コラム

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!

「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、嚥下機能が低下しても誤嚥を起こさなくする、誤嚥防止術のお話です。

誤嚥防止術という選択肢

ALS患者さんで、気管切開は受けても、誤嚥防止術まで受ける人はかなり少ないのが現実です。

気管切開をするかどうかギリギリまで悩んで、結果的に呼吸状態が悪化して緊急処置として気管切開をする人もいます。また気管切開をするかどうかで頭がいっぱいで、その先にある誤嚥防止術のことまで考えられない人や、そもそもその選択肢を知らない人もいます。

気管切開をして人工呼吸器をつけて生きていくと決めた人には、誤嚥防止術を受ける選択肢もあることを、ぜひ知っておいてほしいと思います。

気管切開をするとどうなる?

気管切開という手術は、文字どおり気管を切開して、気管と外部(皮膚)を交通する孔を開ける方法です。その孔に外部からカニューレという管を入れて、そこに人工呼吸器をつないで呼吸をサポートしてもらいます。

気管切開術

この方法で安定した呼吸状態が確保されます。カニューレには、空気で膨らむ風船のようなもの(カフ)が付いています。カフを膨らませることで、カニューレを気管内に固定することができ、同時に、喉から気管内に垂れ込んでくる唾液をせき止める働きもします。しかし、垂れ込みを完全に予防することはできず、カフの脇から垂れ込んだ唾液は適宜吸引しないといけません。吸引しきれず肺の奥に落ちてしまった唾液は、誤嚥性肺炎の原因になってしまいます。

唾液の垂れ込みを防ぐ誤嚥防止術

唾液の垂れ込みを完全に防ぐために気道の一部を閉鎖する手術が、「誤嚥防止術」です。喉頭を温存するか・気道をどの部分で閉鎖するか(声門上か、声門部か、声門下か)などによって、いろいろな術式があります。
誤嚥防止術

誤嚥防止術

以上のように、さまざまな術式がありますので、誤嚥防止術を検討される人はぜひ主治医と相談してみてください。

誤嚥防止術のメリットとデメリット

私は将来的に誤嚥防止術を受けると決めており、手術や入院の回数を減らすため、気管切開+声門閉鎖術を同時にしました。

嚥下機能・発声機能が残っている人や、いきなり誤嚥防止術を受けることに抵抗がある人は、呼吸状態を安定させる目的で、まずは気管切開のみで様子をみる。その後嚥下機能が低下して、唾液の垂れ込みが多くなって気管吸引の回数が増えたり、誤嚥性肺炎を起こしたりがあれば、改めて誤嚥防止術を行うという方法もあります。

誤嚥防止術を行うメリット
・気管吸引の回数が減るので、本人・介助者ともに負担が軽減される
・誤嚥性肺炎を起こすリスクがなくなる
・誤嚥をするリスクがなくなるので、多少の嚥下機能が残っていれば、食べかたの工夫(後述)しだいで長期間食事を楽しめる
誤嚥防止術を行うデメリット
・発声を失う
・気管切開のみ受けた人は、もう一度入院して手術を受けなければならない
・手術をできる医師と施設が少ない

食べかたの工夫

以下は、私が行なっている方法です。個々の嚥下機能に依存しますので、すべての人ができるわけではありませんので、お試しする際は必ず主治医の同意のもと、言語聴覚士(ST)さんとともに行なってください。

嚥下の工夫

嚥下機能が低下していて気管切開(誤嚥防止術)をしていない場合は、誤嚥を予防するために顎を引くようにして嚥下するのがよいです。頸部を後屈した姿勢で嚥下しようとすると誤嚥しやすくなるので、注意が必要です。

誤嚥防止術を受けている場合は誤嚥をする心配がないので、逆に、頸部を後屈したほうが飲み込みやすいです。頸部を後屈した姿勢で、食べ物を飲み込むタイミングで介助者に顎を上げてもらい、嚥下反射を促してもらいながら、重力を利用して食事を喉の奥に落とすイメージで嚥下します。表現が悪いかもしれないですが、鵜飼いの鵜のイメージです。私はベッドの角度を40度まで上げて、枕を薄くして首を後屈した状態で食事をとるようにしています。

レシピノート

食形態の工夫

残存する嚥下機能にもよりますが、一般的には、食事の形態もできるかぎりペースト状やトロミ食のほうが、嚥下はしやすくなります。粒状のものは、喉の奥に引っかかる感じがして嚥下しにくく、私の場合は喉の奥を綿棒でつつかれた感じがして、嘔吐反射を起こします。

私は、固形物を食べたいときは、ガーゼに包んで奥歯で咀嚼し、食事の味だけを楽しんでいます。味を搾り出した後はガーゼごと取り出します。この方法はかなりおすすめで、果物など汁気の多い食べ物はもちろん、焼肉やお刺身から、ラーメンなどの麺類まで、幅広く楽しむことができます。

ちなみに私は、焼肉をガーゼに包んで奥歯で咀嚼して味を絞り出した後に、味付けした生卵とお粥を食べて、「すき焼き風」にして楽しむことが多いです。

液体の飲みかたの工夫

飲み物などの液体は、嚥下機能が弱くても重力を利用して比較的簡単に摂取することができます。ただ、コツがいります。ふつうのコップで飲もうとすると口の脇からこぼれてしまいます。

上述した食事のときの体勢をとり、介助者に顎を上げてもらい後屈した姿勢を保ちながら、舌の真ん中~やや奥に飲み物を入れるとこぼさずにうまく飲めます。

私は30mLのカテーテルチップ型シリンジに飲み物を入れて、口に差し込んで飲んでいます。この方法ですと、ちょうどシリンジの先端が舌の真ん中あたりにきます。目盛が付いているため一回に入れる量も調整しやすく、おすすめです。

シリンジ(カテーテルチップ)

味覚変化をふまえた介助の工夫

誤嚥防止術をしてもしなくても、気管切開をして人工呼吸器を装着すれば、鼻腔に空気は通らなくなるため、匂いはほとんどわからなくなります。

また私の場合は味覚も変化しました。甘味・塩味は変わりませんでしたが、苦味・酸味・辛味などは強く感じるようになりました。特に苦味はかなり強く、大好きだったコーヒーやビールは飲めなくなりました(人によると思いますが)。

ちなみに、甘味・塩味は舌先で感じるので、介助者には舌の手前~真ん中に食べ物をのせるように食事介助してもらうと、より味を感じやすくなると思います。

以上、私が思いつくかぎりのメリット・デメリットを書いてみました。誤嚥防止術を行うかどうかの参考にしていただけたら幸いです。

コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

記事編集:株式会社メディカ出版

【参考】
〇荻野美恵子ほか編.『神経疾患の緩和ケア』東京,南山堂,2019,364p.

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