咳が止まらない原因とは?長引く咳の種類・対処法・病気の可能性を解説
「咳がなかなか止まらない」「咳で夜も眠れない」など、長引く咳に悩む人は少なくありません。咳が続くと睡眠不足になったり仕事や育児などに支障をきたしたりと、日常生活にも影響を及ぼします。原因に応じて適切に対処することで、つらい咳を緩和したり症状を抑えたりすることができるかもしれません。
本記事では、咳の原因や対処法について解説します。訪問看護の利用者さんやご家族のアセスメントに役立てるために、ぜひ最後までご覧ください。
目次
咳の分類や種類
咳は医学用語で「咳嗽(がいそう)」と言いますが、空気の通り道である気道内に貯留した分泌物や異物を気道の外に排除する生体防御反応のことを指します。咳は呼吸器の異常だけではなく、ほかの病気の症状として現れることもあります。ここでは咳の分類や種類について解説します。
持続期間による咳の分類
咳の持続期間による分類では、3週間未満を急性咳嗽、3週間以上8週間未満を遷延性咳嗽、8週以上持続する咳を慢性咳嗽といいます。急性咳嗽や遷延性咳嗽の原因は感冒症状を含む上気道炎や咳だけが残る感染後咳嗽が多くを占めますが、持続期間が長くなるにつれてその割合は低下します。慢性咳嗽では、咳喘息、胃食道逆流症(GERD)、慢性気管支炎、アトピー咳嗽など感染症以外の疾患が主な原因です。
咳の種類:乾性咳嗽と湿性咳嗽
■乾性咳嗽
痰がからまない、あるいは少量の痰がからむ乾いた咳のことを「乾性咳嗽」や「空咳(からせき)」と呼びます。乾いた咳は下記のような原因で発生します。
風邪やウイルス感染 | 初期症状として乾いた咳が多くみられ、進行すると痰がからむ場合も。 |
咳喘息 | 呼吸困難感を伴わず、呼吸機能はほぼ正常なことが特徴。季節の変わり目や梅雨時、寒い時期、運動している時などに咳が誘発されることが多い。 夜間や早朝に悪化しやすく、咳の持続期間は8週間以上。 |
アレルギー性疾患 | 花粉やハウスダストなどによるアレルギー症状として、乾いた咳が出ること。 |
GERD(胃食道逆流症) | 胃酸が逆流して気管に刺激を与え、乾いた咳を引き起こすことも。 |
■湿性咳嗽
痰のからむ咳は、「湿性咳嗽」と呼ばれ、喉や気管支に溜まった痰を排出するために起こります。咳をすることで痰のからみが取れると喉がスッキリすることも。痰の色や量は、原因となる病気によって異なります。
肺炎 | 感染によって肺に炎症が生じ、黄色や緑色の膿のような痰が出ることも。 |
気管支拡張症 | 気管支が異常に拡張し、膿性の痰が多量に出ることが特徴。 |
COPD(慢性閉塞性肺疾患) | 特に喫煙者に多く、慢性的に痰がからむ咳がみられる。 |
自分でできる止まらない咳の緩和・対処法
咳は、適切に対処することで緩和できる場合があります。特に高齢者は咳のしすぎが原因で肋骨が折れるリスクもあり、適切な対処がより一層重要です。夜に咳の症状が悪化して眠れない場合の対処法も知っておきましょう。
禁酒・禁煙
タバコの煙は気道の粘膜を刺激し、咳を引き起こす原因となるほか、痰の分泌量を増加させます。禁煙することで、気道の炎症が抑えられて咳が軽減するでしょう。また、アルコールは体を脱水状態にし、喉の粘膜を乾燥させるため、咳を悪化させることがあります。禁酒を心掛けることで喉の乾燥を防ぎ、咳の頻度を減らす効果が期待できます。
市販薬の使用
市販薬の鎮咳薬や去痰剤などを使用することで、咳の症状を緩和できる可能性があります。乾いた咳には鎮咳薬、痰がからむ咳には去痰薬が推奨されます。
たとえば、乾いた咳が止まらない場合には「デキストロメトルファン」などを含む鎮咳薬が有効です。一方、痰がからむ咳には「グアイフェネシン」などを含む去痰薬が有効です。使用する際は、用法・用量を守り、自己判断での長期使用は避け、早めの受診を検討しましょう。
こまめな水分補給
こまめな水分補給は、咳の緩和に効果的です。特に咳が出る時は喉の粘膜が乾燥しがちで、さらなる咳を引き起こすことがあります。水分をしっかり補給することで、喉の潤いが保たれます。
腹式呼吸を心掛ける
咳で呼吸が苦しくなる場合、腹式呼吸を取り入れることで、呼吸が楽になり、咳の頻度を減らせる場合があります。腹式呼吸は、横隔膜を使って深く呼吸する方法で、胸式呼吸よりもリラックス効果が高く、肺に負担をかけずに酸素を取り込むことができます。
腹式呼吸の方法は下記のとおりです。
- 背筋を伸ばす
まず、姿勢を整え、背筋をまっすぐに伸ばします。座っている場合でも立っている場合でも、体の軸を意識してリラックスしましょう。 - 鼻からゆっくり息を吸う
鼻からゆっくりと深く息を吸い込みます。この時、おへその下にある丹田(おへその下5㎝ほどの位置)に空気を溜めるようにイメージして、お腹を自然に膨らませます。 - 口からゆっくり息を吐く
