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2021年11月9日
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脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症とは、小脳を中心とした神経系の障害によって、運動失調症をきたす複数の疾患を、まとめて指す呼び方です。 病態 脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)とは、単一の疾患名ではなく、主に小脳の障害による運動失調症をきたす疾患の総称です。例えば、多系統萎縮症の一部に、運動失調症を呈するものがあり、それらは脊髄小脳変性症に分類されます。 小脳失調とは 小脳は、平衡感覚や運動、姿勢を制御しています。姿勢、手足の動きのバランスをとる、体中の複数部位の動きが協調するよう同時にコントロールする、といった運動調節機能を担っています。 小脳が障害されると、小脳失調が現れます。小脳失調とは、スムーズな動きができなくなり、歩行時にふらつく、手が震える、ろれつが回らないなどの症状です。 小脳失調があっても、その原因が特定の要因によるもの(脳梗塞・脳出血や脳腫瘍、感染症、自己免疫疾患、栄養素欠乏、薬剤性など)は、脊髄小脳変性症とは呼びません。 脊髄小脳変性症には、小脳失調だけではなく、脊髄病変もしくは錐体路障害がある場合もあります。 疫学 脊髄小脳変性症の患者数は全国で3万人超と推定されています。 脊髄小脳変性症は、遺伝性のものとそうでないものに大きく分けられます。全体の3分の2が、遺伝性ではない脊髄小脳変性症(孤発性)です。多系統萎縮症と、皮質性小脳萎縮症の2つが、孤発性脊髄小脳萎縮症です。 残り3分の1が遺伝性の疾患で、代表的なものにマシャド・ジョセフ病(SCA3)や、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)などがあります。遺伝性の脊髄小脳変性症では、多くの疾患で、原因となる遺伝子が明らかになっています。 受給者証所持者数 2019年度末時点での、脊髄小脳変性症の受給者証所持者数は約2.7万人です。そのうち、70歳以上が約1.4万人と、過半数を占めています。(※1)なお、制度上、脊髄小脳変性症と多系統萎縮症とは、別の指定難病として認定されています。 症状・予後 脊髄小脳変性症の代表的な症状には、立ち上がりや歩行時にふらつく、手を動かそうとすると震えてうまく使えない、舌がもつれてうまく話せないといったものがあります。体は動かせるのですが、いくつもの動きを協調させることが困難になり、スムーズな動きができなくなるためです。 小脳失調よりも、足の突っ張りや歩行障害などの症状が目立つ、脊髄病変がある疾患もあります。脊髄後索病変があると末梢神経障害の合併、大脳基底核に病変があるとパーキンソン症状や不随意運動の合併がみられます。このような病型は多系統障害型と呼ばれます。 脊髄小脳変性症の予後は疾患によりかなり異なりますが、症状の進行は非常に緩やかで、急激に悪化することはありません。疾患によっては、進行すると嚥下障害や呼吸や血圧の調節障害などが現れることがありますが、多くの場合はコミュニケーションをとることは十分できます。 治療法 疾患により治療法は変わります。症状に応じて対症療法が行われます。小脳失調に対しては、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)製剤などが使用されます。また、足の突っ張りなどの神経症状には筋弛緩薬が使用される場合もあります。 小脳失調を中心とする脊髄小脳変性症では、集中的なリハビリテーションもバランスや歩行の改善に効果があるとされています。 リハビリテーションのポイント ●環境整備や福祉用具の検討など、症状や生活習慣に合わせた対策をとる●本人の歩行能力とバランス能力に応じたプログラムを計画する●基本動作訓練と組み合わせ、ADLに関連した作業療法も検討する●嚥下障害に対し、食形態や食事姿勢、食器の見直しなども含めて摂食嚥下リハビリを検討する など 看護の観察ポイント ●小脳失調以外は患者によって症状が異なるため、疾患名や症状の見通し、ADLへの影響などを、医師に確認する●転倒予防策など環境整備の状況を確認する●どのくらいの頻度・どんな状況で転倒するのか確認する●日常生活やセルフケアに支障をきたす症状の有無を確認する●症状の変化を確認する●患者が、家族・介護職など周囲と意思疎通を十分に図れているかを確認する●患者・家族が不安やストレスを抱えていないかを確認する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 ※1 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病.令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01.○難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4879○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)』『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/4880○「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』東京,南江堂,2018,297p.

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2021年11月9日
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第5回 賃金・退職・懲戒・解雇編/[その1]固定残業代、正しく理解・運用できていますか?

