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WHOの三段階除痛ラダーと鎮痛薬使用の4原則とは【がん身体症状の緩和ケア】

緩和ケア がん疼痛

退院後、痛みがうまくコントロールできていない様子のAさん。処方されている鎮痛薬の種類や量は適切なのでしょうか。また、ほかにできることはないのでしょうか。今回は、鎮痛薬の選択と使用に関する基礎知識を中心に解説していきます。

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がん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは【がん身体症状の緩和ケア】

WHOの「三段階除痛ラダー」(図1)

「三段階除痛ラダー」とは、軽度の痛みにはオピオイド以外の鎮痛薬を使用し、軽度から中等度の痛みには弱いオピオイドを併用、そして中等度から高度の痛みには強いオピオイドの追加を段階的に行う方法です。つまり、強い痛みには強い薬を使用し、弱い痛みには弱い薬を使用するという考え方です。

2018年に改訂された「WHOがん疼痛治療ガイドライン」からはなくなりましたが、がん疼痛の緩和においてとても重要な考え方だと思いますので解説します。

しばしば、副作用のある強いオピオイドは最後の手段と捉えられ、その前段階の軽い薬で痛みを解決しようとすることが少なくありません。しかし、がん緩和ケアでは、強い痛みであると判断したならば、はじめから強いオピオイドを投与してもよいとされています。むしろ、弱い薬でいつまでも痛みがコントロールできない状態は、患者さんの生活の質(quality of life:QOL)を大きく妨げてしまうと考えられているのです。もちろんNSAIDs(非ステロイド性鎮痛薬)や鎮痛補助薬は併用しても問題ありません。

ラダーそのものが弱い薬からの使用を推奨しているようにも見えるために、ラダーの考えは削除されました。しかし、「強い痛みには強いオピオイドを使用する」という本質はまったく変わっていません。

図1 WHOの三段階除痛ラダー


WHOの三段階除痛ラダー

World Health Organization. 『WHO guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents』. 2018.を参考に作成

鎮痛薬使用の4原則

「WHOがん疼痛治療ガイドライン」のがん疼痛マネジメントの1つ、「鎮痛薬使用の4原則」も重要ですので確認しておきましょう。

(1)「経口で」

オピオイドには注射を含めてさまざまな投与経路があるなかで、最も簡便で多くの国、多くの場面で利用できる経口投与が推奨されています。例えば消化管閉塞の合併等の事情で経口的にオピオイドが服用できない場合には、経皮投与や持続注射など別の方法を検討します。

(2)「時間を決めて」

時間を決めて鎮痛薬を使用します。WHO方式のがん疼痛治療法が登場する前は、原則として痛みが出てから鎮痛薬を使用していました。ところが、予防的に鎮痛薬を使用すれば、より効果的に痛みを緩和できることが発見されました。痛みが出る前に時間を決めて鎮痛薬を使用する、これは非常に画期的で大変重要な要素です。

(3)「患者ごとに」

患者さんの痛みに応じて、鎮痛薬の投与量や投薬内容を調整します。同じがんといっても病態はさまさまで、治療方法も変わってきます。痛みの感じ方も異なり、副作用の出方もそれぞれです。患者さんごとに評価を行い、投与量や投薬内容を調整します。

(4)「その上で細かい配慮を」

配慮とは、オピオイドの副作用や患者さんの症状や状態に合わせて、オピオイド以外の薬剤の投薬内容を調整することです。例えば、便秘や嘔気の症状があれば、オピオイド誘発性便秘症治療薬や制吐薬などを使用します。骨転移による強い痛みがあれば、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸などNSAIDsの併用も有効です。時には、ステロイドが症状緩和に役立つケースもあります。一人ひとりの患者さんに応じて、その人が少しでも生活しやすくなるように、投薬内容を細かく調整していきます。

