認知症のある患者さんが「転んだけど大丈夫」と話している場合【訪問看護のアセスメント】
高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第1回は、認知症がある患者さん。家族から「転んでしまったようです」と知らせがありましたが、本人は「大丈夫」……。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか?
目次
事例
中等度の認知症がある91歳の女性。 家族から、「朝、トイレに行ったときに転んでしまったようなんです。布団までは這って戻ったようですが、確認しても『大丈夫』と言い張るばかりで」と相談を受けました。女性は布団に入ったままです。 あなたはどう考えますか? |
アセスメントの方向性
転倒後のアセスメントが必要になります。
転倒した場面を誰も目撃していないようです。どの部位にどの程度の障害があるかわかりません。
転倒後の障害では、打撲、捻挫が一般的ですが、まれに骨折や頭蓋内血腫のような重症になる場合もあります。
高齢者は、筋力やバランス機能、視力が低下しており、転倒のリスクが高いです。また、失神を起こして転倒することもあります。
高齢者では、骨密度が低下しているために骨折につながりやすく、容易に重症になります。客観的なデータ、普段との様子の違いを、転倒と関連させて意識的にアセスメントすることが重要です。
ここに注目!
●布団から起き上がらない原因は、骨折による痛みや運動障害、頭を打ったことによる意識レベルの低下の可能性があるのではないか? ●「大丈夫」という言葉はあるが、認知症があることから自覚症状の訴えが乏しいかもしれない。 ●そもそも、なぜ転んでしまったのか? |
主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)
・転倒時の様子(どこで転倒したか、どこを打ったか、転倒のきっかけ、転倒時のことを覚えているか、など)
・筋骨格系の症状(出血、痛み、腫れ、発赤、動かしにくい、動かない、など)
・頭蓋内出血に伴う症状(頭痛、頭重感、嘔吐、言葉が話せない、会話が成り立たない、ろれつが回らない、麻痺、脱力、歩行障害、軽い意識障害、物忘れ、認知症が急に進んだように感じる、など)
・活動、ADL(痛みや意識レベルの低下によりいつもできていたことができない、活動量の減少)
・転倒した原因(最近いつもと違うと感じたことはなかったか、一過性のものも含めた意識レベルの低下、ふらつきや足の上がらない感じ、薬剤の使用、など)
客観的情報の収集
頭部の視診
頭部の出血や皮下血腫(たんこぶ)がある場合は、頭を打っている可能性が高いといえます。鼻汁・鼻出血や、耳垂れ・耳からの出血がある場合、頭蓋内で出血が生じている可能性が高まります。
意識レベル
頭を打った場合、急性硬膜下血腫を起こす危険性があります。元気がないなどのパッと見た様子から、JCS(Japan ComaScale)にあらわれるような変化までを、丁寧にみてください。
徐々に進行する(2週間~6か月に至る)場合もあるので、継続的な観察が必要です。
視野の確認
頭蓋内の出血により、物が二重に見える、視界がぼやける、視野狭窄などの症状があらわれる場合があります。疑わしい症状があった場合は、確認したほうがよいでしょう。
片目を覆ってもらい、片目ずつ、瞳を動かさないようにしてどのあたりが見えにくいのか、指を使って見える範囲を確かめます。
四肢の皮膚
視診と触診で、出血や皮下出血(紫斑)がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。
関節可動域、筋力
自力で動かせるのか、痛みはないかを確認しながら可動域を確かめます。
自力で動かせない、または動かさない(指示に従えない)場合は、看護師が動かします。疼痛の訴えがないか、表情に変わりはないかを観察しながら行ないます。
骨折がある場合は、動かすことで悪化する可能性があります。無理をさせないようにしましょう。
立位保持・歩行状態の観察
立位をとれる・歩行できる状態であれば、安全を確保しながら、その様子を観察してください。
立位保持とバランス維持をみるために、足を閉じて立っていられるかを、開眼時と閉眼時とで確認します。20秒以上姿勢を維持できれば正常です。高齢者ではもともと完全にできない場合もあるので、転倒前の状況と比較しましょう。
ふらつきがあるようなら、小脳や位置覚の障害があるかもしれません。再転倒のリスクが高いので、転倒の原因のアセスメントにもなります。
報告のポイント
・転倒し、転倒時の様子を誰も見ていないこと
・頭蓋内出血の可能性の有無と症状
・骨折など、重症な筋骨格系の障害の可能性の有無と症状
・転倒の原因の推測。失神、麻痺、小脳や位置覚の障害によるものではないか
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執筆
角濱春美(かどはま・はるみ)
青森県立保健大学
健康科学部看護学科
健康科学研究科対人ケアマネジメント領域
教授
記事編集:株式会社メディカ出版