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家族看護 事例
家族看護 事例
特集
2023年8月29日
2023年8月29日

訪問看護師の家族看護 療養者のセルフケア&家族との関わり【事例紹介】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回は、子どもに対する心配が大きく、過干渉になってしまう家族が登場します。訪問看護師はどう対処すればよいか困惑しますが、支援者である自分自身を深く見つめなおすことで状況が変化していきます。 事例紹介 Aさん(10代後半、女性) 有名進学高校に在籍していましたが、友人関係のトラブルが引き金となり、幻覚や妄想などの症状が出現し、統合失調症と診断されました。 数ヵ月の入院生活を経て、現在は休学し自宅療養中。全般的に意欲や自発性の低下が見られるものの、母親の送迎により週2回デイケアに通所しています。母親は日中仕事で不在のため、Aさん一人ではインターホンの対応ができず心配だとして、祖母に来てもらっています。 Aさんは携帯電話やSNSを利用して友人と交流を持ちたいと母親に訴えますが、発症前にSNSでの友人とのやりとりで落ち込むことがあったことを理由に、母親は携帯電話を持つことやSNSの利用を禁止しています。Aさんは残念そうではありますが、母親とぶつかることはなく、漫画を読んだり、テレビを見たりして、ほかのことで気を紛らせています。訪問看護師がAさんへ問いかければ、そつなく返事が返ってきますが、Aさんから積極的に話すことはありません。 家族構成 同居家族は、Aさんの父(50代、会社員)、母(50代、教員)、弟(高校生)の4人。近隣に住む母方の祖母が支援してくれています。母親は管理職のため多忙ですが、仕事の調整をしながらなんとかAさんの送迎を行っています。 訪問看護師の悩み(直面している課題) Aさんが携帯電話やSNSを利用して友人と交流を持ちたいと訴えても認めず、一人で留守番することにも難色を示す母親が、かえってAさんの自立を阻害しているように感じ、違和感を持っています。Aさんの力量をアセスメントして、母親にAさんの自立に向けた方法を提案したいと思いますが、母親がAさんの行動を強く統制しているためそれもできません。 そして、訪問看護師に対する母親の対応が威圧的に感じられ、母親にどのように関わったらよいのか糸口が見いだせず困っています。まだ訪問を始めて日が浅く、結局のところ、「心配だからダメ」という母親の話を一方的に聞くばかりで、深くは踏み込めないままに訪問が続いています。 渡辺式家族アセスメント/支援モデルで考える 検討場面の明確化 Aさんの願いを聞き入れもせず、Aさんを一人で留守番させることもしない母親。そんな母親に対して、訪問看護師は違和感を持っていました。どのように関わったらよいのか訪問看護師が困惑していた、この時期を取り上げて、Aさん、母親、訪問看護師に何が起こっていたのか検討したいと思います。 それぞれの文脈(ストーリー) ■訪問看護師訪問看護師はAさんの自発性を大切にし、Aさんの希望を叶えたいと思っていましたが、結局、母親の話を一方的に聞くという対処に終わっていました。背景にあったのは、Aさんの実際の力量がアセスメントできず、母親を説得する具体的な材料を持っていなかったこと、また母親の言動から考えを曲げようとしない頑なさに圧迫感を覚えていたことが挙げられます。 ■母親母親は、Aさんが携帯電話やSNSを利用して友人と交流を持ちたいという願いに困惑し、娘の願いを聞き入れず、自己のコントロール下に置くという対処をとったと考えます。その背景には、発症の引き金になったのが友人関係のトラブルであり、また同じことが起こるのではないかという不安や、何としても再発だけは避けたい、親として自分が娘を守らなければという使命感があったと思われます。 ■AさんAさんは母親から携帯電話を持つことやSNSの利用を禁止され、仲のよい友人に連絡できないことに困っていました。しかしAさんは、母親に強く不満を訴えることもなく、母親の判断に身を委ね、漫画を読んだり、テレビを見たりして、ほかのことで気を紛らわせています。その背景には、元々反抗期を経ておらず、母親の意見に従ってきた母子関係がありました。また、薬の鎮静効果による眠気や陰性症状による意欲低下があること、「母親が自分のことを心配してくれていることもわからないではない」という気持ちがあったと考えられます。 それぞれの関係性 次に母親、Aさん、訪問看護師の三者全体の関係性を俯瞰してみましょう(図1)。 ■母親とAさん母親はAさんをコントロールし、Aさんはそれに身を任せています。このままでは変化は起こらず、悪循環といえるでしょう。 ■Aさんと訪問看護師訪問看護師は、Aさんの気持ちを引き出そうと問いかけますが、Aさんはそつなく合わせるような対応です。対立や葛藤関係にあるわけではないですが、このままでは関係はなかなか深まらないと思われます。 ■母親と訪問看護師母親は、訪問看護師に対して期待はあるものの、何をどこまで期待できるのかが分からない状況です。再発への不安からとにかく今は自分の考えを通したいと主張しています。 まだ訪問を開始してから日も浅く、母親に対して関わりにくさを感じている訪問看護師は、母親に深く踏み込むことはせず、話を聞きながらAさんの主張に対してしかたなく応じています。訪問看護師は母親へのアプローチの方法を探っている状態だと思われます。 図1 Aさん、長女、訪問看護師の相互関係 パワーバランスと心理的距離 ここでは、母親と訪問看護師を取り上げて考えてみます(図2)。 母親の言動に圧迫感や関わりにくさを抱いていた訪問看護師のパワーは低くなっていたと思われます。一方、再発への不安が強く、何としても娘を守らなければという強い使命感に駆られていた母親のパワーは高いと考えられます。 両者の心理的距離はどうでしょう。お互いに関心を寄せていますが、娘を守りたい母親は境界を越えて訪問看護師へ迫っており、ベクトルもやや太くなっています。訪問看護師の方は、母親に対し何とか関わりの糸口を見つけようと、母親へ関心を向けながらもとどまっています。 図2 母親と訪問看護師のパワーバランスと心理的距離 アセスメントをもとに支援の方策を考える まずは、看護師のパワーを上げる必要があります。そのために、経験豊かなスタッフとの同行訪問を実施しました。これまでは母親に圧迫感を抱いていましたが、ベテランのスタッフとともにいることで安心感が得られ、落ち着いて母親の思いをじっくり聴き、話し合うことができました。 訪問看護師は、「友人関係で失敗してそれが再発につながるのが怖い」と訴える母親の気持ちを十分に受け止めるように努めました。そして、折に触れて「失敗はむしろ成功へのヒントになること」を伝え、訪問看護師として「失敗から学んで成長につなげることができるように支援すること」を保証しました。 また、母親に対し、Aさんの状況や母親の役割について繰り返し丁寧に説明しました。つまり、Aさんは病気を抱えつつも親からの自立という大切な発達段階を歩んでいる途上にあること、母親は自分自身の不安に圧倒されるのではなく、娘であるAさんを見守り自立を応援する段階にあることを伝えたのです。 Aさんに対しては、Aさんが自分の意思を尊重できるように「どうしたいのか?」と問いかけることを大切にしながら関わりました。 こうした支援により、母親は徐々にAさんの自立を見守れるように変わってきました。現在Aさんはデイケアに一人で通い、留守番もできるようになりました。一定のルールのもと携帯電話も使いこなしています。母親は過干渉になることもなく、Aさんとの距離感も良好なものとなっています。 事例におけるアセスメントと支援のポイント ●過干渉にならざるを得ない母親の不安の強さをアセスメントし、十分受け止めたこと●母親に苦手意識を感じる自分自身を認め、ほかのスタッフに応援を求めたこと●母親に、失敗は成功のヒントになること、またたとえ失敗しても成長につなげられるように支援すると保証したこと●母親に自立を促す役割の大切さを強調し続けたこと 執筆:株崎 雅子地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立循環器・呼吸器病センター ●プロフィール2010年より「渡辺式」家族看護を学び、2023年「渡辺式」家族看護認定インストラクターを取得。現在は「渡辺式」の普及を目指し、急性期病院での活用や看護管理者への活用に向けて奮闘中です。 執筆:堤 真紀訪問看護ステーションみのり東京支店 所長 ●プロフィール2023年「渡辺式」家族看護認定インストラクターを取得し、現在は臨床だけでなく、家族看護の講義や執筆を行うなど実績を積み重ねています。 編集:株式会社照林社

