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がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】
がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年2月27日
2024年2月27日

がん告知・再発等の「悪い知らせ」の伝え方&支え方【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回は「悪い知らせ(バッドニュース)」が伝えられた患者さんへの対応を考えます。 悪い知らせ(バッドニュース)とは患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせのこと1)。伝えられる患者や家族に多大な精神的負担を与えるもので、がん医療においては病名の告知や再発・転移、積極的な治療の中止などがある。 悪い知らせに伴う心の反応 がん医療において、患者さんや家族に病状や予後に関する悪い知らせ(バッドニュース)を伝えることは避けて通れません。現代は死に直面する機会が少なく、自分自身や大切な人が「近い将来、死んでしまうかもしれない」という話を聞くことは、非常に強い衝撃を受ける体験です。 バッドニュースが伝えられた後、患者さんは混乱や不安、落ち込みなどを感じます。これは強いストレスに対する自然な心の反応であり、通常は時間が経つにつれてバッドニュースを受け入れ、落ち着きを取り戻していきます。しかし、中には症状が回復せず、適応障害やうつ病を発症する患者さんもいるため、患者さんの表情や言動をよく観察し、ケアを行っていく必要があります。 伝える側も感じるストレス 基本的にバッドニュースを伝える役割は医師が担いますが、在宅では訪問看護師が病状の変化や療養する場所の選択などに関する説明をしなければならないことも少なくありません。例えば、最期のときが近いと医師から説明を受けている利用者さんや家族に対し、次のような声かけをした経験はないでしょうか。 「どなたか会いたい(会わせたい)人はいらっしゃいますか。早めに連絡したほうがよいと思います」「自力でトイレへ行けなくなったら、病院への入院を希望されますか、それともこのまま自宅で過ごされますか」「葬儀はどのようにするか相談されていますか」など どれも「死」を連想させる声かけで、伝える側もストレスを感じるのではないかと思います。しかし、こうした問いかけをきっかけに患者さんや家族の想い、希望、生活の意向などが引き出されることがあり、大切なコミュニケーションです。だからこそ、患者さんや家族にどう伝え、伝えた後の心理的反応にどう対応するかも含めたコミュニケーションスキルを身に付けておくとよいでしょう。 伝える際のコミュニケーションスキル:SHARE バッドニュースを伝える際のコミュニケーションスキルとして「SHARE」がよく知られています。SHAREは、がん患者さんが悪い知らせを伝えられる際に医師に対しどのようなコミュニケーションを望んでいるのかに関する研究からまとめられたスキルです。患者が望むコミュニケーションの4要素の頭文字をとってSHAREと名付けられました。 4要素を図1に示します。 図1 SHAREの4要素 内富 庸介先生(国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発センター長)より許諾を得て掲載 SHAREに関するコミュニケーション研修も実施されています。在宅で医師が利用者さんや家族にバッドニュースを伝える際、訪問看護師もこのSHAREを念頭に置いて支援を行うとよいでしょう。例えば、話し合うときに落ち着いた支持的な環境を調整し、日常生活への病気の影響や気がかりについて付加的な情報を提供するといったことを行います。もちろん、私たち訪問看護師が利用者さんにバッドニュースに関連することを伝えるときにも役立つスキルだと思います。 告知を受けたときから始まる意思決定支援 告知をはじめとしたバッドニュースを伝えられた後、患者さんや家族は残された時間の中で治療や療養場所などさまざまな選択をしていきます。訪問看護師は、利用者さんや家族に寄り添い、彼らの意思決定を支援する役割があります。 看護師が意思決定支援で真のニーズや価値観を引き出すかかわりとして、有効と思われるモデルをご紹介します。それは9つのスキルと30の技法で構成された「がん患者の意思決定プロセスを支援する共有型看護相談モデル(NSSDM)」です。NSSDMは、兵庫県立大学看護学部の川崎優子先生がまとめられたモデルで、「看護師が対応した面談記録の中から患者さんの意思決定プロセスに効果的に関与していた相談技術の構成要素を抽出」2)し作成されています。療養相談の先に意思決定支援があるとの前提で開発されたモデルであるため、訪問看護の場面で応用がしやすいと感じています。 ここではNSSDMで示される9つのスキルを紹介します(図2)。 図2 NSSDMの9つのスキル 川崎 優子先生(兵庫県立大学看護学部 教授)より許諾を得て掲載 意思決定場面においてすべてのスキルを扱うのではなく、患者さんの状況や相談内容に応じて必要な技術だけを段階的に用います。医療者の判断を押し付けるような情報提供にならないように留意しながら、患者さん自身が自分の価値観を自覚し、適切な自己決定を行うように支援する方法です。 今回はDさんの事例を通じて、がん患者さんの最期の療養先選択場面におけるNSSDMを用いた意思決定支援について紹介したいと思います。 事例:Dさん(80代、女性、独居) 5年前より肝細胞がんに対しラジオ波熱焼灼療法を受けていましたが、新たに胆管細胞がんと診断。その時点で本人の希望により化学療法は行わずBSC(ベストサポーティブケア)に移行し、自宅療養を選択されました。 最近になって下肢に著明な浮腫がみられ、Dさんは動くのが困難になってきました。