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スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】

スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア【スピリチュアルケア】」で解説した「基盤となるケア」に続き、今回はもう1つのケア「個別のケア」について解説します。患者さんのスピリチュアルペインの訴えに焦点をあて、スピリチュアルケアの実践を学んでいきましょう。

ケア提供者の基盤となる「気遣う」姿勢

看護師がスピリチュアルケアを実践するには、前回も述べたように、普段から「全般的なケア」である基盤となるケアを念頭において、まずは患者さんとのよりよい関係性を構築することが重要です。看護師は傾聴や共感、沈黙、ともにいることといった基本的コミュニケーションを用いて、患者さんが直面している苦しい現実や、そのために生じる否定的な感情を表出できるように援助していくことが大切です。

ケア提供者である看護師は、専門職としての知識や技術、倫理観を備えていることを前提として、以下の5つの姿勢で患者さんを「気遣う」ことが望まれます。

  1. 積極的な傾聴ができる
  2. 共感的な感性を磨く
  3. 自己の価値観や倫理観から自由である
  4. 自己の弱さや限界を認める
  5. チームの一員としてかかわる

患者さんのスピリチュアルなニーズに気づき、スピリチュアルペインをケアしていくためには、患者さんに関心を寄せて、そこに「居合わせること(presence)」1)が重要です。看護師は、患者さんと居合わせることにより、いつもとは違う感情が表現されていることや、行為や行動が違っていることに気づけるのです。

事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】」で示したがんの終末期にあるAさん(男性、60代、膀胱がん)の事例で表出されたスピリチュアルペインをもとに、個別のケアとして、「負担感/申し訳なさ」(関係性のスピリチュアルペイン)に関するケアの工夫と、「自分のことができないつらさ」(自律性のスピリチュアルペイン)に関するケアの工夫について、そのポイントを以下に挙げます2)

「負担感/申し訳なさ」に関するケアの工夫

「負担感/申し訳なさ」に関するケアの工夫には6つのポイントがあります。順に説明します。

1 患者さんの価値観を理解する
●患者さんがどんな価値観をもっているかを知る
●患者さんの価値観を否定することなく、気持ちを理解しようとしていることを伝える

2 負担感/申し訳なさについて患者さんとご家族が気持ちを伝え合えるようにコーディネートする
●患者さんの負担感/申し訳なさを感じている気持ちを聴く
●ご家族は実際にどう感じているのか、ご家族の気持ちを聴く
●ご家族が負担とは感じていないことや、本人・家族相互の気持ちを自然体で伝え合えるようコーディネートする、または橋渡しする

3 患者さんの負担感/申し訳なさが減るケアを工夫する
●患者さんが負担だと感じることは何か、なぜそれを負担と感じているかを知る
●日常生活で負担を感じさせない工夫をする
●「してあげる」ケアを避ける
●患者さんのがんばりを支える
●喪失を最小化する
●今までの人生の価値を振り返る

4 新たな視点を提示する
●患者さんの価値観を尊重しつつ、新たな視点を提示してみる
●新たな視点を提示する言葉は、患者さんの負担にもなりうることをケア提供者が知っておく

5 ご家族の負担を和らげる
●ご家族に対する十分な情緒的サポート、ねぎらいを行う
●ご家族が介護と生活を両立できるためのサポートを行う
●ソーシャルワーカーと連携し、適切な社会資源を紹介する

6 患者さんのコーピングを支持する
●患者さんの行っているコーピングを理解し、支持する
文献3)をもとに作成

「自分のことができないつらさ」に関するケアの工夫

「自分のことができないつらさ-自分で自分のことが思うようにできないつらさ」に関するケアの工夫には3つのポイントがあります。

1 喪失を最小限にする
●患者さんが自分でできるようサポートする
●患者さんが自分の力を最大限活かせるための環境を整備する
●リハビリテーションの導入を相談する
●補助具(コルセット、ステッキ、歩行器、車いす、電動車いすなど)の使用を相談する
●患者さんの希望に沿った症状緩和を行う