緩和ケア がん身体症状
緩和ケア がん身体症状
特集
2023年8月29日
2023年8月29日

悪性腹水の原因と対応【がん身体症状の緩和ケア】

末期膵臓がん患者のAさん(49歳)。痛みも落ち着き、倦怠感も以前ほどではなくなりました。しばらくは症状がうまくコントロールでき安定していましたが、最近、腹部の膨満感が出現するようになりました。在宅主治医によると、膵臓がんが腹膜に播種したがん性腹膜炎による腹水であろうとのこと。今回はがんの影響によって生じる腹水の緩和ケアについて解説していきます。 悪性腹水のメカニズムと緩和ケア 悪性腹水は進行がん患者においてしばしば見られる症状です。たまった腹水が少量であれば自覚症状はあまりありませんが、大量にたまると外観の変化やさまざまな自覚症状が出現します。主な症状は腹部膨満感や腹痛、胸やけ、悪心・嘔吐、食欲不振などです。 腹水がたまる原因には、滲出性と漏出性の2つがあるといわれています。例えば、がん性腹膜炎で腹水がたまるのは滲出性によるものです。腹膜上にがん細胞が拡散すると、それぞれのがん細胞の周囲で、がん細胞と戦うため炎症が起こります。この炎症の結果、滲出液と呼ばれる液体が出てきて腹腔内に蓄積されていきます。 漏出性の代表例は肝硬変やネフローゼです。腹膜自体に異常はなく、血液中のタンパク質濃度が低下することによって浸透圧が低下し、血管から水分が漏れ出し、腹腔内にたまってしまう状態です。この場合、利尿薬を使用して水分貯留を改善させることが少なくありません。 しかし、がん緩和ケアの現場では、どちらか一方のみが原因というよりは、これら2つが重なりあって腹水が生じるといわれています。どちらの原因が主体なのかはケース・バイ・ケースです。抗炎症薬としてのステロイドで症状が軽快するケースもあれば、利尿薬が有効なケースもあり、両者を組み合わせることもあります。 さて、訪問看護師であるあなたは、今日は在宅主治医に同行し、Aさんのご自宅に訪問しています。在宅主治医はAさんの腹部の状態を確認し、悪性腹水であることを確信したようです。 在宅主治医: 触診でも波動を感じますので、ほぼ腹水で間違いないと思います。次回は携帯型の腹部エコーを持参して詳しく検査してみましょう。 Aさん: 腹水ですか……。次から次へとおかしなことが起こるので不安です。どのようにすればよいのでしょうか? あなた: 確かに次から次に嫌なことが起こりますよね。それでもAさんはこれまで一つひとつ、乗り越えてこられたと思います。Aさんのつらさが少しでも楽になるように私たちが協力しますので、つらいときは遠慮なく教えてください。 Aさん: はい、ありがとうございます。  症状に応じて利尿薬の投与、腹腔穿刺を行う 在宅主治医: Aさん、まずはお腹に水がたまりにくくなるように利尿薬を使用しましょう。それでも水がたまり、苦痛が強いようであれば、お腹に針を刺して水を抜く治療もあります。腹部膨満感がすみやかに解消されるので、楽になる方は多いですよ。(利尿薬の使用については【ワンポイントメモ】「利尿薬を使用すると患者さんは脱水状態にならないの?」参照) Aさん: そうなんですね。少し安心しました。今はそれほどつらくはないのですが、悪化したときにどうなるのかが不安でした。 あなた: 利尿薬が開始されるとトイレに行く回数が増えると思います。Aさん、トイレに行くのは大変ではないですか? Aさん: 自分で歩いて行けるのですがよろけることがあるので、トイレにも手すりがあればいいのにと思うことはあります。 あなた: 確かにそうですね。ケアマネジャーさんに連絡して、手すりの設置を相談しましょう。ベッドの近くにトイレを置くこともできますが、それはいかがでしょうか? Aさん: 手すりはお願いしたいのですが、ベッド脇のトイレはまだ必要ないと思います。 あなた: わかりました。 Aさんの自覚症状の程度や環境整備への要望を確認したところで、あなたと在宅主治医はAさんのお宅を後にしました。帰り道の途中で、あなたは気になっていた腹腔穿刺について医師にたずねました。 あなた: 先生、腹腔穿刺は在宅でも可能なのですか? 在宅主治医: もちろん可能です。腹部エコーで腹水がたまっている場所を確認してから、局所麻酔を行い、血管留置用のプラスチック留置針を用いて穿刺します。量が多いときには2Lほど抜けることもあります。 あなた: 処置のとき、私たちがお手伝いできることはありますか? 在宅主治医: 通常、腹腔穿刺は1時間程度かけて行います。最初の30分くらいは私たちも患者さんを観察していますが、それ以上の時間になるとほかの訪問診療があるので、ずっと付き添うことは厳しいのです。急激な腹腔穿刺中に血圧が下がることもありますので、患者さんの苦痛の確認とバイタルサインのチェックを行っていただくと助かります。訪問看護ステーションによっては、排液がなくなったことを確認し、留置針を抜いて消毒し、創処置をしてくれます。 あなた: 私たちも管理者と相談して、お手伝いしたいと思います。先生、もう1つ教えてください。抜いた腹水を処理して、体内に戻す治療があると聞いたことがあるのですが……。 CARTや腹腔静脈シャントについても知っておこう 在宅主治医: CART(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy)、腹水濾過濃縮再静注法のことですね。腹水を抜けるだけ抜いて、がん細胞や細菌などを取り除き、タンパク質(アルブミンやグロブリンなど)の有用成分を濃縮して体内に戻す治療です。一般には在宅ではできないので、通常は病院で1泊から2泊入院して行います。点滴をしながら腹水をできるだけたくさん抜きます。腹水のたまるスピードが速く、何回も穿刺が必要になるならAさんと相談してもよいかもしれませんね。 あなた: CARTはすべての病院が対応してくれるわけではありませんよね? 在宅主治医: それぞれの病院ごとに異なるのが実情ですが、一生懸命情熱を持ってCARTに取り組んでいる先生もいらっしゃいます。そんなドクターのことを知っておくことも大事かもしれませんね。 あなた: はい、わかりました。先生、いろいろと教えていただきありがとうございました。お引き止めして申し訳ありませんでした。 あなたはステーションに帰り、がん看護専門看護師の先輩Bさんにもう1つ気になる治療法があったので質問してみました。 あなた: 先輩、最近Aさんに腹水がたまるようになってきたのです。以前、何かの本で読んだことがあるのですが、お腹にカテーテルを埋め込んで静脈に戻すポンプのようなものがあるようなのです。この治療法について何かご存知ですか? Bさん: それは腹腔静脈シャント、別名「Denver(デンバー)シャント」のことね。手術を行って、腹腔内と鎖骨下静脈を直接つなぐ特殊なカテーテルを埋め込むの。そのカテーテルには逆流防止弁が付いていて、腹水が静脈内へ流れるようになっているのよ。腹壁に固定した小さな風船状のポンプがあって、それを患者さん自身が何回も押し込むことで腹水がくみ上げられて静脈の中に押し込まれるの。 あなた: 大きな手術が必要になるのですね。 Bさん: そうなの。Aさんの今の状態では手術を行うことは難しいかもしれないわね。症例数も少ないから、がん性腹膜炎に対してこの治療を行うことに対してまだ評価が定まっていないのよ。がん細胞も静脈の中に入る可能性があるし、心臓にも負担がかかるかもしれない。 あなた: そう簡単にはできないことがよくわかりました。 苦痛症状の緩和には看護ケアの力を Bさん: そうね。でもあなたがAさんに寄り添い、彼を支援することはまだまだできるはずよ。徐々に症状が進んできて、Aさんは不安を感じているはず。なるべく腹部膨満感が強くならないような食支援を行ったり、腹部が張っていても安楽に過ごせるような環境を整えたり、Aさんが少しでも安心して過ごせるように私たちにできることはたくさんあるわ。おそらくご家族もすごく不安を感じているのではないかしら。ご家族のケアをしっかりやっていくこともとても大切よ。 あなた: そうですね。Bさん、ありがとうございます。まだまだやれることがありますよね。もっとAさんとご家族に寄り添って1日1日が生活しやすいように援助していきます。 * その後、Aさんは腹腔穿刺を数回行いました。全身の衰弱が進み、約1ヵ月後にご自宅で旅立たれました。オピオイド投与もうまくいき、大きな苦痛を感じることなく過ごされたことが、ご家族にとっての救いになっていたように思われました。担当訪問看護師であるあなたにとってもよい仕事ができ、大きな学びがあったケースとなりました。 【ワンポイントメモ】 利尿薬を使用すると患者さんは脱水状態にならないの?確かに少し脱水気味になります。だからといって大量の輸液を行うと、逆に腹水が増えてしまうとの報告があります。また、がん緩和期では患者さんが乾いた状態(ドライサイド)で管理したほうが、より苦痛が少なくなるといわれています。ほかに胸水や気道分泌物が多い場合も輸液が多いと悪化すると指摘されています。その意味からも輸液を最小限にして、ドライサイドにしたほうが苦痛の軽減につながると考えられているのです。強い脱水や電解質異常で患者さんが苦しまないように、採血を行い、その程度を評価し、投薬量や投薬内容を調整します。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社

