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訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月9日
2023年5月9日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、「DESIGN-R2020」(※1)に基づく評価の方法や、注意すべき褥瘡の特徴とケア方法などをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。  「DESIGN-R2020」の評価方法 「DESIGN-R2020」は、病院でも訪問看護の現場でも使用されている、褥瘡状態の評価スケールです。 ▼DESIGN-R2020(一般社団法人日本褥瘡学会)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020.pdf 最初は、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症と感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の頭文字をとった「DESIGN」という評価スケールからスタートしました。その後、評価をつけるという意味のレーティング(Rating)の頭文字をとって「DESIGN-R」に進化し、2020年には現在の「DESIGN-R2020」になっています。 「DESIGN-R2020」は、褥瘡の状態を0〜66点で採点する方式で、合計点数が大きいほど重症度が高くなります。また、各項目の文字での評価では、大文字は重症、小文字は軽症という決まりです。 ちなみに、褥瘡を黒色期・黄色期・赤色期・白色期という創面の色で分類(色調分類)する考え方もありますが、これを「DESIGN-R2020」に照らし合わせると上記のようになります。 合計点数を下げていく、そして小文字にしていくことが、「DESIGN-R2020」における基本の考え方です。具体的には壊死組織を除去し、肉芽を増殖させて、創を小さくするという流れで創部の治癒を促していきます。 「DESIGN-R2020」の変更点 「DESIGN-R2020」では、「深さ」と「炎症・感染」の項目がそれぞれ以下のように変更されました。 深部損傷褥瘡(DTI)の追加 深さの項目に、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」が追加されました。表記は「DDTI」とし、ハイフンをつけてE(滲出液)以降の評点を続けます。(表記例)DDTI-E6s6I3G5N3P6:29点 こちらは、「DESIGN-R2020」の評価(d1~DU)と「NPIAP分類(深達度分類)」をまとめた資料です。「DESIGN-R2020」における「DDTI」は、NPIAP分類では「DTI(SDTI)疑い」にあたります。 では、DTI疑いとは具体的にどのような状態なのでしょうか。DTIは、皮下組織よりも深いところの組織の損傷が疑われる急性期褥瘡のことを指します。深さの項目では、真皮までの損傷なのか、皮下組織より深い損傷なのかを評価しますが、DTIは見ただけでは損傷があるかどうかの判断が困難です。短期間で悪化する褥瘡として注意しておきましょう。 上記のスライドはDTIの例を2つ挙げたもので、左のケースは5日間で、右のケースは10日間で状態が悪化しています。 臨界的定着(3C)の追加 炎症・感染の項目には、大文字のIのところに「臨界的定着疑い(3C)」という基準が追加されました。 3C(臨界的定着疑い)の褥瘡の特徴としては、滲出液が多く、創面がぬめっています。過剰な滲出液の影響により創周囲は浸軟し、肉芽はあるけれど、ぶよぶよとしていて非常に脆弱です。数週間や数ヵ月、何年経っても改善しないという例もあります。 臨界的定着疑いのある褥瘡の感染リスク 臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)の疑いがある褥瘡は、炎症兆候が見られなくても創面には細菌が付着しており、実は感染を起こす一歩手前の危険な状態。一刻も早く改善に向けた対応が必要です。 臨界的定着疑いのある創面は、滲出液が多くなります。過剰な滲出液により創周囲が浸軟すると、褥瘡はさらに治癒が遅延します。また、慢性的な圧迫や摩擦、ずれが加わると、周囲の皮膚が肥厚していきます。そして、創部の辺縁部が内側に巻き込んでしまい、いよいよ治りにくい状態になってしまいます。 創面に存在するバイオフィルム バイオフィルムとは微生物が固着して形成されるコミュニティで、白血球や消毒に対するバリアをつくって、傷を治りにくくします。健常者は細菌に対する抵抗力がありますが、全身状態が低下していたり、低栄養であったりして抵抗力が落ちている利用者さんの場合は、臨界的定着になりやすく、難治性創傷につながるのです。難治性創傷の6〜9割には、このバイオフィルムが存在するといわれています。 感染を起こしている褥瘡のコントロール 感染を起こしている褥瘡は、適切な治療が行われないと、敗血症を引き起こし、死に至る可能性があります。そのため、できるだけ早く感染を抑えることが重要です。 上のスライドの左の傷をご覧ください。このように感染を起こし、また壊死組織で覆われている傷では、皮下組織が傷んで創周囲にポケットを形成している可能性もあります。以下は局所ケアのポイントです。 ・抗菌作用のある薬を使って局所ケアを行う。・創面の密閉をせず、マイクロクライメット(※2)の管理を行う。・圧迫、摩擦、ずれを回避できる超低圧保持のエアマットを使用し、頭側挙上を行っている場合はその時間をきちんと管理をして、体圧分散・除圧を徹底する。・創部は、微温湯(水道水や生理食塩水)で十分な圧力をかけて洗浄する。・創周囲は、皮膚洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚に付着した細菌を減少させる。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。※2 マイクロクライメット:皮膚局所の温度・湿度 >>後編に続く写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