「固定残業代」は、適切に運用ができていないと事業者としてとても大きなリスクを負うことになりますが、正しく運用できていない事業所は少なくありません。ある日突然、元従業員から数百万円や、場合によっては1000万円を超える請求がくることもあります。法的に正しい知識を理解して、就業規則や運用の見直しを進めましょう。 私の事業所は残業が多いので、従業員に対して、基本給30万円に加えて、固定残業代として毎月5万円を支給しています。固定残業代を毎月払っているのですから、いくら残業させても問題ないし、残業代の計算はしなくても大丈夫ですよね? いいえ、残業時間は管理しなければなりませんし、固定残業代を超えた分の残業代は必ず支払わなければなりません。 固定残業代とは 「固定残業代」(「みなし残業代」や「定額残業代」とも呼ばれます。)とは、時間外労働や休日労働や深夜労働に対して支払われる割増賃金(これを俗に「残業代」と呼びます。)を、あらかじめ、一定額支払っておく制度のことをいいます。 この「固定残業代」は、ご質問のように、「固定残業代を毎月払っているのだから、いくら残業させても問題ないし、残業代の計算はしなくても大丈夫」と誤解されていることが多くあります。例えていうならば、固定残業代を、携帯電話の「ネット無制限使い放題」のようにとらえているわけです。 しかし、そのような完全な固定残業代制度というものは、労働基準法37条に違反するため許されません。 固定残業代とは、携帯電話で例えるならば、「ネット5ギガ使い放題」のようなものです。5ギガまではネット回線の利用料金は別途かからないわけですが、5ギガを超えて使う場合は、別途利用料金を支払わなくてはならないわけです。 固定残業代の考え方もこれと同じで、例えばご質問のケースのように5万円の固定残業代を毎月支払っているならば、残業代は5万円までは支払わなくてもよいですが、5万円を超える残業をさせた場合は差額を支払わなくてはいけません。ある月に7万円分の残業をさせたならば、2万円の差額を別途支払う必要があるということです。 そのため、いかに固定残業代を支払っていたとしても、月々の労働時間・残業時間はしっかりと把握しておく必要があります。そうしないと、一体いくらの差額が発生しているのか把握できず、差額を支払うことができないためです。 固定残業代制においても月々の労働時間・残業時間の管理は必要です。固定残業代を超えた差額分の残業代は必ず支払いましょう。 私の事業所では、事業所の事務長に対して、基本給として30万円を支払い、職務手当として10万円を支払っています。職務手当は、事務長という重要なポジションについていることに対する役職手当としての意味と、固定残業代としての意味があります。ただし、職務手当10万円のうち、いくらが役職手当で、いくらが固定残業代なのかは明確にしていません。この場合、10万円分の固定残業代を毎月支払っているのですから、それを超える残業代の差額のみを支払えばよいのですよね?いいえ。この場合、固定残業代という制度自体が無効になる可能性があります。 固定残業代が有効になるための要件 これまでに述べたとおり、固定残業代は、その額の分を超えて残業をさせた場合は、必ず差額を支払わなければなりません。 ここから、固定残業代が有効といえるための要件が導き出されます。すなわち、①固定残業代が、時間外労働などの割増賃金の「対価」として支払われていること(対価性の要件)、②その割増賃金部分が、他の賃金と判別することができること(判別可能性の要件)です。 少しわかりにくいと思いますので、具体的に見ていきましょう。 ①について。ご質問のケースでは「職務手当」という名称がついていますが、これだと「固定残業代」とは別の名称であるため、一見して、それが割増賃金の代わりに支払われているということがわかりません。そういった場合、事業所が、「この職務手当は、固定残業代として支払っているのですよ」と主張しても、裁判所に信用してもらえないことがあります。手当の名称ですべてが決まるわけではありませんが、少なくとも給与規程や雇用契約書において「その手当を割増賃金の対価として支払っていること」を明記しておくべきです。 次に②について。ご質問のケースを例にとれば、「職務手当」として10万円を支払っており、その中には、役職手当としての意味と、固定残業代としての意味が両方含まれているということです。この時、例えば「役職手当4万円、固定残業代6万円」のように、固定残業代の金額を、他の賃金から区別することができるのであれば、労働者としては、「固定残業代6万円を超えて残業したら、別途差額を支払ってもらえるんだな」と理解できるわけです。 しかし、ご質問のケースのようにその内訳が不明確な場合は、労働者の立場からすると、「固定残業代は10万円のうち一体いくらで、自分はどれだけ働いたら固定残業代を超える分の差額を支払ってもらえるのか」という点がわかりません。 もしも無効とされた場合は・・・・・・ そうすると、固定残業代制は無効とされるリスクが出てきます。無効となった場合は、割増賃金を算定する際の基礎賃金が40万円(30万円+10万円)に跳ね上がり、さらに、固定残業代はこれまで一切支払っていなかったことになるわけですから過去にさかのぼって割増賃金を払い直すことになるという「ダブルパンチ」をくらうことになります。 その結果、固定残業代が無効と判断された場合は、通常の残業代の未払い案件よりも支払うことになる残業代の額が高額になりがちです(1000万円を超えることもあります)。 現場の対応 そのため、(1)就業規則(給与規程)において固定残業代が割増賃金の対価として支払われるものであることを明記し、(2)個別の雇用契約書において、固定残業代の額と、そこに含まれる時間外労働などの時間数を明記し、(3)さらに、給与明細において、「固定残業代」といった費目を設けて他の賃金と明確に区別して給与を支給し、(4)固定残業代分を超える残業をしてもらった場合には、毎月差額を支払っておく必要があります。なお、(2)について、少なくとも、固定残業代に含まれる時間外労働の時間数は、36協定の延長限度時間である45時間を超えないようにしておくべきでしょう。 固定残業代が有効といえるためには2つの要件が必要です。①固定残業代が、時間外労働などの割増賃金の「対価」として支払われていること(対価性の要件)②その割増賃金部分が、他の賃金と判別することができること(判別可能性の要件)  ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/ 記事編集:株式会社照林社

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2021年11月2日
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第2回 心不全患者の療養生活を支えるために

