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2022年8月2日
2022年8月2日

訪問看護で口腔ケアを行う新しい看護のありかた

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第4回は、訪問看護師の飯塚千晶さんから、口腔ケアを通した多職種とのつながりを紹介します。 訪問看護師は一人ではなかった 看護師の多くは在宅の現場へ飛び込む勇気がないと、よく耳にします。私も実際、以前は大学病院で勤務していました。父の死をきっかけに訪問看護の扉を開きましたが、働く前は、一人で動く不安やプレッシャーなどマイナスの要素ばかり感じていました。 ですが実際に働いてみると、訪問の場は確かに看護師一人かもしれませんが、実は周りには多くのサポーターがいます。 医師をはじめ、ケアマネジャー、歯科医師、ヘルパー、リハビリ専門職、福祉用具専門相談員、管理栄養士などなど……。相談できる専門職や窓口がたくさんあります。一人で背負う必要はなく、患者さんを取り巻くチーム全体で患者さんの生活を支えていく仕事です。 新宿食支援研究会との出会い 私は2018年2月、「訪問看護ステーションやごころ」を設立しました。看護師の母と妹と3人で立ち上げましたが、一緒に働くのは初めてだったので、各々のケアや考えの違いを改めて知りました。 一つの例として、私は大学病院では頭頸部外科・口腔外科に所属していたので、口腔内を観察することは、日々当たり前でした。しかし、整形外科に所属していた妹は口腔内観察という概念がなく、ほかの看護師でも口腔内観察をするという習慣はごく一部だということです。 私が新宿食支援研究会と出会ったのは、その年の8月でした。患者さんを通して知り合ったケアマネジャーさん、福祉用具専門相談員さんから「この会には看護師が少ない。一度参加してみてはどうか?」と声を掛けてもらいました。 看護師へ口腔ケアを広めたい この会は「最期まで口から食べる街づくり」を目的に多職種間での意見交換等行っています。当初私が参加した時期でメンバーは160名ほど、うち看護師は私を含め3名程度とかなり少なく、それは今も変わりません。 何を目的に、何をしているのか、わからないまま参加したところ、そこには歯科医師の五島朋幸先生がいらっしゃいました。歯科医師と話す機会がほぼなかったため、五島先生と知り合い、「看護師へ口腔ケアを広めたい」と伝えたことがきっかけで、現在に至ります。 今、私は新宿食支援研究会で、看護師のための口腔ケアについて考えるワーキンググループのリーダーを務めています。毎月検討会を行い、そこには看護師や歯科医師、歯科衛生士、ケアマネジャーなどが参加し、事例を通して学びを深めています。 コロナ禍以降、リモートで開催するようになると、全国から参加してくださるかたも増えました。 看護師以外の視点で気づきを得る 新宿食支援研究会に所属したことで、新宿区内の事業所(訪問診療、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所など)のかたと多く知り合うことができました。患者さんを通して、看護師の視点だけでなく、各々の視点からの意見を取り入れることで、新たな気づきを得ることができました。 看護師だけの意見では偏りが大きいため、ぜひ周りの関係者に頼ってみてください。なぜなら看護師はプライドが高く、自分たちの意見を押し通す傾向にあります。その選択が本当に正しいのか、振り返るためにも大切だと思います。 そして私は管理者として、多職種とつながるメリットは、頼り頼られる関係ができることだと思います。 看護師としてはプロフェッショナルですが、そのほかの領域においては素人同然。聞くことが恥ずかしくてなかなか表に出せないこともありますが、新宿食支援研究会で出会った人たちには気軽に質問したり相談されたりする関係性があり、それが日々の悩みを解決してくれます。ときには事業所内に向けた研修を無償で行ってくれることもあり、この会ならではの協力体制ではないかと思います。 多職種との距離を縮める機会を 皆さんが働いている場所でもこのような地域連携の場があれば、「看護師なのに知らないと思われる」などと躊躇せず、ぜひ参加してみてほしいと思っています。 看護師は日々の業務で忙しく、なかなか外部の場に参加することが難しいですが、一歩踏み出すことで新しいコミュニティが開け、仕事の依頼につながることも多いです。在宅では看護師は「怖い」「冷たい」「厳しい」などと思われがちです。積極的に参加し、多職種との距離を縮めることが重要ではないかと感じます。 口腔ケアと観察で全身の疾患や栄養への気づきもある  人工呼吸器を装着されている利用者さんに口腔ケアを行う様子 定例のリモートによるワークショップの様子PC上で全国から月1回夜、10数人の参加者が事例検討を中心に行っている  事例紹介 新宿食支援研究会の、患者さんへの介入事例を紹介します。 Aさん、80歳代女性。舌癌末期、独居 下顎に腫瘍が浸潤し滲出液が多く、連日の処置を要している 介入当初は歯も数本あり、咀嚼も問題なく、大好きなお寿司などを摂取していました。しかし1か月しないうちに、下顎骨が露呈しはじめました。疼痛も強くなり、大好きなお寿司も食べることができなくなり、本人の気持ちも沈みがちになりました。 この患者さんの状態を、新宿食支援研究会で毎月行っている症例検討会で議題に挙げ、口腔内の注意点や今後行うべきことなどを話し合いました。感染に注意すること、疼痛コントロールを重点的に、という意見をもらえ、翌日には訪問診療医・ケアマネジャー・ヘルパーへ伝達しました。 連日介入しているヘルパーと看護師で、口腔内の清潔保持に努め、感染を防ぐために、優しくゆっくりとケア(軟毛ブラシ・不織布ガーゼ・保湿剤を用いて)を行いました。ヘルパーには直接指導を実施。訪問診療では早急にオピオイドを導入し、疼痛緩和につながりました。 疼痛コントロールと口腔内感染の予防ができたことで、食事への意欲がまたわき上がってきました。 亡くなる1週間前、「お寿司が食べたい」と希望がありました。ヘルパーが出前を取り、まずは見た目を楽しんだ後、一口大に刻んだお寿司を口に運び、味わうことができました。飲み込みまではいきませんでしたが、食べたいという意欲を再燃できたことが、介入チームにとって、とても大きな喜びとなりました。 多職種でつながることでのパワー このように、病院とは違い、在宅では外部の力を知り、職種ごとの役割を発揮して、協力して、実践していくことがとても重要です。協力することでわれわれの力が存分に発揮できると考えています。 一人では何も生まれませんが、多職種とつながることで何倍ものパワーになり、患者さんへのサポートとなります。 看護師としての知識を持ちながら、周囲への意見に聞く耳を持ち、立場を変えて思い考えることがとても大切だと思います。 ー第5回へ続く 執筆飯塚千晶訪問看護ステーションやごころ管理者新宿食支援研究会訪問看護師 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月2日
2022年8月2日

