CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その3:管理者としてどのような支援ができるか
管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第12回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」の議論のまとめです。
はじめに
前回(「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」参照)は、桐山さんが抱えている問題を、桐山さんの状況と、その状況から生じている課題とに分けることで、管理者として何ができるかを検討しやすくしました。今回は、訪問看護管理者として桐山さんへどのような支援ができるのかをテーマに意見交換を進めます。
議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。
ケースと設問
CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問 もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 |
管理者として桐山さんにどのような支援ができるのか
講師
これまでの議論から、中途採用者である桐山さんが抱えている課題が四つ出てきました。桐山さんがこの課題を解決するために、管理者としてどのような支援ができるでしょうか。
Aさん注2
桐山さんが持っているスキルや知識を把握した上で、「こういうスキルや知識が必要だ」と伝えることはできると思います。ただこういったことは桐山さんだけに限らず、スタッフそれぞれの性格や技量などを把握しておかないといけませんね。
Bさん
「前職で学んだ業務のやりかたではなく、この職場でのやりかたを覚えて実行してください」と言えるのは、やはり管理者だけですよね。
Cさん
桐山さんに期待している役割を伝えられるのも管理者だけですよね。それにステーションの評価制度もちゃんと説明しておくべきです。どんなことをすると評価されるのかは、新入職者はわかりませんよ。
Dさん
「誰に聞いていいかわからない」ような人脈に関することは、管理者だけが気をつけるだけではダメで、ほかのスタッフとのコミュニケーションも大事ですよね。 話しやすい職場の雰囲気を築くとか、そんな他スタッフへの働きかけも、管理者の役割として必要です。
「モニタリング&リフレクション」と「職場風土の構築」で桐山さんの課題解決を支援する
講師
では、これまでの議論を受けて、CASE4のまとめです。
みなさんの意見から、
●管理者として桐山さんの置かれている状況を把握する(モニタリング)
●職場での仕事が円滑に進むように適切なフィードバックを適宜行う(リフレクション)
ができそうだと見えてきました。
このモニタリングとリフレクションは、スキルや知識の獲得を促し、ステーションの評価基準や求められている役割を伝え、今の職場に合った行動を促すために以前の職場でのやりかたを修正することに有効であると思います。
しかし、管理者の直接的な介入のみでは桐山さんを真に支援することができないこともわかりました。他スタッフに働きかけてコミュニケーションをとりやすい職場風土をつくることで、桐山さんのような中途採用者がいち早くステーションに馴染み、本来の力を発揮するような支援が管理者としてできると思います。
Dさん
すでにSNSをステーションで運用していて、中途入職者には「疑問とかあれば、遠慮なく書き込んでいいんだよ」と伝えているのですが、そんな働きかけでは、もしかして新しい人は入ってきにくいのでしょうか?
講師
そうですね、すでにいる人たちが心地よいSNSの場に、新しい人が遠慮なく書き込みをすることは、きわめて難しいと考えておいたほうがよいです。このことを念頭に、SNS上のコミュニケーションを活性化させるための取り組みをいろいろと考えて実行してみてください。
注1
ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。
ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。
ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。
注2
発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。
執筆:鶴ケ谷 理子 合同会社manabico代表 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com 編集:株式会社メディカ出版 |
【参考】
〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.