排泄の失敗がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】
患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第10回は、オムツを外してシーツに失禁する患者さんの行動の理由を考えます。
目次
事例背景
80歳代男性。10年前に脳梗塞を発症、2年前に脳血管性認知症の診断を受け、行動障害もみられている。会話は通じず、意味不明の言葉を発することもある。 便意・尿意が不明なため、オムツを使用している。オムツを外してシーツに失禁することを繰り返し、シーツ交換してオムツをしようとすると抵抗する。看護師が「オムツはお嫌ですか?」と尋ねると、「そんなことない」と答えるが、いつもシーツが濡れている。 |
なぜ患者さんはオムツを外してしまうのか?
「オムツはお嫌ですか?」と看護師が尋ねていますが、患者さんはそもそも、問われている意味がわかっていないのかもしれません。脳血管性認知症で行動障害もみられており、認知症の特徴である失行・失認が背景にあると考えられます。
オムツを外す理由は二つ考えられます。
一つは、排泄するために下着を脱ぐように、排尿前にオムツを外している可能性です。そもそもオムツをしていると思っていない患者さんにとっては、下着(オムツ)を外すことは排尿時の当然の動作であり、「排尿もできてすっきり!」という気分と思われます。
もう一つは、オムツをしていること自体に不快感があるため、不快なものは除去したい本能から無意識に外している可能性です。説明してオムツをしても、患者さんには失認があり、オムツの目的を理解していません。自分が失禁してシーツを汚してしまったことを、まったく把握していないと考えられます。
患者さんをどう理解する?
認知症の患者さんとのやりとりで、質問に対して的確なあいづちや返事が返ってくることがあります。そんなとき、話が通じていると思いがちですが、実際はまったく通じていないことも少なくありません。
この患者さんは失禁を繰り返しているため、失禁が患者さんに及ぼす影響と、排泄への援助を考えていきましょう。
失禁が患者さんに及ぼす影響
・皮膚の汚染は、皮膚の損傷に結びつく ・失禁後の不快な状況から逃れようと次の行動をとることもあるため危険防止が必要 ・部屋に尿臭が漂い、周囲へ不快感を与えることにもなる ・排尿の量が多いこともあるため、尿失禁への対応は早いほうがよい |
尿失禁に至る疾患はさまざまありますが、この患者さんは、認知症によって、膀胱内に尿が貯留したという情報が脳に伝わっても正しく判断できず、その後の指令や行動がとれない状況だと思われます。
一般的な認知症患者さんにおける排泄問題への対応
認識の低下による場合
「トイレの場所がわからない」「膀胱内に尿がたまっていることがわからない」「尿意があっても脱衣の方法がわからない」「トイレや便器の認識ができない」などの状況で排泄がうまく行えず失禁してしまいます。トイレの位置がわからない場合は、目印になるものをつけ、夜間はなるべく明るさを確保できるように照明を工夫しましょう。
尿意がある場合
じっとしていられず、うろうろしたり、独り言をつぶやきながら動き回ったり、下着を下ろそうとしたり、下着に手を伸ばしたりといった動作をとる患者さんがいます。これらの行動は、排泄をしたいサインであることが多いです。その人特有のサインもあります。サインを見逃さず、トイレへ誘導しましょう。
尿意がない場合
患者さんの一日の水分・食事摂取量を観察し、一定の時間間隔をあけてトイレに誘導しましょう。
失禁後の対応
失禁後には、寝衣やシーツの交換など、介助者が慌ただしく動きます。患者さんは、その状況から、自分の存在が歓迎されていないと感じ取ります。失禁に対し迅速な対応は必要ですが、患者さんが存在を否定された気分にならないようなかかわりが必要です。
言葉の意味はわからなくても、介助者の表情や口調から感じ取れるため、穏やかな口調で、目を合わせ、にこやかに接しましょう。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害がもとになって発症する認知症です。急激に認知症が発症することもありますし、小さな脳血管障害を繰り返し少しずつ認知症が進むこともあります。出現する症状は、脳の障害部位によって異なります。
脳血管性認知症の特徴は、次の六つです。
・脳血管が障害を受けた部位の働きは悪くなるが、障害を受けていない部位の機能は保持されていることが多い。
・脳の障害によって、症状の変動や悪化がある。
・注意力の低下よりも、意欲の低下(アパシー)が目立つ場合が多い。
・感情のコントロールが困難で、急に泣いたり怒ったり、感情の起伏が激しくなる。
・手足の麻痺、歩行障害、言語障害、排尿障害(頻尿、尿失禁など)など、日常生活に支障が起きる。
・脳血管障害による高次脳機能障害がある(失行、失語、失認、注意障害など)。
こんな対応はDo not!
× 患者さんを問い詰める
× 寝衣交換をせかす
× 患者さんの目の前で慌ただしくシーツ交換をする
こんな対応をしてみよう!
シーツや寝衣類の交換時には、必ず声を掛け、患者さんの意識が向けられるように行いましょう。「濡れていて気持ち悪いですね。大丈夫ですよ。すぐに交換しましょうね」と目を合わせ肩などに手を触れ、穏やかに話し掛けましょう。
オムツの使用が必要な場合には、患者さんの体型や体質、オムツの肌触りなどを考慮して、個々人に合わせて、できるだけ快適なものを選択することが大切です。また、夜間に心地良い睡眠がとれるような身体的準備や、環境を整えましょう。
執筆 茨城県立つくば看護専門学校 佐藤圭子 監修 堀内ふき(ほりうち・ふき) 佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 |
【引用・参考】
1)厚生労働省.『認知症施策』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html