家族看護総論【前編】
家族看護総論【前編】
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。総論前編となる今回は、このモデルの提唱者である渡辺先生に、そもそも家族看護とは何か、ご家族をケアする上で大切なことを教えていただきます。 「家族看護」を整理しよう 訪問看護師である皆さんは、きっとこれまでにどこかで一度は「家族看護」という言葉を聞いたことがあるでしょう。ただ、「家族看護」と一口にいっても、人によってその捉え方はさまざまです。最初に、家族看護とはいったい何なのかを整理したいと思います。 家族という集団を対象に看護する 「家族看護」の「家族」とは誰のことを指すのでしょうか? 多くの方は、「介護者」を思い浮かべるかもしれません。あるいは、療養者と最も近しい関係にある妻や夫、母親や父親などを挙げる方もいらっしゃるでしょう。 これらはいずれも誰か特定の個人を指していますね。実は、家族看護における「家族」とは、特定の個人を指すのではなく「家族」というひとつの集団を指しています。家族という集団、すなわちひとつのチームを対象とした看護が、家族看護なのです。 例えば、80代の片麻痺のAさんが、夫と2人で暮らす自宅に退院してきたとしましょう。近くに暮らす長女がしばらく通って介護や家事を手伝うことになりました。Aさんと夫、長女のこの3人のチームが、最高のパフォーマンスを発揮してさまざまな困難を乗り切っていけるよう支援することが「家族看護」です。 目的は家族のパフォーマンスを上げること 「チームとしてのパフォーマンスを最大のものにする」これが家族看護の目的です。学問的には、「家族のセルフケア機能を高める」といいます。 介護や病、看取りといった課題をもつチーム(家族)が最大のパフォーマンスを発揮するためには、一人ひとりの健康と日々の生活の質がある程度良好に保持されていることが大切です。そして、メンバー間の関係性も鍵になるでしょう。 例えば、Aさんの自宅での療養を支える訪問看護師は、Aさんの健康状態や生活だけでなく、夫や長女の健康状態や日々の生活にも目配り・気配りを欠かさず、介護役割の獲得に向けた支援を行います。さらに、3人の関係性がより良好であるように、少なくとも介護をめぐる緊張や対立が起こらないようアプローチすることでひとつの家族を看護します。 多様なアプローチを組み合わせ看護する それでは、あらためて家族というチームのパフォーマンスを上げるために必要なアプローチを整理してみましょう。 一人ひとりをターゲットにしたアプローチとしては、まずは挨拶をするところから始まります。挨拶を通して、徐々に顔見知りになり、関係を築きます。次に、労をねぎらい、話に耳を傾け、健康を気遣います。そして、上手な気分転換をすすめ、介護やお世話をしながらもその人らしい生活を送れるように支援します。さらに、病気や障害の理解を促し、この先起こり得ることとそれへの対処の方法を示します。 また、ご本人と家族メンバー間の関係性に働きかけることが必要なケースもあります。その場合、中心になるのは、コミュニケーションを円滑にする支援です。ご本人の思いをご家族に投げかけたり、また逆にご家族の思いをご本人に投げかけたり、あるいは話し合いの場を設けたりすることもあるでしょう。今後の療養や治療の方針に対する合意形成の支援などが含まれます。 加えて、ご家族が、周囲の社会に用意されているサポート資源を活用できるように支援することも家族看護の重要なアプローチです。 このような多様なアプローチを組み合わせながら、ひとつのチームの力を高めていくのです。 家族看護に求められる3つのポイント 最後に、家族看護に求められる3つの大切なポイントをご紹介します。 (1)中立性を保持する 例えば、ご本人の支援に一生懸命になるがあまり、協力的とはいえないご家族に苦手意識を持つことはありませんか? 反対に、ご家族の日々の苦労に深く共感し、家族に無理難題をつきつけるご本人に複雑な思いを抱くことはありませんか?  ひとつのチームを丸ごと支援するためには、誰かだけに深く「肩入れ」するというのではなく、等しくだれにも同じように「肩入れ」することが必要になります。つまり、中立性の保持が重要です。 (2)メタ認知を働かせる もし、家族の中の誰かと関わるのが苦手だと感じたら、ご自分の家族観を振り返ってみるのも役に立つかもしれません。 例えば、「妻というものは夫が病気になったら支えるものだ」という価値観が強いと、そうではない妻に寄り添うことが難しいと感じるでしょう。また、自分の母親が長年介護を続け、その苦労を間近に見てきたとしましょう。すると、訪問先で介護を続ける妻と自分の母親が重なって、妻に深く共感し、中立ではいられなくなるかもしれません。 こうしたことに気づくのは、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」がいればこそです。「もうひとりの自分」が、自分の認知や他者の認知について、考えたり理解したりすることを「メタ認知」といいます。中立性を保持するためには、このメタ認知がひとつの鍵になります。 (3)鳥の目と虫の目を使い分ける 家族というひとつのチームを看護するためには、個々を理解するだけではなく、チーム全体が果たしてうまく機能しているのかを把握することが必要です。「全体を把握する」ためには、まるで悠々と空を飛ぶ鳥のように、一段高いところからひとつの家族を見下ろし全体を把握する、つまり俯瞰するという頭の働きが必要になります。その一方で、療養者のケアをする場合には、物事を微細に診て変化に気づく虫の目が必要です。 療養者を含め、ひとつの家族を看護するためには、この虫の目と鳥の目の両者を適切に使い分けることも大切なポイントといえるでしょう。 >>後編はこちら家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】 執筆:渡辺 裕子NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長「渡辺式」家族看護研究会 副代表 ●プロフィール1982年千葉大学大学院看護研究科修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。長年、患者・家族、職場の人間関係に悩む看護職のサポートを行ってきた。 「NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「ケアが循環する社会の実現」を理念に掲げ、一般市民を対象とした「かぞくのがっこう」のほか、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に関する各種セミナーを実施している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。編集:株式会社照林社 【参考】〇渡辺裕子著.「家族について学ぶ」,渡辺裕子監修.『家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.42-157.〇鈴木和子著.「家族看護学とは何か」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.3-25.〇鈴木和子著.「看護学における家族の理解」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.27-60.