口腔粘膜疾患と口腔ケア

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回は、口腔粘膜疾患や衛生面での口腔ケアについてお話しします。 口腔粘膜の疾患 前回では、準備期を「餅つき」に例えて、「噛む」ためには舌、唇、頬や、筋肉が重要な役割を果たすことをお話ししました。 高齢者の口腔内では、歯や歯肉だけでなく、唇、舌、頬の内側、口蓋など、口腔粘膜に疾患が見つかることも多くあります。低栄養やストレス、喫煙、傷などが起因となり、口内炎などの疾患が発症します。 軽度な口内炎でも、放置すると重篤な状態へ進行することもあるので、口腔ケアの際には粘膜の観察も大切です。 義歯もなく、下の歯が上口唇に刺さっていた事例 事例 Jさん、96歳女性、要介護5。難聴、軽度認知症の疑い。常時寝たきりで褥瘡あり。残存歯数20本。部分義歯がゆるいと、内科からの紹介で訪問。 Jさんは、上顎が無歯顎で、義歯もなく、残存歯は、下顎の前歯が4本あるだけでした。発声もなく、噛むことで、下の歯の先端が上口唇や粘膜に刺さり、咬傷ができていました。口腔ケアも不十分で、紅く腫脹した口腔カンジタ症注1の所見もありました。 口腔ケアを指導後、歯科医師が、上の口唇の傷の保護と、噛み合わせを高くするなどの目的でPAP(舌接触補助床、第5回参照)を作製しました。 できあがったPAPを初めて装着した日、顎関節マッサージの後、装着のため頑張って大きく開口したJさんは、「痛いよ!」と、とても大きな声を挙げました。ベッドサイドで様子を見ていた娘さんは、「まあ、おばあちゃんの声が久しぶりに聞けた!」と喜んでいました。 Jさんの口腔内はそれまで、上下の高さに隙間がないので、発声のために舌を動かすスペースもありませんでしたが、PAPにより舌が動かせる隙間ができ、発声や嚥下の改善、唾液誤嚥の減少にもつながりました。その後、家族や介護士などに口腔ケアの手技を伝え、カンジタ症はずいぶん改善しました。 上皮剝離膜、痂皮へのケア 主に終末期にある方では、上皮剝離膜や痂皮(かひ)の付着に注意が必要です。 痂皮とは、痰やプラーク(歯垢)などが固まった状態で、口腔粘膜に付着することがあります。誤嚥性肺炎のリスクにもなります。 痂皮が付着した様子 痂皮は、口腔内用の保湿剤をよく塗布し、数分ふやかしてから、さまざまな用具を使用してゆっくり時間をかけて除去します。剝離時に出血を伴うこともあり、口腔ケアシート 注2 で圧迫止血を繰り返しながら、慎重にケアします(非経口摂取患者口腔粘膜処置 注3 )。 口腔内の痂皮を見つけたら、歯科専門職でない方は無理に除去せず、ケアの後に保湿剤を塗布してください。保湿剤の代わりにワセリンを使用する人もいますが、ワセリンは乾燥を防ぐ目的で塗布するものです。汚れを除去する場合には不向きです。 虫歯の鋭縁が舌に大きな傷を作った事例 事例 Kさん、87歳男性、要介護4。施設介護。脳出血後右麻痺、常時寝たきり。 初診時、左下に大きな虫歯があり、舌の側面に潰瘍様の大きな口内炎が見つかりました。食事や発声のたびに、虫歯の鋭縁(欠けて尖った部分)が、舌を深く傷つけていたのです。 Kさんの舌の側面にできた口内炎 すぐに歯科医師が虫歯の鋭縁を削り丸くし、翌週には口内炎が軽快しました。放置していれば、癌化することも十分に考えられる炎症でした。 口腔粘膜傷害時のケア ・赤または白い斑点の口内炎が2週間以上続いている・接触痛(ヒリヒリ、ピリピリ、しみる、灼熱感)が2週間以上続いている・ステロイド使用で口内炎がある・抗がん薬治療で口内炎がある・放射線治療で口内炎がある これらの場合には、研磨剤含有の歯磨剤やアルコール含有の洗口剤を使用せず、またゴシゴシと強い歯磨きをしないように指導し、早急に歯科受診を促します。 おわりに 介護現場で口腔ケアが拒否される理由の一つに、今回お話ししたような粘膜疾患が挙げられることがあります。 懐中電灯などで口腔内の観察をして、粘膜の異常に気づいた場合は、早急に歯科へ情報提供をお願いします。 次回は、コーチングによって、ゴールに近づくことができた症例です。 注1 口腔カンジダ症:低栄養を引き金に、日和見菌のカンジダ・アルビカンスが増殖し、粘膜に紅斑や腫脹などを発症する。義歯清掃を怠ると義歯性口内炎を発症し、義歯が装着できないほど痛みを伴うこともある。低栄養が改善しなければ、薬物治療でも治りにくく、再発しやすい。 注2 口腔ケアシート:口腔内に使用できるウェットシート。口腔ケア時に拭き取り用として使用する。保湿剤とともにCOVID-19飛沫対策として推奨している。 注3 非経口摂取患者口腔粘膜処置(歯科診療報酬):経口摂取が困難な患者に対して口腔衛生状態の改善を目的として、歯科医師またはその指示を受けた歯科衛生士が、口腔清掃用具等を用いて口腔の剝離上皮膜の除去を行った場合に算定できる。月2回まで、1回110点。 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士)記事編集:株式会社メディカ出版

特集 会員限定
2022年7月26日
2022年7月26日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~押さえておきたい変更点のポイント~