病院の医師から入院をすすめられましたが、本人が「自宅で過ごしたい」と希望したため、訪問診療と訪問看護を開始することに。 病院から在宅へ、移行のタイミングで意思を確認 初回訪問日、Dさんは近所に住む友人に手伝ってもらい、布団からようやく起き上がれるような状態でした。数日前に訪問した医師より現在の病状の説明や今後の療養先の意思確認が行われています。その際、「自宅で過ごす」と話されていることを確認していましたが、看護師も再度Dさんに自身の病状の理解、現在の心理状態、これからへの思いを確認しました。 麻薬に対する抵抗感を確認するため、オピオイド鎮痛薬の使用について聞いてみました。すると「まだ大丈夫。私は弱い薬で効く体質なの。痛みで眠れないことはあるけれど、そのうちよくなるから」とのこと。この話から眠れない程度の疼痛があることや、オピオイド鎮痛薬の使用に抵抗感を持っていることが推察できました。 ほかにも以下の話をうかがいました。 今は病気や自身の身体について知りたい情報は特にない友人の支援を受けながら、このまま家で死を迎え、同世代の友人たちに人の死について考える機会にしてほしいと思っている同じ市内に住む息子には仕事があるし心配をかけたくないので世話にはなりたくない体調がよくなれば自分の身の回りに関することはできるから、今さら知らないヘルパーさんに家に来てもらうのもわずらわしいと感じる NSSDMを用いた意思決定支援の実際 まずは意思決定支援の方向性を見出すため、NSSDMの「スキル1 感情を共有する」を実践しました。Dさんには数年前に亡くなった寝たきりの夫を、息子に頼らず一人で介護されてきた経験がありました。こういった今までの生き方を否定せず時間をかけてうかがいました。 そうするうちに「痛みがあると自分の思い通りに動けないのはつらいけれど、痛み止めを使うことには抵抗がある」との発言があったことから、オピオイド鎮痛薬使用に関する意思決定支援を行うことにしました。 ここからは次の段階です。意思決定に向けて不足している点を補うため、特に「スキル5 患者の反応に応じて判断材料を提供する」と「スキル8 情報の理解を支える」ことに重きを置いてかかわりました。 Dさんは、疼痛が強いにもかかわらずオピオイド鎮痛薬に対する抵抗感があります。その結果、不眠を招き、疲労感が増している状態です。そこで何が抵抗感につながっているのか確認してみると、「麻薬を使用する=症状が悪化している」との思いがあるとわかりました。そこで、近年は薬剤も進化しており、痛みに対し早期から麻薬系の薬剤を使用することが多くなっていると説明しました。すると、「まずは一回試してみようかしら」との言葉が聞かれたので、訪問中に一度オピオイド鎮痛薬を服用しもらうことに。その場で体調の変化がないことを確認し、訪問後に時間をおいて電話でも体調を確認し、不安を軽減するようにしました。 Dさんとの信頼関係が構築できたと考えられた時点で、今後の療養先についてもう少し具体的に明確化するようにしました。Dさんにこれからの療養場所についてうかがってみると、次のような返事がありました。 足のむくみがひどくて、最近は息切れもする夜は心配で眠れないけれど、昼間にその分ウトウトしている以前は絶対に家がいいと思っていたけれど、息子に迷惑もかけられないし、病院や施設のほうがいいのかしらとも思うでも、先生に「家で最期まで過ごしたい」と言った手前、「気が変わりました」とは言いづらい こうした発言からDさんに意思決定の準備が整っていると判断し、最終段階の「スキル9 患者のニーズに基づいた可能性を見出す」を念頭に置いてDさんにかかわるようにしました。例えば、言い出しにくい気持ちを看護師が医師に代弁できることを保証し、改めて自宅と病院(施設)での最期の過ごし方の特徴について具体的に説明しました。また、自分が決めたタイミングで気持ちが変化すればいつでも療養場所は変更可能なことを伝えました。 その後、Dさんから呼吸苦が増強した時点で「入院したい」との連絡があり、訪問してDさんと息子さんの意思を再確認しました。主治医と連携し緩和ケア病棟への入院を調整し、最期は病院で永眠されました。 * * * 医療法第1条第4項には「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない」と示されています。しかし、バッドニュースを伝えることは、相手が傷ついたり、悲しい思いをしたりすることが予測でき、伝える側も苦悩を抱える作業です。このため、伝えるチームメンバーを周りがサポートし、孤独にならないよう、尊重し合えるようなチームづくりが終末期ケアでは大切です。看護師として自分に課せられた説明義務を果たすと同時に、バッドニュースを伝える場面で助け合える人間関係を大事にしたいと思います。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Buckman R: Breaking bad news: why is it still so difficult? Br Med J (Clin Res Ed) 1984; 288(6430): p.1597-1599.2)川崎優子著.「がん患者の意思決定支援プロセスに効果的に関与していた相談技術」,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所紀要 2017; 24: p.1-11. 【参考文献】〇内富庸介,藤森麻衣子編.『がん医療におけるコミュニケーションスキル―悪い知らせを伝える』,医学書院,東京,2007.〇川崎優子著.『看護者が行う意思決定支援の技法30 患者の真のニーズ・価値観を引き出すかかわり』,医学書院,東京,2017.〇聖隷三方原病院症状緩和ガイド「E.予後の予測」 https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents7/71.html2023/10/20閲覧