緩和ケア がん身体症状
緩和ケア がん身体症状
特集
2023年8月22日
2023年8月22日

がん悪液質には集学的な治療が必要【がん身体症状の緩和ケア】

あなたが担当する末期膵臓がん患者のAさんは、近頃、体重減少と食欲不振がみられ、がん悪液質の状態にあるようです。Aさんの症状緩和について先輩訪問看護師に相談したところ、治療薬「アナモレリン」について教えてもらいました。あなたは治療に関してさらに詳しく知りたいと思い、在宅主治医に相談してみることにしました。 >>前回の記事はこちらがん悪液質とは【がん身体症状の緩和ケア】 がん悪液質の薬物的治療 あなた: 先生、Aさんのことで相談があります。最近、Aさんにがん悪液質と思われる体重減少や体動困難が見られるようになり、横になっていることが多くなりました。せっかく痛みがよくなっているので、家族との思い出づくりもしていただきたいのですが、それもできず、食欲も低下しています。そこで調べたのですが、「アナモレリン」という薬が食欲改善に有効と聞きました。先生、Aさんにこの薬を投与してみるのはどうでしょう。 在宅主治医: よく勉強しましたね。私もその薬をそろそろ使うべき時期と考えていました。使用してみましょう。それ以外にも有効とされる薬剤があるので、アナモレリンの効果を見ながら試してみるとよいかもしれません。 あなた: 先生、「それ以外の薬剤」には、どのような薬剤があるのですか? 在宅主治医: まずはステロイドです。炎症性サイトカインの放出ががん悪液質の原因の一つという話は聞いたことがありますね。ステロイドは炎症性サイトカインの放出を抑制し、炎症反応を減少させることでがん悪液質の全身倦怠感、食欲不振といった症状を改善させてくれます。 あなた: ステロイドには糖尿病や骨粗鬆症といった副作用がありますが、Aさんに投与しても問題ないのでしょうか? 在宅主治医: Aさんに残された時間はそれほど多くありません。長期間の投与になるわけではないので、副作用も限られるでしょう。血糖値が上昇すれば対応しますが、厳密なコントロールは必要ありません。高血糖で昏睡に陥るようなことにならなければよいのです。 あなた: ひどい高血糖にならないように、私たちも血糖チェックを行うことにしますね。先生、ほかにはどのような薬剤が使用されているのでしょうか? 在宅主治医: アナモレリンとステロイドも含め、がん悪液質に有効とされる薬剤を整理してみましょう(表1)。 表1 がん悪液質に有効とされる薬剤 あなた: 漢方も使用されているのですね。とても勉強になりました。ところで先生、Aさんは現在もリハビリテーションを継続していますが、体力的に問題はないのでしょうか。どうも無理をさせているような気がするのです。  がん悪液質の非薬物的治療 あなたはリハビリテーションがAさんの体力をさらに消耗させているのではないかと心配しています。ところが、在宅主治医の見解はまったく異なるものでした。 在宅主治医: 本人がリハビリテーションをやめたいと言っているのであれば、やめてもよいのですが、私は継続するほうがよいと思っています。もちろん、筋肉減少がリハビリテーションだけで解決できるわけではありません。運動療法以外にも、先ほど説明した薬剤の投与や栄養対策を行って、がん悪液質の進行をできるだけ抑えることが重要だと考えています。それに、リハビリテーションはAさんの「自分でトイレもいけなくなった」といった人生への無意味感につながるスピリチュアルペインを和らげてくれる可能性もありますよね。 あなた: なるほど、そうだったのですね。教えていただきありがとうございます。リハビリテーションはこのまま続けたほうがよさそうですね。先生、栄養対策のお話がありましたが、栄養対策としてはどのようなことを行えばよいのでしょう? 在宅主治医: そうですね。十分量のエネルギーとタンパク質の摂取が必要ですが、進行したがん患者さんは味覚も低下します。味のはっきりした食事のほうが食べやすいこともあるので、さまざまな味の栄養剤を併用したり、甘いアイスやプリン、ゼリーといった食材を追加したりする方法もあります。タンパク質であれば、料理に加えるだけで手軽に補給できる市販品を試してみるのもよいでしょう。 また、口の中のことも考える必要があります。歯の調子が悪くて食べられなかったり、ステロイド投与中に口腔カンジダが発症して食事量が低下したりすることもあります。歯科医や歯科衛生士との連携も大切だと思いますよ。 あなた: なるほど。栄養士さんの栄養指導も必要そうですね。ありがとうございます。Aさんやケアマネジャーさんとも話し合ってみます。 * がん悪液質の非薬物的治療において、栄養療法単独の介入ではあまり有効性は指摘されていません。運動療法では身体機能やQOLの改善が得られたとの報告はあるものの、エビデンスが得られたリハビリテーションプログラムは週に2~3回、1回60~90分の運動であるため、高い脱落率が問題と考えられています1),2),3)。現在、栄養療法、運動療法を同時に介入させる試験が進行中です。 がん悪液質には集学的治療が必要 がん悪液質は進行すると治療に反応しにくくなります。在宅で療養する患者さんの場合、かなり進行した状態であることが多いですが、治療に反応することも少なくありません。がん悪液質にはステージ分類があり、EPCRC(European Palliative Care Research Collaborative:欧州緩和ケア共同研究)によって前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つに分類されています4)。前悪液質と悪液質のステージでは早期介入が求められる段階で、不応性悪液質のステージでは緩和的治療がメインになります。この分類でいうとAさんは悪液質から不応性悪液質の状態ですので、治療による症状改善が期待できる状況です。 がん細胞による炎症は全身のさまざまな臓器に影響を及ぼします。脳に働き食欲を抑制したり、骨格筋の分解を促進し筋量を減少させたりします。肝代謝にも影響し、栄養成分の代謝が不良になります。また、脂肪が非効率的に消費され、急速に減少します。そこに高齢や併存疾患、抗がん剤の治療毒性、廃用症候群といった要素が加わるため、臨床像は一人ひとり異なります。そのため、がん悪液質の治療には、薬物療法や栄養療法、運動療法などを含めた集学的な治療が必要とされています。 したがって、その治療には医師、看護師、栄養士、理学療法士、臨床心理士、歯科医、歯科衛生士などの多職種によるチーム連携が必須であり、これらを在宅で機能させることが重要です。その中でも訪問看護師の役割は大きく、それぞれの職種を結びつける役割が期待されています。また、患者さんの揺れ動く思いに寄り添い、失った機能に対する落胆にも寄り添い、共感し、ときには励まし、一緒に歩む姿勢も求められているといえます。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【参考】1)Oldervoll LM, et al. Physical exercise for cancer patients with advanced disease: a randomized controlled trial. Oncologist 16(11), 2011, 1649-1657.2)Adamsen L, et al. Effect of a multimodal high intensity exercise intervention in cancer patients undergoing chemotherapy: randomised controlled trial. BMJ. 2009; 339: b3410. doi: 10.1136/bmj.b3410.3)Rummans TA, et al. Impacting quality of life for patients with advanced cancer with a structured multidisciplinary intervention: a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 24(4), 2006, 635-642. 4)Fearon K, et al:Definition and classification of cancer cachexia:an international consensus. Lancet Oncology. 12(5), 2011, 489-495.