2022年4月20日に開催した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第3回となる今回は、訪問看護関係者が押さえておきたい変更ポイントをまとめます。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 ・専門管理加算の新設 ・医師の手順書加算の新設▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し ・情報提供にかかる条件変更 ・ターミナル療養費の条件変更 ・退院支援指導加算の見直し ・遠隔死亡診断補助加算の新設▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応▶ 訪問看護指示書の様式 ・リハビリテーション欄変更▶オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 ・在宅管理の評価見直し ・入退院支援加算1の算定要件の変更 --> ▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 訪問看護ステーションの看護師が訪問する際、専門性の高い看護師が同行すると、追加で点数を算定できます。これまでは「専門性の高い看護師=国または医療関係団体等が主催する褥瘡ケアに係る専門の研修を600時間以上受けた者」と定義されていましたが、今回の改定では「創傷管理関連の特定行為研修(特定行為に係る看護師の研修制度の創傷管理関連の区分の研修)を受けた者」という条件も追加されました。 ・専門管理加算の新設 緩和ケア・褥瘡ケアまたは人工肛門ケアおよび人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師が単独で計画的管理を行った際の評価が新設されました。「専門管理加算」といい、月1回2,500円を算定できます。特定行為研修を修了した看護師も対象になりますが、その場合は医師が訪問指示書と併せて手順書を発行する必要があります。すなわち、特定行為研修を修了した看護師の訪問に専門管理加算を算定できるのは、手順書加算を算定できる利用者を診たときのみです。なお、専門管理加算を算定する月には、専門性の高い看護師が必ず1回以上訪問しなければなりません。また、ひとりの利用者に対して専門管理加算を算定できるのは月1回のみ。複数名の専門の高い看護師が別々に訪問した場合も、算定は1回だけです。 ・医師の手順書加算の新設 医師や歯科医師が、看護師の診療補助を目的に手順書(文書または電磁的記録)を発行した場合、6ヶ月に1回(手順書の有効期限が最大6ヶ月であるため)、150点の手順書加算の算定が認められました。この手順書加算が算定されないと、特定行為研修を修了した看護師の専門管理加算が算定できないので要注意です。 ▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し 別表7や別表8に該当する方、特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている方、暴力行為が見られる方などの訪問では「複数名訪問看護加算」を算定できますが、その同行者の定義が明確になりました。「看護補助者」の記載が「その他職員」に変わり、看護師、准看護師、看護補助者(事務職員等を含む)がこれに含まれます。ただし、職種によって訪問回数に上限があります。看護師やPT・OT・ST、准看護師は週1回、看護補助者は週3日です。なお、これまで看護補助者は訪問看護事業所で雇用されていない人員でも構いませんでしたが、秘密保持や安全の観点から事前に研修を行っておくことは重要でしょう。 ・情報提供にかかる条件変更 訪問看護情報提供療養費1には、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児童支援事業者が追加され、算定対象の年齢は15歳未満の小児が18歳未満の児童に拡大されました。訪問看護情報提供療養費2では、情報提供先に高等学校が追加され、算定対象の年齢はすべての条件において15歳未満から18歳未満に引き上げられています。 ・ターミナル療養費の条件変更 利用者が退院翌日に亡くなった場合、退院日は退院支援指導加算を算定するため、その日の訪問は訪問看護ターミナル療養費の算定基準となる2回にカウントできませんでした。今回の改定では、退院支援指導加算の対象日もカウントが可能になり、訪問看護ターミナル療養費を算定しやすくなっています。 ・退院支援指導加算の見直し 長時間にわたる療養上必要な指導を行ったときは、退院支援指導加算を8,400円算定していいという要件が加わりました。 ・遠隔死亡診断補助加算の新設 遠隔死亡診断を行う際、従来は看護師のサポートへの評価は行われていませんでしたが、遠隔死亡診断加算として1,500円を算定できるようになりました。ただし、厚生労働大臣が定める地域に居住する利用者であること、厚生労働省「在宅看取りに関する研修事業」および「ICTを活用した在宅看取りに関する研修推進事業」により実施されている研修を受けた看護師が配置されていることという条件を満たした場合のみになります。 ▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応 従来は、届出内容に変更があって当該届出基準を満たさなくなった、もしくは当該届出基準の届出区分が変更となった場合は、変更の届出を行うことが義務づけられていました。今回の改定では、「機能強化型訪問看護療養費に係る届出」に記載した看護職員数等について、当該届出基準に影響がない変動なら、変更の届出は不要となっています。なお、「専門管理加算に係る届出」に記載した専門の研修を受けた看護師が退職し、同様の研修を受けた看護師を新たに雇用した場合は、算定要件に影響するため変更の届出が必要です。 ▶ 訪問看護指示書の様式 訪問看護指示書内の「留意事項及び指示事項」Ⅱの1記載が変更になりましたが、2022年3月31日以前に交付した分は、変更後の様式による再発行は不要です。 ・リハビリテーション欄変更 訪問看護指示書のリハビリの欄について、PT・OT・STの誰が行くのか、また1日あたり何分、週何回行くのかの指示が必要になりました。PT・OT・STの訪問回数が決まったことにより、看護師の代わりにPT・OT・STが訪問するのもNGに。指示書と異なる訪問を行う場合は再発行が必要です。 ▶ オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 医療従事者等によって行われるカンファレンスについて、参加者全員のオンライン参加が可能になりました。例えば退院後カンファレンスもオンラインのみで完結します。 ・在宅管理の評価の見直し 在宅時医学総合管理料(施設入居時等医学管理料)について、これまでは月の訪問回数が2回または1回の2種類で管理料を定めていましたが、今回の改定から「月2回の訪問のうち1回はオンラインで管理」という種類が加わり、点数が新設されました。 ・入退院支援加算1の算定要件の変更 100床以上を有する地域包括ケア病棟は入院支援加算1の算定が必須となり、連携する医療機関や介護施設など、訪問看護ステーションを含む25ヶ所以上の職員と、年3回以上の面会が必要になりました。なお、この面会はオンラインでOK。つまり、病院にとってオンライン対応ができない訪問看護ステーションは連携しにくいということです。オンライン設備の整備・活用は、今後必須になるといっても過言ではないでしょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年7月26日
2022年7月26日

