スキンケアで褥瘡予防 洗浄・保湿・保護のポイント
スキンケアは、皮膚の生理機能を正常に保ち、その機能を十分発揮するための看護です。健やかな皮膚を維持するためには「皮膚を清潔に保つこと」「皮膚に潤いを与えること」「皮膚を守ること」を正しく理解し、ケアを継続することが大切。正しいスキンケアの継続は、失禁関連皮膚炎(IAD)、褥瘡などのスキントラブルの予防につながります。
今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、在宅看護に役立つスキンケアのポイントを解説いただきます。日々実践しているスキンケアをもう一度振り返り、正しいスキンケアを継続していくための「洗浄のスキンケア」「保湿のスキンケア」「保護のスキンケア」の基本をご紹介します。「保湿」と「保護」は混同しやすいので、これらの違いについてもしっかり確認しましょう。
目次
洗浄 ~やさしい気持ちで洗いましょう~
皮膚に付着する「よごれ」
皮膚に付着する主な汚れは、垢、汗、排泄物などです。皮膚に塗布した外用剤や保湿剤などが時間の経過とともに変化したものや、それらに付着した埃、ちり、微生物なども汚れの原因になります。垢には、古くなった皮脂や雑菌などが付着しています。皮脂や汗は、時間の経過とともにベタつきや臭いの原因に。さらに、長時間皮膚に付着した排泄物は、刺激性物質として皮膚に影響を及ぼし、失禁関連皮膚炎(IAD)などの要因になります。皮膚に付着した汚れは、適宜洗浄により除去することが皮膚を健やかに保つことにつながるでしょう。また、洗浄による爽快感は、気分転換やストレスの緩和にもつながります。
洗浄のスキンケア
汚れの成分は、皮脂と混合した油性の汚れが多いため、洗い流そうとしても水が弾き返されてしまい、水だけでは汚れを落としきれない場合もあります。そのため、洗浄剤を使用します。洗浄のスキンケアを行う際は、皮膚局所や全身状態、汚れが付着する原因や特徴、生活環境をアセスメントした上で、汚れの程度や部位、皮膚の状態に見合った洗浄剤を選択することが大切です。
洗浄剤は「皮膚の状態と汚れの程度」によって使い分ける
健康な皮膚表面のpHは4~6の弱酸性です。健康な皮膚は、洗浄時石けん(pH9〜11)の使用によって皮膚pHが一時的にアルカリ性に傾きますが、2〜3時間で回復します。これを皮膚の緩衝作用といいます。ただし、高齢者の皮膚は、皮脂量の減少などによる生理的特徴からアルカリ性に傾いているため、洗浄後の皮膚が弱酸性に戻りにくくなります。またアトピー性皮膚炎、ドライスキン、化学療法や放射線療法によって生じる皮膚症状など、脆弱な皮膚をもつ療養者においても同じことがいえるでしょう。
私は日頃、高齢者や脆弱な皮膚の療養者には、弱酸性洗浄剤の使用をおすすめしています。皮膚バリア機能の保持を考慮すると、弱酸性洗浄剤の使用は、皮膚への刺激が少なく皮膚に優しいという理由からです。一方、汚れの落ち方という点では、アルカリ性洗浄剤が洗浄力効果を発揮します。
洗浄剤には、含まれる添加物や界面活性剤などによってスキントラブルが起こる場合もあります。全身の皮膚をよく観察し、汚れの程度や皮膚の状態によって、洗浄剤を適宜使い分けることも必要です。
洗浄のスキンケアの実践
洗浄の際は、全身の皮膚を観察して異常の早期発見に努めましょう。皮膚同士が密着している部位などは、汚れが貯留しやすくなりますので留意して洗浄します。
(1)温湯の調整
皮膚の洗浄に使用する微温湯は、38~40℃の熱すぎない温湯を用い、皮膚のバリア機能の低下や乾燥を防ぎます。
(2)洗浄時のポイント
■泡で洗浄する
きめが細かく密度のあるふわふわした弾力のある泡で洗浄すると、泡がクッションの役割を発揮して皮膚への刺激が低下します。泡の量が少ない場合、皮膚への刺激が強くなります。特に、脆弱な皮膚は、軽微な摩擦や刺激でも皮膚の損傷やスキントラブルを生じます。皮膚を強く擦らず、たっぷりの泡を転がすように優しく洗浄しましょう。
汚れが固着している場合は、あらかじめ温かいタオルなどを当てておき、汚れを軟化させてから洗浄剤を用いて洗浄すると除去しやすくなるでしょう。
