「骨粗鬆症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は骨粗鬆症について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。
骨粗鬆症の基礎知識
破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回ると骨量が減少し、さらに進行すると骨粗鬆症になります(図1)。
図1 正常な骨代謝と骨粗鬆症
正常な骨代謝は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成とのバランスが保たれ、骨量を維持している。骨粗鬆症では、そのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回った状態である
骨粗鬆症の最も重大な合併症は骨折です。大腿骨近位部骨折の1年以内の死亡率は10~35%で、急性心筋梗塞よりも予後は悪いことが知られています1)。大腿骨近位部骨折は骨折部位により骨頭骨折、頸部骨折、転子部骨折、転子下骨折と呼ばれます(図2)。
図2 大腿骨近位部骨折の分類
骨粗鬆症の診断
骨折リスク評価法FRAXを用いる
FRAX(fracture risk assessment tool)を用いれば、10年以内の骨折発生リスクを計算することができます。訪問看護中に簡単に計算が可能です。ご自身の骨折リスクもぜひ計算してみてください。
▼骨粗鬆症財団「骨折評価ツールFRAX」
https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/selfcheck/frax.html
FRAXで推定した大腿骨近位部骨折の10年リスクが3%以上、または骨粗鬆症関連骨折の主要リスクが20%以上の患者さんは薬物療法の適応に。未治療なら主治医に連絡しましょう。
DEXAで骨密度を計測
骨密度検査ではDEXA法(dual energy X-ray absorptiometry、二重エネルギー X線吸収測定法)を用いて骨密度を正確に計測します。
YAM(young adult mean、若年成人平均)値を基準(100%)に、70~80%を骨減少症、<70%を骨粗鬆症とし、骨折の既往歴があれば、80%以下でも骨粗鬆症と診断されます(図3)。
図3 骨粗鬆症の診断基準
病歴聴取と身体所見のポイント
骨粗鬆症の原因には次のものがあります。該当する生活習慣や疾患がないかを問診と身体診察で確認しましょう。
- アルコール多飲
- 喫煙
- 低体重(BMI<18.5)
- 膠原病[関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)](関節痛や皮疹が出現)
- クッシング症候群(副腎皮質ホルモンの過剰分泌のため、満月様顔貌や中心性肥満、高血圧が起こる)
- 甲状腺機能亢進症(手の振戦、体重減少、発汗増加、甲状腺腫大を認める)
- 多発性骨髄腫(高齢者で貧血や腰痛、体重減少の場合に想起)
- 薬剤(長期使用):ステロイド、メトトレキサート、抗けいれん薬
椅子からの立ち上がりが困難な場合、近位筋(大腿)の筋力が低下している可能性があります。立ち上がった時にふらつくようなら、バランスが悪いかもしれません。どのような薬でも4種類以上の内服は転倒のリスクを増加させるので注意が必要です。(1)筋力低下、(2)バランスが悪い、(3)4種類以上の薬の使用の3つすべてがあると、1年後の転倒リスクは100%といえます。
主な治療
非薬物療法
食事で十分なカロリーとタンパク質、カルシウム、ビタミンDが摂取できるとよいでしょう。禁煙、適度な飲酒、運動(ウォーキング)、転倒予防(十分な照明、階段や浴室の手すり、バランス訓練)、薬の調整(ステロイドの減量、起立性低血圧やめまいを起こす薬の中止)も重要です。
薬物療法
【ビスフォスフォネート】
破骨細胞の働きを抑える第一選択薬です。アレンドロネートとリセドロネートは、椎体骨折を50~70%、大腿骨近位部骨折を40%、非椎体骨折を20~30%減らします。
多くの経口薬は週に1回、起床時に180mLの水で服用します。食道に薬物が長く停滞すると、食道炎や食道潰瘍を起こすため、内服後30分間は座位を保持し、水以外の飲食をしないように指導します。
副作用は胸焼けです。まれに顎骨壊死や非定型大腿骨骨折が生じることも。顎骨壊死は治療中のどの時点でも起こります。非定型大腿骨骨折のリスクは治療期間とともに増加するため、5年間の経口投与後に薬物治療を中断します。
腎機能低下(GFR<30mL/min/1.73m2)では禁忌または慎重投与です。
【デノスマブ】
破骨細胞の活性化を抑制するモノクローナル抗体です。6ヵ月毎の皮下注により、骨吸収を抑制し、骨密度を増加させて脊椎、股関節、非椎体骨折のリスクを低減します。
副作用は低カルシウム血症、感染症(蜂巣炎、気管支炎)の増加、顎骨壊死、非定型大腿骨骨折です。腎機能が悪くても使用可能です。
効果が治療中止後には持続しないため、デノスマブによる最後の治療から6ヵ月後に、ビスフォスフォネートを代表とする骨粗鬆症の治療を開始しなければならない点に注意が必要です。
【カルシウムとビタミンD】
従来、1000~1200mg/日のカルシウム摂取と25-OHビタミンD濃度が20~30ng/mLになるようビタミンDサプリメント1000IU/日を取ることが推奨されていましたが、その効果は最近では疑問視されています。
●骨粗鬆症の最も重大な合併症は骨折です。大腿骨近位部骨折の1年以内の死亡率は約10%で、急性心筋梗塞よりも予後は悪いことが知られています。 ●FRAXを用いれば、10年以内の骨折発生リスクを計算することができます。 ●骨粗鬆症の治療にはビスフォスフォネートとデノスマブが有効です。 |
執筆:山中 克郎 福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問 1985年 名古屋大学医学部卒業 名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。 編集:株式会社照林社 |
【引用文献】
1)日本整形外科学会/日本骨折治療学会監修,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会編集.『大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン2021 改訂第3版』,南江堂,東京,2021;80.
【参考文献】
○American College of Physicians.「Endocrinology and Metabolism」,『MKSAP19』.AM.COLLEGE OF PHYSICIANS,2021;72-83.
○Reid IR,Billington EO. Drug therapy for osteoporosis in older adults.Lancet 2022,399(10329):1080-1092.