在宅訪問管理栄養士が支える地域の栄養

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第3回は、管理栄養士の稲山未来さんから、在宅訪問管理栄養士の活動を紹介します。 単独で在宅訪問する管理栄養士の仕事 皆さんは在宅の患者さん・利用者さんの栄養課題に気づいたとき、また食や栄養について相談を受けたとき、どのように対応していますか? 訪問看護事業所における食事・栄養支援状況の調査1)によると、回答が得られた事業所のうち、「利用者から食事・栄養相談を受けたことがある」と答えた事業所は100%、その相談に「その場で即答できる」としたのは約30%、即答できない場合の対処法としては、「同僚看護師に相談」「インターネットで検索」が上位を占め、「管理栄養士に相談」と返答した事業所はわずか18%でした。 管理栄養士としては少し寂しい結果ですが、この結果は、管理栄養士が訪問看護事業所と連携することで、いっそう利用者さんに貢献できることを示唆しているように感じます。 訪問看護師のみなさんには、「訪問管理栄養士に相談する、そして依頼をつなぐ」という方法があることを、ぜひ覚えておいていただければ嬉しいです。 在宅訪問栄養食事指導 在宅訪問栄養食事指導とは、在宅に訪問し、利用者の栄養食事指導を行うサービスのことです。利用者の状況によって、医療保険または介護保険(介護保険では居宅療養管理指導)で支援を行うことができます。 対象となるのは、栄養学的な課題をかかえている人です。糖尿病や腎臓病などの慢性疾患に対して管理が必要な人、低栄養状態、摂食嚥下障害の人が挙げられます。 どのように介入が始まるか 在宅訪問栄養食事指導の介入依頼は、居宅介護事業所のケアマネジャーからの場合が多いですが、訪問看護師から依頼されることもあります。私は歯科医院に勤務しているので、所属先の歯科医師から依頼を受けることもあります。 管理栄養士が行う栄養指導については、療養上の管理を行う主治医から指示を受けるルールです。ですから、依頼があれば、まずは主治医に栄養介入の必要性があるかを確認し、指示栄養量や病歴などの情報を得てから介入がスタートします。 具体的にどんな介入をしているの? 多く受ける依頼は、体重減少傾向の高齢者に対して栄養強化をしてほしいという内容です。補助食品の選定、また家族やヘルパーへの買物・調理指導、献立の提案など、その人の課題や生活環境に合わせた支援を行います。 また、歯科医師からは、摂食嚥下障害がある人への嚥下調整食指導の依頼が多いです。嚥下調整食の指導では、調理を担当される人に、適切な嚥下調整食の調理ポイントをお伝えします。 これら以外にも、糖尿病や腎臓病、脂質異常症など、対象となる疾患は多岐にわたります。共通していえることは、いつまでも食を楽しむための環境調整を行っているという点です。 家族への嚥下調整食指導の様子(左側のテーブル手前に利用者さんが在席中) 嚥下機能確認のため嚥下音の確認 管理栄養士介入のメリットって何? 管理栄養士の介入によるいちばんのメリットは、利用者の栄養状態が改善することによるQOL向上です。実際に多くの事例で栄養状態が改善し、体重が増加するなどの効果が出ています。 また、それだけではなく、関連職種にとっても良い効果があります。 前述したように訪問看護師からは食事・栄養相談を受ける機会が多いですが、訪問時間は限られていますよね。特に在宅高齢者においては栄養課題がさまざま、解決を妨げる障害もさまざまで、対応には想定以上に時間がかかってしまうものです。食や栄養の課題には管理栄養士の手を借りることで、看護師は看護ケアに専念できるのではないでしょうか。 たとえば嚥下調整食の指導などに関しては、管理栄養士であれば、家族やヘルパーの調理時に同席して、調理実演を行うことができるので、より効率的かつ的確に指導を行うことが可能です。 訪問看護師との連携例 あるとき私は、歯科医師から、進行性難病で摂食嚥下障害を持つ人への介入を依頼されました。 その人は、摂食嚥下障害のため、経鼻経管栄養で栄養補給を行っていましたが、歯科医師の介入で摂食嚥下機能が改善してきていました。歯科医師から、一日1回の経口摂取を始めましょうと指示が出たことにより、まずは昼食の提供が始まりました。 ヘルパーが作り置きした料理を、訪問看護師が見守るもとで、本人が自己摂取します。経口摂取開始当初は刻み食を召し上がっていましたが、やがて咀嚼機能が改善し、ペースの配慮さえすれば常食を摂取できるようになりました。 ここで課題になってくるのは、どのくらいの量を食べてよいのかということです。経口摂取は昼食のみの一日1食のため、経鼻経管栄養も継続中です。 管理栄養士は主治医と連携をとり、低栄養傾向であるその方に対しては、徐々に体重増加を目指せるような目標エネルギー量を設定し、栄養剤で不足する分を経口から摂取する方針となりました。経口での摂取エネルギー量は一食あたり400~500kcalを目安に、それ以上食べられるようになったら、経管栄養剤を減量するという対応です。 その方針を、本人やご家族、訪問看護師にも伝えます。管理栄養士は、食事時間に訪問看護師とともに同席し、ご自身のふだんの食器を使って、400~500kcalの食事がどの程度の量なのかをお伝えしました。いつも同じ食器に同じくらいの量を盛り付けることで、目標エネルギー量に均一化できます。 看護師との連携により、経口摂取による目標エネルギー量を安定して充足できたため、ご利用者様の体重は徐々に増加し、栄養状態も改善に向かいました。 ある日の昼食 新宿食支援研究会から学ぶ多職種連携 多職種連携において大切なことは、チームメンバーの仕事と役割を知ることだと考えています。 新宿食支援研究会には、食支援にかかわる人が、一般・専門職問わず多く在籍しています。同一職種が集まり専門性を高めあうスタディグループもあれば、多職種でお互いの事例相談を行うグループもあります。 意見交換により他の職種が抱える課題を知ることは、自分の専門性を生かすポイントを見つけるきっかけにもなります。そして自分自身にとっては、困ったときに誰に何を相談すべきなのかが明確になるので、より円滑なチーム連携につながります。 どのように管理栄養士と連携するのか 在宅訪問管理栄養士は地域によってはまだまだ少なく、「連携をしようと思ってもどこにいるのかわらない」という声を頂くことがあります。そんな場合は、活動地域の都道府県栄養士会に問い合わせてみてください。都道府県栄養士会は訪問管理栄養士の情報を多く持っているので、訪問可能な管理栄養士を探すことができます。 訪問看護師と管理栄養士の連携はまだまだ少ないですが、よりよい連携が増えることを期待したいですね! ー第4回へ続く 執筆稲山未来(管理栄養士)ふれあい歯科ごとう所属・新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)東本恭幸ほか.在宅医療における食事・栄養支援の現状と課題:訪問看護事業所への質問用紙調査から. 『日本在宅医療連合学会誌』1(1),2019,22-30.

特集
2022年7月26日
2022年7月26日

[4]知っておきたい、結婚式の席に同行するときのマナーや事前準備

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。今回は、利用者さんが出席される結婚式に同行するときのマナーや事前準備について解説します。付き添い看護のプロにもお話を伺っていますので、参考になさってください。 大切な日だからこそ利用者さんに「恥をかかせない」看護を 訪問看護を担当する利用者さんから「結婚式に出席するため同行してほしい」と依頼された経験はあるでしょうか? このような依頼があったら、頼りにしていただけたことがうれしい反面、慣れていないために不安な気持ちになるかもしれません。 今回は、結婚式などのお祝いの日に、日頃から担当している訪問看護師として利用者さんに同行する際のマナーや事前準備のポイントを考えます。 某看護雑誌の企画で、看護部長のみなさまのインタビュー記事を連載したことがあります。そのときのある看護部長のコメントが大変印象的でした。「患者さんに恥をかかせない。それが看護よ」この言葉は、特別な行事に参加する利用者さんをサポートする訪問看護師のみなさまにとってもキーワードになるのではないでしょうか。 付き添い看護のプロ、前田和哉さんにお話を伺う オーダーメイドの付き添い看護サービス「かなえるナース」を立ち上げられた株式会社ハレ取締役代表の前田和哉さんに伺ったお話をご紹介します。同行する際のマナーから、事前に準備しておくこと、確認しておくことなど、知っておきたいポイントを教えていただきました。 ― 結婚式に出席する方に同行する場合、服装はどのようにされていますか? [前田さん]礼服にしています。ラフな平服で同行したケースで、両家対面の際に、同行した側の方たちではなく、相手方のご家族が看護師の服装について難色を示した、という話を聞きまして。依頼者のご迷惑にならないよう、そして式に礼意を表すためにも基本的に礼服を着用するようになりました。 ― 服装は、礼服か礼服に準じたものが適切と考えたほうがよいですね。必要物品を入れるバッグなどの持ち物も、その場にマッチした外見かどうか、事業所内で確認しておくとよいかもしれませんね。できるだけ物々しくならないように配慮することも必要そうです。同行する対象の方の病状によって持参する物品は違ってくると思いますが、マナーの観点から現場で「持参すればよかった」と思われた物品はありますか? [前田さん]はい。まず思い出すのは、粘着テープでできたクリーナーです。依頼者である男性が着用された礼服にフケが目立ったときがありまして。髪に寝癖がついたまま、といったこともあり、ドライシャンプーなどでさっと保清して差し上げるなどもよいと思い、準備したりもします。 それから、「替え用のマスク」。感極まって、涙を流されてマスクが濡れてしまったためです。 他は「ストロー」でしょうか。水分摂取をするためにご自宅では吸い飲みを使っているとしても、祝宴の場ですからストローのほうがよいようです。会場の方にご準備をお願いすることもよいと思います。ただ、持参していたほうがさっと使えてよいですね。 在宅療養では、自然にそろっている何気ない用品がありませんから、その点を意識して持参物品をそろえるといいでしょうね。 ― なるほど。確かに、と思うことばかりです。式次第などスケジュールへの配慮にはどのようなことがあるでしょうか。 [前田さん]何といっても記念写真の撮影への配慮は欠かせません。みなで記念写真などを撮影するタイミングに、トイレに行っていたとか、別室で何かしら処置をする必要ができたなどで、写れなかったら大変残念です。また、例え写真に入れたとしても、そのときに疲れ果てた状態で、疲れた表情のまま写ってしまわないように、と考えます。いつごろ何をどう対応するべきか、と考えながら注力します。 ― 大事な点ですね。ご本人は、写真にはよい表情で写りたいでしょうし、ご家族や縁者の方たちもそれを望んでいると思いますし。式には最初から最後まで出席する方が多いのでしょうか。 [前田さん]いえ、そんなことはないです。容態によっては、式の最初から最後まで出席することにこだわらず、乾杯とか、写真撮影とか、要所のみ出席していただくような方向も看護職としてご提案します。 ― どのくらいの時間でお疲れになるとか、望ましい姿勢やお薬を飲むタイミングなど、状況に応じて看護判断を行い、おすすめの方法をご提案できるとよいですね。依頼したご本人やご家族も安心して過ごすことができると思います。 最後に、日ごろ訪問看護をしている方から結婚式の付添いの依頼があり、慣れていない対応のため不安のある方に向けてアドバイスをお願いできますか? [前田さん]特に付き添い看護は難しいことではないです。基本的に病院受診に同行することなどと同じですよ。 ― ありがとうございました。 事前準備も十分に行うことが大切 同行当日までに、主治医とご本人やご家族と打ち合わせ、輸液ポンプや酸素ボンベ、吸引器などを持ち込む必要がある場合は、それらをどのように配置し、使用するかをしっかり検討し、結論を出します。結論は、ご本人やご家族と共有するだけでなく、会場の担当者とも必要な部分のみ共有しておくとよいでしょう。 また、会場までの交通や会場の下見も必要です。車椅子で利用できるエレベーターがあるかなどバリアフリーに関する情報も調べておきます。会場の担当者とは、容態が変化したときに使用できる別室があるかどうか、横になったほうがよいときの対応方法なども打ち合わせておきます。当日、何かあったときにすぐに連携できる体制を整えておくと安心です。 なお、当日の飲食については、こちらの役割をまっとうするために遠慮させていただくことを伝えておくとよいです。 事前準備を十分に行っておけば、当日は、普段どおり、病院受診に同行するときと同じように、観察し判断し、必要な対応をとれるのだと思います。 * 以上、計4回にわたって、マナーにまつわる記事を連載いたしました。参考になる点がありましたら幸いです。 わが国では1992年に訪問看護ステーション制度が発足し、看護職の所長が誕生して30年たちました。今後も、訪問看護時のマナーを継続的に話題にしていくことが、訪問看護領域のさらなる成熟につながるように思います。 ワンポイントメモ●同行に訪問看護指示書は必要?今回ご紹介したような結婚式への同行は保険外対応として行います。そのため訪問看護指示書は必須ではありません。ただし、利用者さんの状態によっては、出先の状況に応じて医師の指示に基づく医療行為が必要であるなど、訪問看護指示書が重要となるケースも少なくないと思います。主治医と利用者さん、ご家族と事前の打ち合わせする際に、訪問看護指示書の必要性について確認しておくとよいでしょう。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年7月19日
2022年7月19日

