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「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回はパーキンソン病について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

敗血症の基礎知識

敗血症とは「感染に対して制御することができない生体反応が起こるために、生命を脅かすさまざまな臓器の機能不全が起こる状態」です。65歳を超えると発生率が年々増加します。敗血症による死亡率は高く、敗血症に関連する臓器不全が1つ増えるごとに、死亡率は約15%増加します1)

敗血症の症状と注意すべき身体所見

発熱があり、意識はややぼんやりとしていることが多いです。尿失禁や転倒、食欲不振は、高齢者の敗血症においてよくみられる症状です。

敗血症に関連する状態として菌血症があります。菌血症は、一時的に血液に細菌が入った状態(血液培養陽性)です。免疫機能が正常ならば、細菌は排除されます。

一方、敗血症は、菌血症が進行して全身に炎症が広がり、臓器障害を引き起こす状態です。血液培養は必ずしも陽性となりません。菌血症では悪寒戦慄(shaking chills)を伴うことがあります。悪寒戦慄とは、強い寒気を感じ、毛布をかぶっても歯がガチガチと震える状態です。菌血症の相対リスクは12倍に上昇します2)。高齢者の悪寒戦慄では、胆管炎や尿路感染症を第一に考えます3)

敗血症の最も初期の症状は、頻呼吸(呼吸性アルカローシス)です。呼吸数を確認しましょう。組織環流障害を示唆する症状と身体所見には、意識変容(中枢神経)、尿量減少(腎臓)、網状皮斑や冷感(皮膚)があります4)

敗血症では、肺炎や腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染の頻度が高いので、表1の症状に注意して病歴を聴取し、身体所見を確認しましょう。

表1 注意が必要な症状と身体所見

症状身体所見
肺炎咳、痰ラ音(crackles)
腹腔内感染(胆道感染症、腸閉塞、虫垂炎)腹痛、嘔吐、下痢腹部の圧痛、肝叩打痛、腹膜刺激徴候
尿路感染頻尿、排尿時痛、残尿感、腰痛下腹部に圧痛、
肋骨脊柱角に叩打痛
皮膚感染(褥瘡)発赤、疼痛、膿皮膚びらん、壊死

「昨日元気で今日ショック 皮疹があれば儲けもの」、これは感染症診療の第一人者である青木眞先生の言葉です。元気だった人が、急にショック状態となることがあります。この場合、皮疹が認められれば次の疾患を疑います。

● トキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)
● 髄膜炎菌感染症
● リケッチア感染症(ツツガムシ病、日本紅斑熱)
● 脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症
● 肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila感染症
● 黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎
● 劇症型Clostridium perfringens感染症

診断

敗血症の診断基準として、quick SOFA(quick sepsis-related organ failure assessment:qSOFA、クイックソファもしくはキューソファと呼ぶ)を確認します。

qSOFA

(1)呼吸数≧22回/分
(2)精神状態の変化
(3)収縮期血圧≦100mmHg
2つ以上を満たす場合に敗血症を疑う(予想死亡率10%以上)

呼吸数は、橈骨動脈を触れて、脈拍を測定するふりをしながら、患者さんに気がつかれないように30秒間計測し、その結果を2倍にして求めます。時計がないときは、患者さんの呼吸をまねて、自分の呼吸より速いか確かめます。

最新トピックス
2021年の敗血症ガイドラインでは、敗血症または敗血症性ショックの評価にqSOFAスコアを使用しないことを推奨しています。National Early Warning Score(NEWS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、Modified Early Warning Score(MEWS)などの他のスコアリングシステムは、院内死亡やICU入院の予測においてqSOFAよりも優れています5)
 
研究により、qSOFAは特異度は高いのですが、感度が低いことが示されています。すなわち、qSOFA陽性であれば敗血症が疑われますが、陰性であっても必ずしも敗血症ではないとはいえないことに注意が必要です。

訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント

  • 意識レベル、発熱、悪寒戦慄、血圧、呼吸数を確認します。
  • 既往歴(例えば、糖尿病や血液透析、がん)や薬剤歴(例えば、ステロイドや抗がん剤)を確認し、免疫不全状態がどうかを判断します。
  • 症状や身体所見から、どこが感染巣なのかを推測します。

治療

敗血症が疑われる場合、迅速に治療を行わなければ患者の予後が悪くなります。病院での精査治療が必要になるので、訪問看護師としては敗血症の可能性を探り、主治医とすぐに連絡をとります。可能ならば末梢ルートを確保し、生理食塩液の点滴をしながら、早急に病院に救急搬送することが大切です。病院で行われる治療(敗血症の1時間バンドル)について要点を解説します。

敗血症の1時間バンドル

  1. 乳酸値が2mmol/L以上に上昇している場合は、改善を確認するために2~4時間以内に再検査します。
  2. 抗菌薬治療を開始する前に、2セットの血液培養を採取します。
  3. 広域スペクトルの抗菌薬を1時間以内に投与します。最も一般的な病原体は、グラム陰性菌(大腸菌、クレブシエラ属)、またはグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌)です。 
  4. 低血圧、または乳酸値>4mmol/Lなら生理食塩液または乳酸リンゲル液を30mL/kgで投与します3)
  5. 十分な輸液にもかかわらず、平均動脈圧を65mmHg以上に維持できなければ、血管収縮薬(ノルアドレナリン)を使用します。

*平均動脈圧=(収縮期血圧―拡張期血圧)÷3+拡張期血圧


ポイント

●菌血症を疑う症状は悪寒戦慄です。
●qSOFAで(1)呼吸数≧22回/分、(2)精神状態の変化、(3)収縮期血圧≦100mmHgのうち、2つ以上を満たす場合に、敗血症を疑います。
●敗血症の原因となる感染症で多いのは、肺炎、腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染です。


執筆:山中 克郎
福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問
医師 山中 克郎
1985年 名古屋大学医学部卒業
名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。
 
編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)Chick D,ed:Sepsis.MKSAP 19 Pulmonary and Critical Care Medicine, American College of Physicians,2022:77-80.
2)Tokuda Y,Miyasato H,Stein GH,et al:The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness.Am J Med 2005;118(12):1417.
3)坂本壮:救急外来ただいま診断中!第2版.中外医学社,東京,2024:136-172.
4)塩尻俊明監修,杉田陽一郎著:研修医のための内科診療ことはじめ.羊土社,東京,2022:21-24.
5)Evans L,Rhodes A,Alhazzani W,et al:The Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.Intensive Care Med 2021;47(11):1181-1247.

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