最期・お看取りエピソード
最期・お看取りエピソード
特集
2024年2月27日
2024年2月27日

最期・お看取りエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護では利用者さんの最期に関わることも数多くあります。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、利用者さんやご家族の最期の希望に寄り添い支援した感慨深いエピソードを5つご紹介します。 「残された時間を一緒に」 最期を看取るという利用者さんの奥様の強い覚悟を受け止めて、無事支援しきったエピソードです。 残された時間がない療養者の在宅療養を受けることを伝え、在宅医に了承してもらった。医師は「明日帰れないかもしれない、ギリギリの状態だ」と話された。翌日、在宅医は民間救急の後ろを走行し、訪問看護師は自宅で準備をした。自宅につくと妻と初対面の挨拶を済ませ、ベッドに移送し酸素吸入、持続点滴等を実施し療養者のケアをした。妻は自宅療養に至った話をしてくれた。面会制限があり毎日電話で話していたが、数日で話せなくなった。最期は家で看取る決意で退院を希望したと話された。「義父母の最期も見送ってきた私の役目だ、その時まで一緒にいたい」と話され妻の強い決意を感じた。親しい人が「ひさしぶり」「カラオケいったなあ」と明るく笑顔で妻や孫を交えて過ごされた。その笑顔をみられてうれしく思った。深夜に「呼吸が止まった」と妻からコールがあり、医師の死亡確認のあと最期のケアをおこなった。妻は「最後に一緒に過ごせてよかった」と話された。 2022年12月投稿 「大切な時間」 残された時間の穏やかな日常をサポートできるのは、訪問看護の冥利なのかもしれません。 退院を機に自宅で最期まで過ごすと決められ、ご依頼をいただきました。優しい奥様と笑顔のご本人様。かわいい猫ちゃん。スタッフの前では、感じていたはずの「痛み・苦しみ・辛さ」マイナスの言葉は心の奥底に封印され、食べたいものを食べて、笑ってお話しされていました。入籍一周年を間近に控えられていたこともあり、「一緒にお祝いしましょうね。」と訪問看護チーム全員でお二人の時間をサポートさせていただきました。2ヵ月もないほどの時間。少しでも寄り添い、お二人の気持ちを穏やかにすることができていたならこれ程幸せなことはないと思います。ご本人様にとって、ご家族にとっていつ訪れるか分からない最期の時間は色々な思いがあふれ出す時間だと思います。「できる限りのことをする。」これがうちの管理者の考え方です。大切な時間を一緒に過ごさせていただいたことにスタッフ一同感謝しています。 2023年1月投稿 「よりみち」 望む最期を迎えられるよう、利用者さんとご家族の希望に寄り添ったからこそ贈られた感謝の言葉だったのだと胸打たれるエピソードです。 ステーションへの帰りによりみちすると、庭に人影があった。「ああ、お世話になりました、四十九日が終わったところです。」草むしりを再開しながら「今年は花が早く咲いているの。姉が早く見せてくれているみたい。」胃がんの末期。腹水コントロールができるなら家にとおっしゃり、ご家族の希望で未告知のまま在宅療養が始まった。「新しい時代が来ましたね。どうなるのか不安でしたが、こうやって自宅で過ごせることが分かって安心した感じです。」ナートした留置針と延長チューブを通り、腹水はペットボトルにドレナージされた。腹水がオレンジ色のころに「最期まで家に居させて。楽に逝かせてほしい。」赤くなったころ「もう長くないと思う。だったらなおさら家族に最期の時期をみてもらいたい。」希望通りに「気がついたら呼吸が止まっていて…」とステーションに電話があった。「姉の生活は見ていて理想でした。」別れ際に妹さんは言ってくれた。 2023年2月投稿 「初めての看取り」 利用者さんに寄り添い心情を汲み取った一言に、利用者さんの心が救われたことが分かるエピソードです。 訪問看護師になってもう13年が経ちますが、未だに1番初めに携わった末期癌の利用者様の看取りは忘れられません。その方はまだ65歳になられたお若い男性でした。その方には内縁の奥様がいて、利用者様の「家で死にたい」との思いを受けて、病院を退院されました。訳ありのお二人にはほかに家族はおられず。私達とケアマネが唯一の縁者でした。緊張の面持ちで家での生活が始まりました。お二人の生活は経済的に厳しい状況であったため、奥様はパートを休むことができず、その間は利用者様が一人になります。奥様のいない間、3回訪問を提案し、体調をみさせていただいていました。初めは緊張して何もお話ししてくれなかった利用者様が、緩和マッサージ行っていた時、奥様との馴れ初めや境遇をお話しくださり、涙を流して、もうすぐ奥様を残して旅立つ自分の情けなさと、独りになる奥様の心配を話してくださいました。「私たちがいますから、奥様は大丈夫です。」と思わずでた言葉に「ありがとう。」と微笑んでくださいました。数日後、奥様の膝枕で、微笑んだお顔で旅立たれました。今でも奥様は事務所に時々お顔を見せてくださっています。 2023年2月投稿 「最期の笑顔に寄り添って」 偶然の中に縁を感じるとともに、投稿者さんを看護師に導いてくれたお父様への感謝も感じられるエピソードです。 訪問看護師の仕事をして23年目。たくさんの出会いがあり、お別れもあった。ある日のこと、午前の訪問先と午後の訪問先は不思議なことに、お二人とも年齢は90代の男性。どちらも奥さんが介護されていた。そしてどちらも男性のお孫さんがそばにいた。手も足も指の色は紫色になり血圧も低く、血中酸素濃度は測定できない。それでも意識はしっかりされていた。午前の方は、お孫さんが子供の頃、学習塾へ送迎をされていたことを奥さんが思い出して話をされた。お孫さんはしっかりと手を握り、「おじいさんわかる?」と声をかけ涙を流された時、頭を持ち上げお孫さんの顔を見てにこりとされた。午後の方はギャッチアップして口腔ケアの後、「Mさん今日もかっこいいですね」と声かけ、すると微笑まれた。奥さん娘さんお孫さんとで記念撮影をした。お二人ともそれが最期の訪問となり、静かに旅立たれた。訪問看護師として人生の最期の時を伴走して、ゴールテープを切られるのを見届けた。2月1日の訪問看護。その日は、私に看護師になることを勧めてくれた父の命日だった。 2023年2月投稿 最期のお別れを共有する存在 看護師は人の生と死に立ち会うことのある職業です。今回は最期の別れのエピソードをご紹介しましたが、旅立つ方にはなるべく心安らかに、見送る方には後悔なく見送れることを願う看護師としての想いが伝わってくるようでした。最期の支援を家族とともにできる看護師の誇りを感じるとともに、別れの儚さや切なさなど、いろんな感情が入り交じる感慨深いエピソードです。 編集: 合同会社ヘルメース イラスト: 藤井 昌子 

ニャースペースのつぶやき 夏
ニャースペースのつぶやき 夏
特集
2024年2月20日
2024年2月20日

在宅で大好きな農作業を…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

自分のペースで農作業を続ける利用者さん 利用者さんの望む日常生活に寄り添えるのは、訪問看護ならではだにゃ! 利用者さんの中には、在宅療養中も長年の趣味や活動を継続したいという方もいらっしゃいますよね。楽しそうに日常生活を送る利用者さんの様子をみるのはうれしいもの。実際に訪問看護師さんから寄せられたエピソードをご紹介します。「90代の心不全の利用者さん。在宅お看取りの方針で、次に憎悪が起これば万が一のこともあり得る状況です。その利用者さんは野菜を育てるのがお好きで、お身体と相談しながら、休み休み農作業を続けています。ここまで動けるのが不思議なくらいですが、『野菜を育ててふるまうのが楽しい』とおっしゃり、ご家族も嬉しそうにその野菜を調理されている。とても素敵だと思います」 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

百日咳の症状・原因・治療法について解説
百日咳の症状・原因・治療法について解説
特集
2024年2月13日
2024年2月13日

百日咳の症状・原因・治療法・ワクチンについて解説。咳で骨折することも?

