(金)17:00まで「つたえたい訪問看護の話」を募集中です! 訪問看護にかかわる方であれば、誰もが共有したいエピソードがひとつはあると思います。皆さまのエピソードをお待ちしています!

リンゴ病(伝染性紅斑)の症状・感染経路は?大人の感染にも注意
リンゴ病(伝染性紅斑)の症状・感染経路は?大人の感染にも注意
特集
2024年12月10日
2024年12月10日

リンゴ病(伝染性紅斑)の症状・感染経路は?大人の感染にも注意

頬がリンゴのように赤くなるリンゴ病(伝染性紅斑)。主に子どもがかかる病気ですが、大人もかかる場合があります。また、妊娠中にかかると流産につながるおそれもあるため、より一層の注意が必要です。 本記事では、リンゴ病の症状や潜伏期間、感染経路から、大人の感染や出社・登園・登校への影響まで詳しく解説します。リンゴ病の症状について確認し、利用者さんやそのご家族のケアに役立てましょう。 リンゴ病とは リンゴ病とは、ヒトパルボウイルスB19の感染によって起きる病気で、正式名称を「伝染性紅斑」といいます。その名のとおり、両側の頬がリンゴのように赤くなるのが主な症状で、4~5歳の子どもを中心に4~5年周期で流行を繰り返しています。 リンゴ病の症状 リンゴ病は、10〜20日の潜伏期間を経て、頬に赤い発疹が現れます。赤いところとそうではないところの境目は明瞭です。また、顔だけではなく、手足にも「レース状」や「網目状」と表現される発疹が現れます。多くは顔と手足のみですが、中にはお腹や胸、背中に現れる人もいます。発疹の持続期間は1週間前後ですが、一度消えた発疹が短期間で再び現れる場合もあります。 リンゴ病の原因 リンゴ病の原因は、パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属のヒトパルボウイルスB19の感染です。正式名称はエリスロウイルスB19ですが、一般的にはヒトパルボウイルスB19と呼ばれています。リンゴ病は1年中かかる可能性がありますが、春から秋にかけて多くみられます。 リンゴ病は大人もかかる? リンゴ病は大人もかかる可能性がありますが、一度感染すると終生免疫を得られるため、子どものころにリンゴ病にかかったことがある大人は、通常は感染しません。 大人のリンゴ病では、頭痛や関節炎に伴う関節痛が生じ、1~2日ほど歩くことが難しくなる場合がありますが、多くの場合は合併症や後遺症もなく回復します。 大人のリンゴ病で注意すべきは、妊娠中の感染です。特に、妊娠前半期にヒトパルボウイルスB19に感染すると、胎児水腫や流産につながるおそれがあります。妊娠後半期にも感染する可能性があるため、妊娠中は時期を問わず感染予防を意識することが大切です。ただし、母親がリンゴ病を発症し、新生児に感染が確認された場合でも、妊娠・分娩の経過や出生後の発育が正常であることが多いとされています。妊娠中にリンゴ病に罹患した場合、医師の指示に従い、胎児の状態を注意深く確認していくことが大切です。 また、溶血性貧血の人がヒトパルボウイルスB19に感染すると、重症の貧血発作や関節炎、関節リウマチ、血球貪食症候群、血小板減少症などが起きる可能性があります。こちらにも注意しておきましょう。 リンゴ病の感染経路 リンゴ病の感染経路は、ウイルスを含むくしゃみや咳などによる飛沫感染です。頬の赤い発疹が現れたころには感染力はほとんどなく、ウイルスが多く排出されるのは、まだリンゴ病の症状が現れる前。感染を防ぐ有効な対策はありません。ほかの感染症と同じく、くしゃみや咳を人に向けてしないこと、手洗いやうがいを徹底するなど、基本的な感染対策を行いましょう。 リンゴ病の治療法 リンゴ病には、特効薬が存在しません。ウイルス感染症は一部のウイルスにのみ抗ウイルス薬が存在しており、ヒトパルボウイルスB19に対して有効な薬は登場していないのが現状です。 そのため、リンゴ病の発熱や関節痛に対しては解熱鎮痛剤、かゆみに対してはかゆみ止めといった対症療法を行います。また、感染が発覚した時点で何かをすれば発症を防げたり、早く改善したりといった方法もありません。 リンゴ病の出社・登園・通学への影響 リンゴ病にかかった人の出社や登園、通学に対する制限については、明確に設けられていません。学校保健法においては第3種の感染症の「その他の感染症」に該当します。これは、医師や学校医などが「感染のおそれがない」と認めるまでは出席停止とするものです。 リンゴ病は、頬に赤い発疹が現れた段階で診断を受けることが多く、その時点では感染力はほとんどありません。そのため、発熱や他の症状、合併症などがなければ登園や通学は認められると考えられます。 ただし、感染症への対応方針は学校や会社によって異なるため、リンゴ病に感染した旨を伝えて指示を仰ぐことが大切です。 * * * リンゴ病は主に子どもがかかる病気で、一度かかると終生免疫を得られます。大人がかかっても重症化することも通常はありません。ただし、妊娠中にかかると胎児への影響が懸念されるため、基本的な感染症対策を行い感染のリスクをなるべく抑えることが大切です。また、症状が現れたころには感染力は失われていることから、軽症であれば問題なく登校や出社ができます。 ぜひ今回の内容を利用者さんのアセスメントやご家族への情報提供などに役立ててください。   編集・執筆:加藤 良大監修:吉岡 容子医療法人容紘会高梨医院 院長東京医科大学医学部医学科を卒業後、麻酔科学講座入局。麻酔科退局後、明治通りクリニック皮膚科・美容皮膚科勤務。院長を務め、平成24年より医療法人容紘会高梨医院皮膚科・ 美容皮膚科を開設。院長として勤務しています。 【参考】〇国立感染症研究所「伝染性紅斑とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/443-5th-disease.html2024/12/3閲覧

湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【多数の症例写真で解説】
湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【多数の症例写真で解説】
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2024年12月3日
2024年12月3日

湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を皮膚科専門医が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は湿疹皮膚炎を取り上げ、その種類や特徴、症状の原因や改善方法をご紹介します。 湿疹皮膚炎とは 湿疹という病名は一般の人たちにも馴染みがあると思います。湿疹は、皮膚炎とほぼ同義とされ、文字通り皮膚が炎症を起こすことをいいます。ある程度原因や病態がはっきりしているアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹などがあり、原因・病態が明らかでないものは単純に「湿疹」と呼ばれます。 以前、「真菌による湿疹」という記載を見たことがあります。確かに真菌による炎症ではありますが、真菌や細菌など病原体に起因するものは感染症であり、湿疹とは呼びませんのでご注意ください。 在宅でよくみられる湿疹皮膚炎群について述べていきます。 在宅でよくみられる湿疹皮膚炎群 皮脂欠乏性湿疹 加齢に伴って生じる皮脂欠乏により、皮膚のバリア機能が低下して外的刺激を受けやすくなり、かゆみに対する閾値も低下して湿疹化した状態です。冬に多く、一番多いのは下腿伸側ですが、大腿や上肢の伸側、体幹にも発生します(図1)。 訪問入浴の際に「頻繁に入浴できないから」と言って張り切ってスポンジで洗っているのを見たことがあります。気持ちは分かるのですが、やめるべきです。 予防・改善には保湿を中心としたスキンケアが重要になります。詳しくはNsPaceの「在宅の褥瘡・スキンケアシリーズ」をご参照ください。 >>予防的スキンケアに関する記事はこちら在宅の褥瘡・スキンケアシリーズスキンケアで褥瘡予防 洗浄・保湿・保護のポイント 図1 高齢者の下腿にみられた皮脂欠乏性湿疹 接触皮膚炎 いわゆる「かぶれ」です。接触したものによって生じる皮膚炎で、アレルギー性のものと、刺激性のものがあります。 アレルギーとは、「外部から侵入した特定のものに対する、その人特有の反応」と考えることができるので、「特定のもの」がはっきりしているならそれを除去すればよいことになります。接触皮膚炎の場合、原因特定のための検査としてよく使われるのはパッチテストです。怪しそうなもの(例えば外用薬や化粧品)があれば、そのものを貼付します。 在宅では外用薬の接触皮膚炎を経験することがあります。図2は「褥瘡が悪化した」と連絡があった例ですが、実は褥瘡の治療薬にかぶれていた例です。 図2 褥瘡の治療薬によるかぶれ(接触皮膚炎) 初診時(A)にデブリードマンを行い、ヨード製剤を外用。改善傾向にあったが(B)、2週間後「褥瘡が悪化した」と連絡があった(C)。往診し、外用薬による接触皮膚炎と診断。ステロイド外用に変更したところ皮膚炎が改善し、褥瘡も治癒した(D)。 脂漏性皮膚炎 頭皮、顔(眉毛部や鼻周囲など)、胸や背中の中央部など皮脂腺の多いところを脂漏部と呼びますが、それらの部位に生じるのが脂漏性皮膚炎です(図3)。