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【管理栄養士のアドバイスvol.3】嚥下調整食ってどうやって作るの?

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第3回は、嚥下調整食準備のポイントを紹介します。

はじめに

摂食嚥下機能が低下した人のための食事作りは、介護家族にとって悩みの種であることが多くあります。安全においしく食事を楽しんでいただくために、家族ができる嚥下調整食準備のポイントを、実際の事例をもとに確認していきましょう。

この食事形態、何が問題?

訪問栄養指導を実施した利用者さんに、このような方がいらっしゃいました。

90代男性で、加齢とサルコペニアにより嚥下機能が低下、年に数回は誤嚥性肺炎で入院をされていました。
訪問歯科医が簡易嚥下検査を行ったところ、食塊形成能力、嚥下クリアランス、嚥下のタイミングのそれぞれに、中等度の障害が認められました。
家族と同居しており、調理は娘さんが行っています。

ある日の食事内容

訪問栄養指導では、当日、ふだんどおりの食事を用意していただきます。実際の食事を一緒に見ながら、食事形態の指導を行います。

その日の昼食は、①ミキサー粥 ②冷凍のソフト食おかずセット(主菜1品、副菜2品) ③手作りの煮物をミキサーにかけたもの ④温泉卵 ── でした。

一見すると、嚥下機能に配慮された適切な食事のように思えますが、実はいくつか改善すべき点があります。

では、一品ずつ確認していきましょう。

①主食:ミキサー粥

ミキサー粥はデンプン分解酵素入りのゲル化剤を使うこと!

実際に用意されたミキサー粥を見ると、ベタベタと、スプーンにくっついてしまうような状態でした。

実はご飯にはデンプン質が多く含まれているため、ミキサーにかけると糊のようにベタベタしてしまいます。ベタベタと付着性が増したミキサー粥は、喉に張り付き、飲み込みがさらに困難になってしまいます。

対策としては、お粥用のゲル化剤を使用することです。

お粥用のゲル化剤(図1)は、通常のゲル化剤と異なり、「デンプン分解酵素」が含まれています。これを使用すれば、べた付きのもとであるデンプン質を分解し、同時にゲル化剤の作用でゼリー状に固めることができます。

図1 お粥用のゲル化剤

糊状だったミキサー粥が、フルーチェのようにつるんとした形状にまとまり、付着性が抑えられます。

詳しい使用方法は、パッケージをしっかりと確認しましょう。ゲル化剤の選びかたは、管理栄養士に相談すると、いろいろと教えてくれますよ。

②主菜:冷凍のソフト食おかずセット

介護食品はユニバーサルデザインフードを活用しよう!

市販されている介護食品の多くは、パッケージに、ユニバーサルデザインフード(UDF)のマークがついています。

UDFには、摂食嚥下障害がより重度から順に、「かまなくてよい」「舌でつぶせる」「歯ぐきでつぶせる」「容易にかめる」の分類があります。

この利用者さんの食事は、UDF区分で「舌でつぶせる」の商品でした。UDFの「舌でつぶせる」は「学会分類2021」の3~4に該当します。

「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」より抜粋。文献1または 日本摂食嚥下リハ学会ウェブサイト「嚥下調整食学会分類2021」を必ずご参照ください。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。

家庭での調理が困難で、市販の介護食品を購入する場合は、この分類を確認し、適切な食べやすさの介護食品を購入することをおすすめしましょう。

どの基準の食品がよいかがわからなければ、歯科医師や言語聴覚士に嚥下検査を依頼し、適切な学会分類コードについて指導をしてもらいましょう。

③副菜:手作りのミキサー食

手作りミキサー食は「まとまり」を意識!

この方が召し上がっていた手作りのミキサー食は、食材の粒が少し残った状態で、特にゲル化剤やとろみ剤は使用されておらず、ただミキサーにかけただけの状態でした。

ここで注意するのは「まとまり=凝集性」です。

舌の動きが緩慢な人には、口に入れた際に、食材の粒がバラバラとばらけてしまうような食事は、誤嚥のリスクとなります。上手に食塊形成することができずに、口腔内に散在した食材の粒が、意図しないタイミングで喉頭に侵入することがあるからです。

そのような場合は、調理加工の段階で、まとまりやすく調整する必要があります。ゲル化剤を使用して、まとまりを付けるのがベストです。簡易的な方法としては、食材をミキサーにかけるタイミングでトロミ剤を少し加えることでも、まとまりが付きます。

実際の指導は?

この利用者さんでは、歯科医師より「学会分類コード『2-2』~『3』の食事形態が望ましい」と指示がありましたので、その情報をふまえた指導を行いました。

指導は、家族の習得度に合わせ、数回に分けて実施します。食事を嚥下機能に合わせることはもちろんですが、本人の生活や嗜好を考慮することも重要です。

皆さんもぜひ、利用者さんがどのようなものを召し上がっているか、そしてその食事は嚥下機能に合っているのかという視点で、観察をしてみてください。

そして、指導が必要な場合は管理栄養士につなげるという選択肢も、ぜひ覚えておいてくださいね。


当記事に掲載している「学会分類2021(食事)とUDF区分」をまとめた資料を【お役立ちツール】に掲載しておりますのでご参照ください。

第4回へ続く

執筆
稲山未来
Kery栄養パーク 代表
管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士
新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員

在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。
 
記事編集:株式会社メディカ出版

【引用・参考】
1)日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.『日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌』25(2),2021,135-49.
2)日本介護食品協議会.『わかるUFD』
https://www.udf.jp/consumers/index.html
3)江頭文江.『おうちで食べる!飲み込みが困難な人のための食事づくりQ&A』東京,三輪書店,2019,156p.

記事協力
日本介護食品協議会
ニュートリー株式会社
株式会社フードケア
ヘルシーフード株式会社
ヘルシーネットワーク https://www.healthynetwork.co.jp/

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