百日咳は、世界と比較すると日本での発症率は低いものの、発症すると激しい咳によって生活に支障をきたす可能性がある疾患。ワクチンを接種した上で、適切に感染対策を行うことが大切です。この記事では、百日咳の症状や原因、治療法、ワクチンなどについて改めて解説します。訪問看護師さんご自身や家族の健康管理はもちろん、利用者さんのアセスメントに役立てるためにも、基礎知識をおさらいしておきましょう。 百日咳とは 百日咳は、けいれん性の咳が現れる感染症です。多くの場合は軽症で済むものの、免疫が不十分な乳児期には重症化することがあります。日本をはじめ、世界中でDPT三種混合ワクチンやDPT-IPV四種混合ワクチン接種が普及したことで、百日咳は激減しています。しかし、ワクチンの未接種や免疫機能の低下などの要因により、世界でしばしば流行しているのが現状です。 百日咳の症状 百日咳の経過は、以下の3つに分類されます。 カタル期2週間程度続き、少しずつ咳が強くなっていきます。痙咳期(けいがいき)2~3週間にわたりけいれん性の咳が続きます。短い咳が続いたり、「ヒューヒュー」という呼吸音がみられたりすることもあります。回復期回復期では2~3週間かけて症状が和らいでいきます。 多くの場合は、発症から2~3ヵ月程度で完治します。微熱程度で済むほか、乳児の場合は目立った症状がみられないことも少なくありません。無呼吸発作をきっかけに受診したところ、百日咳が判明するケースもあります。 また、大人が百日咳に感染した場合は、乳幼児と違い、重症化することは少ないですが、原因不明の発熱を伴わない発作的な咳が2週間以上続きます。 百日咳の原因 百日咳の原因は、百日咳菌の感染です。ただし、パラ百日咳菌によって発症する場合もあります。感染経路は飛沫感染と接触感染です。 百日咳の治療法 生後6ヵ月以上の場合、マクロライド系抗菌薬を使用します。特にカタル期に治療を始めることが有効です。ただし、新生児の場合はマクロライド系抗菌薬の使用による肥厚性幽門狭窄症(ゆうもんきょうさくしょう/IHPS)の発症リスクが上昇することがあるため、アジスロマイシンによる治療が推奨されています。また、咳に対しては鎮咳去痰剤を使用し、必要に応じて気管支拡張剤の使用も検討します。 百日咳の自宅での対応方法 症状が軽い場合、自宅療養で問題ありません。ただし、症状が軽いかどうかの判断が難しいため、けいれん性の咳が出た際は医療機関を受診し、薬物療法を受けることが大切です。 自宅では静かに過ごし、咳が激しいときは水分や食事の摂取を複数回に分けましょう。また、咳が激しい、呼吸困難になっている、嘔吐が続いて水分を十分に摂取できないといった場合は、速やかに医師に相談する必要があります。 百日咳の出勤・出席停止の扱いについて 百日咳は第2種感染症に定められており、症状がなくなるか5日間におよぶ抗菌薬による治療が終了するまでは学校は出席停止です。ただし、学校医やその他の医師の判断のもと、出席停止期間は変更できます。 職場への出勤については、明確な規定は定められていません。まずは医療機関を受診し、医師の判断を仰ぐことが大切です。その上で勤務先に連絡し、欠勤するかどうか話し合って決めましょう。 百日咳のワクチンは? 世界中でDPT三種混合ワクチンが普及しています。日本では、DPT三種混合ワクチンだけでなく、不活化ポリオワクチンを含むDPT-IPV四種混合ワクチンが定期接種となっています。接種スケジュールは生後3ヵ月以上90ヵ月(7歳6ヵ月)未満で4回接種です。最初の3回の初回免疫と最後の1回の追加免疫に分類されており、初回免疫は20~56日の間隔で3回、追加免疫は3回目の接種から6ヵ月以上の間隔で1回行います。 ただし、ワクチンの効果は4~12年かけて次第に弱まっていくため、ワクチンを接種していても百日咳にかかる可能性があります。特に乳児への感染はリスクが高いため、妊娠後期にDPT三種混合ワクチンを接種し、母体の感染を防ぐとともに、赤ちゃんが抗体を持って生まれてくるようにすることで、生後1ヵ月未満の新生児期の感染を防ぐことが推奨されています。 百日咳の咳がひどいと骨折することもある? 百日咳は激しい発作的な咳が特徴で、これが繰り返されることで肋骨骨折が発生する可能性も。激しい咳の衝撃によって肋骨に負担がかかり、繰り返しの咳によって疲労骨折が引き起こされます。特に高齢者や骨粗しょう症の方など骨がもろく弱い人は、骨折のリスクが高まります。 もし、胸部に痛みを感じるときは速やかに医療機関を受診し、骨折に関する診断と適切な治療を受けましょう。 百日咳に一度かかると二度とかからない? 百日咳は終生免疫を得られる感染症ではありません。一度感染しても、再びかかる可能性があります。6ヵ月未満の乳児は特に注意が必要であり、予防接種を受けて感染と重症化のリスクを抑えることが重要です。 * * * 百日咳は、けいれん性の咳を特徴とする感染症で、終生免疫を獲得できないことから生涯に複数回かかる可能性があります。乳児は重症化しやすいため、家族が百日咳にかかった際は家庭内でなるべく接触しないよう注意が必要です。今回、解説した内容を自身の健康管理や利用者さんからの質問対応に活かしてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立感染症研究所「百日咳とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/4772023/11/20閲覧〇一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会「ワクチンと病気について」https://www.vaccine4all.jp/topics_I-detail.php?tid=452023/11/20閲覧