2 コントロール観を最大限にする
●何を、いつ、どこで、どんな方法で行うかを患者さんが選択できるように配慮する
●達成が難しいようなことでも否定せず、患者さんが挑戦することを支持する

3 患者さんのコーピングを支持する
●患者さんのコーピングを理解し、支持する
文献4)をもとに作成

ケア提供者に求められる態度・考え方とは

スピリチュアルケアにおけるケア提供者の基本的な態度や考え方を調査した研究結果5)から、スピリチュアルケア提供者の「心構え」として次のことが示されています。「患者さんの可能性を信頼し、人生へ敬意を払う」<人間への信頼と敬意><傾聴がケアとなることの自覚>、「心・苦悩・人生に意識を向ける」<スピリチュアリティの探求>、「問題解決的関わりや過度な期待によって巻き込まれることへの自戒」<医療者本位への自戒>です。

また、患者さんのスピリチュアルな側面のニーズを満たすためには、「誠実さ、謙虚さ、ケアリングを意識して患者さんに向き合う姿勢」が必要とされています。ケアリング(caring)の概念は明確化されていませんが、共感や気づかい、思いやりなど、ケア提供者の心情や態度を表すものとされています。

患者さんにケアリングを行うとは、患者さんを精神的に成長しうる存在として捉え、共感や気遣い、思いやりを基盤としながら、一方的に患者さんを支援するという態度では成り立ちません。患者さんの成長や自己実現のために(実現を助けるために)、患者さん・ご家族とともにケアを行っていくことが大切です。

一方、スピリチュアルな苦悩の中にある患者さんとの関わりは容易なものとは言い難いでしょう。自分自身がどのような意識の志向性をもった人間で、今自分が何を感じ、どのような感情を抱いているのか、時に自己を見つめ直す機会をもつことはとても重要です。自然や、文化、芸術などに触れ、自分自身へのケアも意識的に取り入れることも大切なことです。

看護師として、一人の人間としてケアにあたる

スピリチュアルペインは、本来、終末期の患者さんに限らず有限の生を生きるわれわれ誰もが直面せざるをえない苦しみです。その内容は非常に個人的であり、人格的なものです。したがって、スピリチュアルケアは、その人をあるがままに受けとめ、その人が「どのように生きるか、どのように生きてきたか」という、生きることそのものを支えるケアであるといえるでしょう。

鷲田 清一氏6)は、「自分の言葉がわかってもらえたかどうかよりも、その言葉が受けとめられたかどうかのほうがはるかに大きな意味をもっている。揺れている、無防備な自分をそのまま認めて肯定してくれる他者がそばにいてくれること自体が、私たちを支えてくれるのだと思う」と述べています。

人間存在そのものへの問いかけや、スピリチュアルな側面での苦悩をもつ人への関わりは、一方的な解釈や答えを与えることでも、励ますことでもありません。苦しみを、悲しみあるいは怒りとして、個々に表出するその人を、ありのままに、それでよいのだと受け入れることから始まるのだと思います。そして、その人の背景にある苦しみに(喜びにも)、寄り添いたいとの思いで、ともにあり続けることが大切であり、そのようなケアの担い手でありたいと願っています。

執筆:前滝 栄子
京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンター
がん看護専門看護師
 
編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)Tamura K, Kikui W, Watanabe M (2006) Caring for the spiritual pain of patients with advanced cancer: a phenomenological approach to the lived experience. Palliative and Supportive care4, 1-10.
2)田村恵子,森田達也,河正子編.看護に活かすスピリチュアルケアの手引き.第2版,青海社,2017,p. 58-65.
3)同上,p.59-60.
4)同上,p.62.
5)同上,p. 129-131. 6)鷲田清一.そこにいる力、聴くことの力.ターミナルケア,2000,10(3).p.199-204.

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