心不全患者の再発・重症化予防のための地域ぐるみの取り組みが進んでいます。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションでは連携して、病院の医師と訪問看護師が医療とケアの両面で在宅療養者を支えています。療養指導の質を高めるための新しい認定資格「心不全療養指導士」は、心不全患者の日常生活指導などを行う場面で力を発揮しています。心不全療養指導士の資格を持つ、博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長にお話を伺いました。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」は、心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職のための認定資格で、看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、臨床工学技士、歯科衛生士、社会福祉士などが取得できます。特に実務経験は問いませんが、資格取得のために提出する5症例の症例報告書のためには、実質的に心不全患者の療養にかかわる実務経験が必要になります。あくまでも医療専門職のための制度で、医師は対象ではありません。2021年度から制度が開始され、第一期の資格取得者1,771名が活動を始めています。黒木さんも第一期取得者の一人です。 ― なぜ、心不全療養指導士の資格を取ろうと考えたのですか。 私どものステーションは循環器疾患の利用者さんに特化しているわけではありませんが、福岡大学病院との連携で、退院後の心不全療養者への援助が増えてきています。心不全患者の再発や急性増悪を防ぐためには、食事指導・運動指導・服薬指導などの日常生活援助が決め手になります。 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師も、在宅での生活指導・保健指導については私たち訪問看護師に任せてくださっています。療養者の生活に責任をもって関わるうえで、医学的なエビデンスも含めて知識・技能のレベルアップを図りたいと考えていたところ、日本循環器学会で新しい資格制度をつくるという情報を知ったのがきっかけです。 ― 資格を取るためにはどのようなプロセスが必要ですか。 学会が示している資格取得のためのフローチャートを以下に示しました。 心不全療養指導士・資格取得までの流れ(抜粋) 日本循環器学会ホームページ 『資格を取るまでの流れ』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/flow/)を参考に作成 まず、日本循環器学会の会員になることが条件です。会員になったら、最初にeラーニングを受講します。総受講時間は6時間半弱で、非常に多岐にわたる講義が用意されています。「心不全の概念」「心臓の基礎疾患の特徴」「薬物療法」「非薬物療法」などの医学的内容から、「栄養管理」「服薬アドヒアランス」「心理的指導」などの療養支援の基本に関する講義まで幅広いテーマです。中でもとても勉強になったのが「療養指導に必要な患者指導の考え方」「療養指導の評価および修正」「認知機能低下のある患者への対応」など、患者指導の技術でした。 勤務を続けながらの受講でしたので、自宅に戻った夜や休日の自分の時間を有効に使いました。eラーニングはいつでもどこでも自分の裁量で時間の都合をつけられるので便利です。 eラーニング講習の後、症例報告書を提出します。症例はすべて異なる患者で2テーマ以上5例作成します。テーマ例としては、「ステージ別心不全患者の療養指導」「高齢心不全患者への療養指導」「多職種連携、地域連携の強化が必要な心不全患者への療養指導」などが挙げられています。最終的に認定試験を受けて審査があり、合否が決まります。eラーニング受講から約10か月の期間で取得できます。 ― 心不全患者の再入院を防ぐ取り組みで効果がみられた症例をご紹介ください。 70歳代の女性の利用者さんで、入退院を繰り返しておられました。独居の方で在宅に戻って2週間もすると必ず再入院となるのです。家で療養していると、浮腫が出て息切れが続き、また入院となるということの繰り返しでした。 私たちが週2回、訪問看護に入ることになって様子を見ていると、昔からの食生活を続けていることが原因であることがわかりました。梅干しが好きで、いつもご飯と一緒に食べておられ、さらにハムなどの加工食品で過剰な塩分を摂取されていました。本人も入退院を繰り返すのは嫌で、家でずっと暮らしたいとおっしゃっていました。 そこで、食事指導を徹底しました。塩分の摂りすぎがどうして心臓の負担を増やしてしまうのかというしくみからお話しして、毎食の塩分チェックを継続していきました。主治医とも相談して、むくみの程度によって利尿薬の増減についてご指示いただき、コントロールするようにしました。 別居している家族の方からも「私たちが言っても聞いてくれないけど、看護師さんの言うことは聞くみたいですね」と言われました。専門職が週2回入ってきっちりお話しすることで、この方の意識も変わっていったようです。日常生活の立て直しができて、再発・入退院を繰り返すことがなくなりました。 心不全の方は入院してつらい思いをしても、軽快するとすぐ忘れてしまい、元の状態に戻りがちです。食事や運動などの行動を変えていただくのは非常に難しいことだと思いますが、身体のしくみや薬が効くメカニズムなどを丁寧に説明すれば理解してくださいます。 一方的に「指導」するのではなく、行動科学的なアプローチによって行動変容を「促す」関わりが大切だと思います。そういう意味でも「心不全療養指導士」の資格はとても役に立っていると感じています。 * 心不全療養指導士の役割の1つとして、「医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師やほかの医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献する」という項目があります。心不全患者の重症化・再入院を防ぐためには、病院だけでなく地域ぐるみの多職種の連携が不可欠です。チーム医療推進の要として活躍する「心不全療養指導士」の役割は、今後ますます大きくなりそうです。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長 大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

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2021年11月2日
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Dr.高山が直伝 在宅のノロウイルス感染症対策(前編)

急性胃腸炎を引き起こす病原体のなかでも、特に問題になるノロウイルス。この悩ましい感染症について、在宅ケアでの対策を考えてみましょう。前後編でお届けします。 ノロウイルス感染症の特徴 ノロウイルスは、感染力が強いため、しばしば地域で集団発生を引き起こします。通常は2~3日程度で軽快しますが、感染後約2週間は、便からウイルスを排出しているといわれます。 一度かかると免疫ができますが、免疫効果も6か月で低下し、2年で完全に消失します。 健康な人であれば、水分を摂取しながら「寝ていれば治る病気」です。しかし高齢者では、脱水が進んで多臓器不全をきたすことや、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息を起こすこともあります。また、高齢者では誤嚥性肺炎を続発することもあり、下痢が治まってからも見守りが必要となります。 ノロウイルスの感染経路 ノロウイルスに感染すると、腸内でウイルスが増殖し、感染者の嘔吐物や排泄物を介して、他者に感染伝播します。 具体的には、食中毒、接触感染、空気感染に大別されます。 食中毒 感染している人が調理した食物を、食べることによる伝播接触感染 感染している人の嘔吐物や排泄物を、直接触れてしまうことによる伝播空気感染感染している人の嘔吐物や排泄物が、乾燥して飛散することによる伝播 在宅で必要になる感染対策 在宅における感染対策としては、感染者の嘔吐物や排泄物を確実に処理することと、食べ物の安全を確保することが重要です。 ノロウイルスが空気感染するには、嘔吐物や排泄物が乾燥することが条件となります。 一般に、医療機関では湿式清掃なので、(きちんと清掃しているかぎり)医療機関で空気感染のリスクは高くありません。ですから、医療機関では、空気感染を前提とした感染対策は必要ありません。 一方、家庭での清掃は、乾式清掃が一般です。乾式清掃では嘔吐物や排泄物を洗い流すことができません。それらを拭い取ったとしても、最後は乾燥させてほうきで掃いたり、掃除機で吸引したりしていると思います。 つまり、在宅の現場では、空気感染を考慮する必要があるということです。 もちろん「だからN95マスクを使いましょう」ということではなく、以下に紹介するように「きちんと次亜塩素酸ナトリウムで不活性化しましょう」ということです。 残念ながら、エタノールではノロウイルスを消毒することはできないのです。ただし次亜塩素酸ナトリウム溶液が有効とはいえ、手指の消毒を含め人体には使えません。よって、ウイルスの除去は流水による手洗いが原則となります。 ノロウイルスに有効なのは次亜塩素酸ナトリウム溶液 ノロウイルス胃腸炎による嘔吐物や排泄物を処理するときは、次亜塩素酸ナトリウムを600ppmに薄めた溶液を、ペーパータオルなどに染み込ませて清拭するのが基本です。 ノロウイルスは、アルコールでは不活性化せず、乾燥させても死滅しません。ですから、このノロウイルス専用の消毒液があると便利です。ここでは、600ppm(=0.06%)の溶液を手軽に作る方法を紹介します。 家庭における600ppmの塩素系消毒薬の作りかた まず、500mLのペットボトルを準備します。ペットボトルのふた1杯(5mL)の次亜塩素酸ナトリウム6%溶液(ハイター®など)をペットボトルに入れて、残りを水道水で満たしたら600ppm溶液になります。 家庭でノロウイルス胃腸炎が出たら、この消毒液を1本作っておいて、吐物の処理や、汚染された衣類の消毒に使用すると簡便です。 人体には使わない! この溶液を扱うときは、必ず手袋を着けてください。間違っても人体の消毒に使ってはいけません。もし、溶液が手に直接付着してしまった場合は、流水でよく洗い流してください。 万が一にも誤飲したら大変です。対策を講じましょう。 イラストのように、ペットボトルに注意書きするなど、飲み物と間違えないような対策に加えて、絶対に、子どもの手の届くところには置かない! リスクがある家庭では、作り置きせず、使用する度に調整するよう指導するほうが良いかもしれません。ご家庭の状況をアセスメントして提案してください。 発症者がいるときの対策のポイント これら具体的な対策について、次回の記事で解説します。 **  執筆者高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科 副部長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】 1)Gerald,LM.et al.Mandell,Douglas,and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases.6th ed.London,Churchill Livingstone,2004.2)CDC.Immunization of health-care workers:Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)and the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC).MMWR.46(RR-18),1997,1-42.3)CDC.Prevention and control of influenza.MMWR.53(RR-6),2004,1-40.4)CDC.Updated norovirus outbreak management and disease prevention guidelines.MMWR.60(RR-3),2011,1-15.