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

利用者さんが一人暮らしで認知症の場合…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

よかった、今日はセーフ! 認知症の利用者さんは、訪問したときに不在のことがあるにゃ…。無事に会えるとホッとするにゃ 訪問時に利用者さんが不在だったり、ご自宅に入れてもらえなかったりすると、焦ってしまいますよね。特に認知症の利用者さんが一人暮らしをしている場合に、よく聞かれるケースです。安否確認も必要なので、玄関前でしばらく待ったり、探しに出かけたり、ケアマネジャーさんに連絡をとったりすることも。訪問看護師さんからは、「お買い物に出かけているのかなかなかお戻りにならず、結局訪問がキャンセルになったことがある」「お出かけしようとしているタイミングで偶然出会えて、ホッとしたことがある」といった声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

運営指導 制度解説
運営指導 制度解説
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

運営指導(実地指導)制度解説 名称変更で何が変わったの?

2022年度から「実地指導」は「運営指導」に名称が変更されました。この変更によって何が変わったのでしょうか。この記事では、訪問看護事業に関わる方のために変更ポイントだけでなく、行政機関による運営指導の意味や内容、向き合い方についてお伝えします。 「運営指導」とは事業所を正しい方向へ導く制度 「運営指導」とは介護保険法に基づき、行政機関が事業所に対し、適正な事業運営が実施されているか指導するものです。もともと「実地指導」と呼ばれていましたが、2022年度から、指導に際しオンライン会議ツールの活用が明記され、指導場所が必ずしも「実地」ではなくなることから名称が「運営指導」に改められました。 なお、ここでいう行政機関とは、利用者が介護サービスを受けた場合にその費用を支払う「保険者」でもあり、介護サービスを行う事業所に対し、指定または許可した事業所を所管する「指定等権者」としての立場にあります。 いうまでもなく介護保険事業は、保険料と公費で賄われる公益性の高いサービスです。介護保険法(以下「法」とします)の第1条には、その目的として介護や看護、医療が必要な人の「尊厳の保持」、および「自立した日常生活の支援」が謳われています。したがって、サービスの担い手である事業所は、利用者さんに対し、この目的を果たすよう適切にサービスを行わなくてはなりません。 そして、行政機関は、各事業所がこうした責任を果たし、適正にサービスを行うことができるよう指導・支援する必要があります。そのため、行政は定期的に指導に入り、事業所を正しい方向に導いているのです。 「運営指導」と「監査」はまったく違う 行政機関が行う指導には、運営指導とは別に「監査」と呼ばれるものがあります。言葉がよく似ているので混同されるケースがあるようですが、まったく違います。ここで、介護保険制度における指導監督の全体像について確認しておきましょう。 厚生労働省による「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」を見ると、指導監督について次のように説明されています。「介護保険制度の健全かつ適正な運営及び法令に基づく適正な事業実施の確保のため、法第23条又は法第24条に規定する権限(中略)に基づき行う介護保険施設等に対する『指導』、不正等の疑いが認められる場合に行う法第76条等の権限(中略)に基づき行う『監査』により行われます」1)。ここで言う「指導」とは運営指導を含みます。 指導と監査の違いについて具体的に説明しましょう。 (1)指導 指導には、集団指導と運営指導があります。 ■集団指導集団指導は事業所を1ヵ所に集めて開催されます。現場において対応が必要な法改正や留意点等、事業運営について必須の情報を伝達・共有することで、介護保険サービスの質の確保と保険給付の適正化を目的としています。 ■運営指導一方、運営指導は事業所ごとに行われます。先述のとおり、介護サービスの質、運営体制、介護報酬請求の実施状況などの確認のために実施するもので、契約書や計画書・記録等の文書提示の求めや質問によって行われます。 (2)監査 監査とは、事業所に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合、またそのおそれがある場合に行われる「強制調査」です。行政は違反や不正等の事実関係を明確にした上で、それらが認められる場合、勧告または指定取消等の行政処分を行います。 * 指導は、あくまで事業所側の任意の協力によるものですが、監査には強制力がある点が最大の違いです。立入検査の権限も監査に含まれます。運営指導で違反や不正等の疑いがあった場合、運営指導では立入検査ができないため、途中で監査に切り替えて事実確認が行われるケースもあります。 「運営指導」に移行し「効率化」が強化 「運営指導」に変更するに伴い強化されたこと、それは「効率化」です2)。ポイントは次の3つ。冒頭で述べた「オンラインの活用」、そして「ローカルルールの是正」と「実施頻度の明記と推進」です。 (1)オンラインの活用 運営指導は基本的に実地で行うことが想定されていますが、最低基準等運営体制指導や報酬請求指導については、実地でなくとも確認できる内容であるため、オンライン等の活用が可能であることが明記されました。 (2)ローカルルールの是正 効果的、効率的な指導を推進するため、自治体ごとの異なる指導ルール(いわゆるローカルルール)について是正が図られました。具体的には次のようなことが明記されました。 ・標準的な確認項目や確認文書(※)以外の項目は原則として確認しないこと※厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にサービス種別ごとの確認項目と確認文書がまとめられています。例えば、訪問看護における「サービス提供記録」であれば「訪問看護計画にある目標を達成するための具体的なサービスの内容が記載されているか」、「日々のサービスについて、具体的な内容や利用者の心身の状況等を記録しているか」が確認項目として挙げられています。・1回の指導にかかる時間をできる限り短縮すること・提出を求める書類の写しは1部とすること・自治体がすでに保有している文書は再提出を求めないこと (3)実施頻度の明記と推進 運営指導の実施頻度は、原則、指定または許可の有効期間(6年)内に少なくとも1回以上と定められました。 運営指導は業務改善のチャンス 運営指導と聞くと、どうしても身構えてしまい、指導通知が来ると「運が悪い」と感じたり、慌ててしまったりすることがあるかもしれません。ですが、これまで解説してきたとおり、運営指導は正しく質の高いサービスをしっかり利用者さんに提供できているかどうかを外部の目で点検してくれる機会です。「業務の確認や改善のチャンス」とプラスに受け止められるとよいでしょう。 もし、運営指導で法令違反があった場合、軽微なものであれば口頭、あるいは後日書面で改善点が指摘されます。また、不正請求ではなく、単なる請求上の誤りがあった場合は、過誤調整(報酬返還)を要することもあります。いずれにせよ、これらに速やかに対応し改善すれば、運営指導の段階ではそこで終了です。指定取消といった厳しい処分に進むことはまずないため、安心してください。 「運営指導対策」という言葉を見聞きしますが、手を抜いたり、即席で対策が完了したりといった楽ができるような方法は存在しません。真に有効であり、唯一の対策は「普段からきちんとやる」ことにほかならないのです。それは、利用者さんとの契約や同意の書面を忘れずに取り交わす、利用者さんごとに計画をしっかり協議し立案する、計画に沿ったケアを提供するといった当たり前のことであり、これらを丁寧に記録化していく作業が大切です。日々の業務をきちんとこなすことが運営指導の準備につながります。 また、運営指導にリニューアルしたことで効率化の観点からチェックするポイントが絞られ明確化されました。各自治体から配布されている自己点検票が役に立ちます。問われるポイントが絞られたことから、事業所側としてはより対応しやすくなったといえるでしょう。 執筆:外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 編集:株式会社照林社 【参考・引用】1)厚生労働省.「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000949269.pdf2023/3/20閲覧 2)厚生労働省.「介護保険施設等指導指針」(2022年3月31日)