皮脂腺に住む真菌の一種であるマラセチアが皮脂を分解し、その産物が皮膚に炎症を起こしているとされます。炎症を速やかに抑えるにはステロイド外用が有効ですが、真菌が関与するため抗真菌薬の外用や、抗真菌薬を含んだシャンプーや洗浄剤の使用も効果があります。 図3 頭部の脂漏性皮膚炎 生え際の紅斑と鱗屑が目立つ。 うっ滞性皮膚炎 下肢静脈瘤、深部静脈血栓症など静脈血流のうっ滞が原因となり、下腿に発症します。在宅の高齢者には多くみられる症状です。紅斑から始まり丘疹などが混じる湿疹局面となり、慢性化すると色素沈着や皮膚の硬化がみられ、硬化性脂肪織炎となります。硬化すると容易に潰瘍化して難治です。通常のステロイド外用による湿疹治療も必要ですが、弾性包帯や弾性ストッキングなどによる圧迫療法が重要です(図4、5)。ただし高齢者では動脈閉塞や心疾患を合併している場合もあり、そのような例では圧迫することはできません。 図4 下腿皮膚の硬化とうっ滞性皮膚炎 「逆シャンパンボトル」と形容される下腿皮膚の硬化とうっ滞性皮膚炎を認める。 図5 うっ滞性皮膚炎 弾性包帯による圧迫とステロイド外用でうっ滞性皮膚炎・潰瘍ともに3ヵ月で軽快した。 鑑別について 湿疹と鑑別する必要がある疾患には真菌症や腫瘍などがありますが、今後の連載でそれぞれについて述べていく予定です。 治療の第一選択はステロイド外用薬 湿疹皮膚炎の治療の第一選択は、ステロイド外用薬です(図6)。実にたくさんの種類がありますが、抗炎症作用の強さによって一般的にstrongest(Ⅰ群)、very strong(Ⅱ群)、strong(Ⅲ群)、medium(Ⅳ群)、weak(Ⅴ群)の5段階に分類されています。また、軟膏、クリーム、ローション、テープなどの剤型があります。この強さと剤型を、病変の程度や部位によって使い分けています。 図6 ステロイド外用薬の例 この写真は筆者が少し前に撮影したもの。現在では発売終了になっているものも含まれるが、ステロイド外用薬には実にたくさんの種類がある。 ステロイド外用薬は使われるようになってからすでに70年以上が経過しています。つまり「よい点も、悪い点もすべて分かっている」薬です。アトピー性皮膚炎ではステロイド忌避、脱ステロイドなどが問題になりますが、うまく使えば極めて有効で安全な薬です。でも、分かっていない人が使うと大変なことが起こる可能性もあります。 通常顔にはweak、せいぜいmediumの外用薬を処方しますが、図7は顔の皮疹に対してstrongのステロイド外用薬が長期間処方されていた例です。鏡検してみると、カンジダと、ニキビダニと呼ばれる毛包虫がたくさんみられたため、治療を行ったところ速やかに改善しました。顔に強い外用を続けた場合、眼圧上昇といったリスクもあるので、十分注意が必要です。 また、高齢の方では老化による皮膚の菲薄化がみられますが、漫然とステロイドの外用を継続しているとさらに菲薄化、脆弱化が進行し(図8)、紫斑や、ひどくなるとスキン-テアを起こします。 図7 ステロイド外用薬の誤用例 ステロイド外用薬の誤用により、ニキビダニの増加とカンジダを発症した例。イオウ製剤と抗真菌薬の外用で改善した。 図8 ステロイド外用の継続例 50代男性の症例。アトピー性皮膚炎で長期間ステロイド外用を継続したことにより、肘窩付近の細く赤い血管が透けてみえるほか、内出血するなど皮膚の菲薄化・脆弱化がみられる。 そもそもなぜ湿疹ができるのか? 湿疹は、健康な皮膚に起きる場合もありますが、多くの場合はバリア機能が落ちるといった「準備状態」にある皮膚に発症します。準備状態にしないためには、スキンケアが重要となります。 「スキンケア」という言葉自体にも、明確で絶対的な定義は存在しませんが、日本褥瘡学会の用語集によれば、図9のように、洗浄、遮断・被覆(=保護)、保湿、水分除去の4つに集約できると思います。紙幅の都合でそれぞれについて述べることはしませんが、これらに留意して優しく洗う、保湿薬を使うなどのケアを行い、皮膚を健康な状態に保ちたいものです。 図9 スキンケアとは(日本褥瘡学会「用語集」より) 文献1)より引用(赤字および「保護」の追記は筆者による) 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本褥瘡学会ホームページ:用語集「スキンケア」.https://www.jspu.org/medical/glossary/2024/8/5閲覧 【参考文献】○袋 秀平:70枚の写真で学ぶ 在宅で診る皮膚疾患の基礎知識.日本医事新報社ウェブ書籍,東京,2019.○袋 秀平:うっ滞性皮膚炎.内藤亜由美,安部正敏編,改訂第2版 スキントラブルケアパーフェクトガイド,学研メディカル秀潤社,東京,2019:135-138.

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」

2024年11月16・17日の2日間にわたり、「日本在宅看護学会 第14回学術集会」が対面・オンラインで開催されました。今回の学術集会長は、WyL株式会社/ウィル訪問看護ステーションの岩本 大希氏。訪問看護に携わる方々が数多く訪れ、「多様性」をテーマにした充実した学びと交流の場となりました。NsPace編集部が、本学術集会の模様をレポート形式でお届けします。 「多様性」をテーマに掲げる意味 本学術集会のテーマは「多様性」。外見や性別、障害の有無から、育ってきた環境や宗教の違いまで、さまざまな多様性が存在します。世界は急激に変化しており、近年は感染症パンデミックへの対応や在宅ホスピス・在宅救急の台頭も。ルールや制度がない中で日々試行錯誤しなければなりません。 岩本学術集会長は、訪問看護に携わる方々はすでに当たり前に多様性に向き合っていることを強調しました。その上で、そうした環境下で訪問看護を行っていることを改めて認識してほしい。また、制度の隙間に落ちてしまう人たちが必ず存在する中で、ルールがなくても切り拓く開拓精神やエナジーを感じてほしいというメッセージが語られました。 本学術集会では、「多様な服装/衣装でのご参加を歓迎いたします!」と事前にお知らせがあり、着物・ドレス等で参加している方や、法被姿の方も。座長として登壇していた「看護の日」キャラクターの「かんごちゃん」の姿もありました。(※許可をいただいて撮影しています。) ピックアップレポート 多くのプログラムがありましたが、一部のプログラムを編集部がピックアップしてレポートします。 『発達障害のある(かもしれない)看護職の理解と支援』 座長 鹿内あずさ氏、講師 川上ちひろ氏 訪問看護の現場で、看護師自身に発達障害がある、もしくはその可能性がある場合の支援方法について悩むケースがあります。すでに看護師の職に就いている方の場合は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のケースが多く、例えば「コミュニケーションのとりづらさ」「倫理観・道徳観の欠如」「容量の悪さ」といった課題に直面することも。川上氏によれば、発達障害がある方はワーキングメモリや実行機能に問題を抱えていることが多く、努力だけでは解決しないということ。また、これらの特性は「親の育て方が悪い」ことが原因ではないというメッセージが語られました。そのほか、メモの取り方、抽象的な質問への対応など、特性に基づいた具体的なサポートが必要であることも詳しく解説。学習者と教育者のよい関係を築くためには、教育者が「がんばりすぎない」ことが大切であることや、認知的徒弟制を取り入れて適切な難易度の課題を与えることがポイントとのこと。聴講者の方々は、語られるエピソードに共感し、対応法について真剣にメモを取る様子が見られました。利用者だけでなく、看護師側も多様な人たちが働ける環境づくりが求められています。 『多様なニーズを支える中堅スタッフへの教育支援 ~これからに必要な生涯学習支援~』 座長 佐藤直子氏、演者 佐藤直子氏、佐藤十美氏、藤野泰平氏、服部絵美氏 「新任訪問看護師」向けや「管理者」向け研修は数多くみられる一方で、中堅スタッフはあまりフォローされていない現状があります。何をもって「中堅」とするかの明確な定義はないそうですが、演者の方々が考える中堅スタッフ像はおおよそ同じ。「さまざまな状況の利用者にケアが実施できる」「事業所全体や地域についても考える力がある」ことが求められるとのことでした。各事業所の中堅向けの取り組みが紹介された後はディスカッションが行われ、「中堅スタッフになるきっかけ」「具体的なラダー評価の内容」「自己評価と管理者の評価が異なる場合の対応」などについて質問が挙がっていました。中堅スタッフの教育の重要性について多くの事業所が共感している様子で、会場からの質問は絶えず、活発に議論されていました。 『在宅看護のシミュレーション教育の可能性を考えてみませんか?』 織井優貴子氏、竹森志穂氏、金壽子氏 東京都では、定期巡回型サービスや看護小規模多機能型居宅介護(かんたき)の利用者数が急増しており、都民の投票で「いきいき・あんしん在宅療養サポート:訪問看護人材育成支援事業」という訪問看護師のアセスメント能力、実践力向上を目的とした事業が採択されました。その取り組みが紹介されたプログラムです。新任訪問看護師向けのシミュレーション教育が注目されている中、どのようにシミュレーション教育が行われているかが詳細に語られました。訪問バッグの中身や模擬在宅ルームに置かれている小物は、実際の訪問看護の現場を再現しており、高性能多機能人体型シミュレーターを使用して、フィジカルアセスメントや報告の方法まで学ぶことができます。会場では、教育機関の関係者から事例の選定方法や研修の進行についての質問も複数あり、他の地域でシミュレーション教育を行うきっかけにもなりそうです。 『能登半島地震での活動:DC-CATの立ち上げから現在までを通して』 座長 岩本大希氏、講師 山岸暁美氏 2024年1月1日に起きた能登半島地震および奥能登豪雨の被災地支援にあたっているDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)の活動や被災地の状況について共有されました。