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【在宅医が解説】「うつ病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

うつ病の学び直し

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を解説します。今回はうつ病とうつ症状について、在宅でよくみられる症状を中心に、訪問看護師が知っておきたいことを在宅医療の視点で紹介します。

はじめに

「うつ病」という病名を聞いたことがない方は、まずいないと思います。どんな症状が出るかというと、

一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れる

厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」1)

と厚生労働省のウェブサイトに記載されています。ですが、仕事や私生活でつらいことがあったり、あまりに忙しかったりすると、多くの人はこんな気分や体調を経験するのではないでしょうか。その線引きは非常に難しく、精神科の専門医でも診断がつくまで年単位を要することがあります。

私たちが在宅の現場で出会うのは、「大うつ病」と呼ばれるいわば正真正銘のうつ病よりも、内科的疾患に合併するうつ症状や、薬の副作用、心理的な原因があっての抑うつ気分のほうが圧倒的に多いと思います。ここでは、主に後者について解説します。

うつ症状を生じうる疾患がたくさんある

癌、慢性疼痛を伴う疾患、内分泌疾患、冠動脈疾患、糖尿病、脳梗塞後遺症、パーキンソン病等々、うつ症状を呈しうる疾患はたくさんあります。すべてを書ききれませんので、ここでは癌を取り上げたいと思います。

癌患者はうつ病や抑うつ状態になりやすい

癌の患者さんでは、15~40%と高率にうつ病を合併する2)とされています。

癌患者さんは、将来の計画を失ってしまう絶望感、死の恐怖、身体的苦痛への不安、経済的不安等々、非常に強いストレスにさらされますから、抑うつ状態になるのはむしろ通常の反応といえます。さらにわれわれが在宅で出会うのは、積極的治療の適応がなく「死を待つばかり」の患者さんが多いわけですから、身体的にも精神的にもかなり深刻な状況です。

患者さんとご家族に、「抑うつ的になりやすい状況に置かれていること」を理解していただき、共感をもってお付き合いしていきましょう。

信頼できる人に思いを打ち明けることで、気持ちが整理され、落ち着いてくることがあります。家族でも親友でも、主治医でも看護師でも構いません。患者さんが思いの丈を打ち明けられる環境づくりを工夫してください。

「病気についてよくわからない」「これからどうなっていくのかわからないのが不安」という場合は、主治医が病気と予後について丁寧に説明することで、少しずつ気持ちが整理されていきます。

癌終末期のうつ症状への対応

終末期においては、心身に苦痛を与えている症状の緩和(いわゆる緩和ケア)で、うつ症状が軽減することもありますが、難しければ、比較的副作用が軽い抗うつ薬を投与することもあります。

人生最期の大事な時間です。身体症状はもちろんのこと、精神的問題についても極力緩和し、本来のその人らしい時間を過ごしていただくために全力を尽くさなければなりません。看護師の皆さんは、患者さんとご家族のお気持ちを丁寧に拝聴し、主治医につないでください。

高齢者のうつ病の特徴と治療

高齢化が急速に進んでいる現在、高齢者のうつ病には特に注意を払いましょう。さまざまな病気を抱えている上に、加齢による心身の衰えが加わると、うつ病発症リスクは高くなります。さらに、配偶者との死別、経済的不安などの環境要因で、気持ちが落ち込みがちになります。

高齢者のうつ病の特徴

治療の基本は、高齢者以外でも同様ですが、柱となるのは支持的精神療法です。患者さんの訴えを丁寧に拝聴し、悩みに共感すること。それだけで「癒される」患者さんは少なくありません。看護師の皆さんにはぜひその役割を果たしていただきたいと思います。

不眠、食欲不振などに対して薬物治療を行なうこともありますが、若い方に比べると、高齢者では抗うつ薬の副作用が出やすく、効果も出にくいです。持病の治療薬との組み合わせが悪いと抗うつ薬が使えないこともあります。高齢者では、単一の抗うつ薬をごく少量から使用して様子をみることになります。

薬剤惹起性うつ病を疑うケース

うつ症状を起こしやすい薬剤として、古典的にはインターフェロン、ステロイド、レセルピンをはじめとする降圧薬などが知られています。ほかにも、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、高脂血症治療薬など一般的に使われる薬剤でも、頻度は低いですが「抑うつを誘発する可能性」が指摘されているものがたくさんあります。

新しい薬の処方後に患者さんが抑うつ的になった場合、まずは副作用の可能性を疑います。早期発見して薬を中止すれば、抑うつは速やかに改善します。

高齢者の多剤併用には特に注意を

高齢者では特に、薬の副作用について注意が必要です。

高齢者は複数の持病を持ち、そのぶん処方される薬が多くなります。処方が6つ以上に増えると副作用を起こす頻度が増えるといわれていますが、6つどころではなく、特に病気ごとに複数の医療機関に通院している方だと、合計10種類以上の薬を飲んでいる、というケースも少なくありません。

高齢になると薬を分解・代謝する力が低下するため、薬が効きすぎたり副作用が出やすくなったりします。たくさんの薬を服用していると、そのぶん副作用のリスクが高まり、重症化しやすいです。特に起こりやすい副作用として、認知症、せん妄と並んで、うつ症状が挙げられています。

特に、鎮痛薬や睡眠薬、抗不安薬などは、体に蓄積されやすいので注意が必要です。


執筆:佐藤 志津子
医療法人社団緑の森 理事長
さくらクリニック練馬 院長

編集:株式会社メディカ出版

【引用・参考】
1)厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_depressive.html
2023/03/20閲覧
2)明智龍男.『がん患者のうつ病・うつ状態』現代医学.69(2),2022,30-5.

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