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2021年11月2日
2021年11月2日

第4回 残業・休憩・休日編/[その4]有給休暇、パートでもアルバイトでも取れます

年次有給休暇(年休)は働く人にとって当然の権利です。今では、10日以上の年休のある人は、年5日の年休を取らなければならないようになりました。年休は、働く人の心身のリフレッシュを図ることを目的として設けられています。事業所のスタッフも、管理者も、正しい知識をもって、年休を上手に活用できる職場づくりを進めていきましょう。  訪問看護ステーションで働き始めて10か月が経ちました。週4日のパート勤務なので年休はもらえないのかと思っていましたが、同僚はパートでも年休はもらえると言います。本当ですか?   要件を満たせばパート勤務でも年休はもらえますので、事業所に確認してみてください。  2つの要件を満たせば有給休暇は取れる パート、アルバイト問わず、どのような勤務形態でも年次有給休暇(以下「年休」とします)を取ることができます。労働基準法では、業種や職種、雇用形態にかかわらず、一定の要件を満たしたすべての労働者に対して、年休を与えなければならないと定めています(労働基準法39条)。それでは、年休が取れる要件とはどんなものでしょう。以下の2つの要件が挙げられています。 ①雇い入れの日から6か月経過している②その期間の全労働日の8割以上出勤している 年休の日数は継続勤務年数によって変わる この2つの要件が満たされれば、パート、アルバイトを問わず年休が発生し、労働者は理由を問わず年休を取ることができます。取れる年休の日数は継続勤務年数によって変わってきますので、次の表1を参考にしてください。 表1 年次有給休暇の付与日数 なお、②の要件で示されている、全労働日の「8割以上」という率の計算をする際に注意したいのは、次のような場合は出勤したものとみなすという点です。 ・業務上の負傷・疾病などにより療養のため休業した日・産休や育児休業、介護休業、年休を取得した日 さらに、パート、アルバイトのように、週の所定労働日数が少ない人については、年休の日数は、所定労働日数に応じて、表2のように比例付与されます。 表2 週所定労働日数が少ない場合の年次有給休暇の付与日数 なお、年休の権利は、2年間で時効によって自然消滅してしまうので、これは十分に注意してください(労働基準法115条)。必ず2年間で消化するようにしましょう。 事業所から、必ず年5日は年休を取るようにと強く言われています。以前はそんな強制はなかったのですが、変わったのでしょうか? 法改正に伴い、年休が年10日以上付与される労働者は、年5日の年休を取らなければなりません。これは事業所の義務なのです。 確実に年休を取得できる環境づくりが必須 以前は義務ではなかったのですが、2019年4月から、使用者は年休が10日以上付与されている労働者に対して、年5日の年休を取得させなければならなくなりました。 この法改正の前までは、労働者の自主的な請求に任せると年休取得を申請しづらい、ということから年休の取得が進まなかった背景がありました。そのため、図1に示すように、年5日の年休の取得が進んでいない労働者に対しては、事業所が聴取して、年休取得を促すという意味があります。 さらに、年休の取得時季については、労働者に時季指定権があります。複数の労働者が同じ時期に年休取得の請求が集中したような場合などには、事業所には労働者に対する年休の取得時季の変更権が認められていますが、取得を認めないとすることはできません。 そのため、ステーションの所長は、定期的にスタッフと話し合いを行い、年5日の年休を確実に取得してもらえるような環境づくりを行っていきましょう。 図1 時季取得のイメージ ステーションの管理者ですが、年休管理に関して特に注意しなければならないことはありますか? また、これに関して相談できる窓口はありますか? 管理者は「年次有給休暇管理簿」を作成し保管する義務がありますので、注意しましょう。また、管理に関する情報は都道府県労働局のホームページが参考になります。相談窓口も設置されています。 管理簿は3年間の保存が必要 ステーションの管理者は、スタッフ全員の「年次有給休暇管理簿」を作成する義務があります。年次有給休暇管理簿には、次のような項目を記載する必要があります。 ・労働者が年休を取得した日の「日付」・スタッフが1年間で取得した「年休の日数」・6か月連続勤務などの所定の条件を満たし、年休を付与する「基準日」 さらに、「年次有給休暇管理簿」は、年休を与えた期間と期間満了してから3年間の保存が義務づけられていますので注意してください。保存方法は、データと紙媒体どちらでも構いません。 労働局の管理台帳や相談窓口を活用しよう また、都道府県労働局では、年休を取得しやすい労働環境づくりに向けたさまざまな支援を行っていますので、ぜひ参考にしてください。例えば、福井労働局のホームページでは、「年次有給休暇取得管理台帳」が公開されており、ダウンロードができます。 ▼福井労働局ホームページ有給休暇の計画的付与、時間単位年休および年5日の時季指定に対応した有給休暇の管理台帳を作成しました 北海道労働局のホームページでは、職場全体でも個人でも活用できる「年次有給休暇表」をはじめ、「年次有給休暇取得計画表」、「個人別年次有給休暇取得計画表」、「年次有給休暇取得状況チェック表」が公開され、ダウンロードができます。 ▼北海道労働局ホームページ年次有給休暇を適正に付与・管理していますか また、都道府県労働局では、「働き方・休み方改善コンサルタント」による電話相談や個別訪問など、無料で働き方・休み方改善のためのアドバイスを行ってくれます。詳細は、ステーションの所在地の都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にお問い合わせください。 ▼厚生労働省ホームページ都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧 年休の管理や取得促進に取り組みたいと考える管理者の方は、ぜひこのような労働局のサービスをご活用いただき、上手に働きやすい職場づくりを進めてください。 ** 加藤 明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント ●プロフィール看護師として医療機関に在職中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 記事編集:株式会社照林社

