コラム

enjoy!ALS最終回〜人生を味わいつくそう〜

エンジョイALS

ALSを発症して8年、42歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。ちょうど2年の区切りを迎え、今まで読んでくださった皆さまへ感謝を込めて、最終回をお届けします。

ALS患者に必要な「情報」を届けたい

「enjoy!ALS」というタイトルで毎月連載を書いてきて、24回目の今回でちょうど2年が経ちました。「コラムを書いてくれないか?」というお話をいただいた当初は連載回数や内容など何も決まっていませんでしたが、書いていくうちに、この連載を書くことで救えるALS患者さんがいるのではないか。だとしたら、これも医師としての立派な仕事ではないだろうか。そう思うようになっていきました。

特にALSという病気は、診断されてから初期の段階でのハードルがとても高いのです。

ALS患者さんの多くは、まだ体が比較的自由に動かせる病気の初期の段階で「将来的には手も足も動かなくなり、声も出せず、呼吸もできなくなり人工呼吸器を装着しないと生きることができない」。そんな絶望的な情報がいっぺんに入ってきます。それをいきなり受け入れて処理することなんて、とうていできるはずがありません。多くの方はそこで絶望感に打ちひしがれ、症状の進行に対処する方法がわからず、対応が後手後手にまわってしまいます。

しかし、私はALSを発症して8年の経験のなかで、この病気をうまく乗り越えていくには、できるだけ先手先手をとることが最も重要なのだと実感しました。

もちろん簡単にできることではないですが……。そのためには多くの有益な「情報」と、自分を支えてくれる家族やヘルパーさん、医師や看護師やリハビリテーションスタッフなどの「支援者」の存在が不可欠です。

この「情報」の部分を、私の連載で少しでもカバーしたいと思いました。私がALSを発症したときに「こんな情報が欲しかった!」というものを、私なりにまとめて、ALS患者さんやその家族、関係者の皆さまに少しでもお役に立てるものをお届けしたい。そして、ALSと診断されたからといって人生を諦める必要はない。考えかたと工夫しだいで十分楽しく生活できることを伝えたい。そういう思いで、熟慮を重ねて書いてきました。

2年間というちょうどよい区切りで、私の伝えたいことがまとまって書けたので、今回で最終回にしたいと思います。決して体調が悪くなったり、文字が打てなくなったから終わりにするわけではありません。

深い谷底からでも、見上げれば光が見える

ALSを発症してから始めた皮膚科遠隔診療は今でも毎日続けており、気がつけば今まで遠隔診療してきた患者さんが10,000人を超えました! 体調は良いです。technologyを武器に、まだまだこれからも医師として働きつづけていきます!

以前、私の主治医の佐藤先生が、この連載の第1回目を読んで、自身のクリニックのブログで紹介してくださいました。

その最後に

Enjoy!ALS。
その先にあるのはRejoice!(祝福せよ)、=運命を受け入れた上で人生を味わい楽しみなさい、という力強い応援歌ではないだろうか。 梶浦さんの文章を読んで、つくづくそう感じた次第です。

という言葉をいただきました。ありがたい限りです。

人生が常に順調な人などいません。良い時もあれば、悪い時もあります。「人生山あり谷あり」といいますが、このALSという病気では深い谷が待ち構えています。深い谷底に落ちたら、周りは真っ暗かもしれません。しかし上を見れば必ず光が見えます。私は、ALSにかぎらずどんなにつらい病気でも必ず希望はあると思っています。

この病気は確かに、つらいことも大変なことも多いです。しかし、そんななかでも病気を少しずつ受け入れて、前向きに生きていれば楽しいこともたくさんあります。

たとえどんな病気であろうとも、その人の価値や尊厳を奪うことはできない!

全部ひっくるめて、一度きりの自分の人生なのだから、思う存分味わいつくそう! Enjoy ALS!!

医療者と患者

最後に……

この連載を始めるにあたり、ありのままの自分を写真で載せるか、イラストにするか、迷いました。

この連載は、ALSと診断されてまだそれを受容できていない患者さんや、その家族、関係者の方々に、勇気や希望を送りたいという思いで書きはじめました。私は、まだALSと診断されて間もない、病気を受容できていないころは、人工呼吸器を付けて寝たきりになっている患者さんの写真を見るだけで、将来の自分の姿と重ね合わせてつらくなってしまうため、なるべく見ないようにしていました。なのでこの連載では、どんな人にも安心して読んでいただけるように、人工呼吸器をつけている私を、明るく、イケメン風(作者特権です!笑)にイラストで描いてもらうことにしました。

しかし、病気の経過とともに変わっていく、ありのままの自分の姿を経時的に示すことも、ALSという病気を理解する上で大切な情報の一つであることも事実です。

なので、もし機会があれば今後、自分の経過や、お役立ち情報を、写真を加えながら詳しくまとめて、本にして書いていこうかとも思っていますが、今は違う記事でも書きながらちょっと休憩しようかなぁ……。

今まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました! そして温かいメールをくださった方々に、たいへん励まされました! 皆さまが幸せになれますように!!

コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣

編集:株式会社メディカ出版

2024年3月4日
「Dermado」(マルホ株式会社)で梶浦 智嗣先生の新連載が始まりました。
「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」

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