在宅治験で活躍が期待されている訪問看護師
訪問看護師は保険外のサービスを提供することもあります。このシリーズでは、そんな保険外サービスとして、在宅治験と自費訪問看護を取り上げます。今回は、在宅治験の紹介です。治験といえば、通院や入院が必要なものでしたが、近年、在宅治験という言葉を目にする機会が増えました。ここに、訪問看護師の活躍が期待されています。
治験とは
医療機関で勤務していると、「治験」にかかわる機会もあると思います。
治験とは、「新薬の候補」を、実際に人に投与して行う臨床試験のことです。厚生労働省の承認を受ける前の、新薬開発の最終段階で行われるもので、健康な人や患者さんに協力していただき、人での効果と安全性を調べるのです。
治験は病院で行われますが、
・医療設備が十分に整っていること
・責任を持って治験を実施する医師・看護師・薬剤師等が揃っていること
・治験の内容を審査する委員会を利用できること
・緊急の場合には、ただちに必要な治療・処置が行えること
という要件を満たす必要があります。
在宅治験がクローズアップされている背景
病院で行われる治験では、被験者(治験に協力する健康な人や患者さん)は、病院に行く必要がありますし、場合によっては入院も必要になります。
そのため、被験者を見つけることが困難なケースもありますし、治験がなかなか進まないケースもあるのです。さらにコロナ禍では、治験のために通院することや、院内で行われる対面での説明や手続きなどでの、感染リスクも問題になります。
これらのことから、厚生労働省では、被験者の来院に依存しない治験(分散化臨床試験:DCT)を国内で実施できるよう、規制の整備を進めています。
もちろん、医療体制が十分整った環境で、医師・看護師・薬剤師等が責任を持って行うという基本は変わりません。そのうえで、被験者がオンラインで説明を受けることができ、病院に行かず在宅で治験参加ができる、そんなしくみを導入しようとしているのです。
訪問看護師の活躍が期待されている
ここで期待されているのが訪問看護師です。
病院で行われる治験と同様に、在宅でも、治験に必要な採血や検査が必要です。被験者の自宅などに伺って、医療行為を行い、健康観察を行うことが必要ということです。これは訪問看護師が、日ごろ行っていることです。
そして、前述の「緊急の場合には、ただちに必要な治療・処置が行えること」という要件ですが、これも、日ごろ一人で患者さん宅を訪問している訪問看護師は日常的に行っていることです。もちろん、在宅ですから病院のようにすべての医療機器が整っているわけではありませんが、訪問看護では診療所や病院の医療者と連携しながら「緊急時の対応」を行っています。この対応力にも期待されているのです。
現在検討されている在宅治験の流れ
在宅治験で訪問看護師を活用するためには、まだまだ規制の緩和が必要ですが、その検討も進められています。
在宅治験の考えかたとしては、被験者宅を、治験医療機関の病室の一つとして位置付けるようなイメージです。訪問看護ステーションで治験のすべてを行うわけではありません。被験者への説明などは治験医療機関の医師が行います。そして治験に必要な治験薬や検査機器は治験会社が準備をします。
訪問看護師は、治験医療機関の医師からの指示で被験者宅を訪問して、投薬や採血、検査や経過観察などを行い、その結果を治験医療機関の医師に報告するという流れになることが想定されています。治験薬を事前に被験者宅に届けておくことなども検討されているようですが、今のところ、訪問前に治験医療機関に治験薬を取りに行くことになるようです。
在宅治験による可能性
在宅治験は、被験者に対しては、来院など治験参加の負担を減らすことで、参加機会を提供できることになります。
治験依頼者は、より短期間で被験者を集積できるため、コスト削減や治験実施期間の短縮につながる可能性があります。
そして、訪問看護師にとっては地域の医療機関との連携強化になりますし、新たな働き方の一つになる可能性もあります。
本格的な導入はまだまだこれからですが、機会があればぜひチャレンジしてみましょう。
記事編集:株式会社メディカ出版