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アルコール依存症とは?原因・症状・対処法・訪問看護の注意点を解説

アルコール依存症とは?原因・症状・対処法・訪問看護の注意点を解説

アルコール依存症は、長期間にわたる飲酒習慣によって精神的・身体的な機能が損なわれ、症状が進むと日常生活に支障をきたす精神疾患です。

本記事では、アルコール依存症の症状から原因、合併症、訪問看護が介入する際の注意点まで詳しく解説します。アルコール依存症の疑いがある利用者さんやそのご家族のアセスメントにぜひお役立てください。

アルコール依存症とは

アルコール依存症は、長期的かつ多量の飲酒によって精神的・身体的にアルコールへの依存状態が形成される精神疾患です。アルコールが生活の中心となり、耐性がつくことで飲酒量が増加し、自分の意志で飲み方をコントロールすることが難しくなっていきます。世界保健機関(WHO)が制定した国際疾病分類第10版(ICD-10)でも「精神および行動の障害」として正式に認められている疾患です。

アルコール依存症は年齢や性別を問わず、誰でも発症する可能性があります。長期間にわたって飲酒を続けることで、「飲酒したい」という欲求を抑えることが難しくなるほか、アルコールが体から抜けた際に手の震えや発汗、悪寒などの離脱症状(禁断症状)が見られるようになります。

アルコール依存症の方は「特徴的な顔つきになる」との噂がありますが、そのような事実はありません。肝機能の低下によって黄疸が出ている場合、顔が黄色く見えることがありますが、黄疸だけでアルコール依存症は判断できません。ただし、妊娠中に母親がアルコールを摂取した場合に出現することがある胎児性アルコール症候群(FAS)や胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)では、胎児期の顔面の形成不全により特徴的な顔つきとなります。

アルコール依存症の原因

アルコール依存症の原因はさまざまで、複数の要因が絡み合っていることも多くあります。

年齢と性別

若年齢から飲酒を始めるとアルコール依存症になりやすいといわれています。アルコール依存症は性別に関係なく発症しますが、飲酒機会の多い男性のほう有病率は高いです。ただし、アルコール分解酵素の量や女性ホルモンの関係で、女性のほうが依存症に陥るまでの期間が短いとされています。

家庭・職場の環境

アルコール依存症の親を持つ子どもはリスクが高いとされているほか、保護者の飲酒態度や虐待、家庭不和などが依存症を助長することもあります。家庭外の職場や友人関係でも、飲酒を助長する環境があればリスク要因になるでしょう。

他の精神疾患

うつ病や不安障害などの精神疾患との併存率が高く、若年の女性患者の場合は摂食障害との併存も多く見られます。他の精神疾患がもとで飲酒を繰り返して、依存症に陥ることがあります。

※アルコール依存症をきっかけに他の精神疾患を併発するケースもあります。

アルコール依存症の進行度(段階)別の症状

アルコール依存症の精神依存症状としては、飲酒への強い欲求やそのコントロールの喪失、1日の大半の時間を飲酒に割く、飲酒以外の娯楽を無視する、精神的・身体的問題が悪化しているにもかかわらず節酒・断酒をしないなどの行動があります。

身体依存症状としては、飲酒の中止や減量によって離脱症状(禁断症状)が現れたり、「もっと酔いたい」という欲求によって飲酒量が増加したりします。離脱症状の具体例として、手指のふるえや発汗、悪心・嘔吐、不安、イライラ、不眠などがあり、重症化するとけいれんや幻覚が現れることもあります。

アルコール依存症は、以下のように進行します。

段階症状の特徴
1段階 (機会飲酒)特定のイベントや会合で時々飲酒する程度で、日常的には依存はない
2段階 (習慣飲酒)●日常的に飲酒するようになり、お酒に強くなる
●飲酒が生活の一部となる
※頻繁に記憶を失う(ブラックアウト)する場合は注意が必要となる        
3段階 (軽度のアルコール依存症)      ●お酒がないと物足りなさを感じ、飲酒量が増える
●軽い酔いでは満足できなくなる              
4段階 (依存症初期)●健康診断で飲酒量を少なく報告するようになる
●飲酒を控えるよう周囲から注意される
●飲める時間になるまで待てず、落ち着かない状態が続く
●飲まないと不眠に悩まされる
●アルコール切れで発汗や悪寒など風邪に似た症状(離脱症状)が現れる  
5段階 (依存症中期)●迎え酒(二日酔いの悪い気分を治すために飲むお酒)をする習慣が定着する
●飲酒のために嘘をついたり隠れ飲みをしたりする
●お酒が原因のトラブルが繰り返される
●節酒を試みても失敗する
6段階 (依存症後期)●アルコールが切れることなく連続的に飲酒するようになる
●幻覚や重篤な離脱症状、肝障害などが進行し、仕事や日常生活が困難になる

