運営指導(実地指導)体験談 大切なのは日々の業務を基本に忠実に行うこと
「運営指導で準備することは何?」「当日はどんなふうに進行するの?」運営指導に関してこんな疑問を抱いている管理者は多いのではないでしょうか。今回は、大阪市住吉区にある医療法人ハートフリーやすらぎの訪問看護ステーション管理者の田端さんに、2022年に受けたばかりという運営指導の体験談を教えていただきました。事前準備のノウハウはもちろん、運営指導を受けて再認識したことなど、盛りだくさんの内容でお届けします。
目次
約2週間前に運営指導の実施通知が届く
介護事業を行っていれば、いつかは必ずやってくる運営指導。わかってはいるものの、いざ実施通知が届くとびっくりするものです。
通知には、「介護保険サービスの質の確保および保険給付の適正化を図ることを目的に、実地指導を実施します」の文言とともに、実施日時や当日訪問予定の大阪市福祉局の担当職員2名の名前に加え、膨大な数の準備書類が記載されていました。
当事業所で実施通知を受け取ったのは、実施日の約2週間前。介護給付費に関する書類も準備しなければなりません。これは大変なことになったぞと思い、急いで準備に取り掛かりました。
書類は独自リストを活用し効率よく準備
運営指導では、介護サービスの実施状況と運営体制の構築について必要書類に基づき確認されます。必要な書類や確認内容はサービス種別によって変わってきます。具体的には、「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にまとめられているので、ぜひご覧になってみてください。
今回、準備書類で苦労したのは、サービス提供実施記録や居宅サービス計画書、サービス担当者会議の記録など、サービスに関する書類です。当事業所には約300名の利用者さんがいらっしゃいます。管理者だけでは手に負える数ではないため、主任やスタッフにも協力してもらい、事業所全体で準備を進めました。
運営指導の実施時間は3時間。その時間で全利用者さんの書類が確認されるわけではありませんが、どの書類が選ばれるかは当日にならないとわかりません。どの利用者さんのどの書類が選ばれても問題ないように、全員分のすべての書類をそろえておく必要があります。
スタッフには、確認の抜けや漏れがないように、必要な書類とそれぞれのチェックポイントをまとめたリストを配布しました。例えば、「訪問看護計画書」のチェックポイントは以下のとおりです。
訪問看護計画書
・利用者さんの氏名、生年月日、要介護度、住所等の基本情報が記入できているか。
・目標に、利用者さん、ご家族の希望を取り入れているか。
・主治医の指示と相違がないか。
・ケアマネジャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画書)と相違がないか。
・「利用者の状態に変化があった時」、「指示書に変更点があった場合」、「ケアプランに変更があった場合」は、必ず利用者さん、ご家族に説明し、サインをもらっているか。
・変更がなくても、最低6ヵ月に1回のタイミングで、利用者さんに説明し、サインをもらっているか。
・「衛生材料等が必要な処置の有無」「処置の内容」「衛生材料等」「必要量」の欄について
⇒衛生材料等が必要になる処置の有無について○を付けているか。また、衛生材料等が必要になる処置がある場合、「処置の内容」と「衛生材料等」について具体的に記入し、「必要量」については1ヵ月間に必要となる量を記入しているか。
・「訪問予定の職種」の欄について、訪問予定の職種とその訪問日について、利用者さんに分かるように記載しているか。
・内容がずっと一緒のコピーになっていないか。状態の変化やプラン変更の記載ができているか。
・複数名訪問加算を算定している利用者さんの場合、計画書にその理由が記載できているか。
・目標の達成状況が記録されているか、その状況に基づき計画を変更修正しているか。
この内容に沿って、受け持ちの利用者さんのカルテを確認してもらいました。
特に注意したのは、介護保険証の有効期間と、サービス担当者会議の記録、居宅サービス計画書、看護計画書がきちんと連動しているかということです。オリジナルの連動チェック表を作成し、各書類を横断的に確認できるようにしました。
報酬請求状況は必ず確認されます!
