2022年9月20日
【セミナーレポート】vol.2 具体的なBCP策定手順 前編/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~
2022年6月24日(金)、NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~」を開催しました。講師は、厚生労省の「在宅医療の事業継続計画(BCP)策定に係る研究」のメンバーであり、訪問看護ステーションの所長として現場でも活躍する、WyL株式会社 代表取締役の岩本大希さん。セミナーレポート第2回となる今回は、セミナーで紹介された全8STEPのBCPの策定方法のうち、STEP1〜3(平時の備え〜リスク発生直後)までをまとめます。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。
【講師】岩本 大希さんWyL株式会社 代表取締役/ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長/看護師・保健師・在宅看護専門看護師2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営(2020年12月現在)。訪問看護現場におけるBCPの重要性にいち早く着目し、2021年には厚生労働省が推進する研究事業(厚生労働科学特別研究事業)「在宅医療の事業継続計画(BCP)策定に係る研究」に参画。
目次▶ 【STEP 1】BCP策定の目的や方針、体制の決定▶ 【STEP 2】リスクの分析・評価 ・リソースを確認する ・リスクを抽出し、マッピングする ・リスクごとにシナリオを作成する ・各シナリオのリスク値を算定し、優先度を整理する ・対策の検討体制を決める▶ 【STEP 3】緊急・初期対応の整備 ・アクションカード ・マネジメントカード
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▶ 【STEP 1】BCP策定の目的や方針、体制の決定
まずはBCP策定の目的と基本方針を明らかにするとともに、検討チームの体制を整えます。誰がルールづくりを主導、あるいは見直すのか。有事の際に「BCPを発動します」と宣言する発動者は誰か。また、その担当者が何らかの事情で機能しないとき、次点は誰か。そこまで考えておけると安心です。なお、体制の構築においては、管理者や意思決定者だけでなく現場のスタッフまで巻き込むことがポイント。みんなでつくることで、いざ発動したときの実行可能性を高められるでしょう。
▶ 【STEP 2】リスクの分析・評価
続いて、以下の手順で事業所が抱える現状の課題を把握していきましょう。
リソースを確認する
まずは、事業所のリソースを整理することから始めます。例えば、有事の際にどれくらいの人員がすぐに対応できるのかを考えてみましょう。歩いて事務所に来られる距離に住んでいるのは誰か。育児や介護などの制限がなく、夜間でも動きやすいのは誰か。プライバシーに配慮しつつ、可能な範囲でお互いの状況を理解しておくことが大切です。
リスクを抽出し、マッピングする
次に、天災や事故、人災など、起こりうるリスクを抽出し、マッピングしていきます。『人命や事業の継続に対する影響』を縦軸にして大きいものほど上に、『頻度』を横軸にして高いものほど右にリスクを配置していきましょう。つまり、右上に位置するリスクほど警戒しなければならないということになりますね。
なお、土砂崩れや水害が起こりやすい地域や地盤が弱い地域など、立地によって特徴が異なるため、このマッピングの結果はさまざま。事業所の環境などを改めて確認し、反映してください。マッピングが完了したら、その結果を「リスクアセスメントサマリー」として、簡単な文章にまとめます。「●●は頻度が高いので確実に備えが必要」「●●(大地震など)は頻度こそ低いが起こったとき影響が極めて大きく、長期的な備えが必要」などといった形です。
リスクごとにシナリオを作成する
抽出したリスクごとに、「ヒト」「モノ」「カネ」「ライフライン」「情報」5つの観点でシナリオを作成します。どんな『最悪の事態』が起こるかを具体的に想定する作業です。例えば、地震が起きたときのことを少し考えてみましょう。「ヒト」に発生する悪いシナリオとしては、安否確認ができない、交通網が断絶あるいは運行していない時間帯で参集できない、訪問先で被災した、などといったことが挙げられます。そうやって整理していくと、さまざまなリスクに共通する要素、つまりは早急に対応すべき課題が見えてきます。
各シナリオのリスク値を算定し、優先度を整理する
シナリオを作成したら、それぞれの「リスク値」を計算しましょう。以下の基準でシナリオの影響度を1〜3点、脆弱性を1〜4点で評価し、「脆弱性×影響度」で算出します。
<影響度→シナリオが起こったときの影響の大きさ>1点:あまり/ほとんど影響がない2点:影響はあるが、業務中断には至らない3点:影響は極めて深刻<脆弱性→シナリオについて対策がどれくらいとられているか>1点:十分な対策がとられており、定期的に点検もしている2点:対策はとられているが、たまにしか点検していない3点:対策はとられているが、まったく点検していない4点:まったく/ほとんど対策がとられていない/わからない
『リスク値が高いシナリオ=優先して対策を練るべきシナリオ』となります。とくに9点以上になるものは早急に着手しなければなりません。
対策の検討体制を決める
対策を立てるべきシナリオが明確になったら、優先度が高いものから検討体制を決めていきましょう。誰がいつまでにやるのかを明確にし、放置されないようにしてください。
▶ 【STEP 3】緊急・初期対応の整備
続いて、緊急・初期対応を考えていきます。基本的には既存の災害対策マニュアルを使用してもらえれば問題ないかと思いますが、以下のツールも用意し、状況に合わせて活用するといいでしょう。
アクションカード
何らかのリスクが発生した際に配る『やることリスト』が記載されたカードです。例えば病院なら、「●●号室の電気を確認する」「自動ドアを開ける」などと書かれたカードを師長が配布し、スタッフはそのとおりに行動します。
ただし訪問看護ステーションの場合は、リスク発生時にスタッフが事務所にいるとは限りません。そのため、起こすべき行動を訪問先や移動中、事務所、自宅など、場所ごとに分けて記載する必要があります。さらに、どこにいてもカードを見られるようにすることもポイント。印刷してラミネートしたものを携帯させたり、PDFデータにして配布、もしくは電子カルテに取り込んだりして、全員が必ず取り出せるようにしておきましょう。
また、カードには「自分の安全確保を最優先にし、帰宅できる場合は自宅に戻ってほしい」など大原則となる方針を記載し、全員で意識を合わせておくのがおすすめです。スタッフが自身を犠牲にして業務にあたってしまう可能性を排除できます。
マネジメントカード
マネジメントカードは、予兆がある、すなわち準備する時間があるリスクへの備えとして使います。例えば台風なら、自治体が発出する警報のレベルに合わせて対応を記載。安否確認や避難誘導、土嚢を積むなど、いつまでに何をすべきかをまとめておけば、それに沿って的確に行動できるでしょう。そのリストを一枚のカードにまとめておくと、実行可能性が高まります。
また、上記のようなツールを準備するとともに、緊急指揮命令系統と安否確認の手順の取り決めもしておいてください。安否確認については、利用者の疾患や家族構成などを基準にあらかじめカテゴリー分けしておき、カテゴリーごとに担当スタッフを決めておくとスムーズです。
次回は「vol.3 具体的なBCP策定手順 後編」についてお伝えします。
記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア