コラム

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~上肢②コミュニケーションツール~

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は実用編の第2弾。梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介します。ALSはもちろん、ほかの疾患などの方たちの生活にも参考にしてください。

指が動かなくても操作できます!

上肢の障害が進行していちばん困るのは、指先の細かい動きができなくなり、パソコンやスマートフォン、iPadなどのタブレットの操作ができなくなることではないでしょうか(患者さんの年齢にもよると思いますが)。ALS患者にとって、パソコンやスマートフォン・タブレットは、外部とのつながりを保つための必要不可欠なツールなのです。私はこれで仕事やメール・LINEなどあらゆることをやっていたので、指が動かなくなってきたときは、かなり途方に暮れました……。

しかし、ご安心ください! 指が動かなくなったって、パソコンやiPhone/iPadを操作することができます。

視線入力装置

まずパソコンです。指でキーボードやマウスを操作できなくなったら、視線入力装置を使って、目の動きでパソコンを操作することができます。視線入力装置は、ふだん使っているパソコンに後付けできます。

選択したいアイコンなどに視線を合わせて、そのまま見つめつづけるなどで操作が可能です。設定により操作方法はいろいろと可能です。個人で設定するのは難しいと思いますので、作業療法士(OT)さんなどに相談してみるとよいかと思います。

視線入力装置は、ALS患者さんの間では昔から普及しています。いくつか種類があり、助成金が出る場合もありますので、その点も含めて相談してみるとよいかと思います。

目を使わなくても操作できる

私は、大学で講義をするときは、視線入力装置を用いてパソコンのプレゼンソフトを操作してスライドを作っています。

ただ視線入力装置は画面をずっと見つづけないといけないので、長時間作業していると目が疲れてしまいます。

なので、ふだんは、歯のわずかな噛む力を使ってタブレットを操作しています(歯でどうやって操作しているかは、後で具体的にご紹介します)。これなら視線は自由に動かせるので、目の疲労が少ないですし、テレビを見ながら仕事やメールができ、視線を用いた会話(エアーフリック式文字盤)も自由にできます。

タブレットなどを外部スイッチで操作できる機能

最近は、障がい者でもタブレットなどを操作できる機能が備わっています。たとえばiPadだと、2013年のiOSバージョン7以降、設定によって、画面を触らなくてもさまざまな操作ができます。

自分がよく使う動作を中心にカスタマイズできますので、OSのサポートから調べてみてください。

私が使っている外部スイッチ

外部スイッチでとてもおすすめなのが、「ピエゾニューマティックセンサースイッチ PPSスイッチ」です。これは、ALSをはじめとする難病患者のことを考えて設計された入力装置(スイッチ)で、使用者の状態に合わせて、圧電素子(ピエゾ)と空圧(ニューマティック)の二種類のセンサーを選択できます。

圧電素子(ピエゾ)センサー

ひずみ・・・ゆがみ・・・を感知して、信号を出力するセンサーです。ごくわずかな筋運動でもスイッチを押すことができます。

直径17mmのセンサー部を、体のどこでもよいので、まだ自分の意思で少しでも動かせる部位に医療用テープで貼り付けて使用します。指の関節部分や、おでこに貼り付けて使っている人が比較的多い気がします。私は左足の第二指が最後まで自分の意思で動かせたので、ここにセンサーを貼り付けて使っていました。

空圧(ニューマティック)センサー

センサー部のエアバッグを触れることで反応するセンサーです。わずかな力で操作可能です。空気を少しでも動かせるものであれば、付属のエアバッグ以外で代用することもできます。

私は、手の指がわずかに動かせる間は、百円ショップで売っているおもちゃのゴム風船や、ゼリー飲料の空き容器に空気を入れて、エアバッグの代わりにセンサーの先に付けて使っていました。

空圧センサーを使って歯で操作する

気管切開をしてからは、マスク式の人工呼吸器が外れたため、口が自由に動かせるようになりました。そこで、吸引カテーテルの先端をハサミで切り、アイロンで穴を塞いで、空圧センサーに接続し、それを歯で噛んでセンサーとして使っています。

私はさらに、このカテーテルに低圧持続吸引装置注1のカテーテルも結び付けて、唾液を吸引しながらiPadを操作しています。

注1 口腔内の唾液を低圧で持続吸引する装置。私が使っているのはシースターのコンセント式設置型低圧持続吸ポンプです。

この方法は一石二鳥で、かなりおすすめです。ただ長期間同じ場所で噛んでいると歯列が乱れてくることがありますので、マウスピースを装着したり、噛む歯を変えながら使用することをおすすめします。マウスピースは、訪問歯科の先生が、在宅で歯型を取り、作ってくれます。余談ですが、むせ込んだときに歯を食いしばってしまう方にも、舌を噛まないようにマウスピースを装着することをおすすめします。

※編集部注
記事内容は執筆者個人の見解・経験です。PPSスイッチのチューブを噛んで操作することは個人の能力に依存し、メーカーが推奨する使用方法ではありません。

コラム執筆者:医師 梶浦智嗣

記事編集:株式会社メディカ出版
記事協力:パシフィックサプライ株式会社
     シースター株式会社

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