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「不眠」です。 不眠とは睡眠の開始と維持に関する問題があり、日中に倦怠感や思考低下、意欲低下、食欲低下といった不調が出現している状態。不眠は、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(何度も目が覚める)、早期覚醒(早朝に目が覚める)などに分類される。 がん患者さんにみられる不眠 睡眠は疲れた心身を回復させ、体調を整えるために大切です。しかし、がん患者さんの30~50%が不眠を経験するといわれており1)、がんと診断された直後や治療中、治療終了後、緩和期などに不眠で悩む人は少なくありません。 事例:Cさん(80代、女性、独居) 肝臓がんの診断で手術を受け、経過に問題なく半年前に退院。近隣に住む息子夫婦が連れ添い、定期的に外来通院し検査を継続。薬剤管理や体調確認目的で訪問看護を利用しています。 退院直後は気が張っている様子で元気そうだったCさん。ところが、近頃あまり元気がありません。訪問看護師が問いかけてみると、「何だか夜眠れなくて。昼間にうとうとしてしまい、結局1日何もできない。こんな生活だと張り合いもないし、食欲もない」との返事がありました。 訪問時、がん患者さんから「以前に比べて疲れやすくなった」「よく眠れない」「眠りが浅い」という悩みを訴えられることが少なくありません。Cさんの場合、眠れないことに加えて、そのことが日中の生活に影響している様子もうかがえました。 不眠の状態を評価する DSM-5では、不眠の診断基準として入眠困難、中途覚醒、早期覚醒のうち1つ以上を伴い、日中の社会的、行動上などの生活機能障害が週3回以上あり、3ヵ月以上持続すると定義しています2)。 Cさんにどのように眠れていないのか詳しく聞くと、「寝ようと思って11時には布団に入るけれど1時過ぎまで眠れない。寝る時間は遅いのに朝5時には目が覚める」と話されました。これは入眠困難と早期覚醒に該当します。また、家にいるときだけでなく、デイサービスの間も眠気があり、こうした状態が3ヵ月以上も続いているとのことでした。 訪問看護師は、Cさんの不眠の原因を探ると同時に、まずは薬物療法以外の方法で、生活の中に取り入れやすい工夫を紹介することにしました。 睡眠を妨げる原因を把握する 不眠の原因には、がんの進行や治療による痛み、入退院による環境の変化、服用している薬剤の影響などがあります。さまざまな精神疾患の前駆症状や随伴症状である可能性もあります。患者さんの不眠の原因を見きわめ、適切な対応につなげることが大切です。 Cさんは、現段階では痛みや発熱など身体的な苦痛は感じていません。退院後の生活にも大きな変化はないため、それらが不眠の原因とは考えにくい状況です。そこで、不安や適応障害などの心理的な原因がないか確認してみることにしました。 すると、Cさんは「家に一人でいると、これから先どうなるのか、再発したらどうすればよいのかと、とりとめもなく考えてしまう」と話されました。Cさんの病状は一段落しており、子どもたちが家に来る機会もすっかり減っています。日々の困りごとは医師や看護師、家族に相談できているので、何も手につかないくらい不安な状況ではないそうですが、一人で過ごす時間が長くなり、そうしたことを考えてしまうようです。 睡眠習慣の見直しを中心に対応 不眠への対応のポイントは原因を取り除き、症状を緩和することです。訪問看護師はCさんの訴えから、不安の緩和、現在服用している薬剤の調整と睡眠に関する療養相談を行うことにしました。 不安の緩和 Cさんは漠然とした将来への不安を抱え、ストレスを感じているようです。まずはCさんの不安を緩和するために、十分な時間をとって話を聞くようにしました。 薬剤の調整 Cさんは通院している大学病院の肝胆膵科以外にも、内科や整形外科、泌尿器科、眼科、耳鼻科など多くのクリニックを受診し、さまざまな薬剤を処方してもらっています。そこで、かかりつけ薬局に相談し、薬剤調整と不眠の原因になる薬剤がないか確認してもらうことにしました。 また、医師にも相談し、不眠時の内服薬が開始されることに。Cさんは「薬に頼ると中毒みたいになってやめられないのでは」と心配されましたが、訪問看護師が医師の指示通り適切に服用することで依存状態にはならないと説明することで服用に納得されました。 なお、痛みや息苦しさといった苦痛症状が睡眠に影響している場合は、その症状を緩和する方法を医師や薬剤師に相談しましょう。 睡眠薬を使用する際は、非がん患者さんで呼吸不全症状があると、薬剤の呼吸抑制作用が強く出る場合があるため注意が必要です。また、肝不全や腎不全などの患者さんの場合、薬剤の代謝・排泄に影響するため、肝機能や腎機能の状態を確認しながら使用します。睡眠薬については医師や薬剤師と十分相談するようにしてください。 睡眠に関連する療養相談(非薬物療法) 非薬物療法として、夜間の睡眠のみに注目するのではなく、日々の生活リズムの見直しも大切です。またCさんからは「決まった時間に寝て、決まった時間に起きなければならない」との思いが強くあるような印象も受けました。そのため、これまでの睡眠習慣に固執せず、今の自分自身にあった睡眠習慣を身につけてもらえるようなサポートを行うことにしました。 具体的な対応は以下のとおりです。 [1]生活リズムの見直しをすすめる<具体策> 何時に寝て、何時に起きているかを確認し、希望する睡眠時間が年齢相応か確認する。加齢に伴い実際に眠れる時間は短くなる。「寝なくては」と必要以上にベッドで横にならず、患者さんの年齢に応じた睡眠時間を把握し、その時間、眠れるように工夫する。就寝時間をコントロールするのではなく、起床時間をコントロールする。寝る時間が短くなっても熟眠感が得られるような睡眠パターンに目を向けることが大切。日中に適度な運動を行い、朝食をしっかりと摂るようにする。眠たくなってからベッドに入るようにし、環境と入眠開始の関連づけを行う。午睡はしないほうがよいが、日中どうしても眠いときは、15時までに20~30分程度の短い午睡をとるようにする。 [2]眠れないときの対応を伝える<具体策> ベッドに入っても寝付けないときは、いったんベッドを離れ、眠たくなったら再びベッドに入るようにする。 [3]眠る前の注意事項を伝える<具体策> カフェインを摂取しないようにする。就寝前にリラックスできる習慣があれば取り入れる。 非がん患者さんにみられる不眠への対応 心不全や呼吸不全のような非がん疾患の場合は、上記の内容に加え、睡眠を障害する症状の緩和ケアが必要です。例えば、終末期心不全では、60~88%に呼吸困難、69~82%に全身倦怠感、35~78%に疼痛、70%前後に抑うつ症状があるといわれています3-5)。これらの症状に対応することが睡眠障害の改善につながります。がん患者さんとは異なり、「寝てしまうと、もう起きられないのではないか」というような漠然とした不安を訴える方も多い印象があるため、強い不安を認めた場合には不安に対する支援が大切です。 * * * 不眠は身体疾患や精神疾患と相互的な因果関係があるといわれています。不眠の原因への対応を念頭に置きつつも、不眠そのものに積極的な介入が推奨されています。このため、眠れないという訴えをおろそかにせず、しっかりと受け止め支援してほしいと思います。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)谷向 仁著.「不眠」,森田達也,木澤義之監修,西 智弘,松本禎久,森 雅紀,ほか編.『緩和ケアレジデントマニュアル第2版』.東京,医学書院,2022,p.311.2)American Psychiatric Association. 『Diagnostic and statistical manual of mental disorders(DSM-5®)』. Washington, DC, American Psychiatric Pub, 2013.3)Krumholz HM, et al. Resuscitation preferences among patients with severe congestive heart failure: results from the SUPPORT project. Study to Understand Prognoses and Preferences for Outcomes and Risks of Treatments. Circulation 1998; 98: 648–655.4)Levenson JW, et al. The last six months of life for patients with congestive heart failure. J Am Geriatr Soc 2000; 48: S101–109.5)Solano JP, et al. A comparison of symptom prevalence in far advanced cancer, AIDS, heart disease, chronic obstructive pulmonary disease and renal disease. J Pain Symptom Manage 2006; 31: 58–69. 【参考文献】〇 厚生労働省.健康づくりのための睡眠指針2014(平成26年 3月).https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf(2023/10/20閲覧)〇 国立がん研究センター.がん情報サービス「眠れない・不眠 もっと詳しく」.https://ganjoho.jp/public/support/condition/insomnia/ld01.html(2023/10/20閲覧)

訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
特集
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問中に利用者さんが窒息したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんが窒息したときの対応法です。 注意していても起こり得る誤嚥や窒息 訪問看護師は普段から訪問看護サービスを提供するなかで、利用者さんの嚥下機能を観察し、評価を行っているはずです。そして、その嚥下機能に応じて看護計画を立案し、計画に沿って口腔機能の訓練や食事形態の調整などを実施しています。嚥下機能に問題があれば、在宅で主に介助を行う家族や訪問介護員(ヘルパー)に嚥下能力の情報を共有し、安全な介助方法を指導するといった連携をもって誤嚥予防に取り組んでいることでしょう。 ところが、細心の注意を払ってケアを実施していても軽い誤嚥を起こしてしまうことがあります。アセスメントの結果、最初から嚥下に問題ありと判断できる場合、吸引器が準備できているとよいでしょう。ご家族が安心して安全に吸引できるように指導しておくことも訪問看護師の役割です。口腔ケアに吸引器を活用して誤嚥性肺炎の予防に用いることもできます。また窒息を疑うときにも吸引器が役立ちます。咳嗽が誘発され、異物が喀出されやすくなります。 訪問看護では誤嚥リスクの高い、体力の低下した高齢者や小児の利用者さんも担当します。「窒息かも!?」という場面に遭遇したときの対応について解説します。 窒息のサインを見逃さない 窒息に早急に対応するために、まずは窒息のサインを見逃さないようにします。最初の症状は咳き込みですが、重篤な場合、以下の症状がみられます。 いびきのように声を振り絞っている、または声を出すことこができない咳が弱い、または咳をすることができない両手でのどのあたりをかきむしる、わしづかみにする(チョークサイン)呼吸が徐々に弱まる顔面蒼白けいれん症状意識の低下 このような症状がみられたら気道閉塞を起こしている可能性があります。すぐに気道内の異物を取り除く必要があります。 窒息時の対応法 声かけをして反応をみます。声かけに反応があれば「咳をして!」と強い咳払いを促し、気道に詰まった異物を喀出できるまで介助します。先述のとおり、咳が弱い、呼吸が弱まるなどの様子がみられたら窒息の可能性があります。次に示す背部叩打法やハイムリッヒ法を行ってください。 背部叩打法 前傾姿勢、あるいは座位保持ができない場合や仰臥位の状態であれば側臥位の姿勢にして、その姿勢を保持したまま、左右の肩甲骨の間を手のひらの付け根あたりでかなり強く叩きます。4~5回叩いたら表情や呼吸音、呼吸状態を確認しながら、異物が出てくるまでこれを数回繰り返します。その場の状況判断にもよりますが、救急車を要請することも必要です。 ハイムリッヒ法 重度の気道閉塞では、異物を喀出させるための緊急対応としてハイムリッヒ法(腹部圧迫法、腹部突き上げ法とも呼ばれる)が推奨されています。ただし、妊産婦や乳児には行えません。寝たきりで座位保持ができない利用者さんに対しても不適切な場合があります。また、初めてハイムリッヒ法を実行しようとしても容易ではありません。実施可能な要件を熟知しておくとともに、適切に対処できるように知識・技術をしっかり習得しておくことをおすすめします。 意識が消失したら心肺蘇生、吸引も考慮 もし、意識が消失するようであれば、直ちに心肺蘇生に移ります。蘇生しながら口腔内に見えている異物を除去したり、吸引を実施したりします。 異物が取り除けたら十分な観察を 異物を取り除けたら深呼吸を促します。呼吸状態が落ち着いた後も、十分な観察が必要です。口腔内の観察では異物の残渣や傷がないか、歯に問題がないかをみます。部分入れ歯を装着していた場合、あったはずの入れ歯がなくなっていると新たなトラブルになってしまいます。また、発声したときに痛みやかすれ声(嗄声)がないか、本人の違和感といった自覚症状も確認しましょう。 異物除去後の最初の経口摂取は、とろみを付けた水分を一口からゆっくり摂取してもらい、しばらく様子を見ながら徐々に元に戻していきます。 掃除機での吸引はすすめられない 一部の通説では窒息したときには掃除機が有効といわれていますが、衛生上の問題や本来の使用目的ではないこと、ノズルの硬さなどから口腔内を傷つけるリスクのほうが高いため、決しておすすめできません。知識として頭の隅に残しておく程度がよいと思います。 誤嚥の原因は食事以外にもある 窒息事故はほんの数分でも脳に深刻なダメージを与えてしまいます。後遺症を残す可能性があるため、普段から予防に努め、急変時には今回紹介したような手順で対応できることが重要です。 また、窒息は食事中の誤嚥以外にも嘔吐物の誤嚥や痰の性状によっても起こることがあります。利用者さんの病状をよく観察し、専門家として体位の調整や痰と水分量のバランスを検討するといった事前の対処もとれるようにしておきましょう。 誤嚥の可能性ありなら最善策をとる ここで筆者がかかわった事例の一つを紹介します。今回の対象者は発話がほぼない認知症高齢者の利用者さんで、コミュニケーションもほとんどとれません。嚥下のレベルは、固形物を咀嚼できず、栄養剤を吸い飲みで口腔内に流すと何とか嚥下ができる程度です。 吸い飲みの「吸い口」が見当たらない 食事介助はヘルパーが実施しています。ある日、介助中に吸い飲みに付属しているシリコンゴム製の吸い口が見当たらないことに気がつきます。「飲み込んでしまったようだ」とヘルパーから訪問看護ステーションに連絡があり、すぐに訪問しました。 利用者さんの口腔内を確認するも吸い口は見当たりません。明らかな呼吸困難もなく、その状況からは誤飲したかどうかは見きわめられませんでした。しかし、吸い口が見当たらないのは事実です。今は問題ないと思えるものの、吸い口の形状から気管分岐部あたりに留まっているとしたら、今後問題が生じる可能性も考えられました。 本人は苦痛や違和感を訴えることができない状態です。何も問題がないという結果であったとしても、安心できる結果を得られることから、救急車を要請して受診してもらうことにしました。検査で三日ほど入院しましたが、結局、異常は見つからず無事に帰宅されました。 * * * 誤嚥は肺炎を引き起こします。肺炎を繰り返すと入退院につながり、利用者さんの負担が増えます。また、窒息事故は利用者さんやご家族との関係性に禍根を残すこともあります。担当した訪問看護師も自責の念にかられてしまうでしょう。そのような事態を防ぐためにも日ごろからのリスク対応が必要です。 在宅は病院と違い、病状変化においてすぐに医師の診察や検査を受けることはできません。窒息に限らず在宅看護では常に、今何が起きているのかということをしっかりと把握し、どう対応するかを判断する能力が求められます。看護師一人で対応するのではなく、ぜひステーション全体でリスクマネジメントに取り組むようにしていただければと思います。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2024年1月30日
2024年1月30日

漫画「私のために…?」 ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

暖かいお宅だなと思っていたら実は… 今回の「訪問看護あるある」は漫画でお届け! 利用者さんやそのご家族が、訪問看護猫のためにあたたかいお気遣いをしてくださることがあるにゃ。優しさが心にしみるにゃ ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法
起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法
特集
2024年1月23日
2024年1月23日

起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法。親ができることは?