DC-CATは、災害直接死の4倍とされる「災害関連死」を阻止すべく活動しています。公的支援やケアが不足している中、行政やDMAT等とも協働しながら、健康相談ダイヤル(#7119機能を持つ電話相談)、医療・保健サービスにアクセスできない地域でオンライン診療を行うヘルスケアMaas事業も展開しています。被災地の方々の実際の声も交えながら活動内容や試行錯誤の経過が語られ、一次的にケアに入るだけでなく、支援が終わった後にどう地域内でケアを継続していくかを考えることの重要性や、被災地支援で見えた課題に対して政策提言した内容についても共有されました。会場の方々は熱心に耳を傾け、共感の声や「応援・協力したい」というコメントも挙がっていました。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長 岩本氏のコメントをご紹介します。 本当に多くの方々に学術集会にご参加いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。「多様性」がテーマということもあり、やりたい企画は数多くあったのですが、新鮮な切り口を意識しつつ日々の実践に根ざした内容も取り入れたいと考えながら絞り込んでいきました。結果として、多くの企画が立ち見になるほど盛況で、本当に嬉しく思っています。 ドレスコードも、参加しやすさと多様性を表現するためにカジュアルな服装を推奨しました。登壇者の先生方も率先して素敵な格好をしてくださり、非常に心強かったです。 なお、まだオンデマンド配信の学術集会は終わっておらず、2024年12月17日17時まで配信しています。ACPや教育、能登半島地震の被災地対応など大きな企画は特に見応えがありますし、オンデマンド限定のプログラムも数多くあります。対面で参加した方も参加されていない方も、期間内にできるだけ多くのプログラムを視聴していただけると嬉しいです。 >>オンデマンド配信はこちら(要登録)日本在宅看護学会第14回学術集会 * * * 本学術集会では、参加者の皆さまや登壇者の方々の数多くの笑顔が見られ、楽しそうな様子が印象的でした。また、2025年の第15回学術集会は、名古屋で開催されます。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

低温やけど(低温熱傷)とは?初期症状や対処法について解説
低温やけど(低温熱傷)とは?初期症状や対処法について解説
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

低温やけど(低温熱傷)とは?初期症状や対処法について解説

コンロの火やパネルヒーターのほかにも、さまざまな原因でやけど(熱傷)を負う可能性があります。冬に高齢者がよく使う湯たんぽをはじめ、ホットカーペットやカイロでも低温やけどを負うことがあります。低温やけどは通常のやけどと同じく命に関わることもあるため、基礎知識を確認しておくことが大切です。 本記事では、低温やけどの特徴や初期症状、対処法などについて詳しく解説します。利用者さんに質問されたときだけではなく、冬の低温やけどの注意喚起として訪問看護師からアドバイスする際にも役立ててください。 低温やけどとは 低温やけどは、40~50℃程度のものに長時間皮膚が触れることで生じるやけどです。心地よいと感じている温度でも発生してしまう可能性があるため注意が必要です。 また、50℃程度でも3分の圧迫によって低温やけどが生じる可能性があります。このように、単に温度と時間だけで低温やけどが起きるリスクを判断することは困難です。低温やけどの原因となりやすい湯たんぽやホットカーペットなどの使用に注意しましょう。 低温やけどの原因・メカニズム 皮膚が熱を受けてから、少しずつ深部へと熱が達して細胞の損傷が起こります。皮膚の損傷が深部になるにつれて痛みを感じにくくなるため、気づいたときには重症になるケースも少なくありません。湯たんぽやホットカーペットでやけどをする可能性があることを知らない人は、赤みや多少のひりひりとした痛みがあっても放置してしまいがちです。在宅療養されている方の中には自分で症状を訴えることができない方もいるため、全身の皮膚の状態を観察することが大切です。 特に以下に該当する場合は低温やけどのリスクが高いため注意が必要です。 皮膚が脆弱な高齢者や皮膚が薄い小児寝返りができない乳児知覚や運動機能に障害がある方糖尿病や動脈硬化によって手足の血行障害がある方意識レベルや認知機能が低下している方 低温やけどの初期症状や見た目 低温やけどの症状は、赤みやひりひりとした痛みです。1日程度放置すると、水疱(みずぶくれ)が生じることもあります。受傷当初にやけどの深さを見極めるのは困難なため、皮膚に赤みや違和感が生じた段階で、なるべく早く医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。 低温やけどに対する正しい対処法・注意点 低温やけどが起きた場合は、応急処置をした上で医療機関を受診しましょう。 低温やけどの可能性がある場合、すぐに患部を流水で20分程度冷やします。