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2021年11月2日
2021年11月2日

球脊髄性筋萎縮症

男性にだけ発病する遺伝性の難病です。筋肉を動かすための神経細胞が死滅し、筋萎縮が現れるのが特徴で、日本には3,000人ほどの患者がいるとみられています。 病態 球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう:SBMA)は、男性だけに発病する遺伝性の神経筋変性疾患です。別名、ケネディ病、ケネディ・オルター・スン症候群ともいわれます。 球脊髄性筋萎縮症の原因は、男性ホルモン(アンドロゲン)の受容体を構成するタンパク質の遺伝子異常です。変異したアンドロゲン受容体がうまく分解されずに神経細胞内に蓄積し、細胞を壊死させると考えられています。女性は、この遺伝子変異を持っていても発症しません。男性ホルモンが関与するためと考えられています。 球脊髄性筋萎縮症では、脳幹や脊髄にある筋肉を動かすための神経細胞(下位運動ニューロン)が徐々に死滅し、神経が接続している筋肉も萎縮するため、顔面や舌、四肢の筋力低下、筋萎縮が現れます。 原因となる遺伝子は、性染色体のX染色体上にあるため、父親である患者からY染色体を受け継ぐ男児には遺伝子変異は伝わりません。一方、X染色体を受け継ぐ女児は、100%の確率で保因者となります。保因者となった女性からは、50%の確率で子どもに遺伝子変異が受け継がれます。 疫学 男性のみに発病し、発症頻度は人口10万人に1~2人といわれています。日本国内の患者数は2,000~3,000人程度と推定されています。(※1)2019年度末現在、受給者証所有者数は約1,500人です。特に30~60歳の発症が多く、50~60歳代で受給者証所有者が多くなっています。(※2) 症状・予後 顔面や舌、四肢の筋力低下、筋萎縮などの症状がゆっくりと進行し、嚥下障害や呼吸機能低下が起こります。最初に筋力の低下に気づくことが多いのですが、その前に手が細かく震える、筋肉がつるといった症状を経験することがあります。 症状は、球麻痺によるものや、筋力低下が主です。具体的には、しゃべりにくい、むせる、飲み込みが悪くなるなど嚥下障害、顔がぴくつく、手足の筋肉がやせて力が入らないといったものがあります。筋力低下は、体幹に近い筋肉で強く現れることが多いため、特に、立ち上がり動作や歩行が不安定になりがちです。 また、軽度ですが、アンドロゲンの作用が低下するため、女性化乳房、睾丸萎縮、女性様皮膚変化などが生じることもあります。 そのほか、耐糖能異常や脂質異常症、肝機能異常、ブルガダ症候群などの合併がみられることもあります。 一般的な経過では発症から10年ほどで嚥下障害が目立つようになり、15年ほどで車いす生活に至ります。 治療法 根本的な治療法はまだありません。男性ホルモンが、変異したアンドロゲン受容体に作用することで進行を促すため、男性ホルモンの分泌を抑える薬が進行抑制目的に使用されます。通院が可能な状態であれば、ロボットスーツによる歩行運動処置が、保険診療の対象になる場合があります。 リハビリのポイント ●症状の進行に応じて、運動療法を実施し、手足の筋力低下抑制をはかる●嚥下機能の低下に対して、食形態を工夫する●嚥下訓練などを行う 看護の観察ポイント ●症状の変化、転倒しやすくなっていないかを観察する●むせる、飲み込みにくいなど、嚥下障害の有無・変化を観察する●食形態と嚥下機能を確認し、必要時は食形態について助言する●コミュニケーションに問題が生じていないかを観察する●車いすやベッドにいる時間が長い場合は、褥瘡など皮膚の症状・変化を観察する●家族の介護力をアセスメントするなど ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け) 球脊髄性筋萎縮症(指定難病1)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/73※2 厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01. ○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)球脊髄性筋萎縮症(指定難病1)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/234○「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』東京,医学書院,2009,184p.○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