介護サービスの実施状況と運営体制の確認以外にも、運営指導には大切な目的があります。それは、報酬請求状況の確認です。特に各種加算に関してきちんと算定要件を満たし、適正に介護報酬の請求が行われているかどうかが重点的に確認されます。
そこで、請求状況についても当事業所で算定している加算をリスト化し、それぞれの算定基準から必要な項目を整理しました。このリストに沿って、スタッフに利用者さんのカルテを見直してもらい、準備を進めました。例えば、「ターミナルケア加算」では以下の項目を洗い出してまとめました。
ターミナルケア加算
・主治医との連携のもと、ターミナルケアに係る計画、支援体制について利用者さん、ご家族に説明を行い、同意を得てターミナルケアを行っているか。
・24時間連絡が取れる体制を確保・整備しているか。
・ターミナルケアの提供について、利用者さんの身体状況の変化等、必要な事項が適切に記録されているか。
・療養や死別に関する利用者さん、ご家族の精神的な状態やその変化、それに対するケアの記録があるか。
・利用者さん、ご家族の意向に基づく、アセスメントや対応の記録があるか。
運営指導では請求書を見てカルテを選定
当日は事前通知どおり2名の担当職員が訪問されました。こちらは管理者の私と事務員の2名で対応しました。
簡単な挨拶の後、最初に「請求書を見せてください」と言われました。請求書の確認後、数名の利用者さんの名前がピックアップされ、カルテを見せてほしいと依頼されました。その後、事前に準備した書類とカルテの確認に入られました。
書類確認中はずっと立ち会うわけではなく、通常業務をしていても問題はありませんでしたが、たまに「この書類はどこにありますか?」と聞かれ、対応しました。なお、書類は、一覧表の順番通りに並べ、一覧表と同じ番号を記載した付箋を貼っておきました。担当職員から「〇〇の書類を見せてください」と急に言われても、さっと取り出せたので、これはやってよかった工夫のひとつです。
「口頭指導」を受けました
運営指導の指導方法には、文書指導、口頭指導、助言の3つがあります。今回、当事業所が受けたのは、口頭指導でした。口頭指導は、法令や通知等で規定された事項に違反しているものの、その程度が軽微な場合、または文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合に行われます。改善報告が必要なレベルの重大な違反がなくて、本当に安心しました。口頭指導で、いくつか指摘された中から、みなさんの事業所でも参考になりそうなものを紹介します。
運営規定と重要事項説明書との整合性
運営規定と重要事項説明書との記載内容は、同じである必要があります。当事業所では、夏季休暇について運営規程では「8月14日、15日」、重要事項説明書では「盆休み」と記載していたため、この記載を合わせるように指摘を受けました。
勤務表の管理
職種(訪問看護師/理学療法士/作業療法士等)や勤務形態(常勤/非常勤)がわかるように項目を追加し、管理するように指摘を受けました。
加算の算定要件の詳細を再確認
当事業所では、サービス提供体制強化加算を取得しています。この加算では、職員の一定の勤続年数や研修計画に基づく研修の開催、利用者さんに関する留意事項の伝達や技術指導を目的とした会議を実施するといったことが主な算定要件です。
要件はクリアしているものの、スタッフごとに研修を計画し目標がわかるようにしておくことや、職種や勤務形態を問わず、すべてのスタッフが研修を受けられるように計画するよう指摘を受けました。
日々の業務管理こそ運営指導対策の王道
必要書類の準備から当日の指摘事項を振り返ってみて、あらためて感じたのは「基本に忠実に」日々の業務を遂行することの大切さです。法令や条例、規則等を遵守しながら、利用者さんへのサービスの質を確保し、日々着実に仕事をすること、これに勝る運営指導対策はないと思います。
利用者さんの介護保険証の有効期間を確認する、利用者さんの状態が変わったら必ずサービス担当者会議を行って記録を残す、看護計画を更新したら利用者さんにきちんと説明し同意を得てサインをもらう、等々。これらはどれも当たり前のことです。
ただし、どんな仕事でも必ずイレギュラーが発生します。例えば、利用者さんのサインがもらえなかったときにどうするか。重要なのは、そのままで済ませない、イレギュラーのままで終わらせないことです。運営指導の通知が届いてから準備していては、必ず何かが抜けてしまいます。常日頃から、スタッフ一人ひとりが各書類の目的を理解し、きちんと整備できる意識の醸成、しくみづくりが不可欠と感じました。
最後にもう1点、事業所の郵便受けは毎日必ず見るようにしてください。実施通知は郵送で届きます。しかも、いつ届くかわかりません。ポストを確認する習慣がなく、実施当日に通知に気づいた…という笑えない話を聞いたことがあります。みなさん、ぜひご注意ください。
執筆:田端 支普 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション 管理者 ●プロフィール 1997年看護学校卒業後、総合病院に8年間勤務。小児科・産婦人科病棟を含む混合病棟を経て、2006年訪問看護ステーション ハートフリーやすらぎに入職。2020年より現職。2012年訪問看護認定看護師資格取得。2019年特定行為研修終了。2021年在宅ケア認定看護師へ移行手続き終了。 |