入浴時、ナイロンタオルやブラシなどを用いた洗浄は、角層を損傷し角質水分や皮脂を喪失しますので、手や柔らかいタオルの使用をおすすめします。
■洗浄剤を皮膚に残さないように洗い流す
洗浄剤成分が皮膚に残るとスキントラブルの原因になりますので、十分な微温湯で洗い流します。微温湯で洗い流すことが難しい場合は、洗い流しが不要で拭き取るタイプの洗浄剤(泡状やクリーム状皮膚洗浄剤、液状洗浄剤)などもあります。
■皮膚の水分を拭き取る
洗浄後は、清潔なタオルで優しく押さえ水分を取り除きます。この際も、皮膚へ機械的な刺激を与えないように、強く擦ることを避け丁寧に押さえ拭きをします。皮膚の乾燥にドライヤーを使用することは、熱傷やドライスキンの原因になりますので避けましょう。
皮膚の状態を評価する
特に汚れや汗が留まりやすい部分は、耳介、耳介後部、頚部、腋窩部、乳房下部、臍部、陰部、足趾間などの脂漏部・間擦部・発汗部です。洗浄や水分の拭き取りの不十分さがあると、皮膚の湿潤、さらには浸軟を生じる可能性が高くなりますので、汚れを溜めない洗浄と細やかな皮膚の観察が大切です。
保湿 ~心をこめて塗布しましょう~
スキンケアにおいて保湿とは、角層が水分を保持する働きを助け、低湿度な環境においても角層の水分量の低下を防ぐこと、といえます。
先に述べた洗浄剤を用いた洗浄のスキンケアは、汚れのみに限らず、皮膚の保湿に必要な成分も洗い流してしまいます。保湿のスキンケアを行うことにより、角層の水分保持、乾燥の予防、さらには皮膚の柔軟性や弾力性を維持することができます。
保湿のスキンケアは、冬の季節や、加齢や生活環境の影響、疾患や治療などによる皮膚の乾燥を感じる場合のみに行うのではなく、すべての年齢層の人々が、年間を通して継続することが大切です。それにより、皮膚は健やかな状態を維持できるようになります。さらにケアの継続は、かゆみの緩和やスキントラブルの予防につながります。保湿剤は、療養者個々の皮膚の状態をアセスメントした上で安全性の高い製品を選び、適切なタイミング、方法、回数、使用量で塗布することが大切です。
保湿のスキンケアの実践
(1)塗布のタイミング
保湿剤を塗布するタイミングは、可能であれば入浴後15分以内が有効であるといわれています。しかし在宅では、マンパワーの不足などにより教科書通りのタイミングで保湿剤を塗布することは難しい状況もあります。大切なことは、入浴や清拭後、時間が経っても忘れずに保湿のスキンケアを行うことです。
(2)塗布の方法
保湿剤を手掌にとり、手掌全体を使って皮膚に塗布すると、広範囲に均一に伸ばすことができます。皮膚の皮溝に沿って横の方向に、強く擦りすぎないように塗布します。特に高齢者や脆弱な皮膚の療養者は、軽微な摩擦やずれで表皮剥離を生じる場合があります。保湿剤の水分を封じ込めるように皮膚をやさしく押さえ、塗り込むように塗布します。皮膚の乾燥や掻痒感が出現しやすい下腿部、大腿部、側腹部、腰部などは保湿剤を丁寧に塗り込みましょう。
保湿剤のタイプ 保湿剤にはさまざまな種類があります。タイプにより、べたつきや伸びの良さなどの使用感が異なります。べたつきの多い順に、軟膏>クリーム>ローションとなります。保湿剤は、ベタつきが少なく伸びのよいクリームやローションを使用すると皮膚への刺激を軽減できます。本人の好みやケアを行う家族などが使いやすいものに考慮し、皮膚の状態や季節に応じて使い分けることが大切です。 |
(3)塗布の回数
塗布する回数が1日2回以上だと保湿効果が高くなるといわれています。特にスキン-テアの既往がある療養者は、1日2回の保湿のスキンケアを習慣化し、継続できるようにしましょう。
ただし、在宅では高齢な介護者が一人で保湿のスキンケアを行う場合もあります。高齢な介護者にとって、入浴直後や清拭後に療養者の全身に保湿剤を塗布することは大変な労力を要し、介護への疲労感や負担感を招く可能性があります。そのような場合は、温湯に浸ることで全身の皮膚表面に潤いを与え、皮膚の乾燥を防ぐことができる、保湿効果のある入浴剤を取り入れた保湿のスキンケアもおすすめです。また、在宅の予防的な保湿のスキンケアでは、たとえ1日1回であっても毎日継続して行うことが大切です。重要なことは、間隔が空いたとしても保湿を忘れず、「その家で継続できる保湿のスキンケアを習慣化する」ことです。
