「朝、起きたら左足だけが腫れていた」場合【訪問看護のアセスメント】
高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第7回は、朝起きたら片足だけが腫れていた患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか?
目次
事例
83歳女性。「朝起きたら左足だけが腫れていて、もったりとして気になる。昨日は何ともなかったのに……」と言っています。 あなたはどう考えますか? |
アセスメントの方向性
足が腫れているという訴えであるため、まずは、足の皮膚や皮下組織、筋肉や骨に炎症が生じ、腫脹が起こっていることが考えられます。
また、リンパや静脈系の循環障害による浮腫の疑いがあります。
リンパ浮腫とは、リンパ管の狭窄や閉塞のためにリンパ液が滲み出して浮腫となったものです。手術侵襲や、がんの浸潤により起こることが多いです。
静脈系の循環障害による浮腫は、静脈の閉塞や狭窄により静脈圧が上昇することで血漿成分が滲み出して起こります。深部静脈血栓症の場合、脳梗塞や肺梗塞など生命にかかわる疾患を引き起こす場合があり、発見したら速やかに医療につなげる必要があります。
ここに注目!
● 足が腫れているという訴えは、浮腫によるものか、局所の炎症による腫脹か? ● 局所性の浮腫が考えられる場合、静脈系の循環障害か、リンパの還流障害か? |
まずは、炎症による可能性を念頭に置いてアセスメントします。そのうえで浮腫による可能性が高いと考えられる場合は、浮腫が静脈性なのかリンパ性なのかをアセスメントします。
局所炎症のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)
・炎症の症状(痛み、しびれ、熱感、腫脹)
・原因・誘因となったこと(転倒や転落、打撲、外傷、虫刺され、など)
・ADLへの影響
局所炎症のアセスメント②客観的情報の収集
体温測定
炎症が起きている場合、免疫反応として、発熱が起こる可能性があります。高体温になっていないかどうかを確認します。
浮腫の確認
浮腫の部位と程度を確認します。
外傷などによって起こる局所の炎症による浮腫は、脚全体ではなく障害のある部位にみられますので、左右差を比べながら確認します。
痛みに注意しながら触れ、圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧迫時間は5~20秒、指が沈み終わったら離し、その深さで判定します。
炎症徴候の確認
皮膚の傷や、骨折を思わせる症状がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。
炎症の徴候を確認するために、発赤と熱感を確認します。熱感については、熱に敏感な手背を使って確認します。人の皮膚温はさまざまなので、症状を訴えている側だけでなく、左右同時に触れてその差を確認します。
関節可動域
関節を動かせるかどうかを確認します。炎症がある場合は、動かすことで痛みが生じる可能性が高いので、確認しながら行います。どの程度の可動域制限があるかを、左右比較して観察します。
静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)
・静脈系末梢循環障害の症状(張るような痛み、重苦しさ、浮腫の日内変動、動かしにくさ、など)
・リンパ系循環障害の原因・誘因(がんや手術の既往、など)
・静脈系末梢循環障害の原因・誘因(急な臥床安静、歩行制限、下肢運動量の減少、下肢の圧迫、など)
・ADLへの影響
静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント②客観的情報の収集
浮腫の確認
浮腫の部位と程度を確認します。
循環障害による浮腫は、血管の閉塞・狭窄の位置より下部に生じますが、皮下組織への水分の貯留が進むと足全体に生じることも多いです。
圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧痕がみられない腫脹の場合は、周囲径を計測することで、客観的な観察ができます。周囲径を計測する際は、体位および測定部位の関節からの距離を記録しておきましょう。
末梢循環の確認
静脈系の末梢循環障害では、皮膚色の変化はみられないことが多く、静脈瘤や慢性の炎症がある場合は赤茶色の変色がみられることがあります。動脈系の障害ではないので、皮膚温は保たれ、足背動脈などの末梢の脈も触知できます。
皮膚の視診・触診
リンパ浮腫では蜂窩織炎となっている場合もあります。蜂窩織炎では広範囲に発赤があり、腫脹し、熱感や痛みがあります。放置すると組織の壊死をきたしますので、速やかな治療が必要です。
報告のポイント
・浮腫の部位と程度、左右差がみられること、全身性の浮腫ではないこと
・外傷や骨折などの筋骨格系の障害によるものか、その判断理由
・静脈・リンパ系の循環障害によるものか、その判断理由
執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学 健康科学部看護学科 健康科学研究科対人ケアマネジメント領域 教授 記事編集:株式会社メディカ出版 |