熱中症を防ぐ! 新しい生活様式での熱中症予防と経口補水液の作りかた

暑い夏がやってきました。この時期、利用者の体調とともに気を使うのが、熱中症にかからないための対策です。この記事では、2022年7月時点の情報を基に、厚生労働省が発表している「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた熱中症予防のポイント」に基づく熱中症の予防、そして経口補水液の作りかたについて紹介します。 新しい生活様式の中での脱水症予防 新型コロナウイルスの流行によりマスク着用をはじめとした新しい生活様式が一般的になりました。ただ、マスクをするといくらかの息苦しさを感じ、かえって熱中症になってしまうのでは、と危惧する利用者もいると思います。 そこで、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた熱中症予防のポイント」を基に、コロナ禍での脱水症予防について解説します。 マスクの着用 高温多湿の環境下でマスクをすると、熱中症となるリスクがあります。そのため、屋外にいるときでほかの人と2メートル以上の間隔をあけられれば、マスクを外すよう利用者に説明しましょう。また、マスクを着用するときは、作業や運動を避けた方が良いといえます。 マスクを着用して外へ出るときも、気温の高い日や暑い時間帯は避け、なるべく涼しい服装をすることを利用者にすすめるのも大切です。 エアコンの使用 暑いときはエアコンの使用が効果的です。しかし、家庭用のエアコンだと換気の機能がついていないものがほとんどです。新型コロナウイルスなどの予防のため、定期的に換気しつつ、換気時に室温が上がらないよう注意しましょう。そのために、室温計を設置するのがおすすめです。換気中に室温が30度以上となるようであれば、そこで換気をやめエアコンの冷気を室内で循環させるよう、利用者に説明しましょう。 涼しい場所への移動 利用者が外出時に厳しい暑さを感じ、喫茶店、カフェなどといった場所で体を休ませようとするケースがあると思います。ただ、コロナ禍では店内の人数制限が設けられ入店できない場合もあるかもしれません。そうしたときは、日陰、木陰、風通しの良い場所に体を移すだけでも効果があることを利用者に説明しましょう。 日頃の健康管理 朝食前、夕食前などというように、定時の体温測定を利用者にすすめましょう。新型コロナウイルスへの罹患を察知できる可能性が高くなるだけでなく、脱水症予防・対策にも日常の体温測定は効果的です。熱中症となった場合は、体温が高くなることがあるためです。 経口補水液の作りかた 熱中症の予防や、万が一、熱中症となってしまったときは通常の水ではなく経口補水液での水分摂取が必要です。発汗によってナトリウム(塩分)が体から不足し、普通の水を飲むだけでは体がナトリウム濃度を保とうとしてすぐに水分を排出してしまうからです。よって、塩分を含んだ経口補水液が必要となります。 NsPaceの「お役立ちツール」内に経口補水液の作りかたのPDFがあり、ダウンロード可能です。ぜひ、こちらをご覧になって利用者さんへのご説明の際にお役立てください。 ※屋内や夜間でも熱中症になりやすい高齢者の脱水・熱中症について「暑い時期は要注意!高齢者の脱水症予防」でも解説しているので、ぜひご参照ください。 【参考】〇厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた熱中症予防のポイントをまとめました」2022/07/12閲覧https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_coronanettyuu.html 記事編集:NsPace編集部

特集 会員限定
2022年7月19日
2022年7月19日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~これからの訪問看護ステーションに求められること~