特集
2021年10月26日
2021年10月26日

第1回 心不全看護の『質』を高める専門資格

心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職の認定資格、「心不全療養指導士」が注目されています。超高齢社会を迎えて増加する高齢心不全患者は、急性増悪を起こして再入院するケースが多く、再発防止のための取り組みが急務とされています。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションの地域連携の取り組みについては、このシリーズで以前お伝えしました。今回は、心不全の再発防止において実力を発揮して活動している「心不全療養指導士」の実践を紹介します。 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」認定制度は、2021年度から日本循環器学会が始めた新しい制度です。この制度は、超高齢社会を迎えて心不全患者が急増している現状を踏まえ、心不全の発症・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職の資質の向上を図ることを目的として創設されました。心不全に関する基本的知識や療養指導のための技能が修得できます。 心不全療養指導士は、病院に限らず、在宅をはじめとした地域などさまざまな場面で幅広く活動し、心不全におけるチーム医療を展開していくことが期待されています。心不全患者のQOL改善をめざす多くの専門職が取得できる資格です。 2020年12月に行われた第1回の認定試験に合格し、心不全療養指導士として活動している博多みずほ訪問看護ステーション所長の黒木絵巨さんにお話を伺いました。 その日訪問する利用者さんの情報をタブレットでチェックする黒木絵巨さん(博多みずほ訪問看護ステーション所長) ― 高齢の慢性心不全患者に対するアセスメントはどのように進めるのでしょうか。 高齢の慢性心不全患者さんは、痛みなどの自覚症状をほとんど訴えません。私どものステーションの利用者さんは高齢者が多いのですが、訪問して最初にチェックするのが『むくみ』です。「浮腫が出ているな」と思って指摘しても、「これくらいのむくみはいつも出ているから大丈夫」とおっしゃる方がほとんどです。重症化してくると、「ちょっと動くと苦しい」などと訴えることもありますが、初期の浮腫や体重増加くらいでは、「いつもと同じ」という感覚のようです。 ― 「浮腫」が重要なサインの1つということですね。 心不全再発のアセスメントとして「インアウト」をみますので、その最もわかりやすい徴候が「浮腫」なのです。「足背」などの浮腫の状態をチェックしますが、まずお顔を見たとき「ちょっとむくんでいるな」と感じたら、これは大切なサインだと考えています。少しくらいの浮腫であれば食事内容などをお聞きして、水分や塩分の摂取状況を具体的に把握します。 そして、お薬のチェックをします。たいていの方が利尿薬を処方されていますが、服薬を自己判断してしまう方も多くいます。「しょっちゅうトイレに行くのが煩わしいから」、「今日は出かけるのでトイレに何回も行くのが嫌だから」などの理由で、指示されたとおりに利尿薬を飲まない方もいらっしゃいます。そういう方には、なぜこの薬が必要なのか、どうして絶対に飲まなければいけないのかということをわかりやすく説明します。 ― 具体的にはどのように説明するのですか。 まず、「心不全では心臓のポンプ機能が悪くなって全身に血液が行き渡りにくくなっています」というところからお話しします。「腎臓に流れる血液量が減ってしまって尿が作られにくくなると、体内の水分量が増えてしまいます。それで『むくみ』が起こってくるわけです。そうすると、ますます心臓の負担が大きくなってしまうので、余分な水分を尿として排泄させるために、利尿薬を飲んでいただくのですよ」と、身体の『しくみ』から説明するとよく理解してくれます。 解剖学や病態生理学などの難しいことを利用者さんや家族にかみ砕いて説明して、行動を変えていただき、生活を立て直してもらうのが私たち専門職の役割だと思っています。 ― 難解なことをわかりやく伝えるというのはとても難しいと思いますが・・・。 そうですね。第一に、私たちが病態生理をよく理解しておく必要があります。それをうまく「伝え」、最終的に「行動を変えていただく」働きかけをするのがプロフェッショナルの『わざ』だと考えています。 私は、訪問看護を始めるまでは主に透析看護を行っていましたが、透析患者に対しても行動変容を促すアプローチは必要でした。その点で、今回、「心不全療養指導士」の資格を取得するために行った勉強は、非常に役立っていると思っています。 「心不全療養指導士」の役割を以下に示しましたが、その中の②③は、まさに病態理解や療養指導の方法に関することです。学ぶべき項目の中の「心臓の構造・働き」「心不全の身体所見」「薬物療法」「患者教育に活用する心不全に関する知識」「服薬アドヒアランスへの支援」などは、今の現場での実践に非常に役立っていると思います。 心不全療養指導士に求められる役割 ①心不全の発症・進展の予防の重要性を理解し、その予防や啓発のための活動に参画することができる②心不全の概念や病態、検査、治療について理解し、それをもとに病状などを把握することができる③心不全の進展ステージに応じた予防・治療を理解し、基本的かつ包括的な療養指導を実施することができる④医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師や他の医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献することができる⑤心不全患者に対する意思決定支援と緩和ケアに関する基本的知識を有している 日本循環器学会ホームページ 『心不全療養指導士とは』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/about/)より引用 * 次回は、黒木さんが心不全療養指導士の資格を取得するまでの経緯と、実際に関わった事例を紹介します。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。記事編集:株式会社照林社

特集
2021年10月26日
2021年10月26日

第4回 残業・休憩・休日編/[その3]知らぬ間に発生しているかも!? 注意したい、休日労働の割増賃金

休日には、「所定休日」と「法定休日」があることをご存知ですか? この違いは、休日労働の割増賃金にも関わりますので、正しく理解しておくことが必要です。ほかにも、休日を別の日に代える「振替休日」と「代休」にも違いがあります。管理者にとって必須の知識である「休日」の違いについて、今回は詳しく説明していきます。 私の事業所では、就業規則で週休2日制を採用しています。ある週の業務が忙しく、スタッフに2日ある休日のうち1日だけ、働いてもらいました。この場合、働いてもらった1日について、休日労働の割増賃金を支払わなければなりませんか?法律では、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいとされているので、就業規則で法定休日を特定していないならば、休日労働の割増賃金を支払う必要はありません。 休日にも「所定」と「法定」がある 休日には、「所定休日」と「法定休日」があります。 所定休日とは、労働契約上で付与されている休日のことです。質問のケースでは、就業規則で週休2日制を採用しているわけですから、「所定休日」は2日間ということになります。 対して、「法定休日」とは、労働基準法35条で定められた休日のことをいい、同条1項では、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいとされています。 昨今、週休2日制を採用する事業所も少なくありませんが、それは、労働基準法35条が求める最低基準(週休1日)よりも、多くの休日を事業所が自主的に与えているということになります。 このように「所定休日」と「法定休日」というのは別の概念です。そして、休日労働に対する割増賃金(35%増)を支払う必要があるのは「法定休日」です。要するに、「1週間に1日も休ませることなく働かせた場合は、その休日労働に対しては35%増で賃金を支払ってください」ということです。 法定休日を確保できていれば割増賃金は不要 質問のケースでは、就業規則で週休2日制を採用している事業所において、そのうち1日を働いてもらったということです。この点、法定休日は、「毎週少くとも1回」の休日を与えればよいわけですから、設例の場合では、法定休日は確保できていることになり、休日労働の割増賃金を支払う必要はないといえます。 私の事業所では、就業規則で1週間の始まりを月曜日と定めて、日曜日を休日にしています。ある週、容態が急変した利用者様に対応するため、急遽、スタッフに日曜日に出勤してもらいました。ただし、そのスタッフには、代わりに、次の週に1日追加で休日をとってもらっています。この場合、全体でみれば休日の日数は変わらないので、休日労働の割増賃金は不要ですよね?これは「休日の振替」ではなく、「代休」にあたります。その週に1日も休日を与えることができていない場合は、休日労働の割増賃金の支払いが必要です。 「休日の振替」と「代休」は意味が異なる 業務の都合などで、休日とされている日を事前に労働日に変更し、その代わりに、もともとは労働日とされていた別の日を休日にすることがあります。これを「休日の振替」といいます。ポイントは『事前に』という点です。 対して、質問のケースのように、急ぎの対応が必要なため、急遽、もともとは休日であった日に出勤してもらい、事後的に代わりとして、別の日に1日追加で休日をとってもらうということもあります。これを「代休」といいます。ポイントは『事後的に』という点です。 代休では法定休日を確保できないことも 休日の振替は、事前に休日を入れ替えているため、労働基準法35条1項が定める「毎週少くとも1回」の休日を結果として与えることができていることが多くあります。その場合、法律で定められた35%の休日労働割増賃金を支払う必要はありません。対して、代休は、あくまで事後的な対応であるため、例えば質問のケースのように、休日と定めていた日曜日に急遽出勤すれば、その週だけを見ると月曜日から日曜日まで1日も休まずに勤務したことになります。よって、法定休日である日曜日の労働に対して、35%の休日労働割増賃金を支払わなければなりません。 「休日の振替」には正しい運用が必要 休日の振替と代休は、いずれも休日を別の日に代えるという点では共通していますが、休日の振替はそれを「事前」に行うのに対し、代休ではそれを「事後」に行うという点に違いがあります。そして、法定休日を確実に確保するという観点からは、「事前」の対応である休日の振替が適しているといえます。 前回の記事のとおり、休日労働にあたる場合は35%の割増賃金を上乗せして支払う必要がありますので、スタッフの勤怠管理を適切に行えていないと、気づかないうちに割増賃金の未払いといった法律違反につながるおそれがあります。事前にスタッフの労働状況を把握して休日の振替を正しく運用し、それと同時に日頃から無理のない人員配置を心がけましょう。 ○ひとくちメモ○1週間の始まりは何曜日? 質問のケースでは、就業規則で1週間の始まりを月曜日と定めていました。では、そのような規定がない場合、1週間は何曜日から始まって、何曜日で終わるのでしょうか? 多くの人が、「月曜日から始まって、日曜日に終わるんでしょ?」と思うかもしれません。しかし、実は行政解釈では、1週間の始まりは日曜日とされています(昭和63年1月1日基発第1号)よって、質問のケースで、仮に就業規則に週の始まりを規定していなければ、急遽働いてもらった日曜日は1週間の始まりの日とされます。そのため、翌日からの月曜日〜土曜日のうちのどこかで1回休日を与えれば、「毎週少くとも1回」という法定休日は確保できていることになります。 就業規則に何も規定がなければ、この行政解釈が適用されますが、逆に言えば、週の始まりを何曜日にするかは、就業規則で自由に決めることができます。 「週の始まりは何曜日か?」という視点は、実務上は意外に重要です。ぜひ一度、就業規則の規定を確認してみてください。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

