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「高血圧」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

「高血圧」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は高血圧について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

高血圧の基礎知識

高血圧は喫煙に次ぐ死亡の危険因子です。急性または慢性の血圧上昇は、眼、血管、脳、心臓、腎臓に表1のような重大な障害をもたらします。

表1 高血圧により生じる疾患

高血圧により生じる疾患

高血圧の90%は本態性(一次性)高血圧です。原因が分かりません。二次性高血圧の原因には、慢性腎疾患、腎動脈狭窄、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症、睡眠時無呼吸症候群があります。

血圧が140/90mmHg未満にコントロールされている人は約半数です。無治療または治療を受けていても十分に治療されていない可能性があります。

血圧測定の方法

非常に重要なバイタルサインの1つであるにもかかわらず、正しい血圧測定についてトレーニングを受けている医療従事者はほとんどいません。正しい測定方法をあらためて確認しておきましょう。

  • 血圧測定の30分前にはカフェイン摂取、運動、喫煙を避ける
  • 排尿を済ませておく
  • 背もたれがある椅子に、脚を組まずに5分以上安静にして座って測定する(ベッドで寝て測定しない)
  • 測定者との会話は避ける
  • 上肢を圧迫する衣類をゆるめ、上肢(測定部位)を心臓と同じ高さ(胸骨の中点)にする
  • 聴診による測定が好ましい
  • 正しいサイズのカフを使用する(空気袋は上腕径80%に達すること)
  • 上腕動脈を触知しながらカフを膨らませ、拍動触知が消失する圧がおおよその収縮期血圧である(触診法)。推定収縮期血圧から、さらに30mmHg圧をかけ、2mmHg/秒のスピードで減圧する
  • 2回以上測定し平均を求める


⾎圧測定の⽅法

高血圧の診断

白衣高血圧(診察室での血圧測定値が高い)の可能性を除外するため、家庭血圧の測定が大切です。手首や指で血圧測定をすることはできますが不正確です。

表2に成人における血圧値の分類を示します。

表2 成人における血圧値の分類

成人における血圧値の分類

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.『高血圧治療ガイドライン2019』.ライフサイエンス出版,p.18,表2-5より許諾を得て転載.

病歴聴取のポイント

病歴聴取のポイントは次のとおりです。

  • 既往歴に脳血管障害、心筋梗塞、甲状腺疾患、腎疾患、睡眠時無呼吸症候群はあるかを確認する。これらは高血圧の原因となる
  • 心血管系疾患の危険因子(喫煙、脂質異常症、糖尿病)をチェックする
  • 生活習慣(座りっぱなしの日常生活、アルコール多飲、喫煙、塩分の過剰摂取)を調べる
  • 薬剤(非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド、抗うつ薬)やカフェインは血圧を高めるため、服用をしていないか確認する

身体診察のポイント

身体診察では以下の点に注意します。

  • 両腕の血圧を正確に測定する
  • 身長と体重を測定し、BMIを算出する
  • 標的臓器が障害されていないかを確認する。視力低下、脳梗塞(片麻痺、構音障害)、心不全(SpO2低下、肺の湿性ラ音、頸静脈怒張、下腿浮腫)などの所見がないか確認する
    →臓器障害を認める場合には、すぐに主治医に連絡する

検査で確認すること

心電図で左室肥大や心筋梗塞の既往を評価します。血液検査は表3の項目を提出します。糖尿病や慢性腎臓病(CKD)が疑われる患者さんでは、尿中アルブミンを測定し、尿中アルブミン-クレアチニン比を求めます。

表3 確認しておきたい血液検査の項目

●全血検査(CBC)
●クレアチニン
●推定糸球体濾過量(eGFR)
●ナトリウム
●カリウム
●カルシウム
●グルコース
●HbA1c
●コレステロール(LDL、HDL)
●甲状腺刺激ホルモン(TSH)

主な治療

降圧薬物療法は脳卒中を40%、心筋梗塞を25%、心不全を50%減少させます。降圧薬はサイアザイド系利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)から用いるのが原則です。心筋梗塞後や心不全にはβ遮断薬、心不全にはアルドステロン受容体拮抗薬、進行したCKDにはループ利尿薬をなるべく使用します。

ポイント

●2017年の米国心臓病学会/米国心臓協会の血圧(BP)ガイドラインでは、ほとんどの成人では血圧の目標を130/80mmHg未満とすることが推奨されています。
●すべての患者さんで生活習慣の改善(減量、減塩、運動)を行います。
●130~139mmHg/80~89mmHgの患者さんで心血管系疾患があるか、10年以内の動脈硬化性疾患発症確率≧10%の患者さん、および140/90mmHg以上のすべての患者さんでは薬物療法を開始します。

今後10年の心血管系リスク予測は次のサイトから計算できます。
▼日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患発症予測ツール(医師・医療従事者向け)」
https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool2/
10kgの減量で5~10mmHg血圧は下がります。食事療法では減塩を意識した和食中心のメニューが推奨されます。カリウム(野菜や果物)の摂取は降圧にとても重要です。毎日30分程度の運動もよいです。

アドヒアランスにも配慮する

アドヒアランスの向上を目的に1日1回の投与で済む長時間作用型降圧薬を使用するか、または配合薬を処方することがあります。降圧薬を朝投与した場合と夕方投与した場合、心血管系疾患の発生に差はみられません。したがって、患者さんが内服しやすい方法でよいでしょう。

最後に高齢成人患者さんの目標血圧を紹介します。ガイドラインにより異なりますが、現在示されていることをまとめました。

●ACC/AHAの65歳以上の外来(在宅)患者さんに対する収縮期血圧の目標は130mmHg未満です。
●ACPのガイドラインでは、60歳以上の患者さんの収縮期血圧の目標は150mmHg未満です。
●厳しく降圧すると起立性低血圧を起こし転倒するリスクが上昇します。

ACC:American College of Cardiology,米国心臓病学会
AHA:American Heart Association,米国心臓協会
ACP:American College of Physicians,米国内科学会

執筆:山中 克郎
福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問
医師 山中 克郎
1985年 名古屋大学医学部卒業
名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。

編集:株式会社照林社

【参考文献】
○Chick D et al. Hypertension. MKSAP19 Nephrology p26-41, American Collete of Physicians, 2021
○Carey RM, Moran AE et al. Treatment of Hypertension. JAMA.2022;328(18):1849-1861. doi:10.1001/jama.2022.19590

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