起立性調節障害(OD)は、立ちくらみのほか、疲れやすい、長時間立っていられない、時間を守れないといった症状があります。学校の欠席や遅刻が増え、一見すると子どもが不真面目になったように見えることも。保護者の中には「母親のせい」「父親のせい」などと自分を責めてしまう方も少なくありません。これは、体の調節機能に異常が起きているために生じるトラブルのため、保護者の関わり方とは無関係です。 本記事では、起立性調節障害の特徴や症状、原因、治療法、対応方法などについて詳しく解説します。自身の子どもが起立性調節障害ではないか不安な方や、訪問看護の利用者さんからの相談に対応できるようにしておきたい方は、ぜひ参考にしてください。 起立性調節障害の原因・症状 起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)は、自律神経機能不全の一種。症状は以下のとおりです。 ・立ちくらみ・寝起きが悪い・倦怠感・動悸・頭痛・顔面蒼白・食欲不振・失神など 思春期に現れやすく、かつては一時的な生理的変化で年齢とともに改善すると考えられていました。 現在は、自律神経の循環調節機能がうまく働かなくなり、血圧を維持することができなくなっていることが原因だと考えられています。自律神経の機能低下の原因は解明されていませんが、思春期のホルモンバランスの変化や、学校生活のストレス、遺伝的要素などが関係しているといわれています。 起立性調節障害で遅刻や不登校につながることも 起立性調節障害は、その症状により朝起きることが難しくなったり、勉強に集中できなくなったりします。そのため、遅刻や不登校につながる可能性があります。重症例では社会復帰に2~3年以上かかることもあるでしょう。 起立性調節障害のタイプについて 起立性調節障害は、主に以下の4つに分類できます。 起立直後性低血圧(INOH)タイプ起立性調節障害の中でも、最も多いタイプです。起立直後に血圧が低下し、立ちくらみ、倦怠感、頻脈等の症状があります。回復時間が25秒以上、もしくは20秒以上で起立直後の平均血圧値が60%以上の場合に該当します。体位性頻脈症候群(POTS)タイプ起立後の心拍数の増加、息切れ・動悸、胸痛、頭痛、立ちくらみにより立位保持が困難となります(起立不耐症)。起立時の心拍数が115回/分以上か、起立中の平均心拍増加が35回/分以上の場合に診断されます。若い女性に好発し、食後・暑さ・生理・アルコールなどによって悪化することがあります。神経調節性失神(NMS)タイプ血管迷走神経性失神タイプともいわれます。起立中の急激な血圧低下により失神に至ります。遷延性起立性低血圧タイプ起立直後には血圧が低下しませんが、 起立を数分以上続けていると徐々に血圧が低下して失神に至ります。 倦怠感や動悸、頭痛などの症状の現れ方にも個人差があるため、まずは症状の種類や現れるタイミングなどの確認が必要です。 起立性調節障害が見つかるきっかけ 起立性調節障害の症状である立ちくらみや失神が見られたり、倦怠感や動悸が続いたりして、医療機関を受診することで診断に至るケースがあります。子どもの場合、症状をうまく伝えられず、学校や保護者が単なる怠けと思い込み、受診が遅れることも考えられます。 起立性調節障害の治療法 起立性調節障害は、非薬物療法で治療していくことが多いでしょう。ただし、中等症以上では薬物療法も併用されます。症状の改善にはまず日常生活の工夫が必要です。 立ち上がるときは頭を下げてゆっくりと立つ立っている状態で動かない時間は1~2分を限度とする立っている状態では足をクロスさせる1日1.5~2リットルの水分を摂取する塩分を多めに摂る(1日10g程度を目安とする)毎日30分程度の歩行で筋力の低下を防ぐ眠くないからといって夜更かしをしない過度なストレスを避ける 起立性調節障害の子どもに親ができること まずは子どもの気持ちに寄り添う姿勢が大切です。子どもの場合、保護者に「学校へ行きなさい」「怠けていないで勉強をしなさい」などと言われることが大きなストレスとなり、治療の妨げになる可能性があります。午後からなら学校へ行ける、週4日なら行ける、といった場合には柔軟に対応し、子どもが可能な範囲で学校生活を無理なく続けられるように環境を整えましょう。 起立性調節障害の治療では、水分や塩分の摂取、起き上がり方などの工夫が必要です。これらは親がサポートできることです。また、怠けているのではなく体の調節障害によって症状が起きていることを理解し、決して責めることなくサポートしましょう。 また、不登校・引きこもりに発展した場合、親は焦るかもしれませんが、過度なストレスは改善を遅らせる要因です。軽症のうちに対応する、遅刻が多くても責めずにサポートを続けるといったことを心がけましょう。家庭内で抱え込まず、気づいた段階で医療機関を頼ることも大切です。 起立性調整障害は大人もなる?違いは? 起立性調節障害の好発年齢は10歳から16歳で、思春期の二次性徴が現れるころに発症しやすいです。しかし、ストレス過多の生活を続けることで自律神経のバランスが崩れ、大人なってから起立性調節障害を発症するケースもあります。 大人の起立性調節障害の症状は、子どもの場合と基本的には同じで、朝時間通りに起きれず会社に行きにくい、午前中は集中力がなくミスが多くなる、立ちあがろうとすると眩暈や動悸がするなどです。また、パーキンソン病や認知症などの神経疾患の一症状として起立性調節障害が現れる場合もあります。 * * * 起立性調節障害は、立ちくらみや失神、倦怠感、頭痛などの症状によって朝起きるのが難しい、時間を守れない、集中できないなどの問題が起きることがあります。ストレスが悪化要因となるため、周りの人は本人にとって少しでも快適に過ごせるようにサポートすることが大切です。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇一般社団法人日本小児心身医学会「(1)起立性調節障害(OD)」https://www.jisinsin.jp/general/detail/detail_01/2023/11/20閲覧〇加古川医師会「起立性調節障害」https://www.kakogawa.hyogo.med.or.jp/memo/item28702023/11/20閲覧