熱が皮膚の深部に与えるダメージをなるべく早く抑えることが重要です。冷やすことで痛みも緩和されます。なお、保冷剤は冷たすぎるため、凍傷や水疱が破れるリスクを踏まえ、使用しないことが大切です。 また、衣類が被っているところに低温やけどが起きた場合は、無理に衣類を脱がずにそのまま流水で冷やしましょう。無理に衣類を脱ぐと皮膚が引っ張られて剥がれる恐れがあります。水疱がある場合は、なるべく手指で触れないようにして、破かないよう注意が必要です。 手指のやけどの場合、後から腫れてくることを想定し、あらかじめ指輪は外しておく必要があります。腫れると指輪を外すときに患部に触れて、痛みや炎症が増すことが懸念されます。 低温やけどは皮膚の深部まで損傷がおよぶⅢ度熱傷*と分類されるケースが多いとされています。数週間後に皮膚の変色や知覚鈍麻、黒色壊死を引き起こすこともあるため、小範囲の場合でも早急に医療機関への受診が必要となります。水疱が生じるⅡ度熱傷では、市販薬によって改善することもありますが、細菌感染を伴うと色素沈着やケロイド状の傷が残る可能性があるため、こちらも医師の診察を受けることが大切です。 一方、赤みや痛みのみが生じるⅠ度熱傷では、必ずしも医療機関を受診すべきとはいえませんが、やけどの状態を正確に判断することは難しいため、なるべく受診した方がよいでしょう。特に、顔や手、関節などに起きたやけどは、範囲が小さかったとしても治療を受ける必要性が高いとされています。 *やけどの深度は、熱による損傷が皮膚のどの深さまで達しているかで分類されます。「Ⅰ度熱傷」とは表皮のみの熱傷、「Ⅱ度熱傷」とは真皮までの熱傷、「Ⅲ度熱傷」とは皮下組織まで損傷がおよんだ熱傷のことです。 低温やけどの原因となりやすい環境・機器 低温やけどの原因となりやすい環境と使用機器について理解しておくことで、トラブル防止につながります。それぞれ、低温やけどになりやすい理由とあわせて詳しく見ていきましょう。 湯たんぽ 国民生活センターに、湯たんぽによる低温やけどの相談が寄せられています。金属製の湯たんぽをタオルで三重に巻いて足の下に置き、そのまま就寝したところ、くるぶしに痛みが起きてやけどに気づいたそうです。 湯たんぽは種類を問わず、低温やけどになるリスクがあります。タオルで包んでいたとしても、心地よいと感じる程度の温度で低温やけどになるため、あくまでも布団の中を暖めるために使用し、就寝時はとりだすと安心です。使い方や注意事項については、各メーカーの取扱説明書も確認しましょう。 カイロ 国民生活センターに、腰にカイロを貼って電気毛布を使用して就寝したところ、翌朝にカイロを貼っていた箇所に皮膚の深いところにまでおよぶやけどが起きていたとの相談が寄せられています。貼るタイプのカイロと電気毛布を組み合わせると、貼ったところが熱くなりすぎるため注意が必要です。 ホットカーペット ホットカーペットの上で寝ると、皮膚が触れているところに低温やけどが起きる恐れがあります。 消費者庁によると、薄手の服を1枚着た子どもをホットカーペットの上で寝かせていたところ、3時間程度が経ったころに背中が赤くなったとの相談が寄せられたとのことです。これは子どものケースですが、大人、高齢者でも同じようにやけどをする可能性があります。 * * * 低温やけどは、一般的なやけどよりも軽症なイメージを持つ方もいますが、損傷が深く専門的治療が必要となる場合があります。違いは、やけどを負うまでにかかる時間です。そのため、コンロの火やパネルヒーターなどだけではなく、湯たんぽやホットカーペットなどの使用にも十分に注意しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:吉岡 容子医療法人容紘会高梨医院 院長東京医科大学医学部医学科を卒業後、麻酔科学講座入局。麻酔科退局後、明治通りクリニック皮膚科・美容皮膚科勤務。院長を務め、平成24年より医療法人容紘会高梨医院皮膚科・ 美容皮膚科を開設。院長として勤務しています。 【参考】〇国民生活センター「重症になることも 湯たんぽによる低温やけどに注意」https://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen328.html2024/11/19閲覧〇国民生活センター「低温やけどにご用心 見た目より重症の場合も」https://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen241.html2024/11/19閲覧〇消費者庁「Vol.476 電気カーペットや湯たんぽによる低温やけどに注意!」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20191107/2024/11/19閲覧〇日本形成外科学会「やけど(熱傷)」https://jsprs.or.jp/general/disease/kega_kizuato/yakedo/yakedo.html2024/11/19閲覧

在宅TPPV療法中の看護 観察ポイントや呼吸ケア、栄養管理、外出支援
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2024年11月26日
2024年11月26日

