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【在宅医が解説】「COPD」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

COPD学び直し

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は慢性閉塞性肺疾患(COPD)について、訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。

この記事で学ぶこと

「COPD患者は、呼吸困難感で動けず、るいそう著明。苦しいことは強要せず、呼吸困難感を緩和し、傾聴・共感し、ACPを行ない、看取っていくのが最善」と思っていないでしょうか? 呼吸リハビリテーション(以下「呼吸リハ」)の効果を体験していない在宅チームが、残念ながら辿りがちな道です。在宅における多職種連携の包括的アプローチにより、COPDはV字回復が可能な疾患です。呼吸リハは、入院ではなく、日常生活の場でこそ行なうべきであり、行なわないのは、在宅チームの怠惰だと心得ていただきたいと思います。

COPDは気道の慢性的な閉塞による疾患

COPDとは、タバコの煙を長期に吸入することで、肺胞壁が壊れ(肺気腫)、気道には炎症が起こり、気道壁が肥厚し、気道分泌物が増える(慢性気管支炎)疾患です。

COPDの病態

正常な肺では、肺胞壁の弾性線維が裏打ちして気道の形状を保てていたのが、肺胞壁の断裂で、呼気の途中で気道が虚脱(内腔がつぶれる)・閉塞。吐き出しきれずに貯留したガスで、気道の閉塞がさらに悪化するという悪循環が起こり、呼吸困難の最大の原因となります。まさに、慢性的に気道が閉塞している疾患です。また、疲弊した筋肉から炎症性サイトカインが出て、さらに肺や気道、全身に炎症を起こします。

筋力維持を図り、呼吸ケアで急性増悪を回避

治療方針は、生活の場で筋力維持を図りながら、多面的包括的呼吸ケアで急性増悪を回避することです。呼吸困難感を克服し、動き、筋肉を衰えさせないことが重要です。そのためには、薬物療法、リハビリと栄養療法は必要不可欠です。

呼吸困難感をとるために、気管支拡張薬の吸入、酸素療法・NPPV(非侵襲的陽圧換気)、心不全・心循環管理、呼吸理学療法、栄養療法、パニックコントロールなどを行ないます。これらは、病態疾患管理であると同時に、緩和ケア、心理社会的スピリチュアルケアにもなりえます。これらは在宅で行なわれます。

包括的な呼吸ケア

特に重要なのは、呼吸困難感のいちばんの原因となる動的肺過膨張(以下DHI;Dynamic hyper inflation)の予防です。呼吸状態は日内で変動しますが、セルフコントロール域を超えて過膨張が元に戻らなくなった状態が、急性増悪です。重症になればなるほど、セルフコントロール域が狭まり、ささいな要因(低気圧が近づく、不安、便秘、食後膨らんだ胃が横隔膜を挙上させるなど)で、頻呼吸になり急性増悪を起こします。気管支炎や心不全の増悪というエピソードがなくとも、急性増悪は起こりえます。

呼吸状態

薬物療法のメインは気管支拡張薬です。コントローラー(長期管理薬)として、長時間作用型β2刺激薬(LABA)と、長時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(LAMA)の吸入があり、労作前にDHI予防目的に投与する、短時間作用型β2刺激薬(SABA)や短時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(SAMA)があります。

また、NPPVでは、吐き出されずに肺の中に残っているガスの圧(内因性PEEP)に相対する圧(カウンターPEEP)を、呼気圧(EPAP)として設定すると、肺内のガスを呼出させることができます。これは口すぼめ呼吸と同じ原理です。NPPVで、活動で生じた肺過膨張をリセットできれば、呼吸困難感の軽減にも役立ち、身体活動性を向上させることができます。

COPDに喘息が合併する場合は急性増悪を頻回に起こしやすく、喘息の管理をすることで、不可逆性と思われた気道閉塞が改善することもあります。

また、脈拍が速いことはそれだけで労作時の呼吸困難感につながるため、脈拍が速い場合にはβ1ブロッカーを併用することが、有効な運動療法を行なうためのコツだと考えています。

訪問看護でのポイント

日常生活での援助方針

日常生活のなかで呼吸困難感を生じる労作は
(1)上肢を挙上する動作:洗髪や衣類の脱ぎ着、洗濯物を干す
(2)上肢を反復させる動作:歯磨き、体を洗う
(3)体幹を屈曲させる動作:靴下やズボンの着脱、足を洗う
(4)息をこらえる動作:排便や、重い物を持ち上げる
等が挙げられます。援助が必要であれば、ある程度の介入も検討しますが、なるべく患者が日常生活を営めるようにします。DHIの予防にSABAやSAMAをいつ吸ったらよいのかの指導も重要なポイントです。

在宅チームは点でのかかわりであり、急性増悪の徴候の早期発見が重要です。入浴時やデイサービスの送迎時などは、労作によって換気メカニクスの異常が早期に出やすいので、いつもと違うSpO2の低下や戻りの遅延、呼吸困難感の有無を、意識的に観察してください。

セルフマネジメントできるように援助する

急性増悪の予防にはセルフマネジメントも重要です。DHIの予防に自ら行なうべきことの指導(アクションプランニング)が大切です。

たとえば、低気圧が近づくとDHIを起こしやすく、労作前のSABAやSAMAのアシストユースの徹底、NPPVをいつもより長く行なう、などです。

呼吸困難のアセスメント

また、患者がセルフモニタリングで症状の増悪に自ら気づけるよう、指導することも重要です。
 ● 非活動時の体温、SpO2、脈拍、体重、喀痰の量・色、浮腫
 ● いつもの活動時のBorg scale、SpO2、脈拍
を患者が無理なく記録でき、かつ重要なポイントを患者ごとにアレンジしたセルフマネジメントシートを作成し、記録してもらいます。いつもと違うことに自分で気づくことができたか、アクションできたかも、訪問ごとに一緒に振り返ります。

訪問看護師のさらなる役割

医療チームに訪問PT・OT・栄養士がいない場合は、医師の指示のもと、訪問看護師が呼吸理学療法や栄養療法の知識を持ち、さまざまな教育や支援の担い手になる役割も求められます。

呼吸理学療法

DHIやSpO2低下が起こらないような、労作の工夫、呼吸法、酸素量の調整などを行ないます。

栄養療法

呼吸するだけで消費されるカロリー(呼吸仕事量)は700kcal/日で、これを基礎代謝量に追加摂取しなければ、体重が減っていきます。そこで、栄養学的な視点で食事内容をチェックし、高タンパク・高カロリー食を基本に、栄養補助食を追加するなど、必要カロリーが満たされるように工夫します。さらに心不全リスクがあれば、塩分管理も必要となります。

執筆:武知 由佳子
医療法人社団愛友会いきいきクリニック 理事長/院長
 
編集:株式会社メディカ出版

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