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【在宅医が解説】「虚血性心疾患」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

「虚血性心疾患」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は虚血性心疾患について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

この記事で学ぶポイント

  • 冠危険因子が多ければ虚血性心疾患を念頭に置く
  • 虚血性心疾患の症状は労作で出現する一過性の臓性痛だが、非典型的症状を伴うことや、無症候性のこともある
  • 症状の不安定化/安静でも軽快しない疼痛/バイタル異常 ─ があれば緊急性が高い

虚血性心疾患とは

虚血性心疾患とは、冠動脈疾患とも呼ばれ、心臓を養っている血管(冠動脈)が何らかの原因で狭窄または閉塞することで、心臓が虚血にさらされ機能や形態が障害される疾患です。虚血による症状があれば狭心症と呼び、虚血が長引き心筋が壊死すると心筋梗塞と呼びます。狭心症から心筋梗塞に移行しつつある、または心筋梗塞を発症した状態は生命の危機であり、緊急対応を必要とします。

虚血性心疾患のリスク

虚血性心疾患の原因となる疾患や状態は「冠危険因子」といわれます(表1)。

虚血性心疾患の危険因子

胸痛の鑑別

救急部門へ搬送される胸痛患者のうち、約半分は非心原性とされています(表2)1、2)

急性胸痛を伴う病態

消化管疾患では一般に食事・飲水・食後姿勢など経口摂取に関連した症状変化を認めます。ほかにも呼吸器疾患、皮膚骨格疾患、心因性など多くの領域が原因となることがあります。これらのすべてを診断する必要はなく、まずは緊急性を要する虚血性心疾患の判断をつけることが先決です。

虚血性心疾患を疑う症状とその特徴

虚血性心疾患の症状には下記のような特徴があり、胸痛を鑑別する手がかりとなります。

虚血性心疾患の疼痛は内臓痛の特徴を持つ

典型的な症状は、労作時の胸部圧迫感・絞扼感です。皮膚表面などに分布する痛覚神経とは異なり、心臓に分布する痛覚神経は脱髄性で細いため、疼痛の局在や性状が鈍くなります。つまり、痛みの部位を特定することが難しく、「前胸部を中心とした胸の辺り」と表現されます。また疼痛もぼんやりとした「圧迫感」「絞扼感」を感じることになります。

内臓由来の疼痛は一般にこのような特徴を持ち、けがなどで感じる体性痛(部位が明らかで鋭い痛み)と明確に区別されます。

労作で症状が増強し、安静で軽快する

虚血性心疾患では、労作により心筋虚血が生じ、症状が出現します。狭心症では安静により数分で虚血が解除され、胸部症状も軽快します。20~30分の安静でも症状が軽快しない場合は梗塞に至っている可能性が高く、緊急の対応が必要となります。

非典型的症状にも注意が必要

狭心症は非典型的な症状を伴うことがあり、angina equivalent(狭心症相当症状)と呼ばれます。放散痛としての左肩の痛みは有名ですが、それ以外にも心窩部・喉元・下顎・奥歯の痛みや、単なる胸焼けや嘔気として出現することもあります。虚血性心疾患のリスクを持つ患者さんでは、これらの心臓とは一見無関係と思われる症状にも注意が必要です。

無症候性心筋虚血(自覚症状がない)にも要注意

進行した糖尿病患者では心臓自律神経が障害され、これらの症状を自覚しないことがあります。心臓自律神経機能は心電図のRR間隔の呼吸性変動で判断します。感覚障害などの神経障害を伴う進行期糖尿病の患者さんは、このタイプの虚血も要注意です。

虚血性心疾患のその他の特徴

状態が不安定だと緊急性が増す

冠動脈の器質狭窄の有無にかかわらず、最近2ヵ月間以内に発症し、症状の頻度や程度が増強しつつある場合は不安定狭心症と呼ばれます。この状態は心筋梗塞に移行するリスクが高く、原則として緊急の対応となります。

ST上昇がなくても心筋梗塞を生じていることがある

心筋梗塞には心電図でのST上昇を伴わないものがあり、NSTEMI(ノンステミ/non-ST elevation myocardial infarction)と呼ばれます。救急部門に胸痛で搬送される患者はNSTEMIがより多く、予後もより不良と報告されています。

器質狭窄がなくても狭心症をきたしうる

明らかな冠動脈狭窄がなくても、冠動脈が攣縮することで狭窄や閉塞をきたすこともあります。心臓表面を走る比較的太い冠動脈で血管攣縮が生じると冠攣縮性狭心症と呼ばれますが、より遠位の動脈で同様の現象が生じると冠微小血管障害と呼ばれます。

訪問看護でのポイント

患者さんに虚血性心疾患の診断がついている場合は、症状の早期把握と緊急性の判断が重要です。虚血性心疾患と診断されていない場合は、疾患リスクが高ければ上記症状の有無に注意を払う必要があります。

この人は虚血性心疾患を発症しそうか?

表1のようなリスクが多ければ多いほど、虚血性心疾患を発症するリスクが高まります。特に複数の生活習慣病の管理が不十分な場合は要注意ですので、疑わしい症状が出現しないか注意を払う必要があります。

狭心症を疑う症状があるか?

虚血性心疾患を疑う臓性痛、労作や安静による症状の変化、非典型的症状の有無を確認しましょう。無症候性心筋虚血は訪問のみでは判断困難ですが、疑うことが重要です。体調がいつもと異なる場面などで想起できれば、対応の幅が広がるかもしれません。

緊急性があるか?

虚血性心疾患を疑う症状がある場合、症状の不安定化、安静でも軽快しない胸痛、バイタル異常などは緊急事態と考えられます。医療機関への早急な相談と救急搬送をご検討ください。

虚血性心疾患は原則として命にかかわる疾患ですので、確実な診断や悪化の判断にこだわるよりも、疑ったら相談する姿勢が重要です。その際にこれらの手がかりが皆様の参考になれば嬉しく思います。

執筆:岡田 将
千葉大学大学院医学研究院循環器内科学
四街道まごころクリニック
 
編集:株式会社メディカ出版

【参考文献】
1)高西弘美.「胸が痛いんです」『エマージェンシー・ケア』30(1),2017,29-39.
2)日本循環器学会ほか.『急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)』17-21.

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