在宅TPPV療法中の看護 観察ポイントや呼吸ケア、栄養管理、外出支援

呼吸ケアにより生命の安全が確保できると、日常生活は安定していきます。その先にある、その人らしい生活や自己実現に、療養者さんやご家族が目を向けられるよう、在宅での支援を模索し続けることが大切です。今回は在宅でのTPPV(気管切開下陽圧換気)療法の看護のポイントやコツについて解説します。 安全・快適に過ごすための観察ポイント ベッド周りや物品配置などの環境調整 退院当初は、療養者さんの生活の場を考慮してベッドの位置、周辺環境を調整します。よく使用する吸引用具や気管カニューレ、蘇生バッグ(バッグバルブマスク)などはベッドサイドに誰もがわかるように整理しておきます。移動が簡単にできるようカートにまとめて整理されている方もいます(図1)。 図1 ベッドサイドのカートの例 家族の手技や健康状態 退院当初は手技獲得のための支援を行いますが、慣れてくると徐々にご家族のやりやすい方法に変化していきます。ご家族のちょっとした言動や療養者さんの訴えから、「吸引圧が40cmH2Oを超えていた」「吸引時間がやけに長い」「経管栄養注入時間が異様に短い」等に気づくこともあるでしょう。ご家族を否定せず、なぜその方法に変化したのか背景を把握しつつ安全な支援方法に修正していきます。 医療依存度の高い療養者さんの支援は介護負担が大きくなるため、ご家族の健康状態や疲労にも目を向けて観察します。 医療機器の管理状況 安全対策のため、次の点を確認します。 呼吸器回路をはじめとしたチューブ類がギャッジアップ時にベッド柵に挟まったり引っ張られたりしてないか固定方法は安全か吸引器・呼吸器などのコンセントの差し込みプラグがゆるんでないか電源ランプがついているか など 特に呼吸器や吸引器を移動する頻度が多い方は、気付かないうちにコンセントの接続がゆるみ、内部バッテリーに切り替わり、突然電源が切れるといったことが起こり得ます。ヘルパーさんやご家族とヒヤリハットを共有し、事故防止につなげましょう。トラブル発生時の対応や連絡先をすぐ分かるところに掲示する工夫も大切です。 療養者の表情や言動、全身状態、呼吸状態 療養者さんの表情や言動、バイタルサイン、視診、触診、聴診、痰の性状や胸郭の動き、浮腫の有無などの全身状態、呼吸状態を観察します。圧管理であれば、モニター表示を見て、最高気道内圧(peak inspiratory pressure:PIP)、1回換気量(Vt)や分時換気量(Mv)、呼吸数等の実測値を確認します(図2)。発熱や何か苦しさを感じる時には呼吸数の変化やVt・呼吸パターンの変化が生じますが、普段の実測値を把握しておくことで変化に気づけます。 図2 呼吸器のモニター表示の例 圧管理では赤枠で囲んだ項目の実測値を確認する。モニター画面の緑色のバーは気道にかかる圧力をリアルタイムで表示している。青色のラインはPIPを示し、現在の圧力は12.9hPaで吸気中であることを示す 例えば、呼吸器回路のわずかな振動や音、触診による胸骨周囲でのラトリング(胸壁の振動)、Vtのわずかな減少、療養者さんの表情で痰吸引のタイミングが分かることもあります。 また、痰がつまってくるとPIPの上昇やVtの低下が見られることもあります。胸郭や肺が徐々に固くなることでも少しずつPIPが上昇しVtが低下します。呼吸数が上昇しMvを維持しますが、それも徐々に低下していきます。 このような長期的な変化は呼吸器のログデータからも把握できますが、その兆候が分かれば早めに対応策を検討できます。グラフィック波形では気道の状態や呼吸器との同調など今の呼吸状態を推測できます。 人工呼吸療法は、換気量の維持と酸素化の改善により安楽な呼吸を支援するものです。ただ、長期療養により人工呼吸器関連肺損傷(ventilator-induced lung injury:VILI)などの弊害も出てきます。呼吸器を使用しているのに苦しい状態を作り出さないよう呼吸の変化を観察し、異常を早期に発見し対処できるように取り組みます。 呼吸ケア:唾液処理、排痰支援、痰の硬さ調整 気道クリアランスケアにおいて重要なのは唾液処理と排痰支援、痰の硬さの調整です。 唾液を吸引する低圧持続吸引器(図3)や痰吸引器(図4)を活用し、唾液や痰の垂れ込みをできる限り予防します。 図3 低圧持続吸引器 図4 痰吸引器 商品の例:アモレSU1(画像提供:トクソー技研株式会社) 排痰補助装置の使用により、痰の喀出を助け、深呼吸代わりにしっかり肺を膨らますケアにつなげます。神経難病患者では、肺や胸郭の柔軟性を維持するために呼吸のリハビリテーション機器(図5)を活用している方もいます。看護師が訪問した時に積極的に身体を動かし、さらに訪問リハビリテーションによる呼吸リハや身体リハにも積極的に活用します。 図5 呼吸のリハビリテーション機器と実際のリハビリテーションの場面 機器の例:LICトレーナー(R)声をかけて人工呼吸器を外し蘇生バッグで加圧する。圧は医師の指示のもと、40cmH2Oまでかけて息止めを3~5秒実施。その後、呼気ラインを解除し、息を吐いてから呼吸器を装着し、呼吸を整える。1日数回実施している*写真は療養者さんご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。 