訪問看護計画書の書き方
訪問看護計画書の書き方
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2023年8月22日
2023年8月22日

訪問看護計画書の書き方は? 記入例や注意点も紹介

新卒訪問看護師の方や、病棟から訪問看護へ転職した方は、訪問看護計画書の書き方で悩むケースが多いでしょう。本記事では、これから訪問看護に従事する方に向けて、訪問看護計画書の書き方について解説します。記入例や注意点も解説しているので、ぜひ参考にしてください。 訪問看護計画書とは 訪問看護計画書とは、訪問看護サービスを提供するにあたり、療養上の目標や具体的なサービス内容を利用者ごとに記載する書類です。訪問看護指示書の交付による主治医の指示を受けた上での作成が必要になります。訪問看護計画書の作成は「利用者の健康状態の評価」「ケアプランの立案と目標設定」「コミュニケ-ションと連携の促進」の3つが主な目的で、利用者に質の高い訪問看護サービスを提供するために作成します。 作成後は、利用者やご家族・支援者に内容の説明を行い、同意を得なければなりません。また、すでにケアマネジャーや利用者などが居宅サービス計画書を作成している場合、その計画内容に沿った作成が必要です。ちなみに居宅サービス計画書は、基本的にケアマネジャーが作成しますが、まれに利用者やご家族が作成することもあります。しかし、手続きや事業所との連携および調整まで行う必要があるため、一般的には利用者やご家族にとっては難易度が高いです。 訪問看護計画書の書き方 訪問看護計画書を書く際のポイントは、以下のとおりです。 主語は看護師側ではなく利用者側にする目標は利用者主体で記載する挙がった問題には優先順位をつける(いのちや生活に影響するものは優先順位が高い)優先順位を付けるために「#(ナンバー)」の記号で#1、#2とナンバリングするコピー&ペースト(同じ文章の使いまわし)はなるべくしないようにする義務として医師への定期的な提出が必要であり、ケアマネジャー・連携している訪問看護ステーションや医療機関にも提出する場合があるため、分かりやすく丁寧に記載する これらの基本的なポイントを押さえた上で、各項目の記入例と詳細内容を見ていきましょう。 訪問看護計画書 記入例 訪問看護計画書は、標準とする様式に準ずる必要があり、厚生労働省によって以下の7つの項目を記載するよう定められています。順にみていきましょう。 (1)利用者の基本情報 利用者の氏名や生年月日、要介護認定の状況、住所を記載します。電子カルテを使用している訪問看護ステーションでは登録したIDを入れることで自動的に入力されます。 (2)看護・リハビリテーションの目標 訪問看護計画書では、主治医の指示、利用者の希望、利用者の状態を考慮し、看護・リハビリテーションの目標を設定します。ケアプラン(居宅サービス計画書)や訪問看護指示書の内容を参考にしながら、利用者がどのような生活を送りたいのかを理解し、目標を具体的に立てることが大切です。 (3)年月日/問題点・解決策/評価 訪問看護計画書では、計画を作成した日付や修正した日付を記載します。毎月、計画書の見直しをしている場合は、見直しで修正を行った日付を記載してください。問題点・解決策の項目では、目標とリンクした内容を記載します。具体的な問題点やそれに対する解決策、必要な看護や支援、ケアの内容を具体的に記載します。また、評価の項目では、実際に提供したサービスの評価や問題の改善状況、引き続き計画を実施するかどうかの判断を記載する必要があります。 (4)衛生材料等が必要な処置の有無 脱脂綿やガーゼ、絆創膏など、衛生材料が必要な処置の有無では、はじめに「有」または「無」のどちらか該当する方に丸をつけます。必要な処置がある場合は、処置の内容、衛生材料の種類、サイズ、必要量などを具体的に記載しましょう。「無」の場合は記載する必要はありません。 訪問看護で使用する衛生材料の具体例としては、次のものがあります。 使い捨て手袋:感染予防や処置時の衛生を保つために使用注射器・注射針:採血や薬の注射などに使用カテーテル:膀胱留置カテーテルや胃ろうカテーテルなど、体液の排出や栄養剤の投与に使用絆創膏:創傷部位の保護に使用テープ:包帯の固定に使用ガーゼや脱脂綿:傷口や皮膚の保護に使用消毒薬:処置前の手指消毒や器具の消毒に使用生理食塩水:創傷や口腔内の洗浄に使用尿バッグ(ウロバッグ)やドレーンバッグ:体液の管理に使用 使用する衛生材料はすべて記載しましょう。 (5)備考 備考には、各項目に書ききれない留意事項や特記事項を記載します。利用者やご家族からの情報や注意事項、連絡事項などを必要に応じて追記し、訪問看護師同士や関係者間で情報共有を円滑に行えるようにします。 また、すでに老人保健法及び健康保険法等の指定訪問看護を実施している場合、備考欄に要介護認定の状況を記載しましょう。 (6)作成者名 計画書を作成した人の氏名を記載します。訪問看護計画書は、訪問看護に携わる医療従事者が同じ目標に向かってケアプランを共有し、作成しています。そのため、訪問看護師以外にも、リハビリ職や保健師なども記載した場合は、全員の氏名を明記し、計画の責任者を明確にすることが必要です。 (7)年月日/事業所名/管理者氏名 最後に、計画書を作成した日付、事業所名、管理者の氏名を記載します。こちらも責任の所在を明確にするために必ず記載しましょう。加えて、管理者の捺印が必要になるので、主治医に提出する前には押してもらっておきます。 訪問看護計画書を作成する際のQ&A 訪問看護計画書を作成する際に疑問点として挙げられやすい内容についても、Q&A形式で解説します。 誤った内容を記載してしまったらどうなる? 前提として、訪問看護計画書は必要に応じて情報開示を求められることもあるため、偽りのない内容を記載するべきです。しかし、誤って記載してしまうこともあるでしょう。その際は、気付いた時点ですぐに該当箇所を修正する必要があります。修正前の内容、修正した箇所、修正した日時が分かるようにして、改ざんの疑いや誤解を防ぐことが大切です。もし、看護記録の改ざんを行った場合、刑法により「証拠隠滅」「文章偽造」の罪に問われ、処罰の対象となる可能性があります。 どれくらい保管しないといけないの? 訪問看護計画書は、訪問看護終了日から2年間の保存が必要だと法的に定められています。保管期間中は、いつでも復元できる状態にしておく必要があります。保管の方法として、訪問看護計画書は、電子媒体と紙媒体のどちらでも問題ありません。紙媒体で作成した訪問看護計画書を、電子媒体に保存しておくことも可能です。 どれくらい具体的に書くべき? 具体性の程度に関しては、明確に定められていません。しかし、どのような目標に対して、どのようなサービスを行ってきたかを第三者が見ても分かるよう、曖昧な表現を避け、具体的な情報を記載することが大切です。 例えば、衛生材料等が必要な処置の有無の項目では、処置の内容や衛生材料について具体的に記入し、次の1ヵ月に必要な量を明記しましょう。ただ、訪問看護計画書は、利用者やご家族の方も見る書類です。専門用語の多用や問題点、評価などの書き方には配慮が必要になります。 訪問看護計画書はいつ作成する? 訪問看護計画書に提出期限はありません。しかし、適切な指定訪問看護を提供するためには、定期的に提出する必要があります。 一般的には、毎月提出するところが多いです。例えば、月末に報告書・計画書を作成して、利用者やご家族の同意を得た後、翌初月に主治医へ提出します。そして、翌月の頭には、次の計画書を作成するといった流れになります。事業所によって、訪問看護計画書の提出時期は異なるため確認しておくとよいでしょう。また、利用者の状態に変化があった際や訪問看護指示書に変更があった場合は、修正するか別途作成が必要です。 訪問看護計画書を修正するタイミングとしては、次のような場合です。 保険が切り替わったとき区分の変更があったとき主治医からの指示が変更されたとき利用者の状態が変化したとき居宅サービス計画書が変更されたとき 提供する訪問看護サービスと訪問看護計画書の記載内容に相違がないよう作成しましょう。 初回訪問後の計画書作成は初回加算できる? 一定の条件に該当した場合、初回加算することができます。条件については、次のとおりです。 同月内に複数訪問看護事業所がそれぞれ新規に訪問看護計画書を作成した場合訪問看護を2ヵ月以上休止し、再開した場合要支援の状態で介護予防訪問看護を実施した後、要介護状態になり、訪問看護へ移行する場合(逆に訪問看護から介護予防訪問看護に移行する場合や継続の場合も同様)初回もしくは初回訪問看護を行った日の属する月に指定訪問看護を行った場合(暦月で1月のみ) 介護保険の訪問看護において、退院共同指導加算を算定する場合は、初回加算の算定はできません。また、医療保険による訪問看護の利用から介護保険の利用に変更した場合でも算定はできないので、注意が必要です。 訪問看護計画書は利用者の意向に沿って作成 訪問看護計画書は、利用者により質の高い訪問看護サービスを提供するために作成します。医療従事者の考えだけで計画書を作成するのではなく、あくまで利用者主体で作成することが大切です。利用者が満足できるケアの提供を念頭に置いた上で、本記事でご紹介した書き方や記入例、注意点を参考にして訪問看護計画書を記載していきましょう。 執筆:柿野 俊弥監修:川島 峻監修者プロフィール:医師、医学博士。横浜市立大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒業。虎の門病院、東大病院心臓呼吸器外科などで勤務ののち、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital留学。帰国後、新宿アイランド内科クリニック院長として幅広い世代に対して内科疾患、予防医療を中心に診療している。呼吸器専門医、胸部外科専門医会員、呼吸器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医。編集:株式会社パンタグラフ 【参考】○厚生労働省「訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4396&dataType=1&pageNo=1(2023/6/15閲覧)○公益社団法人 日本看護協会「看護記録に関する指針」https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/guideline/nursing_record.pdf(2023/6/15閲覧)○厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa0500&dataType=0&pageNo=1(2023/6/15閲覧)○厚生労働省「訪問看護計画書等の記載要領等について」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000613544.pdf(2023/6/15閲覧)○一般社団法人 大阪府訪問看護ステーション協会「訪問看護記録の管理方法について」https://daihoukan.or.jp/記録に関する事項/(2023/6/15閲覧)○社団法人 全国訪問看護事業協会「訪問看護に係る看護消耗品、看護用器具等に関する現状調査」https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/H11-2-1.pdf(2023/6/15閲覧)

