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在宅ハイフローセラピー Q&A/装着のコツ、トラブル対応、アドヒアランス支援

在宅ハイフローセラピー Q&A

在宅において患者が「高流量鼻カニュラ酸素療法」(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)を継続していくためには、不快感やトラブルへの早期対応とアドヒアランスを維持するための支援が必要不可欠です。そこで、今回は、装着時のコツや不快・トラブル時の対応、アドヒアランスを支えるための精神的支援のポイントをご紹介します。

Q1 訪問看護で初めて在宅HFNCの患者さんを担当することに。使用方法や装着のコツや注意点は何ですか?

A 基本的な機器操作の流れと適切な鼻カニュラの装着方法を押さえることが大切です

在宅HFNCを快適かつ安全に使用するためには、加温加湿器を事前に温めることや鼻カニュラを締めすぎないように装着することなど、使用上の注意点・コツがあります。すなわち、基本的な機器操作の流れと適切な鼻カニュラの装着方法を押さえることが装着のコツをつかむことにつながります。在宅HFNC装着の流れを表1に示します。

表1 在宅HFNC装着の流れ

在宅HFNC装着の流れ


図1 加湿チャンバーの取り外しと取り付け時のポイント

加湿チャンバーの取り外しと取り付け時のポイント

例:Fisher&Paykel Healthcare社製 myAIRVO™ 2
フィンガーガードを押し下げながら加湿チャンバーの取り外しと取り付けを行う必要がある。また、取り付け時はカチッとはまるまで加湿チャンバーをしっかりと押し込む。


図2 鼻カニュラのサイズと適切なフィッティング

鼻カニュラのサイズと適切なフィッティング


図3 取り外しツールの活用

取り外しツールの活用

例:Fisher&Paykel Healthcare社製 myAIRVO™ 2
チャンバードームとベースプレートの間の溝に取り外しツールの先端を差し込んでひねると、比較的容易にチャンバーを分解できる。

Q2 患者さんがHFNC施行時に不快感を訴えます。どう対応すればよいですか?

A 不快感の原因には加温・加湿によるもの、高流量に伴うもの、鼻カニュラによるものなどさざまあります。不快感は治療の継続に大きく影響するため、原因ごとに適切な対応が必要です

在宅HFNCが通常の在宅酸素療法と異なる点は、「加温・加湿」した「高い流量(風)」を「少し重めの専用鼻カニュラ」で投与する点です。そのため、通常の在宅酸素療法で感じることのない以下のような不快感が出現することがあります。

  • 加温・加湿による熱さ・水滴の不快感
  • 高流量に伴う不快や圧迫感
  • 鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブル
  • 鼻カニュラが容易にずれることへのわずらわしさや不安 など

このような不快感は継続に大きく影響するため早期に対処する必要があります。それぞれの不快感に対する対応を以下に示します。

加温・加湿による熱さ・結露の不快感への対応

熱さや発汗に対する対応

  • 室温や寝具、衣服の調整をする
  • 冷却材でクーリングする(頭、首、顔周囲など)
  • 設定温度を下げる(下限34℃)。ただし、温度を下げたい場合は医師へ相談する

結露に対する対応

  • HFNC機器の回路の作動保証は室温18~28℃。室温の設定が適切かを確認し、逸脱している場合は、室温設定を調整するように説明する。冬季で暖房を切って就寝し、室温が非常に低くなっていたり、夏季で冷房の送気が回路に直接あたっていたりすると回路に結露が発生する可能性がある
  • 回路に結露が溜まっていたら加湿チャンバーに結露を戻す(鼻腔へ水滴が入ると不快なため)

高流量に伴う不快や圧迫感への対応

  • 強い風が呼吸を助けてくれること、また強い風による不快は慣れることを伝え、励ましながら、苦手意識を緩和する働きかけを行う
  • 不快が強く継続が困難な場合は流量を下げる(高流量に伴う苦痛が強いことを医師へ連絡する)
  • 乾燥の不快を訴える場合は鼻用保湿スプレーを使用する

鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブルへの対応

ヘッドストラップを締めすぎないように適切なフィッティングを行う(図2

  • 顔の皮膚の状態を良好に保つ(保湿が重要)
    ・洗顔を行い、皮脂や汚れを落とす
    ・化粧水やクリームなど肌に合ったものを塗り、肌の乾燥を防ぐ
  • 皮膚トラブル時は皮膚保護剤を使用する。特に皮膚トラブルの好発部位に注意する(図4
  • 訪問時に、鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブルがないかを確認し、上記対策を早期にとる

図4 皮膚トラブルの好発部位

皮膚トラブルの好発部位

鼻カニュラが容易にずれることへのわずらわしさや不安への対応

  • 適切に鼻カニュラを装着できているかを確認する(図2
  • チューブクリップが衣服やベッドカバーなどに適切に取り付けられているか、寝る環境、姿勢などに問題がないかを確認し、ずれない対策を患者とともに検討する
  • チューブクリップが硬いために上手く装着できない場合は「洗濯ばさみ」を紐で回路に取り付ける方法が有効である(図5

図5 チューブクリップが使用できない場合の工夫

チューブクリップが使用できない場合の工夫
洗濯ばさみを紐で回路に取り付ける

Q3 HFNCにあまり積極的でない患者さんがいます。どのようにアプローチすればよいですか?

