訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫

ぎっくり腰は突然襲ってくる急性腰痛で、日常生活に大きな影響を与えます。特に訪問看護師のように身体的負担の多い職場では、そのリスクが常に付きまといます。本記事では、ぎっくり腰の症状と対処法、訪問看護師が直面する課題、さらに予防策としての「体作り」や「ノーリフティングケア」の重要性について解説します。
目次
ぎっくり腰の症状
ぎっくり腰は医学的には「急性腰痛症」と呼ばれ、急激に発症する腰痛のことを指します。突然の激しい痛みが特徴で、ときには動けなくなるほどの痛みが生じることも。痛みが起きる範囲は主に腰から臀部(お尻)で、場合によっては脚にまで痛みが広がる場合もあります。
ぎっくり腰が起きる主なきっかけは、物を持ち上げようとする、腰をねじるなどの動作ですが、朝起きた直後や特に何もしていないときに発症することも少なくありません。
痛みの原因は多岐にわたりますが、以下の2つが主な原因であることが多いでしょう。
- 腰の関節や椎間板に過剰な力が加わったことによる損傷(捻挫や椎間板損傷)
- 腰を支える筋肉や靱帯などの軟部組織の損傷
ぎっくり腰になったときの対処法
ぎっくり腰になったときは、次のように対処しましょう。
安静にする
ぎっくり腰になった際には、無理に動かず、痛みを軽減できる姿勢を見つけることが重要です。膝を少し曲げて、仰向けや横に寝る体勢、クッションや毛布を使って腰を支える姿勢で安静に過ごしましょう。
冷やす
発症直後は患部が炎症を起こしている可能性があるため、冷却が効果的です。冷却パックや冷湿布を使用して冷やします。冷却パックの場合、直接肌に触れないようタオルなどで包むことが大切です。また、冷やしすぎは血流障害を引き起こすリスクがあるため、十分に冷やしたらやめましょう。
医師の診察を受ける
ぎっくり腰が続いたり、特定の症状がみられたりする場合には、専門医に相談することが重要です。以下のようなケースでは、早めの受診が推奨されます。
- 何度もぎっくり腰を繰り返す、またはなかなか治らない
再発を繰り返す場合は、姿勢や筋力の問題、または別の疾患が原因となっている可能性があります。安静にしても腰痛が回復せず、むしろ悪化している場合、圧迫骨折や炎症性疾患など、通常のぎっくり腰ではない可能性があるでしょう。 - 下肢に痛みやしびれがある
腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などにより、神経が圧迫されている可能性があります。特徴として、腰部脊柱管狭窄症では歩いていると足に痛みやしびれが生じて歩けなくなる間歇性跛行※(かんけつせいはこう)がみられます。どちらも症状が悪化し、下肢痛による歩行障害が進行する、日常に支障が出る、排便・排尿障害が出現する、といった場合は手術が検討されます。
※間歇性跛行とは、歩行などで下肢に負荷をかけると下肢の疼痛・しびれ・冷えを感じ、一時休息することにより症状が軽減し再び運動が可能となること。
- 発熱、嘔吐、血尿、排尿時痛などの症状がある
感染症や内臓疾患などが関連している可能性があります。例えば、解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石などの泌尿器の病気、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科の病気、胆嚢炎や十二指腸潰瘍などの消化器の病気などが考えられます。
訪問看護師の仕事はぎっくり腰と隣り合わせ
訪問看護では、利用者の住環境や希望により、家具や設備の配置の変更が難しい場合もあります。このため、看護師が無理な体勢で作業をすることになり、ぎっくり腰のリスクが高まります。特にトイレへの移乗や入浴介助など身体的負担の大きい場面では、看護師同士でその状況について共有し、以下のような視点から対応を検討しましょう。
倫理的観点……利用者の尊厳や希望を尊重する 医療的観点……安全性と効率を兼ね備えた方法を選択する |
看護師が、責任感や共感などによって無理をして体を壊してしまうことがないよう、チームで意見を出し合い、多様な視点を取り入れて適切な対応を決める必要があります。訪問看護の現場では、看護師自身の健康を守ることも、質の高いケアを提供するために欠かせない要素です。
訪問看護でぎっくり腰を予防するためのポイント
訪問看護でぎっくり腰を予防するために、下記の2点を押さえましょう。
- ぎっくり腰が起こりにくい体作りをする
- ノーリフティングケアを行う
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
ぎっくり腰が起こりにくい体作りをする