アルコール依存症の合併症

アルコール依存症は、広範な機能に影響を与え、さまざまな合併症を引き起こします。

肝臓への負担

長期間の飲酒は肝細胞の破壊を引き起こし、肝硬変や肝性脳症の原因となります。肝性脳症は、血液中のアンモニア濃度が上昇することで意識障害をもたらし、最悪の場合、昏睡状態に至ることもあります。

心血管系への負担

アルコールの過剰摂取は心血管系への負担も大きく、アルコール性心筋症の発症リスクが高まります。

栄養欠乏

アルコール依存症によってビタミンB群(B1、B12、葉酸)が欠乏しやすく、貧血や神経障害が悪化するほか、免疫力の低下により肺炎や敗血症などの感染症にかかりやすくなります。また、亜鉛やビタミンD不足による骨粗しょう症のリスクも増大します。

【監修・豊田先生のワンポイントチェック】
なぜアルコール依存症で栄養欠乏やビタミン不足に?

アルコールには膵外分泌刺激作用があり、大量に飲酒すると、膵液が十二指腸に排出しきれず膵管内に溜まり、膵管内圧が上昇します。そして、膵管から漏れ出した消化酵素が膵臓を自己消化し、膵臓に炎症が起こります。この状態が続き、慢性膵炎になると、膵臓の機能低下が起こり、消化酵素の分泌が悪くなります。膵臓から分泌されている消化酵素は腸の栄養素の吸収に関与しているため、分泌が悪くなることで栄養不足やビタミン不足が起こります。

加えて、アルコール依存症の方はお酒を多く摂取し、食事をあまり摂らない傾向にあるため、一層栄養不足に陥りやすくなります。また、ビタミンB1はアルコールを代謝する際に必要なため、アルコールを大量に飲むとたくさんのビタミンB1が消費されます。膵臓の機能低下によりビタミンの吸収率が悪くなっている状態下で、たくさんのビタミンが使われると、需要と供給のバランスが崩れ、ビタミン不足に陥ります。

アルコール依存症のチェック方法

アルコール依存症のチェック方法として、1990年代初頭に世界保健機関(WHO)が支援して開発したスクリーニングテスト「AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)」が広く用いられています。AUDITは10項目からなる自記式のテストで、各質問に対して0点から4点のスコアが与えられます。

テスト全体の合計点は0点から40点の間で評価され、得点に応じて飲酒問題の深刻度を判断します。日本では、アルコール依存症と診断する点数として15点を目安にしています。

各質問と回答については下記のとおりです。

質問回答
1あなたはアルコール含有飲料を、どのくらいの頻度で飲みますか?0:飲まない
1:月に1回以下
2:月に2〜4回
3:週に2〜3回
4:週に4回以上
2飲酒をする時は、通常どのくらいの量を飲みますか?
【基準】
日本酒1合=2ドリンク
ビール大瓶1本=2.5ドリンク
ウィスキー水割りダブル1杯=2ドリンク
焼酎お湯割り1杯=1ドリンク
ワイングラス1杯=1.5ドリンク
梅酒小コップ1杯=1ドリンク
0:1〜2ドリンク
1:3〜4ドリンク
2:5〜6ドリンク
3:7〜9ドリンク
4:10ドリンク以上     
3一度に「6ドリンク以上」飲むことが、どのくらいの頻度でありますか?0:ない
1:月に1回未満
2:月に1回
3:週に1回
4:毎日、ほとんど毎日      
4過去1年間で、飲み始めると止められなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?0:ない
1:月に1回未満
2:月に1回
3:週に1回
4:毎日、ほとんど毎日
5過去1年間に、普通ならできるようなことが、飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?0:ない
1:月に1回未満
2:月に1回
3:週に1回
4:毎日、ほとんど毎日
6過去1年間に、深酒の後の体調を整えるため、朝に迎え酒をしたことが、どのくらいの頻度でありましたか?0:ない
1:月に1回未満
2:月に1回
3:週に1回
4:毎日、ほとんど毎日
7過去1年間に、飲酒後に罪悪感や負い目を感じたことが、どのくらいの頻度でありましたか?0:ない
1:月に1回未満
2:月に1回
3:週に1回
4:毎日、ほとんど毎日
8過去1年間に、飲酒のために前夜の出来事を思い出すことができなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?0:ない
1:月に1回未満
2:月に1回
3:週に1回
4:毎日、ほとんど毎日
9飲酒によって、あなた自身かほかの誰かが怪我をしたことがありますか?0:ない
2:あるが、過去1年間にはなし
4:過去1年間にあり
10家族や親密な友人、医師、あるいはほかの健康管理にたずさわる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすようにすすめたりしたことがありますか?0:ない
2:あるが、過去1年間にはなし
4:過去1年間にあり
出典:e-ヘルスネット(厚生労働省)「AUDIT」

