嘔吐した後、呼吸時にゼロゼロと音がする場合【訪問看護のアセスメント】
高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第2回は、嘔吐した後、元気がなくなり、呼吸時に喘鳴が出てきた患者さんです。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか?
目次
事例
86歳男性。 脳梗塞後、嚥下機能が低下していることが指摘されていますが、家族と本人の希望で経口摂取は続けています。昨夜遅くに嘔吐し、その後、何となく元気がなく、息をするたびにゼロゼロと音がします。今朝も食事をとろうとしません。 |
アセスメントの方向性
誤嚥した可能性が高い状況です。元気がなく、食事もとれないことから、低酸素状態でないかどうかを確認します。
誤嚥した吐物が気管支に詰まっている場合は、無気肺の可能性があります。
また、誤嚥性肺炎を発症している可能性もあります。
肺のアセスメントを十分に行なって、状態を把握します。
ここに注目!
●喘鳴がみられており、痰や吐物が喀出できていないのではないか? ●もともと嚥下機能の低下があるにもかかわらず嘔吐したため、吐物を誤嚥した可能性があるのでは? ●元気がないのは、痰や吐物が詰まったための無気肺や、誤嚥性肺炎から低酸素となっているのではないか? |
主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)
・呼吸状態とその経過
・嘔吐の状態(吐物の色・性状・量、嘔吐の勢い、嘔吐のきっかけ)
・肺の感染徴候の確認(のどの痛み、咳、痰、むせ、喘鳴、など)
客観的情報の収集
SpO2
パルスオキシメーターで、SpO2を測定します。SpO2が90%を切るようだと要注意です。
脈拍数、血圧
血中酸素が不足していると、酸素を多く末梢に運ぶために、頻脈となり、血圧は上昇します。この徴候はSpO2の低下よりも先にみられることが多いので、特に注意してください。
呼吸状態
呼吸の状態を視診します。
肺炎などで酸素化能が落ちていると、呼吸は頻呼吸・努力呼吸となります。
胸郭
胸郭の拡張を、視診と触診で観察します。胸に手を触れ、その動きを目と手で確認します。
前面は、上部では上下に、下部では左右に広がり少し挙上するような感触です。
背面は上部・下部ともに左右に広がります。
無気肺の場合は、その部位に空気が入っていきませんので、胸郭が拡張しなくなります。
肺炎の場合も、範囲が広く重症であれば、胸郭の拡張が少なくなります。
左右同時に、部分的な無気肺になる可能性もあるので、前面・背面ともに確認しましょう。
体温
肺炎であれば一般に高体温になりますが、高齢者は誤嚥性肺炎を起こしていても高体温になりにくく、微熱程度の場合もあります。継続的に様子をみる必要があります。
肺音
誤嚥の場合、重力に従って誤嚥したものが背部側にたまります。必ず背面の肺音聴取を行なってください。
臥床している方の背面の肺音は、側臥位になってもらい聴取します。側臥位も難しい場合は、聴診器を背中とベッドの間に入れて聞きます。
特に、背面の肺底部の聴診を慎重に行ないます。
無気肺がある場合は、呼吸音が減弱・消失します。この際に、健常な側の肺に代償性の増強が起こる場合があります。患側肺でも、患区域以外で代償性増強がありえます。肺の健常な部分が、無気肺区域を補って換気量を増やそうとするためです。
肺炎の場合は、肺胞音の気管支呼吸音化がみられます。
固形物や痰により気管支が狭窄している場合、詰まったのが太い気管支だといびき音が、細い気管支だとウイーズ音が聞こえます。この二つが混じっていることもあります。
捻髪音が聞こえると肺炎の可能性が高いです。
炎症が重度になり、分泌物が増えると、水泡音となります。聴診器を使用しなくても喘鳴が聞かれます。
報告のポイント
・嘔吐があり、誤嚥の疑いがあること
・酸素化の状態(SpO2、脈拍、呼吸数と呼吸形態)
・肺音聴取結果、無気肺の可能性、誤嚥性肺炎の可能性
執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学 健康科学部看護学科 健康科学研究科対人ケアマネジメント領域 教授 記事編集:株式会社メディカ出版 |