社会的処方の課題&重要性
社会的処方の課題&重要性
特集
2024年1月16日
2024年1月16日

社会的処方の課題&重要性 誰がリンクワーカーを担うか

孤立・孤独対策でもある「社会的処方」の取り組みは、イギリスで生まれ、日本でも政策として取り入れられるようになりました。今後ますます重要性を増していくことが予想され、地域で働く訪問看護師にとっても知っておきたいトピックです。前回に引き続き、社会的処方の必要性や課題について見ていきましょう。 >>前回の記事はこちら政府も推進する「社会的処方」 定義&具体例。リンクワーカーは何をする? 日本が抱える課題と社会的処方の必要性 社会的処方は、孤立への対策や健康増進、生活の質(QOL)・ウェルビーイングの向上につながります。ここで、日本が抱えている課題を改めて確認しながら、社会的処方の必要性を確認していきましょう。 世界トップの高齢化率 孤立・孤独問題は先進国共通の課題となっていますが、日本の少子化・高齢化は深刻です。国が行った人口推計によると、2023年9月時点で高齢者人口の割合は29.1%と過去最高を更新。世界の200の国・地域の中でもトップです。高齢化に伴って社会保障給付費の増加も年々問題になってきています。疾病予防や健康増進により社会保障費の削減効果も期待できる社会的処方は、積極的に進めていきたい重要な政策のひとつといえるでしょう。 先進諸国最低の幸福度 国連の調査である「世界幸福度ランキング2023」の結果を見ると、日本は47位。前回よりランクを上げていますが、先進諸国の中では低めです。また、経済協力開発機構(OECD)の「幸福度白書2020(How’s Life?2020)」では、「仕事と生活のバランス」などの項目で他国の平均を大きく下回る結果が出ており、日本人は主観的に自分たちを幸福だと感じとれていないことがわかります。 ハーバード大学では84年にわたる調査・研究結果に基づき、健康で幸せな人生を送るためには「よい人間関係」がカギになると報告しています。元来、日本人は集団生活を営み、地域コミュニティに属する歴史をたどってきており、集団で個を支え合い助け合うという文化がありました。しかし、現代社会においては、核家族化やインターネットの普及が進み、地域との関わりが途絶えがち。社会的処方は、「人との交流」を取り戻すきっかけとなり、幸福度向上につながる取り組みともいえます。 社会的処方の課題 イギリスとは異なる制度 積極的に取り入れていきたい社会的処方ですが、イギリスのしくみをそのまま日本で実践することは難しいとされています。イギリスとの制度上の違いをみていきましょう。 イギリスと日本の医療の違い イギリスでは家庭医(General Practitioner:以下GP)というかかりつけ医が存在し、地域住民は疾患の疑いがある場合はGPに受診するしくみになっています。GPは患者に対して継続的な医療の提供を行うので、患者の生活や習慣に関わる機会が多く、生活における健康上の問題や悩みにも応じます。そのため、GPが地域住民の疾患予防や健康増進を図る司令塔としての役割を担い、リンクワーカーにつなげやすい構造ができているのです。また、医療報酬上、地域の患者が健康になればなるほど評価される基準(「評価ペイメント」)が存在していることも大きいでしょう。 一方、日本の医療制度では疾患の疑いがある時に任意の医療機関にかかります。継続的に医師と疾患や健康上の相談を行う人は多くないでしょう。また、診療報酬は出来高制であり数量評価がメイン。病院経営上なるべく短時間で多くの患者を診療するという傾向になりがちです。 社会的処方を医療や介護の場に導入し定着を図るのであれば、疾病の予防や健康の増進に対してどのように評価を行っていくか、また継続的に患者と関わり合いを持てる構造をどのように形成するかがひとつの課題になってきます。 誰がリンクワーカーになるか 社会的処方の重要な役割であるリンクワーカーを誰が担うか? という点も課題です。イギリスでは基本的に研修を受けた非医療職がリンクワーカーを担っていますが、日本でも同じような立場・職種をつくるのか、すでに存在する何らかの職種にリンクワーカー的役割を付与するのかなどを検討していく必要があります。現状では、どういった方法がよいか全国で試行されている状況です。 例えば、栃木県の宇都宮市医師会では、厚生労働省による「令和3年度 保険者とかかりつけ医等の協働による加入者の予防健康づくり事業(モデル事業)」の一環として、医療機関発の社会的処方の検証を行っています。日常診療の現場で課題に気付いたら、仮想リンクワーカーである地域包括支援センター、ケアマネジャー、社会福祉法人の相談窓口などにつなぐという取り組みをしています。 その他、社会的処方に関心の高い施設では独自にリンクワーカーを置いている民間団体もありますし、市民がリンクワーカー的な働きをするのがよいのではないか、という考えもあります。 川崎市の「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」を営む医師の西 智弘氏は、著書の中で以下のように述べています。 その一方で、孤立の問題が既に表面化しつつある現状において、これからリンクワーカーをいちから養成していき、その数を増やしていこうというのは、明らかに間に合わない。(中略)私たちは、リンクワーカーを「文化」にしていきたい。その方向で、日本に広めていきたい。まちにいる誰もが、つなげるときにつなげる範囲でつないでみる。まちのみんなが「リンクワーカー的」にはたらく社会だ。おせっかいおばさん、顔役おじさんウエルカム。というか地域が三顧の礼で迎えたい、求めてやまない大切な「地域人材」だ。西 智弘編著『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社) P.64 ~66より一部引用 地域ですでに社会的処方やそれに近しい取り組みを行っているコミュニティがあった場合には、そちらへの参加を検討するという手もあるでしょう。存在しなかったとしても、個々にできる範囲でリンクワーカー的な働きを担うことは可能です。 * * * 日本における社会的処方のしくみづくりはまだ発展途上ですが、利用者・相談者の生活を良くしようと行動できる方は、資格の有無に限らずリンクワーカー的な存在として活躍できる可能性が十分にあります。生活の質の向上を図ることを目標として利用者の生活に入り込み、支援や観察を行う訪問看護師も、当然リンクワーカーの候補です。 今後、社会的処方の重要性はさらに高まってくことが予想されます。いつでも「リンクワーカー的」な存在として動けるように、まずは地域の取り組みやコミュニティにアンテナを張るところから始めてみてはいかがでしょうか。 監修: 西 智弘(にし・ともひろ) 医師/一般社団法人プラスケア代表理事/川崎市立井田病院腫瘍内科 部長(化学療法センター、内科兼務) 2005年北海道大学卒。2012年から中原区在住。日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医。川崎市立井田病院で「早期からの緩和ケア外来」を立ち上げ。2017年、神奈川県川崎市に「医療者と市民とが気軽につながることができる場所」をつくりたいとの思いのもと、「一般社団法人プラスケア」を設立。、『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社)、『だから、もう眠らせてほしい(晶文社)』など著書多数   一般社団法人プラスケア神奈川県川崎市での「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」の運営を行っている。「社会的処方研究所オンラインコミュニティ」では、国内外の情報をシェアするほか、イベント・講演を実施。URL:https://www.kosugipluscare.com/執筆・編集: NsPace編集部 【参考】〇西 智弘編著 『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(2020、学芸出版社)〇澤 憲明他 「英国における社会的処方 社会疫学に関連した取り組み・研究と総合診療」 https://www.orangecross.or.jp/project/socialprescribing/pdf/socialprescribing_1st_02.pdf〇World Happiness Report「世界幸福度報告書2020」https://worldhappiness.report/ed/2020/2023/11/24閲覧〇OECD「How's Life? 2020」https://www.oecd.org/statistics/Better-Life-Initiative-country-note-Japan-in-Japanese.pdf2023/11/24閲覧〇国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料(2022)「家族類型別一般世帯数および割合(1970~2020年)」https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2022.asp?fname=T07-10.htm2023/11/24閲覧〇内閣官房「人々のつながりに関する基礎調査(令和3年) 調査結果概要」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/r3_zenkoku_tyosa/tyosakekka_gaiyo.pdf2023/11/24閲覧〇内閣官房「孤独・孤立対策の重点計画」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/juten_keikaku/r03/index.html2023/11/24閲覧〇厚生労働省「給付と負担について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21509.html2023/11/24閲覧〇総務省「統計からみた我が国の高齢者」https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf2023/11/24閲覧〇ロバート・ウォールディンガー『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(2023、辰巳出版)〇厚生労働省「医療・介護の総合確保に向けた取組について」https://www.mhlw.go.jp/content/12403550/000841085.pdf2023/11/24閲覧

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