教育×訪問看護
教育×訪問看護
特集 会員限定
2023年5月2日
2023年5月2日

オンライン実習事例から学ぶ 教育×訪問看護の連携【セミナーレポート】

2023年1月28日に開催した「【トークセッション】教育×訪問看護の連携」。フリーアナウンサーの中村さん進行のもと、山形大学の松田教授と訪問看護師の川俣さんによるトークセッションを実施しました。山形大学の看護学科で行った「訪問看護ステーションと連携したオンライン実習」の事例を通し、教育と訪問看護が今後どう関わっていくべきかについて考えます。 ※約50分間のトークセッションから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】松田 友美 さん山形大学大学院医学系研究科看護学専攻 在宅看護学分野 教授川俣 沙織 さん山形県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長訪問看護ステーションにこ 管理者【ファシリテーター】中村 優子 さんフリーアナウンサー。著名人のYouTubeチャンネル運営、著者インタビューなどを多数手がける※本文中敬称略 オンライン実習で知識と考える力をつける 中村:川俣さんが管理者を務める「訪問看護ステーションにこ」が山形大学看護学科の在宅看護オンライン実習(以下「オンライン実習」) に協力されたきっかけは、松田先生からのお声がけだったと伺っています。依頼された経緯について教えてください。 松田:コロナ禍で在宅看護実習をすべて中止せざるをえなくなり、川俣さんに藁にもすがる思いで、初めは実習の導入講義をお願いしたんです。 川俣:協力させていただくからには、訪問看護の楽しさや臨場感が伝わる内容にしたくて。私がただ講義をしても面白くないので、ステーション内で相談し、スタッフの協力のもと、現場と学生さんをオンラインで繋いで「同行しているような実習」を行うことになりました。 松田:オンラインではどうしても実際に体験することは難しいですが、訪問看護の重要な視点を事前学習した上で実習を行うことによって、知識とそれを使う思考回路が鍛えられました。技術は社会人になってからでも磨けるけれど、知識や考える力を養うのは学生のうちでないとなかなかできないので、とても良い内容だったと思っています。 実習で訪問看護の力、あり方が伝わった 中村:実際にオンライン実習を受講した学生のみなさんの反応はいかがでしたか? 松田:学生たちの反応は、予想以上に良いものでした。まず、実習はできないだろうと諦めていたのに、現場を見られたことに対する喜びですね。そして何より、看護の力を実感できたようです。教科書には「看護はその人の力を引き出す」と書いてあるけれども、いまいちピンとこない。でも、実際に看護師さんが利用者さんに接する様子を見て、生の声を聞いて、どういうことか理解できた、と。 川俣:複数の学生さんが同じ利用者さんの看護現場を共通体験できるメリットも大きかったと思います。 私たちは日ごろ、ひとりの利用者さんに複数のスタッフが関わるようにしています。利用者さんは「多面体」なので、複数人で関わったほうが気づきを得られると考えているからです。そして、その結果をもとに、どういう方針で看護をしていくかチームで考えます。 今回のオンライン実習では、学生さんたちに、その過程と似たような体験をしてもらえました。お互いに意見を交換する中で、「ほかの人はそう考えるんだな」という、他者の視点からの学びがあったはず。また、「多様な意見があっていい」ということも理解してもらえたと思います。 これは通常の実習ではなかなか得られない学びだと思うので、今後の看護師人生にいい影響を与える経験になったのではないでしょうか。 松田:そうですね。学生からも、「ほかの人から自分では思いつかない意見が聞けて勉強になった」「信頼関係の築き方の多様性を学べた」といった声が寄せられました。 新卒で訪問看護に携わる道もつくりたい 中村:オンライン実習の取り組みを経ての今後の展望について教えてください。 川俣:オンライン実習は臨地実習の代替ではなく、演習と臨地実習の間に挟むことで、学びを効率的に補完できる可能性があると評価しています。コロナ禍に限らず、よりよい形を模索しながら継続できればと思っています。 松田:卒業生に対するアンケートで「どんな教育が今役に立っていると感じるか」という質問をしたところ、「在宅看護のオンライン実習」と答えてくれる学生が多くいました。川俣さんのおっしゃるとおり、今後も積極的に導入していくべきではないかと考えます。 次のステップとしては、実際に在宅看護に関わりたい、訪問看護ステーションに就職したいという人材を増やしていくことではないでしょうか。 川俣:現段階では、新卒看護師を訪問看護ステーションで採用できる事業所はまだまだ少ないと感じています。病院で経験を積んでから訪問看護に移行するというのが多いと思いますが、今回の経験で考えが変わりました。利用者さんの人生に寄り添うという観点では、新卒であっても十分に活躍できると思います。もちろん、技術的な部分での医療機関との連携をはじめとしたフォロー体制は必要で今後の課題でもあります。地域の医療機関等のみなさんと協力体制を構築して、新卒から訪問看護に携わるというキャリアの実現に向けて、頑張っていきたいです。 松田:訪問看護に従事するにあたり、しっかりとした知識や技術、マナー、判断力などが必要なことは確かです。でも、コミュニケーションってそんなに構えなくても良い、難しいことではない、訪問看護はやりがいがあって楽しいということを、私たちも講義や実習で伝えていきたいと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア * * * ※本トークセッションと同日開催した録画配信セミナー、アンコール開催セミナーに関しましては、以下のセミナーレポートをご覧ください。 >>【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~ >>【セミナーレポート】調整役としても活躍する -訪問看護師によるエンゼルケア-