アルコール依存症の対処法

アルコール依存症の治療は「解毒治療」「リハビリ治療」「アフターケア」の3段階に分かれており、個人の状態に応じて治療計画を立てます。治療の目的は、身体的・精神的な健康を回復させ、再飲酒のリスクを防ぎながら、社会復帰を目指すことです。

解毒治療

アルコールを体から排出する過程で生じる離脱症状の管理と、アルコールによって引き起こされた合併症への対応を行います。

リハビリ治療

個別カウンセリングやグループ療法によって自らの飲酒問題を直視し、断酒への意欲を高めることを目指します。アフターケアでは、医師のサポートと薬物療法による安定した精神状態の維持を目指し、自助グループでの仲間との交流も促します。

アルコール依存症の訪問看護の注意点

アルコール依存症の方の訪問看護を行う際は、次の注意点を押さえましょう。

病識の欠如に対する配慮

アルコール依存症は「否認の病」といわれることもあり、利用者さんは自分が病気であるという認識が乏しく、治療を拒否するケースもが多く見られるでしょう。無理に病識を押し付けようとすると、利用者さんの拒否感が強まり、治療への意欲が低下する可能性があります。利用者さんのペースに合わせた働きかけが必要です。

信頼関係の構築に時間をかける

アルコール依存症の利用者さんは、孤独感を抱えやすく、他者への不信感が強いケースが多々見られます。信頼関係を構築するには時間と忍耐が必要で、急いで関係を築こうとすると逆効果になる場合も。焦らず時間をかけて接し、小さな変化を見逃さない、利用者さんの感情に寄り添い無理な介入を避ける、といったことを心がけましょう。

再飲酒・再発のリスク管理

アルコール依存症の方は、生活の中で再飲酒するリスクが常にあります。アルコール依存症の再発を防ぐためには、訪問看護師が環境を整備しつつ、利用者さんの変化を慎重に観察する必要があります。利用者さんの行動や表情の変化を細かく把握して早期介入し、飲酒の誘惑となる要素(人間関係や環境)を事前に特定して対策を考えていきましょう。

ご家族への病識の理解と協力の促し

アルコール依存症からの回復にはご家族の協力が欠かせません。日常生活でのサポートや励ましはもちろん、再飲酒しそうになったときの対処も重要な役割です。

ご家族にとっては、利用者さんが断酒を続けられないことに対し、怒りや失望を感じることも少なくありません。しかし、アルコール依存症は個人の意志の弱さではなく、医療的な治療が必要な病であるという認識を持つことが必要です。アルコール依存症の治療は長期にわたるものであり、利用者さん本人だけでなくご家族にも大きな負担がかかります。そのため、訪問看護師は本人だけではなくご家族にも寄り添う姿勢を持つことが大切です。

* * *

アルコール依存症は、一度発症すると長期間にわたる治療とサポートが必要な病気です。本人だけでなく、家族や支援者の理解と協力が治療成功の鍵となります。訪問看護においても、信頼関係の構築、病識の共有、再発リスクの管理といった要素を丁寧に進めることで、回復を促すことができるでしょう。

編集・執筆:加藤 良大
監修:豊田 早苗
医師 豊田 早苗
とよだクリニック院長
鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。
2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。

【参考】
〇厚生労働省「アルコールと依存」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-05-001.html
2024/1/17閲覧
〇厚生労働省「アルコール依存症の危険因子」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-05-003.html
2024/12/13閲覧
〇厚生労働省「AUDIT(おーでぃっと)」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-021.html
2024/12/13閲覧




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