特集
2021年10月26日
2021年10月26日

ハンチントン病

舞踏のような不随意運動があることから、以前は「ハンチントン舞踏病」と呼ばれていた遺伝性の難病です。30歳代以降の発症が主ですが、幼児期に発症する場合もあります。 病態 ハンチントン病は遺伝性の神経変性疾患です。主な症状は、舞踏運動を中心とする運動症状と、精神症状です。以前はハンチントン舞踏病と呼ばれていましたが、主症状は舞踏運動だけではないため、名称が改められました。 ハンチントン病は常染色体優性遺伝様式の疾患です。 遺伝子は対になって存在していますが、親から受け継いだ遺伝子のどちらかにハンチントン病の遺伝子変異があれば発病します。 疾患にかかわる遺伝子は、50%の確率で子どもに伝わります。 そのため、患者の両親どちらかもハンチントン病を発病していることが大半です。家族の中に患者がいる場合、子や兄弟姉妹にも保有者がいる可能性があります。 子どもは親に比べて若い年齢で発病する傾向があり、子どもが親より先に発症する例もみられます。 遺伝子検査が保険診療の対象ですが、安易な遺伝子診断は避けなければなりません。ときには、子どもの遺伝子診断が、発症していない親の発症前診断となってしまいます。関連学会の指針では、「治療法がない成人発症の遺伝性疾患の遺伝子診断については、事前の十分なカウンセリングにより、本人の自発的意思の確認が必須」であり、かつ「検査結果告知後の継続的な心理的支援が不可欠」としています。(※1) 疫学 ハンチントン病の有病率は日本人では人口10万人あたり0.7人と推定されています。(※2)2019年度末現在、ハンチントン病での受給者証所有者数は約900人です。(※3)有病率に男女差はないのですが、人種により異なる傾向があり、有病率はコーカソイドでは高く、アジア人・アフリカ人で低くなっています。 好発年齢は30~50歳ですが、発症年齢は幼児から高齢者まで多様です。20歳以下で発症した場合は、「若年型ハンチントン病」と呼ばれます。若年発症では一般的に症状が重く、速く進行します。 症状・予後 症状は大きく、▷運動症状(不随意運動、運動の持続障害)▷精神症状(感情障害、認知機能障害) ── に分けられます。 症状は次第に進行します。寝たきりになると全介助が必要です。罹病期間は15~20年ほどです。ただし、患者によって症状やその程度はかなり違います。家族でも症状は一様ではありません。 不随意運動 舞踏運動を中心とした不随意運動が現れます。舞踏運動は、意思に関係なく、不規則で細かく速い動きが、四肢や顔面に生じます。 ほかにも、ジストニア(不随意に力が入る)、ミオクローヌス(筋肉がぴくぴくする)などの不随意運動もみられます。 発症早期には巧緻障害として現れ、症状が進むと、嚥下障害や構音・構語障害に進行します。 運動の持続障害 運動の持続障害は、同じ動作を継続することができなくなる症状です。手に持った物を落とす、転ぶなど、日常動作に支障をきたす原因になります。症状が進行するとやがて寝たきりとなります。 感情障害 感情が不安定になる、怒りっぽくなるなどの性格の変化や、何かにこだわり、同じことを繰り返すなど、行動に変化が起こることがあります。不眠やうつなどの感情障害がみられ、自殺企図にも注意が必要です。 一方、暴言や暴力で家族の負担が大きくなることもあります。その場合は速やかな介入が必要です。施設入所なども視野に入れ、多職種を交えて検討します。 認知機能障害 初期には認知機能障害は目立たず、徐々に現れます。アルツハイマー病とは違って記憶障害は軽度で、計画を立てて実行する機能の障害(遂行障害)が中心です。 若年型ハンチントン病では、初期から運動症状が現れるのは3分の1程度で、精神症状や認知機能障害がみられます。てんかん発作の合併が多いのも若年型の特徴です。 治療法 根本的な治療法はなく、不随意運動と精神症状への対症療法が柱になります。 リハビリのポイント ●病状の進行に伴い、活動量が低下するため二次的な運動機能低下が懸念される。予防目的の運動療法を検討する●精神症状や認知機能低下に対しては作業療法が有効な場合がある●状態に合った福祉用具の導入を提案する●車いすでは不随意運動のため滑り落ちることがあるので、座位保持の方法など、状態に合った使用法を助言する 看護の観察ポイント ●運動症状・精神症状により、日常生活・社会生活に問題が生じることがある。早めに課題をキャッチし、多職種で連携し予防および対応策を検討する●症状や程度の変化を観察する●今後の症状を予測し、福祉用具やサービスなどの導入の必要性を前もって検討する●転倒による外傷の有無を観察する●外傷を予防する対策を実施する●食事時の、食物の詰め込みや、嚥下障害などの有無を観察する●上記のような食事時のリスクに対し、必要な介入または助言を行う●体重減少ややせが目立っていないかを観察し、エネルギーを補う必要性をアセスメントする●皮膚の状態を観察する●暴言や暴力などで家族が疲弊していないか、家庭介護が継続できる状況かを観察する ** 監修:あおぞら診療所院長 川越正平 【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】※1 「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会『遺伝子診断の目的と概要 神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』 東京,医学書院,2009,4-8.※2  難病情報センター『病気の解説(一般利用者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/175※3  厚生労働省『難病・小児慢性特定疾病 令和元年度衛生行政報告例』2021-03-01. ○難病情報センター『診断・治療指針(医療従事者向け)ハンチントン病(指定難病8)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/318○Huntington病の診断,治療,療養の手引きガイドライン作成委員会『Huntington病の診断,治療,療養の手引き』神経治療学 37(1),2020,68-83.○神経変性疾患領域における基盤的調査研究班『ハンチントン病と生きる:よりよい療養のために』Ver.2.2017.http://plaza.umin.ac.jp/~neuro2/huntington.pdf○日本医学会『医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン』https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.pdf

特集
2021年10月19日
2021年10月19日

第2回 生活をよく知る訪問看護師だからこそできること

福岡大学病院循環器内科では、地域の訪問看護ステーションと連携して、心不全患者の急性増悪・再入院を防ぐための取り組みを行って効果を上げています。第1回目は、大学病院と訪問看護ステーションの連携の概要を紹介しました。今回は、患者さん・家族が暮らす生活の場で訪問看護師が行うアセスメントの実際と、大学病院の専門医のサポートの実際を紹介します。 生活の場に密着している訪問看護師への期待 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師は、「急性期医療を担う大学病院の外来では、多くて月2回、たいていは1~2か月に1回くらいしか患者さんを診ることができません。しかも、私たちは病院に来ている患者さんしか診ていません。お家にいらっしゃる状態というのが見えないため、在宅で食事をめぐる問題や行動面のトラブルが起こっていても把握できません。しかし、訪問看護師さんたちは少なくとも週1回入っていますから、病態の悪化や状態の変化などの細やかなチェックができます。在宅でのチェックにおいては、訪問看護師さんのほうがプロフェッショナルなのではないかと思っています」と訪問看護師への期待の大きさを語ります。 福岡大学病院循環器内科志賀悠平 医師 「病院ではわからない部分を知ることができるのは、私たち訪問看護師の特権だと思っています。患者さんの状態だけでなく家庭内のキーパーソンや家族の支援体制、家屋構造なども、在宅療養における有用な情報です」と博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長は言います。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 何らかの症状があっても「年のせいだから」と見過ごされがち 心不全には、心臓の機能低下によって起こる2通りの症状があります。「収縮機能」が低下することによって全身の臓器に十分な血液が行き渡らないことから起こる症状と、「拡張機能」が弱くなり血液がうっ滞することによって起こる症状の2タイプです。血液が十分に行き渡らなくなって起こる症状には、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞によって起こる症状には、むくみ(浮腫)、息切れ、呼吸困難などがあります。 黒木さんは特に『むくみ』には十分に注意するそうです。「通常は足背などを見てむくみの程度を判断しますが、訪問してお顔をみたときに『あれ? ちょっとおかしいな』と感じることもあります」と話します。 特に高齢者では、「収縮機能が保たれた心不全(拡張不全)」が多いことがわかってきています。血液を送り出す力が衰え、静脈や肺、心臓などに血液が溜まりやすくなってしまうもので、通常の検査では見つかりにくいとされています。さらに高齢者では自覚症状がはっきりと現れにくく、何らかの症状があっても「年のせいだから」などと見過ごされがちです。日常生活にいつも接している訪問看護師ならではの『直感』が重視される部分も大きそうです。 むくみのほかには、息切れや呼吸困難感も重要なサインの1つで、軽い場合は階段を上がる際に息切れする程度ですが、進行すると少し歩いただけで息苦しくなると言います。さらに悪化すると、夜寝ているときに咳が出て寝られなくなることもあります。「起座呼吸」にまで進んだ場合は入院が必要と言われています。 患者情報がタイムリーに多職種で共有されるメリット このように、訪問看護師の適切なアセスメントがタイムリーに多職種で共有されるメリットは大きいです。そのためには、ICTにより多職種が情報を共有できるツールの介在が欠かせません。 黒木さんはICTによる情報連携について、「現在は福岡大学病院の志賀先生のところと開業医、私たちの訪問看護ステーション、ケアマネジャーがICTツールでつながっています。私たちは医師とすぐに連絡を取りたいと思っても、この時間は電話してもいらっしゃらないだろうなと躊躇してしまうことも多いです。特に大学病院の先生との連絡ツールとして本当に助かっているので、もっともっと取り入れていきたいと思っています。こうやって即座に連携が取れるということは本当に心強いですね」と話しています。 志賀先生も、「訪問薬剤師と共有ツールでつながっていたこともあります。認知機能に少し障害があって服薬カレンダーをうまく使えず服薬管理ができないケースなどでは、薬剤の適正処方や服薬指導をきめ細かく行うために、薬剤師との情報共有ができて非常に有効でした」と、多職種連携のための共有ツールを高く評価されています。 心不全の再入院までの期間が延びているという『手応え』 福岡大学病院と博多みずほ訪問看護ステーションの有機的な連携によって心不全患者の再入院予防を図る取り組みの効果について志賀先生は、「まだまだ数は少ないのですが、確実に地域とつながっているという感触を得ています。少ない症例ではありますが、再入院までの期間が延びているという手応えはしっかり感じています」と述べてくださいました。 急性期病院での診療のかたわら、週1回訪問診療クリニックでの臨床を続けている志賀先生ならではの『地域包括ケアマインド』と、黒木さんをはじめとした訪問看護師の『在宅看護のスペシャリティ』がうまくマッチしたケースと言えるでしょう。 * 心不全看護の専門性をさらに高めるために黒木さんが取得された「心不全療養指導士」資格については、ご存知ですか?心不全療養指導士シリーズでご紹介します。 ** 志賀 悠平福岡大学病院循環器内科 医局長専門は心臓CT、高血圧、心不全、心臓リハビリテーション。日本内科学認定医、日本循環器学会専門医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本心臓リハビリテーション学会指導士、医学博士。 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

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