ケースメソッドで考える管理業務
ケースメソッドで考える管理業務
特集
2023年5月2日
2023年5月2日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その2:桐山さんが抱えている問題は何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第11回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」を考えます。 はじめに 前回(「その1:まずすべきことは何か」参照)は、利用者からのクレームがあったときの初動対応について、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、前回のCさんの発言を受け、桐山さんが抱えている問題に注目することで、どんな支援ができるかのヒントを明らかにしていきます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 桐山さんが抱えている問題は何か 講師桐山さんはこのステーションで力を発揮しているとは言い切れないと思います。その原因はなんでしょうか。どんな問題を桐山さんは抱えていると考えますか。 Aさん注2入職3ヵ月とあるので、まだこのステーションには慣れていないと思います。しかも、すでにいるほかのスタッフよりも看護師経験は長く、即戦力というプレッシャーもあって、ほかのスタッフにSOSを出すのも難しいのではないでしょうか。 Bさん経歴をみてみると、以前働いていた訪問看護ステーションの経験が、今の仕事に悪影響を及ぼしているのかもしれません。ステーションごとに記録のしかたのような基本的なところでもいろいろ違いがあるでしょうし、そのほかにも暗黙の前提とかもよくありますよね。ステーションからどんな働きを期待されているかも、明確にされていなくてわからないですよね。 Cさん仕事をしていて疑問に思ったことを誰に聞いていいのかわからない可能性はありそうです。本人の性格もあるかもしれませんが、ほかのスタッフに気軽に聞ける状況ではなさそうです。 Dさん桐山さんの看護技術が劣っているとは思いませんが、もしかすると、クレームがあった利用者のケアには必要な知識やスキルが不足していたのかもしれませんね。 「桐山さんが抱えている問題は何か」の小括 桐山さんが抱えている問題はいくつもあることがみえてきました。ではこの問題についての理解をより深めるために、問題の前提となっている状況と、その状況をふまえた上で生じる課題についてみていきましょう。 桐山さんが置かれている状況の特徴 桐山さんを「中途採用で新しくステーションに入職した人」ととらえると、桐山さんが困難な状況に陥りやすい特徴が二つみえてきます。 1つ目は、即戦力とみられることから周囲のサポートが低くなり、それに伴い、社会的なプレッシャーにさらされることです。 2つ目は、前職で獲得した業務のやりかたや信念といったもののうち、新しい職場では通用しないものを捨て去る必要があることです。 桐山さんが抱えている課題 議論のなかで、桐山さんが抱えている課題が4つ出てきました。 ・ 今の職場だと通用しないことを捨て去る必要がある(学習棄却課題)・ 職場からどのような役割を期待されているのかわからない(役割学習課題)・誰に質問してよいかわからない(人脈学習課題)・必要なスキルが不足している(スキル課題) 次回は、このような状況や課題を理解し、管理者として桐山さんに対してどのような支援ができるのかについて考えていきます。 >>次回「その3:管理者としてどのような支援ができるか」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.

