在宅医療はおもしろい! 〜全員主役の理想的なチーム医療〜
ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は在宅医療を支える、ドーナツ型のチーム医療のお話です。
医療現場のチームの形
一言で「医療現場」といっても、さまざまな医療現場があります。高度な医療を必要とする患者さんを診る大病院、地域の医療を支える中~小規模の病院、長期療養型の病院や、在宅医療など、それぞれで、求められる医療形態は異なります。
従来型の医療現場は、医師を頂点にした「ピラミッド型」によく例えられます。これは、医師が治療方針を決めて、看護師をはじめとした医療スタッフに指示を出して治療を進めていくものです。シンプルで、比較的少ない医療スタッフで多くの患者さんを診ることができ、効率的な方法です。一方で、他職種の意見や、何よりも患者本人からの細かい声が医療現場に届きにくいデメリットがあります。
最近では、疾患にもよりますが、患者さんの治療とともに、その後のリハビリテーションや社会復帰を共通のゴールとして、医師を中心に看護師や理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリスタッフ、薬剤師、社会福祉士など、多職種が協力・連携する「チーム医療」が主流になっています。
そんなチーム医療のなかでも、理想的な形が在宅医療だと私は思います。
在宅医療現場でも、もちろん医師が治療方針を決めるのですが、生活の基盤をつくるのはヘルパーさん・看護師さん・リハスタッフさんたちです。皆それぞれ自分にしかできない役割を果たしながら、強い横のつながりでチーム一丸となって私を支えてくれています。
私の家の場合 ~ドーナツ型の医療体制
医師は毎週往診に来て、薬剤の調整や、気管カニューレ・胃瘻カテーテル交換などの必要な医療処置を行い、一週間の経過や今後の注意点などを総括して、各訪問看護ステーションや訪問介護事業所に連絡してくれます。
看護師さんはそれをもとに、毎日の体調管理や人工呼吸器の管理などの医療的なケアから、筋肉や関節の拘縮予防のマッサージや入浴介助など、日々の生活に必要なさまざまなケアをしてくれます。
理学療法士さんはLICトレーナー(肺を膨らませた状態を維持して、肺や胸郭の柔軟性を保つ道具。後々紹介します。 ALS患者に必要な情報「実用編」 ~のど~ 参照)を用いた呼吸理学療法や、拘縮予防のストレッチ全般を行なってくれます。また、私の所に来てくれている理学療法士さんは作業療法士さんの役割も兼任してくれており、タブレットを操作するスイッチの調整など日常生活に必須な機械類の整備をしてくれます。
言語聴覚士さんは、私に合った食事方法を食材ごとに考え、食事介助をし、それらをまとめてレシピノートを作成して、ヘルパーさんに伝達してくれます。この連載第3回( 在宅療養開始 ~スーパー理学療法士(PT)現る!~ 参照)で最後の食事の話を書きましたが、その後気管切開+声門閉鎖手術を受け誤嚥のリスクがなくなり、再び食べることができるようになりました。ただ、舌はほとんど動かせず、飲み込む力もかなり弱いため、食事形態や食べ方には工夫が必要です(後々紹介します。「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)。
薬剤師さんは、医師の処方箋をもとに薬剤を自宅まで届けてくれ、「お薬カレンダー」に朝・昼・夕・就寝前の薬剤をセットして日々の薬の管理をしてくれます。
そしてヘルパーさんは、口腔内・気管内の吸引や、カフアシスト(強制的に咳を出す機械。後々紹介します。ALS患者に必要な情報「実用編」 ~のど~ 参照)を使った排痰ケアや、食事介助や口腔ケア、入浴介助、細かい体位変換や、天井走行リフトを使ってトイレや車いすに移乗したりと、日常生活のほとんどすべてをサポートしてくれます。また2人介助で毎週外出もしています。
皆さんとても思いやりのある細やかなケアをしてくれます。
このように、それぞれの職種の人たちがお互いに情報を共有しながら、多面的に私を支えてくれています。これはまさに、患者を中心とした「ドーナツ型」の医療体制であり、理想的なチーム医療の型だと思います。
わが家のクリスマス会
コロナの第5波が落ち着いて、東京都の感染者数が二桁になった2021年12月上旬に、感染対策もしっかり行ないながら、わが家でクリスマス会を開催しました。
主治医はもちろん、看護師・理学療法士・言語聴覚士・ヘルパーさんなど多職種の人たちが集まってくれました。私も言語聴覚士さんに介助してもらいながら、皆さんが持ち寄ってくれたおいしいお酒や食事を味わいながら談笑したり、その横で、22歳の若いヘルパーさんと主治医が将来の在宅医療や介護士不足の問題について熱く語り合っていたりと、とても楽しくて居心地の良い時間でした。
ただの食事会ですが、そこには何の上下関係もなく、皆が横の絆でつながっている、理想的なチーム医療の縮図を見たような気がしました。
コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版 |