次に、口からゆっくりと息を吐き出します。お腹をへこませながら、体の中の悪いものをすべて吐き出すイメージで行います。吸った時の倍くらいの時間をかけるのがポイントです。 - 回数とペース
最初は1日5回ほどから始め、慣れてきたら10〜20回を目安に続けます。その日の体調に合わせて無理なく行い、リラックスしながら楽しむことが大切です。
湿度と温度を最適にする
咳が出やすい夜は、寝室の環境を適切に調整することも重要です。室内の湿度が低いと気道が乾燥し、咳が悪化する原因となります。また、室温が低すぎると体が冷え、免疫力が低下して症状が悪化することもあります。エアコンや加湿器を使用して、温度を18〜28℃、湿度は40〜70%を維持しましょう。
のど飴・はちみつをなめる
のど飴やはちみつをなめることで、咳や喉の痛みが和らぐ場合があります。また、はちみつは天然の保湿成分によって喉を潤すだけでなく、抗菌作用もあるため、風邪や咳による喉の不快感を軽減するのに役立ちます。
ただし、はちみつにはボツリヌス菌が含まれていることから、1歳未満の赤ちゃんが摂取すると乳児ボツリヌス症にかかるおそれがあります。1歳になるまでは与えてはいけません。
止まらない咳の原因とは?
咳が続く場合、呼吸器や消化器などの他の問題が潜んでいる可能性があるため、長期間続く場合は医師の診察を受けることが重要です。ここでは、止まらない咳の原因について解説します。
感染後咳嗽(かぜ症候群後咳嗽)
感染後咳嗽は、風邪をひいた後に残る咳のことで、感染後数週間から数ヵ月間にわたり咳が続きます。これは、喉や気道の粘膜がまだ回復しきれていないために起こります。通常は乾いた咳が特徴で、体がウイルスに感染した影響が続いていることが原因です。
咳喘息・気管支喘息
咳喘息は、咳のみが主症状であり、喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難がないタイプの喘息です。気管支が過敏になり、気温の変化やほこり、運動の影響などによって引き起こされます。気管支喘息は、咳に加えて呼吸困難や喘鳴がみられ、夜間や早朝に悪化する傾向があります。
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鼻炎・副鼻腔炎
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因で、鼻水が喉の後ろに垂れ込んで咳を引き起こす「後鼻漏(こうびろう)」が発生します。この状態では、痰のからんだような咳が続くことがあります。
肺炎
細菌やウイルスによって肺に炎症が起きた状態で、咳とともに痰、発熱、倦怠感がみられることがあります。黄色や緑色の痰が出ることもあります。
肺がん
咳が長期間続く場合や、血痰が出る場合は肺がんの可能性も考えられます。初期症状は風邪の咳と似ていることが多いため、注意が必要です。
結核
結核は細菌感染による呼吸器系の病気で、特に長引く咳や、夜間の発汗、体重減少が特徴です。痰や血痰がみられることもあります。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流し、喉や気道を刺激して咳を引き起こすことがあります。特に横になると症状が悪化することが多く、食後や寝る前に咳が出やすくなります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
COPDは喫煙などが原因で気道が狭くなり、慢性的な咳や息切れが続く病気です。痰がからむ咳が特徴で、特に朝方に強く出ることがあります。
アトピー咳嗽
アトピー体質の人にみられるアレルギー性の咳で、喘鳴や息切れはなく、長期間にわたって乾いた咳が続きます。アレルギー反応が原因となるため、抗ヒスタミン薬やステロイドが有効とされています。
咳が止まらない時の病院に行く目安
咳が続くと、風邪の延長かもしれないと様子をみることが多いですが、特定の症状がみられる場合には、早めに病院を受診することが重要です。咳が長引く背後には、深刻な病気が潜んでいる可能性もあるため、次のような状態があれば、速やかに医師の診察を受けましょう。
受診すべき状態
(1)咳・痰が2週間以上続く
咳や痰が2週間以上続く場合、単なる風邪ではなく、気管支炎、咳喘息、肺炎、または結核や肺がんなどの深刻な病気が原因の可能性があります。通常の風邪は1~2週間で改善することが多いため、それ以上続く場合は注意が必要です。
(2)咳が徐々に悪化する
咳がだんだんと強くなったり、頻度が増したりする場合、気道や肺に炎症が広がっている可能性があります。特に、気管支炎や気管支喘息、さらには肺炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、呼吸器系の疾患が進行している可能性があります。
(3)体重減少や食欲不振を伴う