脳卒中 再発予防
脳卒中 再発予防
特集 会員限定
2023年4月25日
2023年4月25日

訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 後遺症「痙縮」【セミナーレポート後編】

2023年1月19日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策」。近畿大学医学部 脳神経外科講師の内山卓也先生、近畿大学病院 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師の林真由美さんを講師としてお迎えし、脳卒中を発症した利用者さんの看護にあたる上で役立つ疾患の情報や、どんなケアが求められるかなどを教えてもらいました。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部をご紹介。後編では、内山先生による「痙縮の特徴や治療法」についての講演内容をお伝えします。 >>前編はこちら訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 基礎知識【セミナーレポート前編】>>Q&A特別先行公開はこちら先行公開!訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策 セミナーQ&A ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】内山 卓也先生近畿大学医学部 脳神経外科講師日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医。不随意運動症に対する脳深部電気刺激術、疼痛に対する脊髄硬膜外刺激療法、痙縮に対するバクロフェン髄腔内投与療法やボツリヌス療法について診療・研究を行っている。林 真由美さん近畿大学病院看護部 SCU主任脳卒中リハビリテーション看護認定看護師、脳卒中療法相談士。脳卒中患者の重篤化予防やリハビリテーション、生活再構築のための機能回復支援など、幅広いサポートに携わる。 脳卒中の後遺症「痙縮(けいしゅく)」とは みなさんは、「痙縮」をご存知でしょうか? 痙縮は「痙性麻痺」ともいわれ、簡単にいうと「硬い麻痺」、麻痺した筋肉が極度に緊張してしまう状態のことをいいます。内反尖足や、手を握り込んでしまって指が開かなくなる症状は、よくみる症状のひとつです。 この痙縮は、脳卒中を発症した患者さんの約25%に後遺症として現れ、またそのうち70%程度が疼痛を合併することがわかっています。 脳卒中になり、手足が思うように動かせなくなった。そして、その手足の筋肉が徐々に硬くなって、痛みやつっぱりといった症状が出てきた。そんな痙縮に悩む患者さんに対してできる治療についてお話ししていきます。 痙縮は当事者だけでなく介護者の負担も増やす 治療法についてご説明する前に、痙縮という症状がどのような問題につながるかを確認しておきましょう。まず、痙縮が起きて関節の可動域が制限されると、ADLが低下し、リハビリも滞ってしまいます。さらに、先ほどご説明した痛みや、睡眠障害の原因になることもあります。つまり、痙縮は患者さんにとって大きな苦痛とストレスを与える症状なのです。また、介護をする方の負担が非常に重くなるという問題もあります。 ボツリヌス療法、ITB療法の概要 そんな厄介な痙縮に対し、私たち脳神経外科医は、さまざまな方法で治療を行っています。その中でも今回は、代表的な治療方法である「ボツリヌス療法」と「ITB療法(バクロフェン髄注療法)」についてご紹介します。 ・ボツリヌス療法硬くなった筋肉にA型ボツリヌス毒素を注射し、緊張を和らげる治療法。外来で治療ができます。 ・ITB療法(バクロフェン髄注療法)脊髄の周りにある髄液にバクロフェンという薬を注入し、筋肉の緊張を和らげる治療法です。もう少し具体的に説明すると、バクロフェンを専用のポンプに入れ、ポンプを腹部の皮下に埋め込み、ポンプから髄液に薬を注入していきます。ITB療法は、両足や両手、体幹など、痙縮の範囲が広い症例で選択されることが多いです。 このように、痙縮には治療法があります。訪問看護の現場で痙縮に悩む利用者さんに出会ったら、かかりつけの医師や脳卒中相談窓口にぜひ相談していただき、そこから、上記のような治療を提供している施設につないでもらってください。 * ボツリヌス療法やITB療法により少しでも体の状態が改善すると、介護の負担が軽減し、患者さんの生活の質が向上する可能性があります。ぜひ訪問看護師のみなさんにも痙縮の症状や治療への理解をより深めていただき、積極的に患者さんや他職種への情報提供をお願いできればと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

緩和ケア がん疼痛
緩和ケア がん疼痛
特集
2023年4月25日
2023年4月25日

がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】