A 患者さん自身が治療法を理解・納得した上で治療に参加できるよう、アドヒアランスの支援に取り組んでみましょう

アドヒアランスとは「医療者が提案する治療方針等の決定に患者が積極的に参加し、その決定に従って治療を受けること」1)を意味します。つまり、アドヒアランスは医療者の指示にただ従うのではなく、患者さん自身が治療法を理解・納得した上で、積極的に治療に参加することです。また、在宅HFNCを患者さんが継続していくためにはこのアドヒアランスの維持・向上が不可欠です。アドヒアランスを支える支援として、ここでは3つポイントを解説します。

在宅HFNCに対する受け止め方を知り、支援する

まず、患者さんが在宅HFNCをどのように受け止めているのか(理解や受け入れ状況、思いなど)を丁寧に尋ね、思いや感情に共感することが大切です。

医療者の説明不足や患者さんの理解不足などがあると、患者さんが在宅HFNCを継続する必要性を見いだせず、アドヒアランスが低下してしまうことがあります。このような場合には、患者さんの自覚症状や病態を踏まえながらどのような効果を期待して導入しているのかを補足説明します。

在宅HFNCは、呼吸困難や去痰困難、頭痛・頭重感などの症状緩和、PaCO2の低下、増悪回数の低下、運動耐用能・QOLの改善などの効果を期待して導入します。これらの効果を患者さんが納得・理解できる表現で説明を行い、在宅HFNCを「自分に必要なもの」と捉えることができるように支援していくことが大切です。

在宅HFNCの効果に対する自覚を高める

在宅HFNCを使用する患者さんにおいて、症状の緩和感とデバイスの使いやすさの両方が、治療アドヒアランスの強力な動機付けである2)といわれています。つまり、患者さんが在宅HFNCをスムーズに使えて、効果を実感していることがアドヒアランスを維持するためには重要であると言い換えることができます。

しかし、在宅HFNCはNPPVほどの換気補助効果は期待できず、患者さんが効果を実感していないケースも多くあります。よって、その場合は、看護師が患者さんの気づいていない効果を見つけ出し、それを言語化して伝え、効果が出ていることを実感してもらうように支援します。在宅HFNCの効果を図6に示します。わずかでも効果が認められたら「それが効果である」と強調して伝えていくことで患者のアドヒアランスを高めていきましょう。

図6 在宅HFNCの効果

● 呼吸困難の軽減(「以前より息が楽になった」、「パニックになることが減った」)
● 努力呼吸の軽減(頸部の呼吸補助筋の緊張が軽減)
● SpO2の改善
● 呼吸数の減少
● 脈拍数の減少
● 去痰困難の改善(「痰が柔らかくなった」)
● 起床時の頭痛や頭重感の軽減
● 増悪回数の減少
● 睡眠の改善(「以前よりも眠れるようになった」)
● 元気の回復(「以前より元気になった」「力が少し余っている」)
● 日常生活の活動性の向上(「外出が増えた」、「食事量が増えた」、「会話が増えた」、「できなくなっていたことができるようになった」) など

在宅酸素使用中の女性

直面している障害を共有し、ともに対策を立てる

日常生活の中で困っていることや不安なことはないか、どのような障害に直面しているのかなどを丁寧に尋ねることが大切です。そのかかわりの中で、患者さんが必要としている知識を提供しつつ、よい方法を患者さん自らが選択し、実施していけるように支援します。

Q4 在宅ならではのHFNC管理の注意点は何ですか?

A HFNCは室内の温度や湿度の影響を受けやすい機器です。室内環境を整え、未然にトラブルを防ぎましょう

在宅HFNCで使用する機器は、室内の空気を取り込み加温・加湿するため、室内の温度や湿度の影響を受けやすくなっています。退院後、室内環境の影響で起こり得るトラブルとしては、冬季の室温が低下した際の結露トラブルや水切れのトラブルなどが挙げられます。それ以外にも、鼻カニュラのずれや皮膚トラブル・痛み、回路・鼻カニュラの破損やカビなどがあります。

このようなトラブルを避けるためには、機器を使用する自宅環境、加湿水の減り具合、アラーム内容、起こっているトラブルなどを詳細に確認し、安全・安楽に使用が継続できるように患者さんと調整することが大切です。図7に在宅における確認項目を示します。

図7 在宅における確認項目

在宅における確認項目

 

執筆:鬼塚 真紀子
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 主任
慢性呼吸器疾患看護認定看護師

監修:
森下 裕

地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター
呼吸ケアセンター センター長
竹川 幸恵
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター
呼吸ケアセンター 副センター長

編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)World Health Organization(WHO).Adherence to Long-Term Therapies: Evidence for Action. Ann Saudi Med 2004;24(3):221-222.
2)Storgaard LH,Weinreich UM,Birgitte Schantz Laursen BS.COPD Patients’Experience of Long-Term Domestic Oxygen-Enriched Nasal HighFlow Treatment:A Qualitative Study.COPD 2020;17(2):177.

【参考文献】
〇鬼塚真紀子.「在宅ハイフローセラピー導入時のケア」.みんなの呼吸器 Respica 2023;21(6):115-120.
〇今戸美奈子,北 英夫,鳳山絢乃,他.「ハイフローセラピーの装着感及びスキントラブルの実態」.日呼吸ケアリハ会誌 2018;27(2):163- 167.
〇今戸美奈子.「在宅ハイフローセラピーの患者支援・退院支援・観光整備のサポートと継続看護」.みんなの呼吸器 Respica 2023;21(6):121-128.
〇門脇徹.「在宅ハイフローセラピーセッティングのポイント」.みんなの呼吸器Respica 2023;21(6):106-111.
〇富井啓介,門脇 徹,北島尚昌,他.「在宅ハイフローセラピーの現状」.日呼吸ケアリハ会誌 2019;28(2):291-297.

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