コラム

ALS患者に必要な情報「実用編」 ~その他のお役立ち情報~

エンジョイALS

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、梶浦さんが実際に使用した道具や工夫を紹介する「実用編」の第6弾。ALSはもちろん、ほかの疾患や障がいをもつ人たちの生活にも参考にしてください。

はじめに

「実用編」では、ALSの初発症状の頻度に合わせて、上肢、下肢、のど、の順でお役立ち情報をまとめてきました。今回は、これまでの分類には当てはまらなかったもので、私の在宅療養生活で必須になっているお役立ち情報を紹介したいと思います。特に今回はALS患者さんに限らず、さまざまな疾患の人に応用できるかと思います。

LINEを使った、日々の申し送りノート

ALS患者さんのように、ヘルパーさんによる長時間の介護を必要として在宅療養を行なっている患者さんの多くは、毎日の体調や日々のケア内容の変更点などを写真のような申し送りノートに記載し、ヘルパーさん・看護師さんたちの間で情報を共有していきます。

在宅療養申し送りノート

私も、在宅療養を始めて間もないころにノートでの申し送りをすすめられて、使っていました。しかし使っていくうちに、人に見せてもらわないとノートを見られない、伝えたいことを自分で書き込めない、ノートが増えてくると過去に書いた大事な内容を読み返そうとしてもなかなか探し出せない。などなど、さまざまな問題点が出てきました。

そこで、とても便利だったのが、タブレットにLINEをインストールし、申し送りノートをペーパーレス化する方法です。

まずは、ヘルパーさん・看護師さん・リハビリテーションスタッフさんたち専用のタブレットを用意します。用意したタブレットにLINEのアカウントを作り、「◯◯家在宅療養ノート」といった名前で、自分や家族とのLINEグループを作ります。そのLINEグループ内に日々のケア内容を記載していきます。

この方法ですと、自分専用のタブレットでも記録を確認しながら、ヘルパーさん・看護師さん・リハスタッフさんたちに伝えたいことを自分で書き込めます。また家族が、外出中にもケアの状況を確認できます。

そして何よりも便利なのが、写真や動画を共有できることです。たとえば、看護師さんが「こんなところに気をつけてケアをしてください」とヘルパーさんたちに伝えたいときや、ケア内容を変更したときなど、写真や動画を使って説明すると、とても伝わりやすくなります。

写真や動画は閲覧期限があり、そのままだと期限が過ぎると見られなくなってしまいます。なので、写真や動画で残しておきたい重要な情報は、「ノート」機能を使い、ここに保存しています(LINE画面の右上にある、ハンバーガーメニュー(≡)から「ノート」をタップすると作成できます)。検索機能もあるため、過去の情報も簡単に取り出すことができます。

SNSツールで情報共有

指伝話プラス

声が出しにくくなってから、便利なのが、「指伝話プラス」というアプリです。ふだんよく使う文章をアプリ内にあらかじめ保存しておき、保存した文章をタップすることで、アプリが人工音声で読み上げてくれます。「おーい◯◯さん」「頭の位置を直してください」「腕を置き直してください」などのよく使う言葉を入れておくことで、ワンタッチで伝えることができます。

短文だけではなく、長文を保存することもできます。私は声が出せなくなってから、このアプリの人工音声だけを使って大学で90分の講義をしたこともあります。

「指伝話プラス」の無料お試し版として、「指伝話ちょっと」もあり、まずはこちらを試してみてもよいかもしれません。

気管内の痰を低圧持続吸引できる専用機器1)

気管切開をして人工呼吸器を装着している患者さんは、自分の力では痰が出せませんので、適宜、気管内の痰の吸引が必要です。特に、本連載の第16回(「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!を参照)でも書きましたが、誤嚥防止術をしていない患者さんだとカフの脇から漏れて気管内に垂れ込んでくる唾液も吸引しないといけないので、吸引回数が多くなります。吸引回数が多いと、患者・介護者ともに負担が大きくなってしまいます。

そこでとても便利なのが、気管内の痰を24時間自動で持続的に低圧で吸引してくれる「アモレSU1」という機械です。

アモレSU1は、ALSをはじめとした人工呼吸器が必要な患者さんの気管吸引による負担を減らすために開発されたものです。私もこれを導入してからは気管吸引の回数も減り、かなりQOLが上がりました。

使用するには、「コーケンダブルサクションカニューレ」という専用のカニューレが必要です。これは、通常のカニューレにアモレSU1用の吸引チューブと吸引口がついているもので、カフ下部の痰を持続的に吸引してくれます。

コーケンダブルサクションカニューレ

残念ながら、アモレSU1はまだ保険適用ではなく、自費での購入orレンタルになってしまいますが、検討する価値のあるとても良い機械だと思います。

薄型冷却枕 クールエアマット

連載第18回(ALS患者に必要な情報「実用編」~下肢(2)ベッド上生活~を参照)の「送風ファン付きマットレス」でも書きましたが、症状の進行したALS患者さんは、自分の力では体勢を変えることが難しく、頭や背中などずっと何かに接している場所に熱がこもってしまいます。私は特に後頭部に熱がこもりやすいのですが、通常の冷却枕では分厚すぎたり硬かったりで、なかなか合いません。

そこで役に立っているのが、100円ショップのキャンドゥで販売されている「クールエアマット」という薄型冷却枕です。

クールエアマット

これは薄くて柔らかいので、とても使い勝手が良いです。頭の下に入れたりはもちろん、夏場に車いすで外出する際に背中の下に入れたりと、いろいろな場面で使え、おすすめです。

編集部注
キャンドゥ「クールエアマット」は季節商品であり、通年販売はされていません。



コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣

記事協力:
LINE株式会社
有限会社オフィス結アジア
トクソー技研株式会社
株式会社キャンドゥ

 
編集:株式会社メディカ出版

【参考】
1)松田千春ほか.低定量持続吸引可能な「自動吸引システム」の看護支援の手引き:低定量持続吸引システムの導入から評価まで― 2015 ―.東京都医学総合研究所,2015.

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