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
特集
2023年8月9日
2023年8月9日

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、櫛野 秀原さん(ウィル訪問看護ステーション江東サテライト/東京都)の審査員特別賞エピソード「担当看護師からパパママ友へ」をもとにした漫画の後編をお届けします。 「担当看護師からパパママ友へ」前回までのあらすじ鎖肛のお子さん(優太くん)のケアに入っていた訪問看護師の櫛野さん。佐藤さん夫婦と対話を重ね、試行錯誤しながら訪問していました。互いを支え合う佐藤夫婦を尊敬していた櫛野さん。櫛野さん自身もパパになることがわかり、早速佐藤さんに報告しました。 >>前編はこちら受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 担当看護師からパパママ友へ<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:櫛野 秀原(くしの しゅうげん)さんウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都)今回の受賞は、佐藤優太くん(仮名です)のお母さまも喜んでくださいました。私のケースのように、看護師としてだけではなく、一人の人として接してもらえるのは、利用者さんとの距離が近い訪問看護師という職種の醍醐味だと思っています。私は、どんどん若い世代の看護師さんたちも在宅医療の世界に飛び込んで来ていただきたいと思っており、そう思えるような訪問看護の魅力が伝えられたら…と考えて応募いたしました。エピソードやこちらの漫画を読んでいただき、少しでもそういった魅力が伝わるとうれしいです。 [no_toc]

在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践
在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践
特集 会員限定
2023年8月8日
2023年8月8日