(4)適切な使用量
保湿剤の塗布量は、皮膚がしっとり潤いつやつや光る程度が適量です。塗布後、皮膚にティッシュペーパーを当てると、ゆっくりはがれ落ちる程度が目安となります。ティッシュパーパーが保湿剤で湿り張り付いて落ちてこない場合は、塗布量が多すぎるといえるでしょう。一方、ローションやゲルタイプの保湿剤は、伸びがよいので塗布量が減少する可能性がある上、少量の使用であってもティッシュパーパーが張り付きやすくなります。皮膚の潤いやなめらかさを確認しながら、2度塗りなどで適量を塗布しましょう。
保護 ~丁寧に保護しましょう~
スキンケアにおいて保護とは、何かを皮膚に塗布(被覆)して皮膚を健やかに保つこと、といえます。皮膚は、身体の最外層でバリア機能を発揮することにより、外部の刺激から身体を守っているため、常に外部からの化学的・機械的・物理的刺激にさらされている状態です。保護のスキンケアは、皮膚の水分喪失を防ぎ、皮膚の潤いを保持し、さまざまな外部の刺激から皮膚を守る効果があります。健康な皮膚を維持するためには、毎日の保湿のスキンケアと併用して保護のスキンケアを行うことで、スキントラブルを予防することができます。
保護のスキンケアの実践
保護のスキンケアの目的は、(1)日常的に皮膚を守る、(2)排泄物から皮膚を守る、(3)外力から皮膚を守る、ことです。目的によって使用する用品やケア方法が異なります。用いるスキンケア用品には、皮膚に被膜を形成する「皮膚被膜剤」、皮膚保護クリームや撥水クリームといわれる「撥水性保護クリーム」や「保護オイル」などがあります。これらの用品を使用することで、皮膚を保護する効果を高めます。
皮膚被膜材は、使用する部位の皮膚にトラブルがないことを確認した上で用いましょう。また、使用中にスキントラブルを生じた場合は、速やかに使用を中止します。その後、基本的なスキンケアを実践し症状を観察します。症状が改善しない、もしくは悪化する場合は皮膚科専門医へ相談しましょう。
(1)日常的に皮膚を守る
日常的な保護のスキンケアの実践は、皮膚の乾燥、掻痒、浸軟の予防、さらにスキン-テア、褥瘡などの発生リスクを低減することにつながります。毎日の洗浄・保湿のスキンケアに加え、撥水性保護クリームを用いたケアを継続しましょう。
(2)排泄物から皮膚を守る
失禁などでおむつを使用している場合、おむつに覆われた皮膚は浸軟や失禁関連皮膚炎(IAD)などのスキントラブルを生じる可能性が高くなります。また、スキントラブルから褥瘡発生につながることもあります。毎日のスキンケア方法、排泄物の性状や量、おむつ交換の頻度、使用しているおむつの通気性などをアセスメントした上で、褥瘡発生部位である仙骨部、尾骨部、坐骨結節部などはもちろん、おむつに覆われている皮膚全体を含めた予防的スキンケアが大切です。おむつ交換時や陰部洗浄後に、撥水性保護クリームや保護オイルを使用することで、排泄物の水分や刺激から皮膚を守ることができます。
(3)外力から皮膚を守る
在宅療養者は、日常生活の中でさまざまな姿勢や体位をとり、移動や姿勢保持の際には、皮膚に圧迫や摩擦、ずれという外力が加わります。特に、基礎疾患や老化によって活動性・可動性の低下や低栄養のある療養者は、筋力が低下し、骨が突出した部位に外力が加わることで褥瘡を発症する可能性が高くなります。骨突出部にはあらかじめ皮膚保護材などを使用して、外力から皮膚を保護することが必要です。
また、医療用テープを使用している場合、脆弱な皮膚ではテープの剥離時などにスキントラブルを生じることがあります。医療用テープを貼付する皮膚に、あらかじめ皮膚皮膜材を使用したり、剥離剤を使用してテープを剥がしたりすることにより、皮膚への刺激を低減することができます。
執筆: 岡部 美保 皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表 1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 編集:NsPace編集部 |
【参考】
〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.