最近は多くの病院からがん末期の患者さんがご自宅に退院されます。中には強い痛みやオピオイド(医療用麻薬)の副作用に悩む患者さんがいらっしゃいます。そのような患者さんにどのように寄り添い、症状を緩和していくか。この連載では、ときに基礎的な話も織り込みながら、がんの疼痛緩和について解説を進めていくことにしましょう。 がん疼痛がコントロールできていないAさん Aさん49歳。膵臓がんの方です。がんが発見されたときには、すでに肝臓全体に転移していました。妻と子ども2人(小学生と高校生)と生活していましたが、入院して、抗がん剤治療を行うことになりました。 しかし、抗がん剤の効果はあまりありませんでした。2種類目の抗がん剤を使用しても、病変はむしろ拡大し、がん性腹膜炎も発症。医師からこれ以上の治療は意味がないと退院をすすめられました。 Aさんは自宅療養を選択し、ご自宅に帰られました。歩いて外出するのは困難であったため、訪問看護と訪問診療を導入し、介護保険を申請。ケアマネジャーも紹介されました。 Aさんが退院時に処方された薬剤は図1のとおりです。 図1 退院時に処方された薬剤 Aさんの痛みや状態をアセスメントする Aさんの退院時、まず訪問看護師であるあなたが訪問しました。Aさんが実際にどのような痛みを感じているのか、詳しく伺うことにしました。Aさんに、痛みの部位や痛みの経過、痛みの強さやパターン、性状について確認してみると、自宅に帰る数日前から、心窩部から背部のじわじわした痛みに悩まされるようになったとのこと。入院中はそれほど痛くなかったものの、退院してから1日中じくじくと痛むようになったそうです。場所はだいたい同じ位置です。また、時々強い背中の痛みが生じ、ベッドに横になることしかできなくなってしまうとの訴えもありました。 食欲もあまりなく、好物のステーキも2口程度しか食べられません。便秘に対する薬を服用していますが、この5日ほど排便がありません。腹部も張っているので常に苦しい感じがあるとのことでした。 このようなケースをどう考え、解決し、看護していくか。一緒に考えてみましょう。 痛みの原因を探る がん疼痛は「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に分けられます。まずは、Aさんの痛みがどのような痛みなのか、痛みの種類を整理しましょう。痛みの種類が分かれば、治療法の検討に役立ちます。 侵害受容性疼痛 侵害受容性疼痛とは、体の組織の損傷による痛みです。組織には痛みを感じる侵害受容器があり、それが刺激されることによって痛みが生じます。切り傷、骨折、擦り傷などの痛みも含まれます。がんの場合は、がんが内臓に浸潤したり、転移して臓器が傷ついたりすることで痛みが生じます。 障害受容性疼痛は、「体性痛」と「内臓痛」に分けられます。 ■体性痛体性痛は、比較的太い神経線維で伝えられる痛みです。そのため、骨や皮膚、筋肉、結合組織といった「体性組織」への刺激が原因となることが多いです。腹腔内臓器でも、被膜や腹膜まで達した炎症で生じる場合はこの痛みとなることがあります。例えば、虫垂炎や腹膜炎の痛みです。太い線維で伝えられる痛みなので、局在がはっきりしていること、体動時に悪化することが特徴です。痛みが体動で悪化する際のレスキューがポイントになります。 ■内臓痛内臓痛は、比較的細い線維で伝えられる痛みです。局在がはっきりせず、鈍い痛みとして感じられます。例えば、膵臓がんの痛みも上腹部全体、背部(胃の裏側辺り)の痛みとして感じ、その局在は比較的広くなります。 神経障害性疼痛 神経障害性疼痛は、神経そのものが障害されたり、刺激されたりすることによって起こる疼痛です。しびれや異常感覚を伴うことがあります。代表的な神経障害性疼痛の異常感覚は、痛む部分を少しだけ刺激することによって強い痛みを誘発する「アロディニア」という現象です。 * がん疼痛は、体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛の3種の痛みが時には混合して疼痛として感じられることがあります。例えば、膵臓がんでは、膵被膜に浸潤する痛みや腹膜に転移して生じる痛みは体性痛、膵臓がんによって膵液の流出が妨げられ、膵内圧が高まった痛みは内臓痛にあたります。さらに、膵臓がんは腹腔神経叢へ浸潤することもありますので、浸潤した痛みは神経障害性疼痛に分類されます。このとき、強い腹痛や背部痛が出現します。オピオイド(医療用麻薬)ではコントロールしにくくなり、腹腔神経叢ブロックが必要になることがあります。 Aさんの痛みの特徴を理解する Aさんの痛みの訴えをもとに、痛みの種類を考えてみましょう。 まず、Aさんの痛みは、じわじわした境界不明瞭な痛みです。何となくこのあたりが痛い、言われてみれば心窩部や背中が痛い、というものです。これは内臓痛の成分が強いと思われます。また、時々起こる強い背部痛は、痛い場所がはっきりしているので、内臓痛に加えて、体性痛を合併している可能性が高く、侵害受容性疼痛とも判断でき、神経障害性疼痛の可能性も否定できません。先述のとおり、膵臓がんの場合、腹腔神経叢に浸潤し、神経障害性疼痛を起こしやすいことが知られています。 Aさんの痛みの特徴を理解したら、次はその痛みをどのように緩和していくのかを考えていきましょう。この続きは、次回、お伝えします。 >>次回はこちらがん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは【がん身体症状の緩和ケア】 執筆 鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ、在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【参考】 〇日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』 東京,金原出版株式会社,2020.