在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践【セミナーレポート後編】

2023年5月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ピラティスの基礎知識&実践【在宅ケアに生かせる】」を実施しました。講師を務めてくださったのは、理学療法士として訪問看護の現場でピラティスを実践した経験をもつ、ピラティスインストラクターのTatsuya.Sさんです。後編では、看護師のみなさんにぜひ実践いただきたいピラティスをご紹介します。 >>前編はこちら在宅ケアに生かせる/ピラティスの基礎知識&事例【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】Tatsuya.Sさんピラティスインストラクター(zen place pilates武蔵小杉スタジオ 所属)/理学療法士・健康運動指導士・介護支援専門員大学で理学療法を学び、理学療法士として6年間にわたって総合病院に勤務。回復期リハビリテーション、訪問リハビリテーション、デイケアを経験する。その中で予防分野に興味をもつようになり、ピラティスと出会う。訪問看護の現場で理学療法士としてピラティスを実践した後、より学びを深めるため、現在はピラティスインストラクターとして活動している。 ピラティスを実践してみよう ピラティスを指導する上では、自身が実践者であることがとても重要なポイントになります。自分が実際に感じたことでないと、他者に伝えることは難しいからです。 ここからは、看護師のみなさんにぜひ実践いただきたいピラティスをご紹介しますので、ぜひこの記事を読みながらトライしてみてください。マットやバスタオルが手元にある方は床で、ない方は座位の動きではイスを、臥位の動きは壁を使って行ってください。 立位→四つ這いのエクササイズ 【STEP 1】足を軽く開いて立つ足を坐骨の幅(こぶしひとつが入るくらい)に合わせて開いて立ち、背骨が左右の足の中心にくるように意識します。さらにイメージできる方は、「母指球・小指球・かかとの3点×左右の足=6点」の中心に背骨がくるようにしましょう。 【STEP 2】どこまで体重をかけられるのか確認(前後)つま先とかかとそれぞれに、交互に体重をかけていきます。「これ以上傾くと倒れそう」というギリギリまで体重を移動しながら、足裏に意識を集中して、自分がどこまで体重をかけられるのかを確認します。このとき、背骨がどのような状態になっているかも意識できるとベターです。 【STEP 3】どこまで体重をかけられるのか確認(左右)STEP 1の状態に戻ったら、次は左右に揺れます。STEP 2と同じように足裏の感覚に意識を向け、今どこに体重がかかっていて、どこまで重心を移動できるか確認してください。 【STEP 4】ゆっくりと四つ這いの姿勢になる続いて、四つ這いの姿勢に移行します。まずは頭をゆっくりと前に傾け、次に太ももで体を支えながら膝を曲げていきます。頭は5kgもの重量がありますから、その重みにつられて背骨が上から順番に丸まっていきます。 【STEP 5】尾骨から頭まで一直線にキープ体が左右どちらかに傾いていないか注意しながら手を床まで下ろしたら、四つ這いになります。肩の下に手、股関節の下に膝がある体勢です。背中は、頭のほうがやや高い状態で、尾骨から頭まで一直線にキープします。 【STEP 6】「骨盤後傾」の動きまずは尾骨のみを丸め(尾骨は小さいので、外からは動いていないように見えます)、続いて仙骨、腰の背骨を曲げます。「骨盤後傾」という動きです。 【STEP 7】さらに体を丸める手と足で床を押しながら、胸の背骨、首、頭までを順番に丸めていきます。 【STEP 8】つま先を立て、背骨を一直線に次に、足首を返して床につま先を立てましょう。そのまま膝を空中に浮かせて、背骨を一直線にします。 【STEP 9】坐骨を天井に向かって上げるそのまま坐骨を天井に向かって上げます。手と手の間に頭があり、尾骨から頭まで斜め一直線になっている状態が理想的です。 アップストレッチ 【STEP 10】「アップストレッチ」を行う右膝を少し曲げ、左のかかとは下げてストレッチします。続いて左膝を同じように曲げて、右のかかともストレッチしましょう。呼吸を止めないように注意してください。 座位(あぐら)のエクササイズ 【STEP 1】座って背筋を伸ばすマットがある方は、あぐらの状態で床に座ります。イスを使う方は浅く腰かけてください。いずれも、坐骨に座ることを意識しましょう。また、尾骨から頭まで「長い背骨」をつくるイメージで、背筋を伸ばします。 【STEP 2】手を前に伸ばし上下に動かす両手を「前ならえ」の状態にしたら、息を吐きながら上に上げます。続いて、息を吐きながら前ならえの形に戻します。背骨の形はキープします。 【STEP 3】手を伸ばし左右に開閉する次に、前ならえの状態から、息を吸いながら横に手を広げましょう。そして、息を吐きながら手を閉じます。 【STEP 4】頭・首・胸を反らした後、背骨全体を丸める今度は、息を吸いながら手をオープンしたら、尾骨は動かさずに、頭と首、胸を反らせます。そして、息を吐きながら手を戻し、背骨全体を丸めてください。 【STEP 5】側屈の動きSTEP 1の姿勢に戻したら、手を頭の後ろに添え、側屈の動きをしていきます。息を吸いながら背骨を右に曲げ、吐きながら戻す。同じ要領で左にも曲げましょう。 【STEP 6】背骨をひねる動き続いて、背骨をひねる動きです。頭を背骨の上でくるくる回すイメージで、息を吐きながら左右にひねり、吸いながら戻します。イメージできる方は、胸椎7・8番からひねることを意識しましょう。 仰向けのエクササイズ 【STEP 1】基本姿勢をとるマットがある方は床に仰向けに寝て、足を軽く曲げ、お尻をもち上げやすい位置までかかとを引き寄せます。壁を使う方は、背中をつけた状態で膝を曲げ、かかとは壁から一足分離してください。全員、足幅は坐骨幅に開きます。 【STEP 2】「ペルビックカール」を行う尾骨の先端から丸めるように動かし、骨盤を後傾します。続いて、仙骨の上と腰の背骨を浮かせます。そして、尾骨に近いほうの背骨から順番に、胸の背骨の一番上まで床から剥がしてもち上げます。このエクササイズを「ペルビックカール」といいます。 ペルビックカール 【STEP 3】ゆっくりともとの姿勢へ戻すSTEP 2(ペルビックカール)の状態で息を吸い、吐きながら胸から順に戻していきます。 【STEP 4】「シングルレッグリフト」を行う(1)続いて、シングルレッグリフトを行います。右足を膝関節の角度が直角(90度)になるようにもち上げましょう。股関節も90度にし、足首は伸ばします。ピラティスの用語では、このポーズを「テーブルトップポジション」といいます。 テーブルトップポジション 【STEP 5】「シングルレッグリフト」を行う(2)息を吸いながら右足のつま先を床にタッチします。ももの角度は45度です。そして息を吐きながらテーブルトップポジションに戻しましょう。骨盤や背骨をキープすることを意識しながら、左足も同じように行います。これで、シングルレッグリフトは終了です。なお、壁を使う方は足踏みをするような状態になります。 【STEP 6】「チェストリフト」を行うここから、チェストリフトを行います。STEP 1の体勢(かかとは楽な位置で構いません)に戻ったら、頭の後ろで手を組み、肘が視野にギリギリ入るようにします。その状態で息を吸って、吐く息で頭から順に、首、胸、腰、尾骨まですべての背骨を丸めていきます。そして、息を吸いながら戻しましょう。 チェストリフト 【STEP 7】「チェストリフト ウィズ ローテーション」を行う次に、頭から尾骨まで丸めた状態でホールドし、息を吐きながら胸の背骨を左右にひねります。戻すときは息を吸いましょう。両ももの間でひねるようなイメージで行います。これでチェストリフトとチェストリフト ウィズ ローテーションが完了です。 チェストリフト ウィズ ローテーション うつぶせのエクササイズ 【STEP 1】「バックエクステンション」を行う(1)床にうつぶせに寝転がり、手を顔の横にもってきます。壁を使う方は、壁から少し離れている状態でOKです。 【STEP 2】「バックエクステンション」を行う(2)息を吸いながら、頭、首、胸を反らせましょう。息を吐きながら戻します。おへそが少し床から浮いているイメージをもって行ってください。 バックエクステンション 深呼吸のエクササイズ 【STEP 1】「キャットストレッチ」を行う四つ這いの姿勢をとります。肩の下に手、股関節の下に膝がくるようにし、両手両足で背骨を支えます。その状態で、息を吐きながら背骨全体を丸め、吸いながら反らせましょう。少しテンポを上げて繰り返します。 【STEP 2】膝を1cm浮かせたり戻したりする次に、四つ這いの体勢で足首を返して床につま先を立て、息を吸います。そして、息を吐きながら膝を1cm浮かせてください。再び吸いながら戻し、繰り返します。 【STEP 3】お尻をもち上げ、ゆっくりと起き上がる四つ這いからお尻を天井に向けてもち上げたら、両足のかかとを床につき、手を足のほうへ歩かせて体を起こしていきます。背骨全体が丸まって、腕はだらんと脱力した状態です。そのまま、背骨を下から順番に積み重ねる意識で起き上がります。 【STEP 4】「ロールダウン」を行う息を吸ったら、吐きながら上から順番に背骨を丸めます。再び背骨が丸まって、手がだらんと垂れ下がる姿勢になります。そこで息を吸い、再び吐きながら体を起こしてください。 ロールダウン 【STEP 5】腕を大きく動かしながら深呼吸最後に、体を起こしたら手を前からもち上げて「バンザイ」の姿勢をとります。下ろすときは体の横からです。続いて、息を吸いながら横から手をもち上げ、吐きながら、今度は前に下ろしましょう。 ピラティスで最も大事なことは、難しいポーズをとることではなく、体の隅々に意識を向け、その反応を観察しながら行うことです。利用者さんの体の状態を見ながら、ぜひ訪問看護の現場で実践していただき、一人でも多くの方の心身機能がより良い状態になったらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ」
特集
2023年8月8日
2023年8月8日

受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、櫛野 秀原さん(ウィル訪問看護ステーション江東サテライト/東京都)の審査員特別賞エピソード「担当看護師からパパママ友へ」をもとにした漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 担当看護師からパパママ友へ<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「担当看護師からパパママ友へ<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:櫛野 秀原(くしの しゅうげん)さんウィル訪問看護ステーション江東サテライト(東京都) [no_toc]

