コラム

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢①〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、梶浦さんが使ってみてよかった道具や工夫を紹介する、実用編です。ALSはもちろん、ほかの疾患などの方たちの生活にも参考にしてください。

「実用編」でお伝えしたいこと

ALS患者が自分らしく生き抜いていくのに、最も必要なものは「情報」です。

徐々に動かなくなる体に対応させて、できることをいかに維持していくかが課題になっていきます。そのためにはさまざまな工夫や道具が必要です。その情報を得るため、多くの人はインターネットで調べることになるのですが、ここに大きな落とし穴があります。

前回のこの連載で書きましたが、ALS患者はたくさんの苦悩を乗り越えながら何年もかけて自分の病気を受け入れていくことになります。

インターネットで調べたら、自分が欲しい情報だけ入ってくるわけではありません。溢れ返るnegativeな情報のなかから、自分が欲しい情報を探し出さないといけません。それは、病気をまだ受容できていない段階の患者にとっては、とてもつらく苦しい作業です。知る必要のない情報や、知るにはまだ早すぎる情報は、ときにはpositiveに生きていこうという気持ちも折りかねません。

私も、最初のころはインターネットを使って、役に立ちそうな情報を探し回っていましたが、欲しい情報にたどり着く前に心が折れて、何度も挫折して、そのうち探さなくなった経験があります。この連載では、そんなnegativeな情報をそぎ落として、positiveで有益な情報のみを伝えたいという思いで書いてきました。

そんななかで、私自身が今まで工夫してきたアイデアや、使ってきてよかった物を「実用編」として、具体的にご紹介していきたいと思います。

ALSと道具とのつきあい

ALSは、徐々に全身の筋肉を動かせなくなっていく進行性の神経難病です。初発症状は上肢(40%)や下肢(33%)やのど(25%)にあらわれやすく、文字が書きにくい、箸が持ちにくい、歩きにくい、つまづきやすくなった、声が出しづらい、飲み込みにくくなった、などの症状から始まります1)。その後は、徐々に全身の筋力が同時多発的に低下していきます。

徐々に症状が進んでいき、月単位でできないことが増えていく時期を「進行期」と考えます。症状が進行して体を動かすことができず、人工呼吸器を装着して、基本的にはベッド上で生活する時期を「維持期」と考えます。

特に「進行期」では、いかに工夫して、それまでできていたことを維持していくかが大切になっていきます。介護保険を使い、いろいろな福祉用具のレンタルや購入ができるのですが、それらの多くは病院で作業療法士(OT)さんや理学療法士(PT)さんが紹介してくれます。この連載では、そんな一般的な福祉用具も紹介しつつ、多くの人が教えてもらわないであろう工夫や道具を中心にご紹介したいと思います。

また進行期は、個人差はあるものの、一般的には症状の進行が速く、高価な福祉用具を購入したのに数か月しか使えなかった……なんてこともしばしばあります。「実用編」では、長く使えそうなものや、安価で購入できるものを中心に、初発症状の頻度の高い上肢→下肢→のど、の順番に、お役立ち情報をまとめていきます。

ALSに限らず、他の神経難病や脳卒中の後遺症、脊髄損傷の方など、さまざまな方たちにも応用できる内容も多いと思いますので、参考にしてみてください。

指先の筋力が低下しても使える箸

私も含めて、初発症状が片側上肢の遠位側(指先)の筋力低下から始まり、頭側(腕〜肩にかけて)の筋力低下を徐々に自覚するようになる方が比較的多くいます。遠位側の筋力低下で初めに困るのは、指先の細かい動きができず、箸などが持ちづらいことです。福祉用具で、トングのようにお尻の部分がつながっている箸などがあるので、参考にしてください。

腕を上げにくくなったときの工夫

症状が進行すると、腕を上げて食事を口まで持っていくことが大変になっていきます。そうなってくると食卓の上に台を置いて、その上に食事を乗せて、口と食事までの距離を近くすることで食べやすくなります。

また、肘を食卓に乗せることでも、腕の重さが軽くなります。腕を支えてくれる、momoという福祉用具もあるため参考にしてください。ただ、ALSの進行具合によっては、数か月程度しか使えないこともありますので、注意が必要です。

ポケットで腕の重さを支える

このころには、歩行時に腕の重さを支えるのがつらくなってくるのですが、このことを病院で相談したら、骨折した時によく使う、腕を支える三角巾のようなものを紹介されました。ただこの時期のALS患者の多くは、とうていまだ自分がALSであることを受容できていません。多くの人は、自分が病気であることを周囲から隠そうとします。三角巾のような目立つものを着ける気にはなれないのが正直なところだと思います。

なので、私はポケットが中央でつながっている服やポケットが深い上着を着て、ポケットの中に手を入れて腕を支えていました。

座った状態で腕を支える

この段階で、とても役に立ったのがニトリのこのビーズクッションです。

これは、座った状態で腕が上げづらく、スマートフォンが使いにくかったので購入したのですが、座って膝の上に置いたときのクッションの角度が絶妙で、腕を乗せて安楽な姿勢をとりながらスマートフォンを操作できるので、かなり便利でした。

まったく腕が上がらなくなりスマートフォンを持てなくなっても、クッションの上に百円ショップなどで売っている滑り止めシートを貼って、その上にスマートフォンやタブレットを置いて使えます。

ちなみに私は、いろいろな素材の同じものを5個も買ってしまいました。クッションの中のビーズを出し入れできるので、別売りの補充用ビーズでボリュームを調整できます。ぜひ参考にしてみてください。

コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

記事編集:株式会社メディカ出版
記事協力:有限会社ウインド
     テクノツール株式会社
     株式会社ニトリホールディングス

【参考】
1)日本ALS協会.初期症状と診断.
https://alsjapan.org/care-early_symptom/

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