もちろん患者さんとご家族の不安を軽減するために、薬物療法のレジメンについて理解できるよう十分な説明も必要です。

Aさんの投薬内容をどう調整するか

ここまで除痛ラダーや鎮痛薬使用の原則について説明してきました。その内容を踏まえて、Aさんの投薬内容の調整について考えてみたいと思います。

ある日、あなたの訪問看護中にAさんは背中の強い痛みを訴えました。指示されていたロキソプロフェンナトリウムを服用してもらいましたが、あまり効果がないようです。10分経ってもAさんはベッドの上でうめき声をあげています。

20分ほど背中をさすっていたら、少し痛みが落ち着いたので、あなたはステーションに戻りました。戻ってすぐに、まずは在宅主治医に今日のAさんの様子を連絡。すると、主治医からすぐにカンファレンス開催の提案がありました。

翌日、訪問看護師であるあなた、薬剤師、ケアマネジャー、在宅主治医がAさんの家に集まりました。

緩和ケアチーム

画像素材:PIXTA


あなた: 膵臓がんのAさん、痛みが退院したときより強まっているようです。お薬の調整をした方がよいと考え、みなさんにご相談します。ご意見を聞かせてください。

在宅主治医: 膵臓の真ん中に4cmの腫瘍を認め、肝臓に多数の転移が見られます。腹水も少し増えているように思います。痛みが出るのは当然かもしれませんね。オキシコドン徐放性製剤を増量した方がよいと思います。

Aさん: 薬を増やすのは副作用や体に悪い影響があるのではないか心配です。今飲んでいる薬は麻薬と聞いていますので…。大丈夫でしょうか?

あなた: Aさん、確かに心配ですよね。お気持ち、よく分かります。今使用している薬は確かに医療用麻薬と呼ばれていますが、この薬は、慢性的な痛みを感じている人が痛みを和らげるために使用する場合、依存症や精神障害にならないことがわかっています。なぜなら、体の中で痛みを感じているときと、感じていないときに使用する場合では別の効き方をするためです(参照:ワンポイントメモ)。そうですよね、先生。

在宅主治医: そのとおりです。今こうして痛みを感じているAさんが服用する量を増やしたとしても、依存症状のご心配はいりませんよ。医療用麻薬には吐き気や便秘などの副作用がありますが、きちんと対策を立てておけば乗り越えることが可能です。その上でAさんが生活しやすいように、痛みや呼吸困難などのつらい症状を最小限度に抑えましょう。少し薬の量を増やしてみるとよりよいと思いますよ。

Aさん: そうなんですね、やめられなくなるのではないかと心配していました。痛みの治療に使用していれば依存症にはならないのですね。

在宅主治医: まずは現在のオキシコドン10mgの量を20mgに増やしてみましょう。30~40mgが目標です。痛みが残るのであれば、また少しずつ増やしていきます。

薬剤師: Aさん、便秘気味ではないですか?

Aさん: そういえば、退院してからまだ一度も便が出ていません。

薬剤師: それならオピオイド誘発性便秘症治療薬であるナルデメジンを併用するのはいかがでしょう。

在宅主治医: 確かにそれはよいアイデアですね。オピオイドを服用していると便秘は必ず発生しますので、ぜひ使用しましょう。それと、吐き気止めもあった方がよいと思います。

カンファレンスはまだ続きます。この続きは次回に。

>>次回の記事はこちら
オピオイドスイッチングとタイトレーションとは【がん身体症状の緩和ケア】

【ワンポイントメモ】

なぜ医療用麻薬は依存症にならない?
痛みのない人が医療用麻薬を服用すると、脳からはドーパミンと呼ばれる物質が放出され、興奮状態となり快楽を感じます。このドーパミンが放出されている状態が繰り返されると、依存症になるといわれています。しかし、痛みのある人が医療用麻薬を服用しても、すでに脳内には疼痛を抑制する物質、すなわち内因性オピオイドが放出されており、ドーパミンの放出は起こりません。このため、がん性疼痛を訴える人が医療用麻薬を服用しても依存症にはならないのです。



執筆:鈴木 央
鈴木内科医院 院長
 
●プロフィール

1987年 昭和大学医学部卒業
1999年 鈴木内科医院 副院長
2015年 鈴木内科医院 院長
 
鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。
 
編集:株式会社照林社

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