自律神経の不調
自律神経の不調
特集
2023年8月8日
2023年8月8日

自律神経の不調の原因とセルフケアについて

自律神経は人体の恒常性(ホメオスタシス)を維持するために重要な役割を担っていますが、この自律神経に不調をきたすと、心身ともにさまざまな影響が出てきます。この記事では自律神経に不調をきたしうる要因を復習しつつ、セルフケアの方法や受診の目安についてもご紹介します。 自律神経に不調をきたす原因は? 自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経からなります。交感神経は血圧や心拍数、体温を上げ、体を興奮状態にするよう作用します。一方で副交感神経には血圧や心拍数、体温を下げ、体をリラックスさせようとする働きがあります。 自律神経は体の状態のバランスを維持するため、ひいては生命を維持するため、常に相互に作用しあっている神経です。自律神経のバランスが崩れると、「だるい、眠れない、疲れがとれない」「頭痛、動悸、めまい、のぼせ、冷え、下痢、便秘」「情緒不安定、イライラ、不安感、抑うつ」など、体にさまざまな不調をきたします。 自律神経のバランスが乱れる4つの原因を見ていきましょう。ご自身にあてはまるものがないかどうか、ぜひチェックしてみてくださいね。 原因1:女性ホルモンの分泌量の変化 月経前症候群(PMS)や更年期での自律神経の不調には、女性ホルモンが関係していると考えられます。PMSの場合は卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンの分泌量が変動することで、更年期の場合はエストロゲンの分泌量が減少していくことで、さまざまな体調不良を引き起こします。生理前や更年期にイライラしてしまい円滑な人間関係に支障が出たり、体調が悪く普段と同じような生活が送れなくなったりすることも。そういった状態にお悩み方は、一度婦人科で相談してみることをおすすめします。 原因2:生活環境の変化やストレス 仕事・人間関係のストレス、過労、生活環境の急激な変化などは、自律神経に不調をきたす原因となりえます。これらは自分の力だけでコントロールするのは難しい側面もありますが、可能な範囲でストレスの原因から距離を置くことが大切です。 原因3:生活習慣 睡眠不足や偏った食事、不規則な生活、喫煙、過度な運動、カフェインやアルコールの摂りすぎも、自律神経に不調をきたす原因となります。夜勤がある看護師の方の場合、夜勤による睡眠サイクルの乱れも不調の原因となりえます。生活習慣を見直す、あるいは勤務を調整することで、症状が改善することもあります。 原因4:基礎疾患の存在 持病として糖尿病や高血圧、甲状腺疾患、パーキンソン病などの神経疾患、うつ病がある方は、自律神経の不調が出やすいと考えられます。すでに診断を受けている方は、セルフケアにもチャレンジしつつ医師の指導のもとで治療をしっかり受けていただくことが大切です。 また、持病がない方も職場や自治体などでの健康診断や人間ドックを定期的に受けて自分の健康状態を把握するようにしましょう。「自律神経の不調と思っていたら、健診でほかに原因が見つかった」というケースも想定されます。疾患を放置すると自律神経の不調だけでなくさまざまな合併症を引き起こす恐れがありますので、日々の勤務に追われて忙しいとは思いますが、自分の健康にも気を配る時間を作りましょう。 自律神経のバランスを整えるセルフケア 原因を確認したところで、改めて自律神経のバランスを整えるためのセルフケアの方法を6つご紹介します。ご自身の生活習慣と見比べてみてください。 【1】規則正しい生活 バランスのとれた食生活、7~8時間程度の適切な睡眠時間の確保、適度な有酸素運動の習慣を身に着けるなど、規則正しい生活をこころがけましょう。 【2】禁煙 喫煙者の方は、禁煙を検討してみましょう。タバコに含まれるニコチンは必要以上に交感神経を刺激し、自律神経のバランスに悪影響を及ぼします。また、タバコはさまざまながんのリスクを上昇させるほか、脳、心臓、呼吸器にも悪影響を及ぼします。 【3】カフェイン・お酒の摂取量減 カフェイン入りの飲み物やお酒が好きな方は、摂取量を少し減らしてみることをおすすめします。カフェインやアルコールは交感神経を刺激して、休むべきときでも体が興奮状態になってしまいがちです。カフェイン摂取量の目安としては、ホットコーヒーであればマグカップで1日3杯程度です。お酒は純アルコール1日20g以下の摂取をこころがけましょう。純アルコール20gとは、ビール中瓶1本(500ml)、日本酒1合(180ml)、チューハイ1缶(350ml、度数7%)、ワインはグラス2杯(200ml)、ウイスキーはダブル1杯(60ml)に含まれる量です。 【4】リラックス 自分がリラックスできる方法を見つけ、普段の生活に取り入れる習慣をつけましょう。ストレッチやマッサージ、軽い運動、アロマテラピー、ぬるめのお風呂でゆっくり過ごす、不安やストレスに効くツボを押すなどがおすすめです。 【5】太陽の光を浴びる 眠れない、途中で覚醒してしまうなど、睡眠に関する不調がある方は、朝起きたら太陽の光を浴びる習慣をつけましょう。また、日中はなるべく昼寝をしないことも夜よく眠るためのコツです。 【6】定期的な健康診断 職場や人間ドックなどで、定期的に健康診断を受けましょう。自分の体の状態を知ることが、その不調の解決の一歩になるかもしれません。 こんな時は病院へ 日常生活に支障が出るほどの不調があるときや、症状が少しずつ悪化するときは、忙しくても病院を受診しましょう。 女性の方で生理前に自律神経の不調が出る方は、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)の可能性があります。また、40~50代の女性の方では更年期障害の可能性があります。いずれも婦人科で治療の方針について選択肢を提示できますので、お気軽にご相談ください。PMSの場合は漢方薬や低用量ピルをはじめとしたホルモン治療など、更年期に関連する症状の場合は漢方薬やホルモン補充療法を、個人の症状に応じて選択し治療に臨むことができます。 自律神経の不調との付き合い方を知ろう 今回は、自律神経の不調と原因、自分でできるケアや病院受診の目安についてご紹介しました。自律神経の不調は健康な方でも一時的に起こることがあり、自律神経の不調すべてが病院で治療しなければならないものではありません。しかし、自律神経の不調に関連する症状を知り、その原因についての考察やセルフケアをできるようになれば、今よりもう少し自分自身と上手に付き合うことができるようになるかもしれません。あなたが元気になることで、患者さんのケアもより一層充実させることができるでしょう。お悩み解決の糸口が見つかれば幸いです。 執筆:島袋 朋乃(しまぶくろ ともの)産婦人科医師。平成28年に旭川医科大学医学部を卒業後、函館五稜郭病院、釧路赤十字病院を経て、現在は産婦人科専門医として総合病院やクリニックで産科、婦人科、生殖医療に幅広く携わる。日本医師会認定産業医。日本産科婦人科学会認定専門医、日本産科婦人科内視鏡学会、日本生殖医学会所属。 編集:合同会社ヘルメース

排便エコーの活用法
排便エコーの活用法
特集
2023年8月8日
2023年8月8日

便秘・下痢のアセスメントも 訪問看護の排便エコー活用法【画像で解説】

訪問看護でも活用され始めているポータブルエコーは、ニーズの高い排泄ケア分野での取り組みが注目されています。なかでも排便エコーでは、便貯留の状態や便性状の確認ができるため、正確な排便ケアにつなげることが可能です。また、利用者さんの苦痛を最小限にし、尊厳ある排泄行動を目指すことができます。 今回は、東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田 克美氏と、同院臨床検査技師の佐野 由美氏に、排便エコーのポイントと実際に改善に至った事例についてお話を伺いました。 正確な便秘評価が可能に 日常生活を援助する上で、排便ケアは欠かすことができません。とくに訪問看護のなかでも便秘に起因する排便トラブルは少なくないでしょう。例えば、数日間排便が見られず自覚症状があったとしても、自然排便が難しい場合、薬剤の使用を検討したり、摘便や浣腸を行ったりする便秘対策が行われます。しかし、利用者さんにとっては不快であり、苦痛を伴う行為です。ときには、不必要に薬剤の増加を検討したり、無理な摘便や浣腸を行うことで直腸壁の損傷や裂孔を生じたりする恐れもあります。 ポータブルエコーを使用すると、今まで見えなかった腸内を直接観察でき、便の位置、便の性状を把握することができます。それにより、便秘のタイプが正しく評価されたり、直腸まで便が下りてきていないことを確認できたりすることで、不必要な便の排出を行うケースが減ります。 排便エコー観察のポイント ポータブルエコーで直腸内の便を観察するアプローチ法には、下腹部にプローブを当てる経腹アプローチ走査法と、経臀裂アプローチ走査法があります(図1)。 図1 「アプローチ法のちがい」(提供:佐野 由美氏) 経腹アプローチ走査法は膀胱を同時に観察することができ、男性の場合は前立腺も描出されるため、直腸と間違えないように注意しましょう。直腸を見る場合、プローブを恥骨結合上縁に当てます。ポイントはやや強めに押し込むように当てることです(図2)。 図2 「経腹アプローチ走査法」(提供:浦田 克美氏) 一方、経臀裂アプローチ⾛査法は、左側臥位になり臀部を出した姿勢で行います。肛門部にプローブを当てて見ることで、膀胱や周囲の臓器に影響されることなく、腸内を描出することが可能です。プローブを当てるとまず肛門があり、直腸下部が見え、直腸前壁と直腸後壁があります(図3)。ポータブルエコーを学び始めたばかりでも、直腸内の便の有無が観察しやすい走査法です。 図3 「直腸の見え方」(提供:佐野 由美氏) 便の見え方についてですが、硬便は直腸下部に白くゴツゴツした岩のような形に見えます(図4)。有形便は、少しふわふわと綿飴が積もっているような形です(図5)。泥状便や水様便では、うっすらとムースみたいに見えます(図6)。泥状便の場合、便が指に引っ掛からないので、「摘便しない」と判断することが可能です。一方、びっしり詰まった硬便だと、浣腸のチューブ先端が便に突き刺さり、浣腸液が浸透しにくかったりします。これらの画像の特徴を先に見ることで、便性状の評価ができ、その後のケアにつなげていくことができるでしょう。 図4 「硬便の見え方」(提供:浦田 克美氏) 図5 「有形便の見え方」(提供:浦田 克美氏) 図6 「泥状便の見え方」(提供:浦田 克美氏) 便秘だけでなく下痢の評価も 排便エコーは便秘の評価だけではなく、下痢の時にも活用できます。例えば、高齢者によく見られる溢流性便失禁は便秘と下痢が同時に起こっている状態です。直腸内に便の塊がびっしりと詰まり、便が排出できない場合があります。その状況下で下剤を服用すると、下剤の効いた緩い便が便塊の隙間から漏れ出てしまい、オムツを開ける度に便が付着しているという事があります。このような場合でもポータブルエコーを使えば、直腸内の便塊を確認することが可能になるので、不必要な肛門診(摘便)を避ける事ができ、適切なケア、薬剤選択につなげる事ができます。 また、排泄ケア後の評価として、残便確認を行います。残便がある場合は、食後の胃結腸反射がある時にトイレ誘導を促したり、便対応のオムツの当て方をしたり、継続的な看護につなげていくことが可能です。 排便のコントロールとトイレ排便を実現 当院は透析患者さんが多く、便秘傾向で悩まれている方も少なくありません。その原因として、カリウム摂取制限による食物繊維の不足や水分制限、便秘しやすい薬剤の使用など、さまざまあります。 以前、浣腸や摘便に強い拒否があり、下剤使用に依存的な患者さんがいました。透析中の便意や便失禁を心配されているため、オムツを使用。安心して透析を受けてもらうためにも、ポータブルエコーで排便パターンを評価していきながら、下剤内服のタイミングを検討しました。試行錯誤を重ねた結果、透析終了後に内服、非透析日に計画的に排便を促すという答えにたどり着きました。 さらに、管理栄養士の介入によって腸内環境を整えると言われているシンバイオティクスを摂取してみたところ、相乗効果で下痢を発生させてしまい、下剤内服を止めて、シンバイオティクスのみで便性状をコントロールすることに成功。また、当初の目標にはありませんでしたが、作業療法士の介入によってオムツ使用からトイレでの排泄を実現することができました。 ポータブルエコーで便秘の評価をすることができたおかげで、チームによる介入の力を発揮し、望外の成果を得ることができました。従来は3日~2週間の排便日誌を分析して排便パターンを予測し、オムツ交換時に便性状を観察してケアプランを立てていきます。しかし、それでは、患者さんが苦痛を訴えた時にタイムリーにケアを提供することはできません。多職種とともに便の状態をエコーで共有できると、全体としての作業効率の向上が期待できるでしょう。 取材協力・監修:浦田 克美氏(皮膚・排泄ケア特定認定看護師)佐野 由美氏(臨床検査技師)編集:メディバンクス株式会社

