コラム

異なる支援ニーズへの対応と地域コミュニティ

情報提供の必要性

アメリカの疾病対策予防センター

日本の防災の手引きには、これまであまり状況や対象特有のニーズに合わせた情報提供がなされてきませんでした。
米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では、災害準備向けの情報発信を積極的に行っています。
北米はエリアによって、起こりうる自然災害が多岐にわたりますので、その災害タイプ別(地震、雷、火事、水害、津波等)に、個人で行える災害準備のポイントを解説しています。何より重要なこととして、災害発生時には手助けが来るまでに時間がかかることから、災害発生時に耐えうる自らの災害準備が重要であることがわかりやすく解説されています。
また興味深いのは、準備においてもその支援ニーズが異なることから、特に支援が必要な人やその家族向けに、例えば、高齢者向け、障がいのある人向け、妊婦や出産を予定しているご夫婦向け、医療ニーズのある子供とその家族向けなど、対象別に情報提供をしていることです。
このような情報提供は、支援ニーズが多岐にわたる高齢者にとっては非常に有用ですので、ぜひとも各自治体の防災の手引き等の情報提供に反映されることが望まれます。

異なる支援ニーズ

また、高齢者と一言で言っても、生活の上で介護が必要な方、そうでない方、家族と住んでいる方、住んでいない方等様々ですので、その方の状況をまずはしっかり把握したうえで、災害準備の計画を立てる必要があります。
特に要介護高齢者の方の災害準備を進める上では、「ご本人が必要とする生活上の必需品」、「ご本人の身体機能や認知機能の程度」、「ご本人が得られる支援」という軸で必要な災害準備の内容を整理し、災害準備計画につなげることをおすすめします。
また「ご本人が得られる支援」は時間帯によっても異なります。就寝時、介護保険サービスの利用時、家族と家で過ごしている時、家族が不在の時等、災害は24時間起こりえることを理解し、その時々の状況について計画を検討する必要があります。
なお、災害時個別支援計画を作成している訪問看護ステーションの例もありますので、参考にしてみてください。

地域コミュニティの役割

身体機能が低下しつつある高齢の方にとっての災害準備には、地域のつながりも重要になってきます。
というのも、災害はいつ発生するかわかりません。いつもなら頼れる家族がそばにいても、災害発生時に仕事や買い物などで、近くにいないということも考えられます。
また災害の起こりうる状況は地域によって異なりますので、地域別の情報を共有しておくことはとても重要になってきます。
第1回コラムで紹介した調査結果においても、地域住民とのネットワークの状況が、介護が必要な高齢者の災害準備を進める鍵であることが示唆されています。
地域住民とのネットワークが密であるほど、つまり、地域においてネットワークがない人や日常会話程度のネットワークのみの人に比べて、ある程度介護のことを話したり、情報を共有するネットワークを持つ人の方が、災害準備が進んでいる状況が明らかになっており、災害準備において地域での情報共有が重要であることを示しています。
これは、介護が必要な高齢者の身体・認知機能を少しでも共有しておくことで、いざという時に声をかけてもらえたり、避難所や支援、災害準備に関する情報の共有が、日頃から自然と進められているためであると考えられます。

東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学)
涌井智子

専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。  

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