これらの専門性を活かしたケアのほかに、ベッド上で側臥位にしたり、ギャッジアップで身体を動かしたりします。また、車椅子移乗をはじめとした離床は痰を動かし胸郭を広げるケアにつながると考え、生活の中に取り入れるよう提案しています。 痰が硬い場合は、加湿の調整や水分量・薬剤調整を検討します。 できるだけカフ圧計を使用してカフ圧を管理し、合併症を防ぐことも大切です。 長期人工呼吸管理が必要なALS(筋萎縮性側索硬化症)の療養者さんの中には、胸郭の柔軟性低下によりPIP上昇やカフリークといった対応困難な症状を生じる方がいます1)。積極的な呼吸ケアがこれらの症状緩和の一助となり、VILIのリスクを少しでも予防することができるのではと考えケアを継続しています。 栄養管理:過剰な栄養の回避、摂取カロリーの減量 在宅でのTPPVによる人工呼吸管理は、主に慢性期の支援になります。ALSにおいては発症初期〜進行期は体重減少が独立した予後予測因子となりますが、人工呼吸管理期は過剰な栄養の回避、摂取カロリーの減量が必要です2)。TPPV療法の導入後、そのままの栄養量で在宅療養を継続していると、体重が急激に増えていく場合があります。定期的な採血や体重測定などにより、栄養状態を評価し、栄養量を訪問診療医や管理栄養士と相談していくことが必要です。 入浴支援:他職種や関係機関との協働が大切 在宅では、入浴支援は訪問入浴を活用します。入浴スタッフが3名で訪問し、持参した浴槽で入浴をサポートします(図6)。入浴に訪問看護師が同席するわけではありませんが、その時間帯にご家族が休息を希望される場合や、呼吸や全身状態が不安定な状況により入浴スタッフが不安を感じる場合は同席しています。 入浴は療養者さんにとって楽しみの1つですが、特に終末期が近くなると体調が安定せず入浴できる機会が減ってしまいます。療養者さんやご家族の意向を汲み取り、少しでも安楽への支援の1つとなるよう関係機関と恊働しています。 図6 入浴時の様子 呼吸器につないだ状態で入浴の介助を行う。入浴中にご本人の訴えが分かるように文字盤をそばに置くようにしている(写真では机の上にある)*写真は療養者さんご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。 外出時の支援:移動方法や物品、人手を確認 外出はご家族やヘルパーさんと行うことが多く、持参物品、機器類の管理、呼吸トラブル時の対応などを想定し指導を行います。 療養者さんが初めて外出する場合、車椅子移乗動作を支援します。ほかに、室内廊下のクランクに車椅子が通るのか、階段の昇降方法など部屋から道路までの動線を確認します。公共交通機関を使用する場合は乗車場所の確認や支援依頼のための事前連絡などが必要となります。 持参物品も人工呼吸器、吸引器などの医療機器類が多くを占めます。呼吸器のバッテリー耐用時間を確認し、外出時間により予備の外部バッテリーの準備、それ以上の時間を要する場合は携帯型の蓄電池を準備します。 また、外出先や外出時間によって支援者の人数がどの程度必要か、ご家族やヘルパーさんと相談します。 コミュニケーションの実際 まずは安全のために誰かを呼べる手段を確立します。手足が動けばスイッチやボタンを設置します。身体を動かせない療養者さんの場合、視線入力装置やピエゾセンサーを活用します。中には呼吸器のアラームを鳴らしてコール代わりにする方もいます。 近年は、さまざまなコミュニケーション手段が増えましたが、ケア中は処置をしながらコミュニケーションをとることが多く、原始的な透明文字盤や口文字盤を活用します。ただ、ALSの療養者さんの場合、病状が進行すると眼球の動きを捉えづらくなります。療養者さんがよく希望されることをまとめた文字盤に切り替えますが(図7)、それも難しくなると「はい」「いいえ」で微かに反応のある方で意思確認を行います。表情や呼吸数、Vt、脈拍などの変化から普段と違う「何か」を読み取ります。 コミュニケーション手段を活用できない療養者さんの意思を汲み取るため、それまでの関係性から、「この場面ではこれを希望することが多かった」「このような反応を示していた」など、推測することも多くなります。療養者さんと支援者の信頼関係の構築により成り立つコミュニケーションがとても大切になると感じています。 図7 文字盤の例 療養者さんがよく希望することをまとめてオリジナルの文字盤を作成している 執筆:温盛 由紀子あい訪問看護ステーション平尾 所長監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)芝崎伸彦,小西かおる,宮川哲夫.「長期人工呼吸、合併症とその対応(ALSの気管拡張に着目して)」.日本難病看護学会誌 2021;25(3):226-229.2)清水俊夫.「筋萎縮性側索硬化症の代謝異常と栄養療法」.神経治療 2022;39(1):22-26. 【参考文献】〇山本美保.「TPPV管理中の呼吸状態のアセスメントとケア」.みんなの呼吸器Respica 2022;20(6):795-801.〇本間武蔵.「支援経験での気づき」.難病と在宅ケア 2021;26(12):32-36.

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