咳に加えて体重減少や食欲不振がみられる場合、全身的な疾患が進行している可能性があります。結核や肺がん、慢性の感染症、さらには逆流性食道炎などの消化器系の病気が原因となっていることも考えられます。
病院に行くべき症状
下記の症状は、重大な病気や身体の異常のサインの可能性があるため、早めに医療機関を受診することが大切です。
(1)血痰が出る
血痰は、肺や気道に問題がある可能性を示します。肺炎、結核、肺がんなどの深刻な病気が原因となることがあります。
(2)息切れや呼吸困難
呼吸困難は、心臓や肺に異常があるサインです。心不全、肺塞栓症、喘息、肺炎など命にかかわる病気の可能性があるため、速やかに診察を受けることが重要です。
(3)胸痛
胸痛は心臓や肺、筋骨格系などの症状の場合があります。特に心筋梗塞や狭心症などは突然死にもつながるため、胸の痛みが続く場合や痛みが強い場合はすぐに受診しましょう。
(4)発熱が続く
発熱が続く場合、体内で炎症が起きている可能性があります。インフルエンザや肺炎などの感染症だけでなく、がんや免疫系の病気の症状の場合もあるため、発熱が続くのであれば医療機関を受診しましょう。
(5)夜間に悪化する
夜間に症状が強くなる場合、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系の疾患が疑われます。特に夜間の発作は、睡眠中の呼吸機能の低下や心臓・肺の負担が増すことで、命にかかわる可能性があるため、早めに医師の診察を受ける必要があります。
(6)喘鳴が聞こえる
喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)は、気道が狭くなっていることを示します。気道の炎症やアレルギー、喘息などが原因で起こることが多く、重篤化すると呼吸困難に陥る可能性があるため、早めの受診が必要です。
(7)全身の倦怠感
全身の倦怠感は、さまざまな病気の前兆であることがあります。感染症、貧血、慢性疲労症候群、甲状腺機能低下症、がんなどが原因となることがあり、長引く場合は検査が必要です。
監修 白濱医師より 咳の原因がこれほど多岐にわたることに驚かれた方もいるかもしれません。数日の経過観察で治まらない咳には、さまざまな原因が隠れている可能性があります。咳の種類や持続期間によって、考えられる病気が異なり、適切な対処法も変わってきます。一人で悩まずに、近くの医師に気軽に相談をしてみてください。 |
編集・執筆:加藤 良大 監修:白濱 龍太郎 プロフィール 筑波大学医学群医学類卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士) KKR東京共済病院呼吸器科、東京医科歯科大学附属病院呼吸器内科にて病棟指導医等を歴任、併せて都立豊島病院呼吸器内科、JAとりで総合医療センター呼吸器内科、JA北信総合病院呼吸器内科、中野総合病院呼吸器内科等で非常勤勤務を行う。それらの経験を生かし、2013年に、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックを設立。 日本オリンピック委員会医科学強化スタッフ、TOKYO2020選手用医師、慶應義塾大学先端科学技術研究センター特任准教授、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。 現在、医療法人RESM理事長、順天堂大学医学部客員准教授、福井大学医学部客員准教授、武蔵野学院大学客員教授等を併任する。 |
【参考】
〇新実 彰男.「第113 回日本内科学会講演会 結実する内科学の挑戦~今,そしてこれから~」『慢性咳嗽の病態,鑑別診断と治療―咳喘息を中心に―』日本内科学会雑誌.105巻9号.1565-1577
〇日本呼吸器学会「気管支拡張症」
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-01.html
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〇日本医師会「腹式呼吸のやり方」
https://www.med.or.jp/komichi/holiday/sports_02_pop.html
2024/11/19閲覧
〇厚生労働省「鎮咳去痰薬」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/s0117-9d20.html
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〇厚生労働省「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html
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