コラム

2020年、医療現場のオンライン化で訪問看護はどう変わる?徹底解説

コロナによる大幅な規制緩和

2020年はコロナ一色の1年となりましたが、医療現場のオンライン化をめぐる状況も大いに変化した年となりました。2020年は、2018年のオンライン診療保険収載後初の改定ということで、3月に告示された改定概要は注目されましたが、適応要件の若干の緩和(※1)があるのみで、オンライン診療をめぐる制度の大幅な変更はありませんでした。
むしろ現場に大きな影響を与えたのは、政府の緊急事態宣言発出直後の4月10日に通知された厚労省の事務連絡です。

非対面の診療行為が初診から可能に

この通知による時限措置で、これまでさまざまな要件で縛られていた情報通信機器を用いた非対面の診療行為は、医師の判断により「初診から可能」となり、対象疾患の範囲も制限が事実上なくなりました(※2)。
この緩和は服薬指導の領域にも及び、本来9月の改正薬機法の施行をもってスタートするはずだったオンライン服薬指導は、薬機法の規定よりも大幅に緩和された形で、半年先だって事実上の解禁となりました。
この状況は時限的なものですが、菅総理も今回の緩和の枠組みの恒久化に意欲を見せており、厚労省も時限措置の延長決定を続けています。
厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(以下、ガイドライン検討会)の資料からも、2021年の夏~秋を目指して、時限緩和を踏まえた新たな恒久制度のとりまとめとガイドライン改定の検討が進んでいくものと思われます。(※3)

オンライン化の実態は?

当然この通知直後は、オンライン診療システム「YaDoc」の開発を行っているインテグリティ・ヘルスケにも、混乱する現場から多くの問い合わせが寄せられ、実際にYaDocの導入件数も大きく伸びました。
一方で、前述のガイドライン検討会で報告された通り(※4)、2020年10月末時点で、当該時限措置を踏まえ電話や情報通信機器を用いた診療を実施可とした医療機関は、全体の15%にとどまっており、増加の伸びは第1波が終息した6月以降は停滞しています。
さらに増加した非対面診察の多くが電話での診察であり、またアプリを用いたオンライン診察の多くは小児科(若い世代の親がスマホなどを使って自宅の子供と遠隔の小児科医を繋ぐ形式)で、60歳以上世代での慢性疾患管理のオンライン化は依然進んでいない実態も明らかになりました。
電話よりも多くの情報をやり取りできるオンライン診療システムが、コロナ重症化ハイリスク層である慢性疾患を持つ高齢者に対し提供できる価値は大きいと考えます。しかし同時に、高齢者のITリテラシーという大きなハードルの存在を、2020年を通じ改めて認識されられました。
インテグリティ・ヘルスケアの感覚値としても、コロナ第2波、第3波では、第1波のような混乱と熱気はなく、医療機関も極めて冷静に、自院患者のニーズに応じたオンライン診療システム導入可否の判断を行っているようです。
むしろ秋以降、第1波でトライアルを回した大規模な病院が、満を持して予約や決済などの病院全体のオペレーションに適合したオンライン診療システムを改めて公募~正式採用、という事例が増えているように感じています。2021年に向けて国側で恒久制度のとりまとめが進むのと並行して、多くの大規模な病院組織的なオンライン化が進んでいくものと思われます。

訪問看護領域への影響

このオンライン化の波が、訪問看護の領域にどのように影響を与えていくのでしょうか。
まず細かい点でいえば、2020年改定での退院時共同指導料の算定におけるオンライン活用要件の緩和(これまで退院時カンファは原則対面&やむを得ない場合にのみオンライン可だったが、今回から必要な場合はオンラインOKとなった)が挙げられます。

D to P with N

しかし本質的な影響として重要なのは、「D to P with N」の普及と制度化だと思います。「D to P
with N」とは、在宅の患者へのオンライン診療時、患者宅に看護師が同席し、デバイス操作を補助したり、医師による追加的な検査指示への対応をその場で行うモデルで、慢性疾患の増悪の早期発見などに役立つと期待されています。
厚労省のガイドライン検討会では、2019年7月にガイドラインのオンライン診療の定義内に「D to P with N」モデルを加筆しました。最近の検討会の議論の中でも、現状まだ過疎地や希少疾患などに限られている「D to P with N」の運用を、より一般的な疾患管理にも拡大し、有効な活用事例を収集・紹介するなどの推進策を検討してはどうか、といったやり取りがなされています。(※5)
今後、医療職へのワクチン接種などが進み、高齢患者宅への訪問看護のリスクが現状よりもさらに下がった暁には、オンライン化の大きなハードルである高齢者ITリテラシー問題を、「D to P with N」モデルが解消してくれる可能性が大いにあると期待しており、恒久制度にどのように盛り込まれるか、注視していきたいと思っています。

株式会社インテグリティ・ヘルスケア デジタルセラピー事業
増崎孝弘
2011年、株式会社メディヴァ(医療コンサル)にて、在宅医療・地域包括ケア関連のコンサルティング業務を担当、2017年よりインテグリティ・ヘルスケアに参画。福岡市でのオンライン診療の実証事業の現地事務局を担ったのち、現在は疾患管理システムYaDocを基盤に、製薬・医療機器メーカー向けのアプリケーションの開発やそれらを用いた臨床研究のプロジェクトマネジメントを担当中。

介護報酬、診療報酬改定についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

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