ピラティスの基礎知識
ピラティスの基礎知識
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2023年8月1日
2023年8月1日

在宅ケアに生かせる/ピラティスの基礎知識&事例【セミナーレポート前編】

2023年5月19日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ピラティスの基礎知識&実践【在宅ケアに生かせる】」を実施しました。講師を務めてくださったのは、理学療法士として訪問看護の現場でピラティスの実践経験をもつ、ピラティスインストラクターのTatsuya.Sさんです。 セミナーでは、ピラティスの定義や目的、訪問看護における活用事例の紹介のほか、受講者のみなさんでピラティスを実践する時間も設けました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、ピラティスの基礎知識と、実際にピラティスを導入した訪問看護の症例をご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】Tatsuya.Sさんピラティスインストラクター(zen place pilates武蔵小杉スタジオ 所属)/理学療法士・健康運動指導士・介護支援専門員大学で理学療法を学び、理学療法士として6年間にわたって総合病院に勤務。回復期リハビリテーション、訪問リハビリテーション、デイケアを経験する。その中で予防分野に興味をもつようになり、ピラティスと出会う。訪問看護の現場で理学療法士としてピラティスを実践した後、より学びを深めるため、現在はピラティスインストラクターとして活動している。 ピラティスとは ピラティスとは、自分の身体に意識を向けながら、繊細に、正確に動かすことで、心身の機能を調整していく方法論のことです。 筋肉や関節の柔軟性を高め、また体の軸を伸ばすことで、バランス力やコントロール力に優れた「安定した強い体」を目指します。また同時に、体の内部に意識を向けて集中することで「瞑想」をしている状態になり、心を落ち着け、頭をクリアにする効果も期待できるでしょう。 心と身体へのアプローチ 筋肉は「表層筋=アウターマッスル(歩行やものを運ぶときなどに使う筋肉)」と「深層筋=インナーマッスル(骨と骨をつなぎ、骨とアウターマッスルを同時に使う際に補助する筋肉)」とに分けられますが、ピラティスでは体の中心にある背骨からアプローチし、後者のインナーマッスルを細かく動かしていきます。 すると、体の軸だけで姿勢を維持できるようになり、ほかの部分の力を緩めることが可能に。具体的には、背骨がすっと上に伸び、肩が落ちて首が長くなり、胸が広がっている姿勢になります。また、心も緊張から解き放たれ、エネルギーに満ちあふれた状態になります。 ピラティスの歴史 ピラティスは、ドイツ人のジョセフ・ヒューベルト・ピラティス氏によって提唱されました。ピラティス氏は、喘息やリウマチ、くる病を患っており、自身の病気を治すために水泳をはじめとしたさまざまなスポーツや治療法を勉強していました。その中で生まれたのが、ピラティスというボディワークメソッドです。古くは、戦争負傷兵のリハビリテーションとしても使われていました。 また、ピラティスというと多くの方がマットを使うことをイメージしますが、実は始まりはマットではなくマシンを使った動きでした。ピラティス氏が病院にあったベッドを改造してバネをつくり、それを活用して始められたといわれています。 ピラティスの目的 ピラティスを行う目的は、「Well Being(ウェルビーイング)な状態」になることです。これは、私が所属するZEN PLACEの企業理念でもあります。 私たちが考えるウェルビーイングとは、簡単にいうと「その人が自身の存在のすべてを認め、前に進んでいると感じている状態」のことです。自分の嫌なところにも目を向けて受け入れる。誰かと比較せずに自分のことをきちんと把握し、好きになる。ピラティスを実践することで、そんなウェルビーイングな状態を目指します。 医療現場におけるピラティスの位置づけ 日本では、ピラティスは「ダイエットやボディメイクなどを目的としたエクササイズの一種」と認識されており、現段階では医療への活用はあまり進んでいません。インストラクターの資格も、国家資格ではなく民間資格となっています。 しかし、海外ではピラティスと医療の融合が進んでおり、理学療法士の多くがピラティスの資格を取得。スタンダードな選択肢として医療現場で実践しています。 訪問看護現場でのピラティスの実践 続いて、私が理学療法士として訪問看護の現場でどのようにピラティスを実践していたかを、実際の症例を挙げてご紹介します。 利用者さんの情報 対象となった利用者さんは、100歳の女性です。大腿骨頸部骨折にて手術を受けてからは、自分ひとりで起き上がれなくなり、座っているときも見守りが必要な状態でした。介助があれば立ち上がれましたが、トイレに行くことが難しく、オムツを着用。また食事もベッド上でとっていたため、基本的に移動することはありませんでした。 実践した動作1(手の上げ下げ) この利用者さんの場合は立ち上がって動くことが難しいので、以下のような座位での動作を実践しました。 【STEP 1】イスに座る坐骨に体重をかけることを意識しながらイスに座ります。 【STEP 2】背筋を伸ばす頭まで貫く「長い背骨」をつくるイメージで、尾骨から頭までまっすぐな線になるように背筋を伸ばします。このとき、骨盤と肋骨の隙間を広げることを意識します。 【STEP 3】両足を開く坐骨と同じくらいの幅になるように両足を開き、足の裏はしっかりと床につけます。 【STEP 4】息を吸いながら手を上げるここまででつくった姿勢を維持した状態で、息を吸いながら両手を上にゆっくりと上げましょう。骨盤と肋骨の距離がだんだんと離れていくイメージです。くれぐれも無理はしないように気をつけながら、横から見たときに手ができるだけまっすぐになるように上げます。 【STEP 5】息を吐きながらゆっくり手を下ろす骨盤と肋骨の距離をキープしたまま、息を吐きながら手を下ろします。手を下ろす動作は早くなりがちですが、ゆっくりと下ろしましょう。 【STEP 6】繰り返す手の上げ下げを繰り返します。※手を動かす中で背中が丸まってきたら、声をかけるようにします。 実践した動作2(手の開閉) 【STEP 1】息を吸いながら、胸の高さで手を左右に開く実践した動作1のSTEP 1~3までを行ったら、手を胸の高さまで上げ、息を吸いながら開きます。※このとき背骨が反ってしまう方が多いので、背骨の形をキープしたままで開ける限界の位置を伝えてください。 【STEP 2】息を吐きながら閉じる息を吐きながら手を閉じます。 【STEP 3】繰り返す手の開閉を繰り返します。 ピラティスを実践した結果 この利用者さんの場合は、リハビリにピラティスを取り入れることで、最終的にピックアップ型の歩行器を使って数メートル移動できるようになりました。これにより、食事をベッドではなくテーブルに移動してとる機会も生まれています。 >>後編はこちら在宅ケアに生かせる/ピラティスの実践【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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