副腎白質ジストロフィー
副腎白質ジストロフィーは、中枢神経系と副腎に障害を起こす難病です。脱髄に起因する症状と、副腎機能不全による症状があります。
病態
副腎白質ジストロフィーは、中枢神経系と副腎に障害を起こす、主に男性にみられる遺伝性疾患です。中枢神経系の障害としては性格変化や知能低下など、副腎の機能不全では、無気力、体重減少、低血圧、色素沈着などの症状が起こります。
小児大脳型、思春期大脳型、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、成人大脳型などの病型があり、発症年齢や症状、経過、予後は異なります。いずれの病型でも、全身の組織で「極長鎖脂肪酸」と呼ばれる特殊な脂肪酸が増加することが特徴です。
特定の遺伝子(ABCD1遺伝子)の変異が原因であることはわかっていますが、遺伝子変異と病型、発症年齢との相関がみられず、他の要因の関連も考えられています。
病因となる遺伝子は、性染色体のX染色体上にあります。
男性はX染色体を1つ、女性は2つ持っています。病因遺伝子があると、男性はX染色体が1つしかないため発症しやすく、女性では1つのX染色体に病因遺伝子があっても、もう1つX染色体があるため、多くは症状が出現せず、保因者となります。
保因者の女性から病因遺伝子が子どもに伝わる確率は2分の1です。
疫学
男性2~3万人に1人程度の割合で発症し、それとほぼ同数の女性の保因者がいると考えられています。発症年齢は病型によって異なりますが、2歳~成人期で報告されています。小児慢性特定疾病と指定難病の対象です。
症状・予後
主な症状
小児大脳型 | 最も多い病型。3~10歳に発症。注意欠陥多動障害や心身症に似た性格・行動変化がみられ、視野狭窄や斜視など視力や聴力の低下、知能障害、下肢がつっぱる痙性対麻痺などの歩行障害などがみられる。数年で植物状態に至ることが多い。 |
思春期大脳型 | 発症年齢は11~21歳。症状や経過は小児大脳型とほぼ同じ。 |
副腎脊髄ニューロパチー(AMN) | 10歳代後半~成人で発症。痙性対麻痺で発症し、ゆっくり進行する。軽い感覚障害があることが多く、ほかに軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎(インポテンツ)を伴う場合もある。 |
成人大脳型 | 性格変化、認知症、社会性の欠如や精神病に類似した症状で発症し、急速に進行して植物状態に至る。 |
小脳・脳幹型 | 歩行障害や四肢協調運動障害などの小脳失調、下肢のつっぱりなど、脊髄小脳変性症に似た症状がみられる。 |
アジソン型 | 副腎不全症状のみが出現し、神経症状はない。無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など。 |
女性発症者 | 女性保因者の一部では、AMNに似た症状がみられることがある。 |
小児大脳型、思春期大脳型、成人大脳型は治療しない場合、多くは急速に進行して1~2年で寝たきり状態になります。他の病型から大脳型に移行し、急速に病状が進むことがあります(女性発症者を除く)。女性の保因者では普通は症状が出ませんが、一部では加齢とともに軽度の歩行障害などを伴うこともあります。
治療法
小児大脳型や思春期大脳型の発症早期で、造血幹細胞移植の有効性が報告されています。ただ、症状が進行していると増悪することがあり、移植に伴う合併症リスクもふまえて慎重な適応が求められます。
ロレンツォオイル(オレイン酸:エルカ酸=4:1)投与と低脂肪食の服用で、極長鎖脂肪酸を正常化することがわかっていますが、発症した神経症状を抑える効果は乏しいと報告されています。
AMNや女性発症者の下肢の痙性対麻痺症状には、抗痙縮薬の服用や理学療法が早期に開始されます。
副腎不全は生命予後にもかかわるため、定期的な副腎機能検査と、必要に応じてステロイド補充療法が行われます。
リハビリのポイント
●AMNや女性発症者の下肢の痙性対麻痺には、リハビリも有効とされている
●歩行障害に対するバランスや歩行の訓練、寝たきり状態の関節可動域の訓練など状態に応じたリハビリを行う
看護の観察ポイント
医師と連携して病型に応じて予後を予測し、適切なタイミングで介入することが求められます。一般的に手厚い介護が必要となるため、家族の介護負担への配慮、介護を支える社会資源の紹介、レスパイトケアへの橋渡しなどの支援も大切です。
●症状の状態・程度の変化
●本人・家族の日常生活での支障
●体を動かすなど、残された機能を維持する対応
●家族の介護負担
など
監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】 東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 |
【参考】
〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『副腎白質ジストロフィー(指定難病20)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/186
〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『副腎白質ジストロフィー(指定難病20)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/329
〇日本先天代謝異常学会.『副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2019』東京,診断と治療社,2019,51p.