2022年4月20日に開催したオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第2回となる今回は、改定によって「これからの訪問看護ステーションには、なにが求められるのか」についてお届けします。※約60分間のセミナーのから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 ・地域医療機関や住民への情報提供 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 --> ▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 2024年以降は病院の病床数を減らし、その分訪問看護をもっと活用していこうという流れがあるなかで、今回の診療報酬改定では「機能強化型1」「機能強化型2」にあたる訪問看護ステーションの単価が増額されました。その代わりに、以下のとおり新たに求められることも増えています。 ・地域医療機関や住民への情報提供 訪問看護の利用拡大に向けた課題のひとつに、「訪問看護がどういうときに使えるか、どんなメリットがあるか」が十分に理解されていない現状が挙げられます。病院の医師や看護師を含め、「訪問看護は、点滴など何らかの処置が自宅で必要になったときに利用するもの」だと思っている方も多いですが、実際はそうではありませんよね。みなさんご存じのとおり、病状を観察したり、患者さんの家族の相談に応じたりといった対応も行っています。そうした「訪問看護に関する正しい情報を、地域の医療機関や住民に発信する」ことが、機能強化型1、機能強化型2の訪問看護ステーションに新たに求められます。 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 訪問看護ステーションのなかでも、機能強化型1、2に分類される施設には多くの看護師が在籍していて、看取りの対応や重症の患者さんの看護経験も豊富な傾向にあります。そこで、機能強化型1、2の訪問看護ステーションで培われた「質の高いノウハウを、地域のそのほかの訪問看護ステーションに研修で伝える」ことが義務づけられました。これにより、各地域の訪問看護の品質を底上げすることが狙いです。 この「研修」の内容や期間については、現在のところ明確な基準は特にありません。訪問看護の品質向上やより幅広い利用につながるものであればOKとされています。例えば、地域の訪問看護ステーションと連携して事業継続計画(BCP)を策定し、その内容を研修や訓練という形で共有する。または、地域の医療従事者の方々に訪問看護に同行してもらい、実際の現場の様子を見せながら研修を行うといったことが挙げられるでしょう。 なお、研修の形式はオンラインでも可能とされています。ご自身の事業所の状況に合う研修の形を考えてみてください。 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を 今回の改定で注目したいポイントのひとつが、すべての機能強化型訪問看護ステーションに「在宅看護に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましい」という記載があることです。「在宅看護に係る専門の研修」とは、具体的には以下のとおりです。 ・日本看護協会の認定看護師教育課程・日本看護協会が認定している看護系大学院の専門看護師教育課程・日本精神科看護協会の精神科認定看護師教育課程・特定行為に係る看護師の研修制度により、厚生労働大臣が指定する指定研修機関において行われる研修 なお、2022年の改定では「配置されていることが『望ましい』」という記載にとどまっていますが、2024年にはおそらく配置が『必須』になると予想されます。次回の改定の際に焦ることのないように、今後2年間のうちに専門の研修を受けた看護師の配置を実現できるよう対応を進めておくことをおすすめします。 ▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に もうひとつ今回の改定で義務づけられたのが、業務継続に向けた取り組みの強化、つまりはBCPの策定です。感染症や非常災害が発生した際も利用者に訪問看護の提供を継続的に実施すること、もしくは非常時の体制で早期にサービス提供の再開を図ることを目指します。なお、BCPの策定は2021年の介護報酬改定でも義務づけられています。その際に対応している場合は、同じ内容で問題ないでしょう。 ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 BCPの策定にあたって知っておきたいのが、24時間対応体制の構築における複数の訪問看護ステーションの連携ルールが変わったことです。これまでも、2つの訪問看護ステーションが連携して24時間対応をした場合であっても、「24時間対応体制加算」の算定は認められていました。ただし、特別地域もしくは医療資源が少ない地域に所在する訪問看護ステーションのみという条件がついていたのです。 しかし今回の改定では、前述の条件に加えて、自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションでも算定が認められることになりました。「自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワーク」とは、具体的には以下の3つを指します。 ・都道府県、市町村または医療関係団体等が主催する事業・自然災害や感染症等の発生により業務継続が困難な事態を想定して整備された事業・都道府県、市町村または医療関係団体等が当該事業の調整等を行う事務局を設置し、当該事業に参画する訪問看護ステーション等の連絡先を管理している なお、医療資源が少ない地域の訪問看護ステーションと、(特別地域もしくは医療資源が少ない地域にある)地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションとが連携した場合も、24時間対応体制加算の算定が可能です。 次回は、「押さえておきたい変更点のポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年7月19日
2022年7月19日

【管理栄養士のアドバイスvol.9】高齢期の糖尿病管理

この連載では、在宅訪問栄養指導の経験豊富な管理栄養士の稲山さんから、在宅患者さんに接する機会が多い訪問看護師だからこそできる、観察・アドバイスの視点をお伝えします。第9回は、高齢期糖尿病管理の注意点と実際を紹介します。 最近歩けなくなってしまったんです…… あるとき、私のもとにこんな相談がやってきました。相談者は、80歳代のお母さまを介護する息子さんです。お母さまは、元気だったころから糖尿病を患っていました。要介護状態となり自分で食事の準備ができなくなった今は、息子さんが食事の管理をされています。 「最近歩けなくなってしまったんです」。相談内容は、お母さまの体力が落ちて、歩くのが困難になってしまったということでした。 「主治医の先生には、『糖尿病の数値は落ち着いていて、食事の管理がしっかりできている』ってほめられます。でも体力が落ちてきてしまって、どうしたら母は元気になるんでしょうか? 糖尿病だから好きなものを何でも食べさせるわけにはいかないし」 糖尿病だからたくさん食べてはいけない、でも体力をつけるためには栄養をとらなければいけない。こんなジレンマに悩まされていたのです。 これが、高齢期の糖尿病管理の難しさです。壮年期に行っていた厳しいエネルギー管理を継続することは、ときに、低栄養やサルコペニアの引き金になってしまう可能性があるのです。 高齢期糖尿病の管理方針 日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2019」1)には、高齢者の糖尿病について以下のように記載されています。 ・高齢者の低血糖は、自律神経症状である発汗、動悸、手のふるえなどの症状が減弱し、無自覚低血糖や重症低血糖を起こしやすい。低血糖の悪影響が出やすい。 ・厳格な血糖コントロールよりも、安全性を重視した適切な血糖コントロールを行う必要がある。 ・高齢者糖尿病の血糖コントロール目標は、(中略)「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を参考にして、さらに心理状態、QOL、社会・経済状況、患者や家族の希望などを考慮しながら、個々の患者ごとに個別に設定する。 ガイドラインの記載からもわかるように、高齢期の糖尿病管理は血糖値やHb1Acの推移だけをみていてはいけなのです。周辺情報を確認しながら、ときには、厳しい食事制限を緩和し適切に「食べる」サポートをすることも重要です。 実際の指導 私が行った実際の指導方針は以下のとおりです。 コントロール目標の緩和 真面目な息子さんは、お母さまの病状が悪化しないように、HbA1c6.0%未満を維持するように食事管理をしていました。 そこで、・高齢期の血糖コントロールについては、生活機能を維持するという視点から目標を緩和して構わないこと・今は、糖尿病の病態だけでなく、生活機能をどう維持するかを考えなければならない時期であることをお伝えしました。 お母さまは、重症低血糖が危惧される薬剤の使用はなく、基本的ADL低下の状態であり、主治医と相談し、コントロール目標をHbA1c8.0%未満注1と設定しました。 注1「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」で、重症低血糖が危惧される薬剤の使用なし・基本的ADL低下の状態の高齢者では、目標値は8.0%未満とされている2、3) 具体的な食事のとりかた 糖尿病のコントロール目標を明確化したうえで、改めて食事のとりかた(お役立ちツールの「糖尿病食事管理のコツ」を参照)を指導しました。 ・ 食事全体の量:糖尿病の病態や年齢、ADLによって適正量が変わるので、主治医の先生や管理栄養士に確認しましょう。・ バランス良く:主食・主菜・副食を揃えて、バランス良く栄養をとりましょう。・ 食べる順番:野菜から先に食べることで血糖値の急な上昇を抑えることができます。 このような指導を行い、食欲の維持、また不足していたビタミンの摂取を目的として、それまで控えてきた果物の提供を再開することとなりました。 血糖測定時間の改善 息子さんがお母さまの血糖測定をご自宅で行っており、測定値がカレンダーに記載されていました。その血糖値ですが、食べている量やHbA1cを考慮するとどうも高いのです。 不思議に思って詳しく聞くと、食後2時間の血糖を測定するつもりが、食事開始から2時間後の血糖を測っていることが判明。そして、このお母さまは食事に約1時間かかっていたので、すなわち食後1時間の時点で血糖を測っていたのです。 食後1時間ではまた血糖が下がりきっていないので、測定値が高く出ていたというわけです。息子さんに、食事が終わってから2時間後に測定することを指導し、その後は正確な測定値の推移を知ることができました。 おわりに このように高齢者の糖尿病管理は、その方の生活や暮らし、ADLなど、多角的に判断をしながら食事療法を行う必要があります。皆さんの周りの糖尿病の方はどのような管理を行っているでしょうか? コントロールに苦慮する場合は、ぜひ訪問の管理栄養士に介入を依頼することも検討してみてください。 ー第10回へ続く 執筆稲山未来Kery栄養パーク 代表管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、健康咀嚼指導士新宿食支援研究会認定栄養ケアステーション管理者、東京都栄養士会新宿支部役員在宅訪問管理栄養士として訪問栄養指導を行う傍ら、フレイル予防講座や栄養講座など地域の高齢者に向けた栄養普及活動も行っている。記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)日本糖尿病学会.『糖尿病診療ガイドライン2019』東京,南江堂,2019,319-28.2)日本老年医学会・日本糖尿病学会.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』東京,南江堂,2017,46.3)日本糖尿病学会.『高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について』http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=66 2022/06/22閲覧4)後藤昌義ほか.『新しい臨床栄養学』改訂第4版.東京,南江堂,2005,305p.

