Dr.高山が直伝 在宅のノロウイルス感染症対策(前編)
急性胃腸炎を引き起こす病原体のなかでも、特に問題になるノロウイルス。この悩ましい感染症について、在宅ケアでの対策を考えてみましょう。前後編でお届けします。
目次
ノロウイルス感染症の特徴
ノロウイルスは、感染力が強いため、しばしば地域で集団発生を引き起こします。通常は2~3日程度で軽快しますが、感染後約2週間は、便からウイルスを排出しているといわれます。
一度かかると免疫ができますが、免疫効果も6か月で低下し、2年で完全に消失します。
健康な人であれば、水分を摂取しながら「寝ていれば治る病気」です。しかし高齢者では、脱水が進んで多臓器不全をきたすことや、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息を起こすこともあります。また、高齢者では誤嚥性肺炎を続発することもあり、下痢が治まってからも見守りが必要となります。
ノロウイルスの感染経路
ノロウイルスに感染すると、腸内でウイルスが増殖し、感染者の嘔吐物や排泄物を介して、他者に感染伝播します。
具体的には、食中毒、接触感染、空気感染に大別されます。
食中毒 | 感染している人が調理した食物を、食べることによる伝播 |
接触感染 | 感染している人の嘔吐物や排泄物を、直接触れてしまうことによる伝播 |
空気感染 | 感染している人の嘔吐物や排泄物が、乾燥して飛散することによる伝播 |
在宅で必要になる感染対策
在宅における感染対策としては、感染者の嘔吐物や排泄物を確実に処理することと、食べ物の安全を確保することが重要です。
ノロウイルスが空気感染するには、嘔吐物や排泄物が乾燥することが条件となります。
一般に、医療機関では湿式清掃なので、(きちんと清掃しているかぎり)医療機関で空気感染のリスクは高くありません。ですから、医療機関では、空気感染を前提とした感染対策は必要ありません。
一方、家庭での清掃は、乾式清掃が一般です。乾式清掃では嘔吐物や排泄物を洗い流すことができません。それらを拭い取ったとしても、最後は乾燥させてほうきで掃いたり、掃除機で吸引したりしていると思います。
つまり、在宅の現場では、空気感染を考慮する必要があるということです。
もちろん「だからN95マスクを使いましょう」ということではなく、以下に紹介するように「きちんと次亜塩素酸ナトリウムで不活性化しましょう」ということです。
残念ながら、エタノールではノロウイルスを消毒することはできないのです。
ただし次亜塩素酸ナトリウム溶液が有効とはいえ、手指の消毒を含め人体には使えません。
よって、ウイルスの除去は流水による手洗いが原則となります。
ノロウイルスに有効なのは次亜塩素酸ナトリウム溶液
ノロウイルス胃腸炎による嘔吐物や排泄物を処理するときは、次亜塩素酸ナトリウムを600ppmに薄めた溶液を、ペーパータオルなどに染み込ませて清拭するのが基本です。
ノロウイルスは、アルコールでは不活性化せず、乾燥させても死滅しません。ですから、このノロウイルス専用の消毒液があると便利です。
ここでは、600ppm(=0.06%)の溶液を手軽に作る方法を紹介します。
家庭における600ppmの塩素系消毒薬の作りかた
まず、500mLのペットボトルを準備します。ペットボトルのふた1杯(5mL)の次亜塩素酸ナトリウム6%溶液(ハイター®など)をペットボトルに入れて、残りを水道水で満たしたら600ppm溶液になります。
家庭でノロウイルス胃腸炎が出たら、この消毒液を1本作っておいて、吐物の処理や、汚染された衣類の消毒に使用すると簡便です。
人体には使わない!
この溶液を扱うときは、必ず手袋を着けてください。間違っても人体の消毒に使ってはいけません。
もし、溶液が手に直接付着してしまった場合は、流水でよく洗い流してください。
万が一にも誤飲したら大変です。対策を講じましょう。
イラストのように、ペットボトルに注意書きするなど、飲み物と間違えないような対策に加えて、絶対に、子どもの手の届くところには置かない! リスクがある家庭では、作り置きせず、使用する度に調整するよう指導するほうが良いかもしれません。ご家庭の状況をアセスメントして提案してください。
発症者がいるときの対策のポイント
これら具体的な対策について、次回の記事で解説します。
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執筆者
高山義浩
沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長
記事編集:株式会社メディカ出版
【参考】
1)Gerald,LM.et al.Mandell,Douglas,and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases.6th ed.London,Churchill Livingstone,2004.
2)CDC.Immunization of health-care workers:Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)and the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC).MMWR.46(RR-18),1997,1-42.
3)CDC.Prevention and control of influenza.MMWR.53(RR-6),2004,1-40.
4)CDC.Updated norovirus outbreak management and disease prevention guidelines.MMWR.60(RR-3),2011,1-15.