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【在宅医解説】下肢閉塞性動脈硬化症の知識&注意点~訪問看護師の学び直し

下肢閉塞性動脈硬化症の知識&注意点

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は下肢閉塞性動脈硬化症について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

この記事で学ぶポイント

  • 下肢閉塞性動脈硬化症は、症状経過に応じ重症分類を行なうが、無症状のこともある
  • 進行病期は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)と呼ばれ、血行再建や多面的な対応が必要となることが多い
  • 下肢閉塞性動脈硬化症は全身の動脈硬化症の一病態であり、ほかの心血管疾患の合併により下肢予後のみならず生命予後も低下しうる

下肢閉塞性動脈硬化症とは

下肢閉塞性動脈硬化症(ASO;arteriosclerosis obliterans)は、動脈硬化を背景に下肢動脈が狭窄・閉塞する疾患です。下肢の循環障害をきたし、歩行障害や下肢痛・潰瘍を生じます。急性閉塞や重度の狭窄・閉塞などで救肢が困難な場合は、切断を要することもあります。

下肢閉塞性動脈硬化症は、下肢(閉塞性)動脈疾患(LEAD;lower extremity artery disease)とも呼ばれます。また、冠動脈以外の末梢動脈(上肢・下肢・頸部・腹腔内など)の閉塞性/狭窄性疾患を、末梢動脈疾患(PAD;peripheral arterial disease)と総称しています。

下肢閉塞性動脈硬化症のリスク・背景疾患

動脈硬化をもたらす喫煙や生活習慣病は、下肢閉塞性動脈硬化症の主要なリスクとなります。腎機能障害や透析も重要なリスクです。その他の背景疾患として、
■血管炎(例:バージャー病、高安動脈炎)
■先天異常(例:線維筋性異形成)
■外的圧迫(例:膝窩動脈捕捉症候群)
■医原性(例:カテーテル操作や手術による損傷)
などが挙げられます。

下肢閉塞性動脈硬化症の診断と鑑別

診断

間欠性跛行や歩行障害、筋骨骨格系とは無関係な労作時の下肢痛、安静時の疼痛などの症状は、下肢閉塞性動脈硬化症を疑う契機となります。また下肢動脈の触知不良、血管雑音、下肢の創傷治癒遅延、下肢壊疽、下肢挙上時の蒼白化、下肢下垂時の発赤なども、下肢閉塞性動脈硬化症を示唆する所見となります。

下肢閉塞性動脈硬化症の診断は、主に下肢血流の灌流圧を評価することで行ないます。なかでも足関節上腕血圧比(ABI;ankle-brachial pressure index)の低下をみる方法は簡便かつ有用で、0.9以下の低下で幹動脈の狭窄や閉塞を疑います。

鑑別

間欠性跛行は下肢閉塞性動脈硬化症の初期症状として知られますが、静脈性・神経性・筋骨格系の疾患によっても類似症状を認めることがあります。表1に、それら疾患の特徴をまとめます1)

間欠性跛行を呈する疾患

下肢閉塞性動脈硬化症の分類と治療方針

重症度の分類にはFontaine(フォンテイン)分類とRutherford(ラザフォード)分類がありますが、両者はほぼ同内容であり、より簡潔なFontaine分類を覚えれば十分です(表2)。

Fontaine分類

初期は、運動時のみに下肢虚血を生じるため、間欠性跛行が問題となります。進行につれ徐々に歩行距離が短縮し、この時期は抗血小板薬やリハビリによる保存加療が有効です。進行病期になると安静時にも下肢虚血を生じるため、安静時疼痛や潰瘍などが出現し、積極的な血行再建や多面的で科横断的な対応がしばしば必要となります。進行病期であるFontaine Ⅲ度・Ⅳ度をあわせて、包括的高度慢性下肢虚血(CLTI;chronic limb-threatening ischemia)と呼びます。

下肢閉塞性動脈硬化症の注意点

無症状でも軽症とは限らない

下肢閉塞性動脈硬化症は必ずしも症状を認めるわけではありません。無症状であっても重度の虚血が隠れている例があり、その場合は何らかの契機で急激にCLTIを生じる可能性があります。ABIをはじめとした検査ですでに下肢閉塞性動脈硬化症の診断がついている場合は、無症状であっても注意が必要です。

動脈硬化は全身に及んでいる

下肢閉塞性動脈硬化症は、全身の動脈硬化症(poly-vascular disease)の一つの病態といえます。下肢閉塞性動脈硬化症患者の少なくとも25~30%で冠動脈疾患を有することや、約20%で中等度以上の頸動脈狭窄を認めることが報告されています2、3)。それらの疾患を合併しうる点にも注意が必要です。

訪問看護でのポイント

下肢閉塞性動脈硬化症の診断はついているのか?

間欠性跛行などの症状があれば比較的わかりやすいですが、無症状であっても下肢閉塞性動脈硬化症がないとはいえません。リスクが高い患者の場合は、下肢閉塞性動脈硬化症と診断されているのか、その根拠となるABIなどの検査歴や検査値データがあるのか、知っておいて損はないと思われます。

悪化を疑う症状や所見があるか?

有症候性(症状があること)の場合、CLTIを示唆する徴候の出現に注意が必要です。

すでに潰瘍があり処置を行なっている場合は、感染徴候や範囲の拡大がないか注意が必要です。この段階で感染を合併すると骨髄炎をきたすことが多く、入院の上、長期間の抗菌薬や下肢切断なども検討する必要があります。

無症状であっても、重症病変の場合は急速にCLTIをきたすことがあります。靴ずれや深爪などの小外傷をきっかけに、急速に下肢閉塞性動脈硬化症の症状が出現する場合があり、要注意です。

ほかの心血管系合併症があるか?

下肢閉塞性動脈硬化症の患者はほかの心血管疾患の合併が多く、死亡リスク・心血管イベントリスクは通常よりも高くなります。下肢病変のみならず虚血性心疾患や脳梗塞などの出現や合併のリスクが高く、生命予後にもかかわる点をふまえて、患者さんの観察を継続する必要があります。

下肢閉塞性動脈硬化症は単なる下肢の疾患ではなく、背景に全身性の動脈硬化があることを示唆しています。本疾患の悪化を早期に拾い下肢予後改善を目指すのみならず、ほかの心血管病の出現・悪化を疑う徴候の有無にも注意を払い、生命予後改善にもつなげていただければ幸いです。

執筆:岡田 将
千葉大学大学院医学研究院循環器内科学
四街道まごころクリニック

編集:株式会社メディカ出版

【参考文献】
1)Marie,D Gerhard-Herman.et al.2016 AHA/ACC guideline on the management of patients with lower extremity peripheral artery disease:A report of the American college of cardiology/American Heart Association task force on clinical practice guidelines.Circulation.135,2017,e726-e779.
2)Cho,I.et al.Coronary computed tomographic angiography and risk of all-cause mortality and nonfatal myocardial infarction in subjects without chest pain syndrome from the CONFIRM Registry(coronary CT angiography evaluation for clinical outcomes:An international multicenter registry).Circulation.126,2012,304-13.
3)Razzouk,L.et al. Co-existence of vascular disease in different arterial beds:Peripheral artery disease and carotid artery stenosis – Data from Life Line Screening®.Atherosclerosis.241,2015,687-91.

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