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【在宅医が解説】「心不全」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

「心不全」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は心不全について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

この記事で学ぶポイント

  • 心不全は財布が小さくなり家計維持に苦慮している状態
  • 心不全は急性増悪を繰り返しつつ、しだいに悪化するが、終末期の判断や最期の迎え方の予測はしばしば難しい
  • 心不全の治療は原因疾患と心不全自体への二本立て
  • 訪問看護では肺鬱血・体液貯留・生活行動の三つに注目して観察する
  • 心不全を治療するのではなく、心不全とともに生きていく姿勢が重要

心不全って何だろう

心不全は、心ポンプがうまく働かなくなるために、しだいに生活範囲が縮んでいく疾患です。

これは、財布が小さくなっていくイメージが近いかもしれません。使えるお金(酸素供給)が減っているなかで、支出(酸素需要)を賄えるよう何とかバランスをとりつづける状況に似ています。この収支が赤字になると、急性(非代償性)心不全という状態に陥ります。

心不全はどのように経過していくのか

心不全は生活習慣病から始まり、器質心疾患への罹患を経て、心ポンプ失調が顕在化し、しだいに難治化していきます。この経過をそれぞれA・B・C・Dの段階(ステージ)に区切っています1)(図12))。

心不全の経過

生活強度は時間とともに緩徐に低下していきますが、ときおり何らかのきっかけで急性心不全を生じ大幅に強度が下落します。また致死性不整脈により突然人生の終幕を迎えることもあります。いつからが終末期なのか、またどのような最期の迎えかたをするのかはしばしば予測困難です。

治療は原因疾患と心不全自体への二本立て介入

心不全の治療には大きく二つ、原因疾患の治療と心不全自体への治療があります。また各々、薬物療法に加え侵襲的治療があります。

原因疾患の治療

心不全の原因は虚血性心疾患・高血圧・弁膜症が多くを占めますが、抗がん剤を含めた薬剤・アミロイドーシス・膠原病・内分泌疾患など、根本原因が心臓以外に存在することもあります。まずはこれらの原因疾患の治療を行なうことが重要です。虚血性心疾患・不整脈・弁膜症に対してはカテーテルまたは外科的治療という選択肢もあります。これらの原因疾患の治療により、心不全の改善や安定化が期待できます。

心不全自体の治療

心不全自体への治療は薬物療法が主軸となります(図23))。

心不全の薬物療法

特に近年は、心不全の再入院抑制や予後改善をもたらす新規薬剤が複数登場しています。現在では少なくとも四種類の薬剤【(1)β遮断薬、(2)ACE阻害薬・アンジオテンシン受容体拮抗薬:ARB・ARNI、(3)アルドステロン受容体拮抗薬(MRA)、(4)SGLT2阻害薬】が必須薬とされ、「Fantastic Four」(日本的にいえば四天王)と呼ばれています。

これら心不全治療薬が個別の患者さんに適切に導入されていることが重要であり、医者の腕の見せ所でもあります。それを最適治療(Optimal Medical Therapy;OMT)またはガイドラインを遵守した薬物治療(Guideline-directed Medical Therapy;GDMT)と表現しています。

薬物抵抗性の心不全に対しては、限られた施設において限られた患者さんを対象に、心臓移植や植込型補助人工心臓(VAD)の装着を行ないます。

訪問看護でのポイント

心不全は再入院を反復することでQOLが低下し予後も悪化するため、心不全悪化の早期発見・早期介入が重要です。特に以下の三つに注目して観察することをおすすめします。

肺鬱血

たいていの場合、肺鬱血の症状は「労作時息切れ→就寝後の一過性呼吸苦(発作性夜間呼吸苦)→起座位保持(起座呼吸)→安静時呼吸苦」の順に出現します。肺が徐々に水浸しになるイメージです。

臥位になると肺全体が水浸しになり、酸素化がより困難になります。また靴を履く際や洗顔時など、前屈みになると胸が重くなるのを前屈呼吸苦といい、これも肺鬱血のサインです。

頸静脈怒張(座位で内頸静脈の拍動を観察可能)も有力な手がかりではありますが、判断にはある程度の経験が必要なため、手放しではおすすめしません。

体液貯留

心不全になると、相対的に腎血流が低下し、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の賦活化によって体液貯留傾向になります。水ぶくれになっていくイメージです。

たいていは重力により下方・末梢に体液が貯留するため、下腿浮腫が最も目立ちます。脛骨粗面を押すと粘土のようにへこむか、また圧痕が残るかで判断します。ほかにも、患者さんから「指輪がきつい」「手が曲げにくい「『顔が大きくなった』と言われた」「目が開けにくい」「おなか周りがぶよぶよする」などの訴えがあれば、同部位の浮腫を疑ってみてください。

生活行動

心不全は生活行動を契機に悪化することが多く(図34))、またそれを医者に伝えないこともあるため、患者さんの日常を知る訪問看護師さんの役割はたいへん重要です。服薬行動を含めた治療アドヒアランスが起きていないか、ライフイベントや生活・勤務環境を含めた過活動・ストレス過剰がないかなどの情報を、訪問のたびにそれとなく収集することで、心不全悪化リスクを見積もることができるようになります。

生活の場で悪化する心不全

訪問看護のさらなる役割

心不全は「治療する」というよりも「ともに生きる」姿勢が重要です。医療技術の適応には限界がある上、心不全の安定化には生活行動の制御が必要となるからです。

ではそれをどうやって実現するか? それには、病院世界に生きる医療従事者の視点だけではなく、患者さんの日常生活を観察し見守る在宅医療従事者の視点が必要です。いわゆる形式的な紹介-逆紹介ではなく、病院-在宅連携という形で多くの医療従事者がコミュニケーションをとることで、患者さんがより快適に心不全とともに生きるのを支えていくことが容易になると考えています(図4)。

心不全の連携

そのような心不全診療の未来像において、訪問看護師さんには、まさに主役級の活躍が期待されているといっても過言ではありません。そのような地域はまだまだ少ないのが現状ですが、千葉においても5年前からそのような試みを行なっています。ご興味のある方は一度ホームページを覗いてみてください。

■「千葉心不全ネットワーク」:https://www.chibahfnetwork.com/
(事務局:千葉大学医学部附属病院 循環器内科)

執筆: 岡田 将
千葉大学大学院医学研究院循環器内科学
四街道まごころクリニック
 
編集: 株式会社メディカ出版

【引用・参考文献】
1)日本循環器学会/日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).10-5.
2)脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会.心血管疾患の診療提供体制の在り方について.脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について.2017,31.
3)Bauersachs,J.Heart failure drug treatment:the fantastic four.Eur.Heart J.42,2021,681-3.
4)Tsuchihashi,M.et al.Clinical Characteristics and Prognosis of Hospitalized Patients With Congestive Heart Failure:A Study in Fukuoka,Japan.Jpn.Circ.J.64,2000,953-9.

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