ぎっくり腰の決定的な予防策はありませんが、日々の生活習慣を改善することでリスクを軽減できます。腰痛の多くは、運動不足や長時間のデスクワークといった生活の中で負担が積み重なり、腰や背中、肩の筋肉が硬直することで発症しやすくなります。
正しい姿勢を意識し、肩や背中の緊張をほぐすストレッチを取り入れることが大切です。また、ウォーキングをはじめとした適度な運動を習慣化し、筋肉や関節の柔軟性を保ちましょう。ストレッチングを中心としたエクササイズにより、筋肉の柔軟性を高めるとともに、血流が良い状態へ導くことができます。中央労働災害防止協会「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」では、腰痛予防エクササイズが紹介されています。「運送業務で働く人」以外にも役立つ内容のため、チェックしてみましょう。
>>関連記事
看護師のボディメカニクスについては、こちらも参考にしてください。
訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編【セミナーレポート後編】
ノーリフティングケアを行う
ノーリフティングケアとは、介護者が利用者を「抱えたり持ち上げたりしないケア」を意味し、介護用リフトやボードなどの福祉用具を活用して移動や移乗を行うケア方法です。介護者の腰痛予防と身体的負担を軽減し、利用者の安全性と快適さを向上させることを目的としています。単に福祉用具を使用するだけでなく、利用者の自立支援という目的を損なわず、双方にとって「安全」「安心」「安楽(負担軽減)」を実現することが求められます。
ノーリフティングケアでは、「押す」「引く」「持ち上げる」「ねじる」「運ぶ」といった人力のみで行う介助を禁止しています。これに加えて、摩擦や抵抗を軽減する工夫が重要とされており、福祉用具の一例としてスライディングシートやボードを利用した移乗方法が推奨されています。
ベッド上での上方移動にはスライディングシートを、車椅子への移乗にはスライディングボードを使用することで、介助に伴う摩擦や筋緊張を最小限に抑えることが可能です。
介護用リフトの場合は、人の腕よりも広い面積で身体を支えるため安定感があり、筋緊張を緩和させ、リフト活用そのものがリハビリにもなります。また身体の緊張が和らぐことで拘縮予防も期待できます。皮膚が脆い高齢者の場合、力任せのケアでは、介護者がどれだけ注意していても、強い力によって痣ができたり、表皮剥離を引き起こしたりするリスクも。ノーリフティングケアは、こうした事故の防止にもつながります。
資源が限られる現場では福祉用具を使用できない場合もありますが、できるだけ不自然な姿勢を避け、腰痛のリスクを減らす工夫をしましょう。特に、長時間の立ちっぱなしや座りっぱなし、前屈や後屈ねん転などの姿勢は、腰痛の原因となりやすいため注意が必要です。
>>関連記事
ノーリフティングケアについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も
* * *
看護師が安全かつ快適に働ける環境を整えることで、利用者と自身の双方にとってより良いケアが実現します。ぎっくり腰は適切な対応と予防でそのリスクを最小限に抑えられるため、ぜひ今回紹介した対策を日々の業務に取り入れてみてください。
編集・執筆:加藤 良大 監修:川上 洋平(かわかみ ようへい) ![]() 医師・医学博士・整形外科専門医 神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学留学、膝スポーツ疾患や再生医療を学び、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニックを開業。 日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医。専門は膝関節外科、スポーツ障害、再生医療。 かわかみ整形外科クリニック(https://kawakamiseikei.jp/)。 |
【参考】
〇日本整形外科学会「ぎっくり腰」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/acute_low_back.html
2025/2/12閲覧
〇厚生労働省「医療保健業の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)(看護従事者の腰痛予防対策)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000564054.pdf
2025/2/12閲覧
〇厚生労働省「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000041115_3.pdf
2025/2/12閲覧