特集
2022年7月19日
2022年7月19日

地域食支援の実践

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第2回は、前回に続いて本研究会代表の五島先生(歯科医)から、研究会の活動について紹介します。 歯科医の私でも想像すらしていなかった 「口から食べることが難しくなる」ということは、一般の人には想像しにくいことです。私自身、歯学部で学んだ6年間、卒業後に歯科医師として勤務していた5年間は、想像すらしていませんでした。もちろん、入れ歯の不調で食べられない人はいましたが、それは入れ歯の問題としてだけ考えていましたから。 ですから、訪問診療を開始して、噛めない人・飲み込めない人・食べようとしない人と初めて接したときは衝撃でした。そして、口から食べられない理由が多くあることも初めて知りました。 「口から食べられない」には多職種の関与が必要 口から食べられない理由は大きく3つ。環境、機能、認知の問題です。 環境面は、口の状況だけではなく、食べるときのいすやテーブル、食事姿勢、食具など、多岐にわたります。 機能面では咀嚼、嚥下、さらには胃腸の状態など全身状態も関与します。 認知面では、食事そのものの認知も含めて、食べる雰囲気づくりが必要になってきます。 そうなんです。口から食べられない問題は多岐にわたるので、歯科やSTだけでなく、多くの分野のプロフェッショナルの関与が必要になるのです。これが、多職種による食支援なのです。 新食研は小チームの集合体 そこで、2009年に新宿食支援研究会を立ち上げました。最初は15名ほどでスタートしましたが、10年以上の月日を経て、現在23職種、160名が所属しています。医療、介護の専門職のみならず、食品メーカーや車いすメーカーの方なども参加しています。 これだけの人数が、定例的に集まって何かをディスカッションしている……わけではありません。多いときは20以上のワーキンググループがあり、5~10人程度の小クラスで、それぞれテーマを持ってミーティングを開催してきました。 たとえば、食事姿勢を考えるチーム、食事動作を快適にする食具開発チーム、地域の宅配弁当サービスをより良くするチームなど。その集合体が、「新宿食支援研究会(新食研)」なのです。 他所属連携の試み 「地域食支援チーム」などというと、病院のように、医師・看護師・セラピスト・栄養士などが集う一つのチームがあり、そのチームで患者に相対するイメージが多くみられます。そのようなことは地域では不可能です。東京都新宿区では、在宅主治医が数百名単位、訪問看護ステーションが50か所、介護事業所が100か所以上あります。このような単位で、一つのチームづくりを考えるのはナンセンスです。 そこで重要なのは「他所属連携」です。 地域で多職種が集うケースでは、他所属が基本になります。所属も職種も違えば勤務時間も形態も異なります。さらには辞職や移動などもあります。このような状況で永続的なOne Teamを目指すことはできません。だからこそ、意識の高い専門職をその地域で多く作り出すことが不可欠になってきます。 新食研は、まさにそのような人材づくりの場なのです。 地域単位での多様な連携で結果を出す 「他職種連携」「多職種連携」という言葉があります。私は次のように定義しています。 他職種連携は、「各現場(患者)で、必要な職種が集い、連携をとりながら結果を生み出すこと」。 多職種連携とは「地域単位で多くの職種が交わり、多様な連携を行うことで多彩な結果を残していくこと」。 新食研はまさに多職種連携であり、その連携があるからこそ、各現場で「他」職種連携をして結果を出していけるのです。 モットーはMTK&H® 新食研の活動は、現在コロナ禍のため、オンラインやハイブリッドでワーキンググループを開催しています。このような体制になり、新食研はニ方向の大きな流れを作りました。一つは、知識・技術を高めていくこと。もう一つは地域(新宿)のネットワークづくりです。 知識・技術を高めるグループは、地域の垣根をつくることなく、新宿にこだわらずオープンな企画として開催しています。地域のネットワークづくりとして、社会福祉協議会や地元のボランティア団体とも交流を始めました。食支援が必要になったとき、一般市民と専門職とのマッチングができることを目標としています。 さて、このような地域の食支援を考えるとき重要なことは、必要な人に食支援を届け、結果を出すことです。そのためには「食や栄養に異常がある人を見つける人」「適切な支援者につなぐ人」そして「結果を出す人」を、地域でつくりつづけることです。そのために専門職は、食や栄養の知識・意識を、地域に広めていかなくてはなりません。 新食研では「見つける(M)、つなぐ(T)、結果を出す(K)、そして広める(H)」(MTK&H®)をモットーにして活動の根幹にしています。 訪問看護師が見つける、つなぐ、結果を出す、そして広める 新食研の活動のなかでも重要なポジションにあるのが、「訪問看護師による口腔ケアの実践」チームです。毎回、症例をみながら歯科関係者を交えてディスカッションを行っています。 在宅医療を受けるようになると、歯科に受診できないケースが多くなります。まだまだ訪問歯科は地域活動としてマイナーで、多くの人が受診できる体制はありません。この状況で、在宅医療の中心となる訪問看護師が、口の状況を確認し、口腔ケアを実践し、必要なときは訪問歯科につなげていく。まさにMTK&H®なのです。 残念ながら、在宅医療者は、食や栄養に対する意識が高いとはいえません。しかし、このような活動を通して早期に異常を見つけることで、回復する高齢者も多くなるでしょう。訪問看護は、在宅医療のみならず、地域食支援の核なのです。 ー第3回へ続く 五島朋幸ふれあい歯科ごとう新宿食支援研究会代表 新宿食支援研究会ポータルサイトhttps://shinshokuken.com/ 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年7月19日
2022年7月19日

