特集

地域食支援の実践

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第2回は、前回に続いて本研究会代表の五島先生(歯科医)から、研究会の活動について紹介します。

歯科医の私でも想像すらしていなかった

「口から食べることが難しくなる」ということは、一般の人には想像しにくいことです。私自身、歯学部で学んだ6年間、卒業後に歯科医師として勤務していた5年間は、想像すらしていませんでした。もちろん、入れ歯の不調で食べられない人はいましたが、それは入れ歯の問題としてだけ考えていましたから。

ですから、訪問診療を開始して、噛めない人・飲み込めない人・食べようとしない人と初めて接したときは衝撃でした。そして、口から食べられない理由が多くあることも初めて知りました。

「口から食べられない」には多職種の関与が必要

口から食べられない理由は大きく3つ。環境、機能、認知の問題です。

環境面は、口の状況だけではなく、食べるときのいすやテーブル、食事姿勢、食具など、多岐にわたります。

機能面では咀嚼、嚥下、さらには胃腸の状態など全身状態も関与します。

認知面では、食事そのものの認知も含めて、食べる雰囲気づくりが必要になってきます。

そうなんです。口から食べられない問題は多岐にわたるので、歯科やSTだけでなく、多くの分野のプロフェッショナルの関与が必要になるのです。これが、多職種による食支援なのです。

新食研は小チームの集合体

そこで、2009年に新宿食支援研究会を立ち上げました。最初は15名ほどでスタートしましたが、10年以上の月日を経て、現在23職種、160名が所属しています。医療、介護の専門職のみならず、食品メーカーや車いすメーカーの方なども参加しています。

これだけの人数が、定例的に集まって何かをディスカッションしている……わけではありません。多いときは20以上のワーキンググループがあり、5~10人程度の小クラスで、それぞれテーマを持ってミーティングを開催してきました。

たとえば、食事姿勢を考えるチーム、食事動作を快適にする食具開発チーム、地域の宅配弁当サービスをより良くするチームなど。その集合体が、「新宿食支援研究会(新食研)」なのです。

他所属連携の試み

「地域食支援チーム」などというと、病院のように、医師・看護師・セラピスト・栄養士などが集う一つのチームがあり、そのチームで患者に相対するイメージが多くみられます。そのようなことは地域では不可能です。東京都新宿区では、在宅主治医が数百名単位、訪問看護ステーションが50か所、介護事業所が100か所以上あります。このような単位で、一つのチームづくりを考えるのはナンセンスです。

そこで重要なのは「他所属連携」です。

地域で多職種が集うケースでは、他所属が基本になります。所属も職種も違えば勤務時間も形態も異なります。さらには辞職や移動などもあります。このような状況で永続的なOne Teamを目指すことはできません。だからこそ、意識の高い専門職をその地域で多く作り出すことが不可欠になってきます。

新食研は、まさにそのような人材づくりの場なのです。

地域単位での多様な連携で結果を出す

「他職種連携」「多職種連携」という言葉があります。私は次のように定義しています。

他職種連携は、「各現場(患者)で、必要な職種が集い、連携をとりながら結果を生み出すこと」。

多職種連携とは「地域単位で多くの職種が交わり、多様な連携を行うことで多彩な結果を残していくこと」。

新食研はまさに多職種連携であり、その連携があるからこそ、各現場で「他」職種連携をして結果を出していけるのです。

モットーはMTK&H®

新食研の活動は、現在コロナ禍のため、オンラインやハイブリッドでワーキンググループを開催しています。このような体制になり、新食研はニ方向の大きな流れを作りました。一つは、知識・技術を高めていくこと。もう一つは地域(新宿)のネットワークづくりです。

知識・技術を高めるグループは、地域の垣根をつくることなく、新宿にこだわらずオープンな企画として開催しています。地域のネットワークづくりとして、社会福祉協議会や地元のボランティア団体とも交流を始めました。食支援が必要になったとき、一般市民と専門職とのマッチングができることを目標としています。

さて、このような地域の食支援を考えるとき重要なことは、必要な人に食支援を届け、結果を出すことです。そのためには「食や栄養に異常がある人を見つける人」「適切な支援者につなぐ人」そして「結果を出す人」を、地域でつくりつづけることです。そのために専門職は、食や栄養の知識・意識を、地域に広めていかなくてはなりません。

新食研では「見つける(M)、つなぐ(T)、結果を出す(K)、そして広める(H)」(MTK&H®)をモットーにして活動の根幹にしています。

訪問看護師が見つける、つなぐ、結果を出す、そして広める

新食研の活動のなかでも重要なポジションにあるのが、「訪問看護師による口腔ケアの実践」チームです。毎回、症例をみながら歯科関係者を交えてディスカッションを行っています。

在宅医療を受けるようになると、歯科に受診できないケースが多くなります。まだまだ訪問歯科は地域活動としてマイナーで、多くの人が受診できる体制はありません。この状況で、在宅医療の中心となる訪問看護師が、口の状況を確認し、口腔ケアを実践し、必要なときは訪問歯科につなげていく。まさにMTK&H®なのです。

残念ながら、在宅医療者は、食や栄養に対する意識が高いとはいえません。しかし、このような活動を通して早期に異常を見つけることで、回復する高齢者も多くなるでしょう。訪問看護は、在宅医療のみならず、地域食支援の核なのです。

第3回へ続く

五島朋幸
ふれあい歯科ごとう
新宿食支援研究会代表

 
新宿食支援研究会ポータルサイト
https://shinshokuken.com/
 
記事編集:株式会社メディカ出版

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