私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です

「enjoy!ALS」の第2弾が始まりました!今回のシリーズでは、梶浦智嗣先生に寄せられた在宅療養に関する疑問や悩みをもとに、さまざまな疾患の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。
再開!「enjoy!ALS 2」
皆さん、こんにちは。私は2021~2023年までの2年間、こちらで「enjoy!ALS」のタイトルでコラムの連載をしておりました。
ありがたいことに、連載が終了してからもたくさんの反響をいただきました。訪問看護師さんや訪問リハビリスタッフさん、在宅療養中のALS当事者の方やその介護士の方々から、「今このような状況なのですが、この場合どうすればよいでしょうか?」との質問が多く寄せられ、実際に家に来ていただいて説明したこともありました。質問の中には工夫次第で解決できるものも多くあり、似たような質問も少なくありませんでした。
いただいたご質問の一部をご紹介します。
【訪問看護師さん】 ・侵襲の少ない気管吸引や鼻・口吸引のコツ ・安全な人工呼吸器のホースの固定方法 など 【訪問リハビリスタッフさん】 ・体や胸郭(肺)の拘縮予防に関するリハビリテーションの工夫 【ALS当事者】 ・安楽な体位(仰臥位や座位、側臥位)のとり方 ・身の回りに置く必要がある物品(人工呼吸器や吸引器、吸引カテーテルなど)の配置方法 ・最新のコミュニケーションツール(コミュニケーション方法全般) ・ALSの最新の治療について など |
実際の在宅療養の現場では、居住スペースの広さや環境は整っているか、ケアに必要な物品が充実しているか、介助者の人数は足りているか、当事者がどこまで積極的なケアの介入を望んでいるかなど、家庭ごとに状況が異なります。そのため、個々に合ったケアプランを立てていく必要があり、なかなか皆さんに共通して当てはまるよいケア方法を見つけていくのは難しいのが現状です。
ただ、そんな中でも皆さんが困っていることには似ているところも多くありました。そこで、ALSに限らず、在宅療養を必要としている、さまざまな疾患の皆さんにも応用できる内容を「enjoy!ALS 2」として、連載していく運びとなりました。
連載終了後の私の経過と現在の状況
はじめに、前回の連載が終了してからの2年間の私の経過と現在の状況を説明させていただきたいと思います。
体調面での大きな変化はなし
すでに4年前くらいから全身の運動機能はほぼ全廃しておりましたので、ほとんど変わっていません。唯一自分の意思で動かせるわずかな嚥下機能と噛む力も、さほど変わらず残っていますので、工夫をした飲食方法(>>「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)や歯を使ったタブレット端末の操作(今後の連載で詳しく書きます)は現在もできています。
呼吸機能は、毎日の呼吸リハビリテーション(こちらも今後の連載で詳しく書きます)のおかげで、気管切開を行い侵襲的人工呼吸器(TPPV)を着けた4年前と比べても全然変わっていません。(むしろ、呼吸器の設定は変えていないのに、座位での一回換気量は上がっているので、よくなってるともいえます!)
ただ、まぶたを上げる力の低下(眼瞼下垂)と目を動かす力の低下は徐々に進んできています……。
仕事面では新しく始めたことも
約2年前より、訪問診療を行っている「さくらクリニック」の中野の本院と練馬の分院で皮膚科医として働くようになりました。私のように在宅療養を必要とする患者さんたちの主治医と情報を共有して連携しながら、皮膚病変の診療を行っています。
このような体で、どのように患者さんたちの診療しているのか、皆さん、想像できないと思います。参考までに、下記に実際のカルテの一部を載せておきます(図1)。
図1 実際のカルテ(一部)

ODT:occlusive dressing technique

その他、コラムの執筆を行ったり、医師向けのサイトで全科横断コンサルトドクターとしても活動しています。
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以上のように、私の経過を書かせていただきましたが、客観的に見て、私のALSの進行スピードは特別速くもなく、遅くもなく、標準的な範囲だと思います。
たとえALSを発症して10年も経ち、運動機能がほぼ全廃し、声も出せず、人工呼吸器を装着していても、適切なリハビリテーションと、日々の生活の工夫次第で、今までとはまったく違う形で自分らしい充実した人生を見つけていけると私は信じています!
ALSを知ってほしい:私の経験から伝えたいこと
今はまだ、日々の診療もコラムの執筆もすべて、歯のわずかな噛む力でタブレット端末を操作して行えています。しかし、ALSは進行性の病気であり、正直に言って、私もあとどのくらいの期間文字を打てるかは分かりません。
それでも、文字が打てるうちに、たとえALSと診断されたとしても「生きたい」と願う人が生きる希望を持てる世の中をつくりたいと考えています。私の10年間にわたる闘病生活の経験と医師としての知識を生かして、後に続く同じ病気の方々の生活が少しでも豊かになるよう、ALS当事者や支援者の皆さんにとって参考になる情報を具体的に、分かりやすく書いていこうと思っています。
そのためには、まず、ALS当事者や支援者の皆さんが、少しでもよいのでALSという病気・病態について理解していただくことが大切と感じています。どんなことができなくなり、何が最後までできるのかを、私なりに説明してから、冒頭でご紹介した皆さんからの質問に答えていく形でコラムを書いていきたいと思います。
コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣 「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。 編集:株式会社照林社 |