[3]FAXを送るときに気をつけたい! 6つのポイント

訪問看護師の方に知ってほしいマナーについての連載です。第3回は仕事でFAXを使ってやりとりする際のポイントをマナーの視点で考えます。FAXを送る際に気に留めてほしいポイントをまとめましたので、ぜひご覧ください。 FAXは、一般には利用頻度が減少傾向にありますが、訪問看護領域やその周辺ではまだまだ活用されている印象があります。私は日ごろから、FAXを使ったやりとりには、マナーに対する姿勢や考え方が反映されやすいと感じています。今回は、FAXを送るときに留意してほしいポイントを6つご紹介します。どれも普段から心がけているという方には確認としてお読みいただけましたら幸いです。 ポイント① 情報漏えいのリスクに配慮する FAXの送り先がどのような環境で受信するかは、先方の事業所の規模や業務内容などによってさまざまです。受信機が相手のデスクのすぐそばにあることもあれば、小さくない事業所でも建物内に1か所にしかなく、多くのスタッフで受信機を共有している場合もあります。受信機の場所によっては、来訪者の目に触れる可能性もあります。考えてみると、FAXは電話やメールよりも情報漏えいのリスクが高い通信手段ですね。 情報漏えいが起こってしまうことで、利用者さんや関係者にも迷惑がかかってしまいます。こうしたことが起こらないように配慮するのは、FAXのやりとりにおいて最も重要なマナーといえるでしょう。当然ながら、機密文書や親展の書類はFAXでの送信を避けるべきです。 情報漏えいを防ぐ観点から、次の点にも留意します。 FAXの送信前後に電話で連絡をする 忙しい中、相手をわずらわせるのではないかと電話連絡を控えるのは、逆にマナー違反といえるでしょう。送信相手に確実にFAXを届けるために、できるだけ送信する旨を電話で伝えてから送信するようにします。状況により事前に連絡できなかった場合は、送信後に電話をします。送信相手が不在の場合は、電話に出た人に、FAXを送信相手の机上に置いていただけるようにお願いします。 FAX番号の確認 送り先のFAX番号の押し間違いが絶対に起こらないとは言えません。あわてずにしっかりと番号を確認し、入力します。頻繁にやりとりすることが考えられる相手は、テスト送信を行った後、番号を登録しておいたほうがよいでしょう。便利なだけでなく誤送信のリスクを減らせます。 もし誤送信してしまったら、即座に誤送信先に連絡をとり謝罪します。そして、送信した書類を破棄していただくようお願いします。FAX番号しかわからなければ、誤送信のお詫びと書類破棄のお願いを記載したFAXを送信します。 ポイント② 送信する書類は黒い部分をできるだけ少なく 送信書類の文字や段落に黒やグレーでアミ掛けをし、紙面にめりはりをつけて見やすく工夫している事業所があります。その配慮はうれしい反面、受信機のインクが大量に消費されてしまうので少し迷惑でもあります。電話やメールのやりとりに比べると、インクコストがかなりかさみます。ですから、できるだけ送信先の負担が小さくなるよう配慮することも大切なマナーです。 実は以前、ある事業所から大変アミ掛けの多いFAXを頻繁に受信した時期がありました。FAX受信機には、スキャナー機能も有した複合機(複合機を使用している小規模事業所は少なくないと思います)を利用していたのですが、インクがすぐになくなり交換頻度が高くなってしまい、残念な思いをしました。 しかし、そのことを先方には告げづらく、そのうち、こちらからはその事業所に積極的に連絡をしなくなってしまいました。 このような経緯があり、黒い部分が少ないFAXを受け取ると、マナー意識が高いと感じるようになりました。FAX送信する書類では、黒やグレーのアミ掛けは控えて、罫線も必要最小限に、イラストを配するならシンプルな線画にしてみるのはいかがでしょうか。インクの消費量を抑えるだけでなく、読みやすさもアップするのではないかと思います。 ポイント③ 写真のFAX送信は慎重に 皮膚症状や創部の変化などを知らせるために、その部位を写真撮影し、プリントした画像をFAXで送信することもあるかと思います。 しかし、この方法はおすすめできません。手元のカラープリントではしっかりと認識できている写真でも、FAXで送信してしまうと、受信側ではただただ一面に黒く、何が写っているのかさえわからない画像に変わってしまう場合があります。 前出のインクコストのことも考えると、写真はデータをメールで送付する方法が一番伝わりやすい手段だと思われます。 それでもFAXで送信しなければならない場合は、送信後に相手に電話で写真の状態を確認し、補足説明をする必要があるかもしれません。 ポイント④ ファイリングしづらくないよう書類を作成する FAXで届いた書類は、ポケット式ファイルやパンチ式ファイルなどに綴じることが多いと思います。ファイルに綴じたときのことを考え、書類のレイアウトにも配慮するとよいでしょう。 文書の左側や上側は、ファイリングするときにパンチで穴を空ける可能性があるため十分にスペースを空けます。紙面いっぱいに文字があると、文字の位置とパンチの穴が重なってしまい、報告書の項目が見えなくなってしまったという話を何件か聞きました。 また、パンチ式もポケット式も書類の数が多くなると、ファイルを開いた際に開ききらず綴じ側が見えづらくなることがあります。その点も配慮してスペースをつくる必要があります。 加えて、各書類の書式やデザインは、頻繁に変更しないことをおすすめします。ファイリングすると、落ち着きがなくうるさい印象をもたらし、安定感のない事業所であるようなイメージにつながってしまいます。 ポイント⑤ 書類に使う文字サイズや書体選びにも配慮を 最近は文字書体のバリエーションが豊富になり、手軽に自由にさまざまな書体を選んで使えるようになりました。 しかし、ビジネスシーンでは書体選びに慎重にならなければなりません。書体は思った以上に、書類の印象を左右します。 私の出身地の茨城県行方市では数年前から株式会社モリサワの連携協力を得て、市報などにUD(ユニバーサルデザイン)フォントを使用しています。以前のものと書体の変化はあまり感じないのですが、読みやすさなど細部に多くの工夫が施されたフォントなので、市報を読んだ知り合いの多くが「どこが変わったかよくわからないが、すごく読みやすくなり、雰囲気がよくなった」と言います。このように、書体1つで紙面の印象が変わるケースはよくあります。 ちょっとした工夫のつもりで、例えばFAX送信状の一部の文字に少し変わった書体を使用すると、小細工感が漂うとでもいいましょうか、うるさく感じる人もいるようです。デザインのプロでなければ、少し変わった書体をバランスよく配置するのは難しいのです。 ですから、使用する文字の書体は、一般的な明朝体やゴシック体がマナーの観点からはおすすめです。 また、小さな文字は避けるなど、文字のサイズにも配慮が必要です。小さな文字は送信先の受信機によってはつぶれて読めなくなることもあります。 ポイント⑥ 手書きの部分はていねいに書く この記事を書くにあたり、訪問看護師のみなさまと、業務でやりとりしている方たち数名にお話を伺ったところ、FAXの宛名に関するお話がいくつか聞かれました。FAX送信状の宛名部分は手書きで記すことが多いと思います。宛名の文字が雑に書かれていると、いかにも忙しそうな雰囲気が伝わり、あまり気持ちのよいものではないそうです。 パソコンで作成した文書の中、少ない手書きの文字は目立ちます。心を込めて、ていねいに書きたいものですね、自戒の念も込めて。 ー第4回へ続く 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案著者。記事編集:株式会社照林社

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