「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】
「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

大賞エピソード漫画化!「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県)の 石井啓子さんの投稿エピソード、「七夕の奇跡」です。 今回は、大賞エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田奈都美先生に、全10ページの漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師/訪問看護ステーション管理者。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) 公益社団法人山梨県看護協会 ますほ訪問看護ステーション(山梨県)ますほ訪問看護ステーションで訪問看護師として勤務し約22年…。大変だったこと、辛い思い出もたくさんありますが、それをかき消すほどの胸がグッと熱くなるようなほっこりするエピソード、患者さん・ご家族のありがたい言葉がたくさん頭をよぎります。今回私の書いたエピソードを大賞に選んでくださり、恥ずかしいような、うれしいような、複雑な気持ちですが、私がこのような喜びを得ることができたのは、今まで巡り合ってきたたくさんの患者さん・ご家族のおかげだと感じます。エピソードを漫画化してくださることにより、訪問看護という仕事のやりがい・魅力をこれから訪問看護師を志す人に少しでも伝えることができたらとてもうれしく思います。今後も訪問看護師として、一人ひとりの患者さん・ご家族との出会いを大切に、日々真摯に頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。 [no_toc]

脳卒中再発予防セミナー
脳卒中再発予防セミナー
特集 会員限定
2023年4月18日
2023年4月18日

訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 基礎知識【セミナーレポート前編】

2023年1月19日に開催した、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策」。近畿大学医学部から脳神経外科講師の内山卓也先生と、近畿大学病院 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師の林真由美さんを講師としてお迎えし、脳卒中を発症した利用者さんの看護にあたる上で役立つ疾患の情報や、どんなケアが求められるかなどを教えてもらいました。 本記事では、前後編に分けてセミナーの一部をご紹介。前編では、林さんによる「脳卒中の基礎知識」や「訪問看護師のみなさんにぜひ実践してほしいサポート」についての講演をまとめます。 >>Q&A特別先行公開はこちら先行公開!訪問看護師に知ってほしい脳卒中再発予防策 セミナーQ&A ※約70分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】内山 卓也先生近畿大学医学部 脳神経外科講師日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医。不随意運動症に対する脳深部電気刺激術、疼痛に対する脊髄硬膜外刺激療法、痙縮に対するバクロフェン髄腔内投与療法やボツリヌス療法について診療・研究を行っている。林 真由美さん近畿大学病院 看護部 SCU主任脳卒中リハビリテーション看護認定看護師、脳卒中療法相談士。脳卒中患者の重篤化予防やリハビリテーション、生活再構築のための機能回復支援など、幅広いサポートに携わる。 脳卒中の特徴 脳卒中とは、頭の血管が破れる「脳出血」や「くも膜下出血」、血管が詰まる「脳梗塞」の3つの総称です。年間で約20万人以上が発症し、10年間で約半数の方が再発するため、決して珍しくない病気といえるでしょう。 そんな脳卒中の特徴は、発症すると、麻痺や失語、神経脱落症状などの後遺症が残るケースが多く、ADLの低下につながりやすいことです。重い後遺症に悩まされ、在宅でリハビリを続けなければならない方は少なくありません。また、再発するたびに重症化し、要介護5の認定を受ける要因の中で最も大きな割合を占めるともいわれています。その一方で、近年は急性期の治療が進歩し、退院して自宅に戻られる方も増えました。このように、脳卒中を発症された方のその後は実にさまざまです。 なお、脳神経細胞は一度壊死すると元には戻らないため、発症した場合はとにかく迅速に対応することが重要です。具体的には、8時間以内であれば脳の蘇生が可能とされています。 脳卒中予防の基本 日本脳卒中学会が発表している「脳卒中治療ガイドライン2021」では、脳卒中の発症を招く代表的な危険因子として、以下を挙げています。 ・高血圧(最大の危険因子といわれています)・糖尿病・脂質異常症・飲酒・喫煙・心疾患・肥満 これらの因子が関係し、体の中で動脈硬化をはじめとした不調が徐々に起こって、ある日突然に発症するケースがとても多いです。つまり、脳卒中は生活習慣の影響をとても受けやすい病気ということ。普段から血圧のコントロールや内服管理、食生活の見直し、運動を心がけることが予防の基本です。 症状出現時の対応 脳卒中を発症すると、顔の半分が垂れる、顔面麻痺が起きる、手足が動かしにくくなる、喋りにくくなるといった症状が見られます。これらのどれかひとつでも確認できた際は、60〜70%の確立で脳卒中を疑いましょう。 症状が現れたり消えたりしているうちは、まずは速やかにかかりつけの医師に相談してください。症状が30分以上続くときは、救急車要請の対象となります。 また、症状が最初に出たときの時間を覚えておくこともポイント。その後の治療選択にあたって重要な情報となります。 利用者さんに事前に伝えておくべきこと 先に触れたとおり、脳卒中の症状が出現したら、速やかに治療を受けることが重要です。しかし実際は、すぐに病院に来られない方が多くいます。例えば一人暮らしだったり、失語の症状が出て連絡しようにもできずにいたり、といったケースです。また、「誰に自分の危険を知らせたらいいかわからなかった」とおっしゃる方も少なくありません。そのため利用者さんには、「発症した際にどこにどのような方法で連絡すべきか」を案内しておくことが大切です。 情報提供のコツ 私が患者さんに情報を提供する上では、その方の「言葉」を大切にしています。例えば、入院患者さんの多くは「二度と入院したくない」とおっしゃいます。これは、今現在のことしか見えておらず、今後についてはまだ考えられていないサイン。この段階では、疾患や今後の生活についての基礎的な情報をお伝えします。 患者さんが「なぜ発症したのだろう」とおっしゃるときは、過去を振り返って原因を探っている段階と考えられるでしょう。こんなときは、今までの生活習慣についてヒアリングし、その方に必要な工夫についてお話しするようにしています。 また、「生活をこう変えてみよう」とおっしゃる方、つまり行動を起こそうとしている方に対しては、継続できる目標設定になっているかを確認するようにしています。 ACPを提案する重要性 脳卒中を発症して入院される患者さんの中には、意識障害が起きたり、認知機能が低下したりする方が多くいらっしゃいます。そして、その中で幸いにも状態が回復した方の多くは「今まで自身の生き方や最後の迎え方について考えたことがなかった」とおっしゃいます。 そこで、脳卒中を経験した利用者さんにみなさんからぜひ提案してほしいのが、5年後、10年後の生活をイメージするACP(アドバンスケアプランニング)です。 「今までどおり趣味を楽しみたい」「孫の顔を見たい」といった希望についてはもちろん、・もし再発した場合、延命措置や人工呼吸器の装着を選択するか・胸骨圧迫(心臓マッサージ)を実施するか・家族は保険や貯金について把握しているかという点を含めて、将来のことを身近な方と話すきっかけを提供してみましょう。それにより、利用者さんの今後の生活はよりよいものになるはずです。 脳卒中相談窓口の取り組み 2022年の5月から、一次脳卒中センターに「脳卒中相談窓口」が設置されています。循環器病対策推進計画の一環として始まった取り組みで、窓口では当事者への治療や再発予防に関する情報提供や生活の支援などはもちろん、訪問看護師やヘルパー、ケアマネジャーからの相談も受け付けています。当事者を支える専門職の職種連携を図ることも、脳卒中相談窓口が掲げる目的のひとつなので、ぜひ有効に活用してもらえたらと思います。 看護外来に寄せられる相談内容 看護外来に日々寄せられる相談の一部をご紹介します。まず、生活に関する相談としては、以下のような内容が挙げられます。 ・家族関係がうまくいっておらず、血圧が上がってしまう・家族から運動を止められる・経済的な問題で薬の継続に不安がある・多忙で自炊ができず、減塩が難しい 以下は、問診やトリアージが必要な相談にあたるでしょう。 ・血尿が止まらない・めまいがする・3日ぐらい食事がとれず、起き上がれない また、地域社会との連携や調整が必要な相談も多く寄せられます。 ・高次脳機能障害が残り、仕事に行くのが怖くなった。職場の人とうまくやっていけない・周りに頼れる人がいない・病気になったことを知られたくない 当事者が独力で生活習慣を改善し、維持していくのは難しいこと。訪問看護師のみなさんには、症状出現時だけでなく、ぜひ日々の暮らしについてもアドバイスやサポートをお願いします。また、利用者さんが大事にしている生き方や価値観を知り、ぜひ病院側にも情報提供をしていただきたいです。 >>後編はこちら訪問看護師に知ってほしい!脳卒中再発予防策 後遺症「痙縮」【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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